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12 妊娠?順調ではないですか!

オーガニックシルクの染色工程を目の当たりにして目を輝かせるマリアンヌに優しい笑顔を向けながらケニーが言った。

「そうだろう?それにね少し染料を混ぜるといろいろな色にできるんだ。染料もハーブを使う」


「さすがね。原料が紅茶というところがベラールの特産品としてふさわしいわ。オーガニックだという事を前面に売り出せば、王都の貴婦人たちの話題になるわね」


「うん、僕もそう思うよ」


「ドレスだけでなく、いろいろな小物もできそうね?扇子とか手袋とかバッグとか?」


「ああ、少しだけどサンプルも作っているんだ。後で紹介するよ」


「あらあら・・・初日にして新商品の開発の目途がたってしまったわ」


「それは何よりだ。ねえマリアンヌ。詳しい話は後日に回すとして、今日は夕食に招待したいのだけれど、どうかな?」


マリアンヌは執事長の顔を見た。

執事長はにっこりと微笑んで頷いた。


「お許しが出たわ。ドレスコードがあるようなお店なの?」


「いや、いたって庶民的な店だよ」


ケニーの商会に行き挨拶をした後、商品サンプルを数点見学した。

工房のデザイナーも含めて意見交換をしたマリアンヌは、とても充実した時間に心から満足していた。

そのまま夕食会場に行くことになり、執事長も一緒にというケニーの言葉にマリアンヌは微笑んだ。


「ケニー、気を使ってくれてありがとう。一応私は人妻だし?ここは侯爵家の領地だしね」


「当然だよマリアンヌ。君はくだらない邪推のせいで辛い幼少期を過ごしたんだ。君が疑われるようなことがあっては大変だからね」


マリアンヌは友人という存在のありがたさを改めて感じた。

夕食の席でマリアンヌは自分の結婚生活をありのまま話したが、執事長は止めることもなくニコニコとしているだけだった。


「それでマリアンヌは良いの?」


「ええ、むしろ理想的過ぎて怖いくらいよ」


「ふぅん・・・君がそう言うなら僕は何も言わないよ。幸せなんだね?それなら良かったけど」


「ええ、とても充実した毎日よ。でもね、ケニー・・・私はまだ幸せってどういう状況をいうのか理解できないの。旦那様がいつもおっしゃる愛の素晴らしさも想像すらできない」


「うん。幸せなんて人それぞれだしね。愛について語りだしたら、それこそ説法の様なもので何時間話したって時間の無駄さ。君が楽しいならそれでいいんじゃないかな?」


相変わらずなマリアンヌに安心しながら、ケニーは友人の生活が安寧であることを祈らずにはいられなかった。

食後のお茶を楽しんでいた時、ワンド侯爵家の騎士が執事長にメモを渡すために入室してきた。

執事長はメモを読み、少し驚いた顔をしてからマリアンヌにメモを渡した。


「まあ!これは朗報ね・・・でも少し時期が悪いかしら」


執事長とマリアンヌは顔を見合わせた。


「どうしたの?拙いなら席をはずそうか?」


「ケニーありがとう、大丈夫よ。旦那様の恋人様が妊娠したという知らせだったの。既定路線だからそのことは良いのだけれど、今から新商品を売り出そうというときだったから」


「ああ、そうかぁ。その二人を広告塔にするはずだったんだもんねぇ・・・なるほど。でも方法はあるんじゃない?」


「例えば?」


「そうだな・・・例えばコルセットを使わないデザインにして、妊婦でも楽に着られるドレスを考案するとか?」


「凄いわケニー!私は偽装妊婦にならなくちゃいけないから、そのドレスを着て夜会に顔を出せば良いわね。オーガニックというところがストロングポイントになるわ」


「ははは!偽装妊婦だって?なかなか大変な役回りだねぇ」


「そうでしょう?私も頑張っているのよ。でもお腹にたくさん布を巻いて膨らまさなくちゃいけなかったんだけど、今から寒くなる季節だし丁度いいかも」


「ほんと君ってポジティブだよねぇ・・・尊敬するよ」


夕食を終え帰宅したマリアンヌは、早速侯爵あてに新商品と今後の計画案についての手紙を書いた。

執事長にも見せて内容を確認してもらった後、早馬で王都に送る。

返事はすぐに送られてきて、全て了承する旨と感謝の言葉が綴られていた。

滞在期間中マリアンヌはケニーと一緒に領地内をめぐり、問題点の洗い出しをしていった。


その結果、中心部では大きな問題はないものの、僻地に行くといろいろと改善したい点が見つかった。

内容を整理し、社交シーズン終了後に侯爵が領地に戻るタイミングで着手できるようお膳立てをしていく。


侯爵によると出産は領地でおこなうため、その間はマリアンヌも領地に滞在するとのことだった。

リリベルが回復するまでの半年は一緒に改善に取り組めそうだ。

滞在予定期間を終え、ケニーに見送られて王都に戻ったマリアンヌは、リリベルのお腹が目立ち始めた頃合いで、紅茶染めの妊婦用ドレスを纏い、ルドルフにエスコートされて数回夜会に参加した。


