第五話 母の勘違い
マリーローズside
マリーローズ・シェイリーメルこと私は完璧だった。
シェイリーメルの一人娘として生まれ、文武両道、容姿端麗であり、気は弱いが優しい夫と結婚まで出来た。
長男のキースは夫に似て性格こそ優しく穏やかであったが、勉学・体術ともに優れていた。
しかし次女のリリアは体が弱く、何時でもベッドに伏しているような子だった。
夫はそんなリリアに甘く、ピアノや刺繍などは娯楽として教師を雇っていたが、乗馬やダンスなどをさせる気配はなかった。
私はそんは夫に……そして娘にも苛立っていた。
体が弱いからと娘を甘やかす夫、それに甘え自身を成長させようとも思わない娘。
「はぁ…リリア、少し踊ってみなさい。パートナーは…キース、お願いします。」
だから私はこの日、そう言った。
少しでもリリアが自身の出来なさを恥じて欲しいと思ったのだ。
リリアはキースの手を取り、踊り始める。
すると私達は息を飲む光景が広がっていた。
一見するとキースがリリアをリードしているように見える。しかし、リリアはあくまでキースをたたせ、けれどもキースが踊りやすいように合わせていた。
あぁ、これは初めて踊る者の動きではない。
リリアは、私達に隠れて練習をしていたのではないか?
しかし、リリアは次のターンの瞬間にバランスを崩し、倒れてしまった。
「リリアッッ!!」
夫と共にリリアに駆け寄る。
キースは唖然としているようだった。
リリアは震えていた…。そして私達に聞こえるかも分からないような声で一言…
「やはり、こんなわたくしにダンスなんて……。」
と言った。
私は己を恥じた。
リリアは体が弱いことに甘えていたのではない…リリア自身が己の体の弱さを恥じ、変わろうとしていた。
リリアはハッと私たちの方を見た。
「お…お母様…お父様…。ごめんなさい…。わたくし、上手く踊れなくて…お兄様にもご迷惑を…。」
あぁ、リリアが1番辛いはずなのに、こんな時まで家族のことを考えているのか。なんて優しい子。
踊りたくても体のせいで踊れない自分よりも、親の期待と兄への迷惑を心配するとは…。
「もう…もういいのですよ。リリアは今のままで。」
どうかリリアには知って欲しい。期待に応えられなくても、母はいつでも娘を思っていることを。