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10 ビバ!領地経営

それから一年、三人は大きな問題も起こさず、とても仲良く暮らした。

王宮で開催されるようなどうしても夫婦で出席しなくてはいけない正式な夜会だけはマリアンヌが同伴されるが、それ以外は全てリリベルが出た。

もともと夜会も茶会も興味のないマリアンヌは、執事長について内政管理と領地経営の勉強をする毎日だった。

時間が許す限り図書室に行き、片っ端から読破していくマリアンヌ。

使用人たちは結婚事情を納得しているので、蔑ろにされることもなく至って平和に日々をおくっていた。


「さすがに首席卒業されただけのことはございますね。これ以上私がお教えできることなど何もございませんよ」


執事長がマリアンヌの作った書類を確認しながら感嘆した。

隣でルドルフが満足そうにうなずいている。


「本当に私は運がいいよ。それにしてもマリアンヌはドレスも宝石も欲しがらないし、仕事ばかりで楽しいの?」


「はい、領地経営の面白さにハマっているところです」


「ふぅ~ん。まあ私がやっていた時よりずっと業績もいいし・・・何なら全権委任しちゃおうかな?」


「よろしいのですか?」


「ああ、もともと私はあまり得意ではないんだ。新しい商品も開発しなくちゃとは思うんだけどねぇ。どう思う?執事長」


「左様でございますね。奥様でしたら問題ないと存じますが・・・ご主人様は何をなさるのでしょうか?」


「私は営業担当でもするよ。リリベルと一緒にいろんな夜会や茶会に顔を出して、マリアンヌが開発した商品を売り込むのさ」


マリアンヌが手を打って同意した。


「素晴らしい案だと存じますわ!」


「ははは!そうだろ?リリベルも今の立場で受け入れられているからね。まあこれもすべてマリアンヌのお陰なんだけど」


「滅相もございません。私は日々快適かつ有意義に過ごさせていただいております」


「君は・・・本当に欲がないねぇ。リリベルに会う前だったら間違いなく求婚していたよ」


「ご冗談を。ところで旦那様。私、一度ワンド侯爵家の領地を訪問してみたいのですが」


「ああ、勿論構わないよ。使用人たちにも紹介したいけど社交シーズンは無理だなぁ」


「左様でございますか・・・私一人ではダメでしょうか」


「う~ん・・・一人では難しいかな・・・そうだ!君が同行してくれないか?」


執事長は驚きもせず頷いた。


「私でよろしければお供いたします」


「ああ、そうしてくれ。マリアンヌ、彼は今でこそ執事長って顔でソツなくやっているけれど、もともとは騎士だったんだ。彼の才能を見抜いた私の父が執事に任命したんだよ。だから彼なら護衛もできるから私も安心だ」


「まあ、それは多才な方ですのね。尊敬申し上げますわ」


マリアンヌは執事長に軽く礼をした。

執事長は慌てて頭を下げている。


「じゃあ日程を調整してみるね」


その日からマリアンヌは図書室でワンド侯爵家の領地を中心に勉強した。

ワンド侯爵家の領地は南の地方都市ベラールを擁している。

ベラールといえば学院時代を共に過ごしたケニーの出身地だ。


領地に行ったら一番にケニーに会おうとマリアンヌはわくわくしていた。

その時、図書室の扉が乱暴に開かれた。

司書のマーキュリーとマリアンヌが驚いて振り返ると、泣き顔のリリベルが立っていた。


「まあ、どうされたのです?リリベル」


「マリアンヌ〜。聞いてよぉぉぉ。ルドがぁぁぁ」


リリベルがマリアンヌに駆け寄り抱きついてべそべそと泣く。

マーキュリーが肩を竦めて言った。


「どうしたのさ、リリベル。奥様が困っているよ?あいつとケンカでもしたの?」


「ルドが悪いのよ。凄いやきもち焼きなんだもん。私のこと疑うのよ?」


「はぁ・・・また手紙でもきたの?そういえばルドルフが結婚してから増えたよね」


「そうなの。この前の夜会でダンスを申し込まれて踊ったシルバー伯爵が、恋文を送ってきたのよ。私は読む気もないからほったらかしにしてたのにルドが開けて読んじゃったの」


