32 出汁
ロイ邸居間にて、歓待の夕食。
美味い料理と、何よりも、皆の笑顔。
一同、和気あいあいで大変結構。
なのですが、俺、何故か臨戦体制。
えーとですね、チームモノカ一同のみならず、
ロイ家の素敵な女性たちまでもが、
隙あらばハグしようとしてくるわけでして。
誰よりも注意すべきなのは、リノアさん。
モノカさんから伺っていた通りの過剰癒し力と超絶包容力は、
如何なるツワモノも瞬殺不可避。
俺ごときなど、ひとたまりもあるまい。
あの究極奥方にだけは、
絶対にハグられるべからず。
とにかく今は、逃げに徹すべし。
ここは、絶対安全地帯たるあの場所への退避が上策。
「すみませんロイさん、隣、お邪魔します」
そばにいるだけで感じられるこの安心感、
モノカさんの気持ちを、深く理解。
「モノカさんたちがシナギさんを信頼する理由、会って間もない俺にも、良く分かりました」
?
「まさに『若先生』、ですね」
自分には過ぎた二つ名ゆえ、後勘弁の程。
「いいえ、先ほどのお説教、あのふたりだけじゃなく、みんなの心に染み渡りましたよ」
俺、何故か、出汁扱い。
まあ、良いか。
料理の主役には成れぬが、出汁が頑張れば、具材が引き立つ。
何だか、俺らしいかも、
出汁人生。




