第八話 妹の勘違い
アイラside
わたくしには大嫌いな姉がいる。
リリア・シェイリーメル
その名前を口にするだけで吐き気がしますわ。
お母様とお父様はいつだってリリアが、リリアに、とお姉さまのことばかりだった。
体が弱いから何ですの?わたくしだって頑張ってますわ!!!
なのに体が弱いというだけで甘やかされ、無条件で愛されるお姉様が大嫌いだった。
大体、体が弱いと言っても、お姉様はいつだってヘラヘラと笑っているし、たまに咳をしているだけじゃないの。
でも大丈夫。わたくしは王子様と婚約するんだから。
そうしたら、お母様もお父様もわたくしを認めてくださるでしょう?
「我がシェイリーメル家に王太子殿下から婚約の申し込みが来ている。」
あぁ、やっとこの時が来ましたわ!!!
お姉様ではなく!!わたくしが!!
選ばれるの!!!!
「あぁ、アリアス殿下から婚約の申し込みが…リリア、君にあったんだ。」
どうしてですの?
「有り得ませんわ!どうしてお姉様ですの!?」
またお姉様ですの!?
結局わたくしは選ばれない!!!!
「アイラ、落ち着きなさい。お水が零れてますわよ。転んだりしたら大変ですわ。」
わたくしを諭すように話すお姉様。
「あんたのその良い子ぶった態度も気に食わないのよ!!!!」
わたくしは手を振りあげ、お姉様を叩こうとした。
ツルっ
その手はお姉様に当たることはなく、床に零れた水で足を滑らせたのはわたくしの方だった。
来るはずの衝撃に備えて目を固くつぶったにもかかわらず、わたくしが感じたのは温もりだった。
お姉様がわたくしを抱きしめている。
待って。このままじゃお姉様が
バタン
「「「リリア!!!!」」」
「お、おねえ……さま……。」
お姉様は足を滑らしたわたくしを身を呈して……?
お姉様は優しく微笑んでわたくしを見ていた。
「アイラ、ごめんね。こんなお姉様でごめんね。わたくしはアイラが王子殿下と婚約すべきだと思ってる。こんなわたくしではきっと役不足だわ。だからね、あなたがいいの。あなたじゃないとダメなの。」
なんで。
なんで気づかなかったんですの……?
家族の中で、唯一わたくしを見てくれて、認めていてくれていたのはお姉様だったのに。
わたくしを憎むのではなくて、お姉様が、自分が悪いのだと、わたくしを許してくれている。
あぁ、わたくしはなんて事をしていたの……
「ごべん…なざい……!!」
気づけば口にしていた謝罪。
私もお姉様のように、心の広い人でありたかった。