スイカなる店員
いつものレストランの、
いつもの席に座って、
コーヒーを飲んでたら、
女の店員さんが、
皿に乗った真っ赤なスイカ一切れを出した。
スイカなんて、メニューにあっただろうか。
私はコーヒーのカップを置き、
スイカを自分に引き寄せる。
「スイカです」
―いや、見れば、、、そうですよね、、
店員さんは、
揺れるはずのないエプロンを揺らして、
奥へ消えていった。
夢の中にいるのだろうか。
スイカは、私の口によく合っていた。
果汁100%のジュースくらい、美味しかった。
スイカを食べ終わった。
少しすると、奥からまたさっきの店員が出てきて、
私のテーブルにやってきた。
「スイカです」
店員は、私の前に、スイカ一切れが乗った皿を置いた。
思わず、ふっと笑った。
―ありがとうございます。
今日はスイカの日なのだろうか。
店員の顔は、いたって真剣で、
何度も何度も同じ接客をするのが疲れたので
客に嫌がらせをしているようには見えない。
私は2度目のスイカに手を伸ばす。
そういや、スイカが好きだったな、私。
2個目も美味しかった。
ふとレジを見ると、
先程の女の店員がいる。
店員が客を見送る。
奥へ消える。
私は、ふーっと息をはく。
隣の客が美味しそうに頬張っていて、
自分も食べるはずである卵サンドが食べたい
気分になっていたけれど、
女に期待している自分もいた。
女がやってきた。
手にはスイカを丸ごと持っている。
「スイカです」
スイカ一玉が、私の目の前にそびえ立つ。
「明日の結婚式、楽しみにしております」