25 涙
『広域探査に敵影無し、なの』
シジミさんの声がバトルシブマから聞こえて、
皆さん、警戒モード、解除。
息を整えたモノカさんは、
駆け寄ってきたメンバーたちと一緒に、
素材不明ゴーレムの胴体側の切り口を、
まじまじと見ておられます。
「私と『ゼファー』の全力を弾くゴーレムを、一刀両断……」
複雑そうな表情の、モノカさん。
本当すみません、全力勝負に水を差しちゃって。
「こんな切り口、見たことないですよっ」
どん引きですね、ノルシェさん。
でもそれって『ぶなしめじ』の能力ですから。
「さっきのアレなに? ゴーレムの背後に回った動きっ」
あれってそういう技なのですよ、アイネさん。
勝つためにはいろいろやっちゃう流派なので。
「シナギお兄さん、大丈夫?」
心配してくれてありがとう、マクラさん。
身体は何とも無いけれど、これからの事を考えちゃうと、心が痛いです。
「すみませんモノカさん、全力勝負のお邪魔しちゃって」
モノカさんみたいに闘いに矜持を抱く武人には、俺の流派は邪道そのもの。
なにせ、勝つためには背後からバッサリ。
「どうして、こんな事、したのかな」
モノカさんの、厳しい、声。
やっぱり、軽蔑、されるよな。
「なにか、言い訳、あるのかな」
モノカさんの厳しい目線の先は、
俺、じゃなくてバトルシブマ?
ぽふん
煙の中から現れた、シジミさん。
「……ごめんなさい、なの」
シジミさんが、ネコミミをぺたんとさせて、しょぼんとうなだれた。
「みんなが退屈そうだったから、アリシエラママにお願いしたの」
えーと、つまりは、サプライズの実戦的演習?
「魔導具技術は危ないことに使っちゃ駄目って、ロイさん、何度も言ってたよね」
モノカさん、本気でお怒り、です。
「本当に、ごめんなさい、なの……」
皆、何も言えずに、うつむくばかり。
モノカさんは、何も言わずに、行ってしまいました。
モノカさんが去っても、
皆、黙ってうつむくばかり。
俺、どうしよう。
ん?
手を握ってきたのは、
マクラさん。
上目遣いの、まなざしには、いっぱい溜まった、涙。
だよな。
用心棒で居候の俺、
今やるべきは、
乙女の涙の元を断つ、だな。
マクラさんの頭を、
優しくわしゃわしゃしてから、
モノカさんの後を追いました。