「それはまた・・・ルドルフも少しは大人になったと思ったけど?あいつリリベルのことになるとホントにポンコツだよね。リリベルはこんなにルドルフのことが好きなのにねぇ」


「そうよ!ルドが子供なんだわ!」


「僕からも言っておくから・・・いい加減に奥様を離してあげないと窒息しちゃうよ」


「あっ!ごめんねマリアンヌ。大丈夫?私ったら興奮してしまって・・・」


「うっっ・・・大丈夫です」


マリアンヌは首に巻きついていたリリベルの腕を優しく剝がしながら息を吐いた。

どたどたという足音がしてルドルフが駆け込んで来る。


「リリ!ごめん!私が悪かった!焼きもちを焼いてしまったんだ。だってリリがあまりにも魅力的だから・・・許してくれリリ!愛してるんだ!」


さっきまで泣いていたリリベルの顔がパッと明るくなる。


「もうルドったらぁぁぁ。私も愛してるわ。だから許してあげるわね」


「ああ、ありがとうリリ・・・キスしても?」


いつでもどこでもやってるくせに・・・とマリアンヌとマーキュリーは思ったが口には出さなかった。

密着して図書室を出ていく二人を見送ったマリアンヌはマーキュリーに質問した。


「愛し合うってあんな感じなんですか?」


マーキュリーは困った顔で答えた。


「いや・・・あれは参考にするべきじゃないね。かなりの特殊ケースだろう」


「そうですか」


マリアンヌは何事もなかったかのように本に視線を戻した。

マーキュリーはそんなマリアンヌを不思議そうに見て独り言を呟いた。


「うん・・・君も参考にはならない部類の人種だね」


それから何日かしてマリアンヌはルドルフに呼ばれた。


「マリアンヌ!領地に行く日程が決まったよ。急なことだけど来週だ。大丈夫かい?」


「まあ!もちろんですわ。早急に対応していただき感謝いたします」


「執事長が同行するけど何日くらい行くつもりなのかな?こちらの予定では一か月くらいかなって思ってるんだけど」


「それで十分でございますわ。逆にひと月もよろしいのでしょうか」


「ああ、遠いからね。そのくらいは必要だろう。でもマリアンヌと執事長がいない間は私が実務をすることになるだろう?それが限界だと思ってくれ」


「なるほど・・・急がない案件は残していただいて構いませんし、今できるものは片づけてから行きますので」


「そうしてくれると助かるよ。それとあちらで侯爵家の体裁を保つくらいのドレスや宝飾類は準備してね?会食とかあるだろうから」


「承知いたしました」


「商会を呼ぼうか?」


「いえ、今まで買っていただいた物がございますので」


「でもなぁ・・・帳簿を確認したけど侯爵夫人の経費ってほぼリリベルが使ってるじゃない。マリアンヌはほとんど使わず返金処理してるでしょ?使い切っていいんだよ?」


「特に欲しいものもございませんし・・・本などは経費で購入していただけますので」


「じゃあ領地で使ってきなよ。なるべくお金を使った方が領民のためになるからね」


「それは名案ですわ。それではそうさせていただきます」


「うん。足りなかったら言ってね。すぐ送るから」


「承知いたしました。お気遣い恐れ入ります」


断ったにもかかわらず、ルドルフはすぐに馴染みの商会を呼んだ。

困った顔で黙って座っているマリアンヌの横で、ルドルフとリリベルが次々にドレスや宝飾品などを選んでいく。

途中からはリリベルの為の買い物が中心になったが、それでも旅行トランク三つ分くらいのドレスや宝飾類がマリアンヌの部屋に運び込まれた。


念願の領地経営に関われると決まったマリアンヌは結婚して一番嬉しいと思っていた。

自室に戻って急いでケニーに手紙を書く。

領地に向かう前日にケニーから返事が届いた。

いつでも大歓迎だと書いてある手紙を胸に抱いて、マリアンヌは微笑んだ。

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