オーガニックマタニティドレスは瞬く間に話題となり、若い貴婦人達の間で大人気となった。

販売窓口は当然のごとくケニーのリッチモンド商会が担い、ワンド侯爵家の新たな特産品として、紅茶に並ぶ目玉商品となっていった。


社交シーズンが終わるころにはリリベルは妊娠7か月を迎えた。

大事をとってゆったりしたスケジュールで領地に向かうことになった。

ルドルフは当然リリベルと行動を共にし、マリアンヌは残務処理を片づけてから一人遅れて密かに王都を出発した。


領地についたマリアンヌは妊娠中の領主夫人の秘書という立場として活動した。

上品な侍女風のワンピースに黒く染めた髪。

そのスタイルはルドルフにもリリベルにもケニーにも大絶賛された。


オーガニックドレスの感想や要望をケニーに伝え、商品の改善に取り組み、子供用のドレスや扇子やバッグなどの充実したラインナップを開発した。

侯爵家と共にリッチモンド商会も大きく売り上げを伸ばし、領地経営は安定していった。

ルドルフも重要な契約時などには顔を出しているが、基本的にはリリベルと過ごしている。

そうこうしているうちにリリベルは臨月を迎えた。


「ではリリベル、行ってくるよ。ちゃんと大人しくいい子にしているんだよ?」


ルドルフがお腹の大きなリリベルの髪に口づけながら言う。


「ええ、でもそろそろかもしれないから・・・できるだけ早く帰ってきてね」


「もちろんさ。視察が終わったら飛んで帰るよ。そうだなぁ・・・三日くらいかな」


「分かったわ。マリアンヌ、ルドをよろしくね?」


「ええ、終わったらすぐに帰るからね」


その日はマリアンヌの提言により僻地の住民のために建設した学校の竣工式があり、どうしても領主であるルドルフが出席する必要があった。

マリアンヌはいつものように、出産間近の領主夫人の代わりに来た秘書として、髪を黒く染めて眼鏡をかけた変装姿で参加する。

変装した自分を鏡で見たマリアンヌはいつも思っていた。


(私って意外と伯爵様に似てたのね)


この事業に多額の寄付をしたリッチモンド商会からはケニーが出席することになっている。

馬車の中でマリアンヌはルドルフと今後の領地経営についてじっくりと話し合った。

その様子は夫婦の会話というより経営会議のようだったが、マリアンヌにとってはとても満足できる時間だった。


ルドルフにケニーを紹介し、竣工式を無事に見届けたマリアンヌはリリベルとの約束を守り、パーティーもキャンセルしてすぐに出立した。

帰る途中、大雨で二日も宿屋に足止めをされていた時、リリベルが無事に出産したという知らせが届いた。

焦って馬を駆ろうとするルドルフを全員で止め、翌朝早く馬車で出発した。


「リリ!ただいま!立ち会えなくてごめん」


「ルド!お帰りなさい。あんなに酷い雨だもの仕方がないわ。それより私たちの可愛い赤ちゃんを抱いてやって?待望の男の子よ!」


「ああ、もちろんだ」


旅装のままリリベルの部屋に駆け込んだルドルフは、請われるままベビーベッドで眠る愛しい我が子を覗き込む。

オーガニックシルクで包まれて眠る、待望の我が子を抱きしめようとしたルドルフの手が一瞬止まった。


「リリ?・・・」


「どうしたのルド。早く抱いてやって?ああ、でも首が据わってないから頭を支えてね」


おどおどと我が子を抱き上げるルドルフの顔は引き攣っていた。


「おめでとうございます。ご当主様」


執事長が声をかける。


「おめでとうございます。ルドルフ」


マリアンヌはそう言いながらルドルフが抱いている赤子をつま先立ちで覗き込んだ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] オーガニックシルクとありますが、逆にオーガニックでないシルクが既にある世界観なのでしょうか。 化学肥料や農薬使ってない限り全部オーガニックなんですけども。
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