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悪夢から覚めたあと

「うあああああああーーっ!!」


 い、今のも夢だったのか!? 酷すぎるだろ、もう!!

 僕はベットから跳ね起きた。と、その角度が悪かったのか、茶色い木のヘッドボードに思い切り頭をぶつけた。たちまちフライパンで殴られたかのような衝撃と鈍痛が僕を襲う。


「ああああああああーーっ!!」バチッと黄色いお星様が見えた。


 もう嫌だ、ほんとにもう嫌だ! 汗だか涙だかよく分からないけど、顔も髪の毛も凄くベタベタしてる! シーツや毛布だって……何だよもう、こんなにじっとり湿ってて! あああ、それにしても頭が痛い!!


 枕に顔を押し付け、唸りながら痛みに耐えていると、突然背中をポン、と叩かれた。


「うーんと、大丈夫? 寝ても覚めても君は大変そうだね……」


 そ、その声はロビンさん?! 両手で頭を押さえながら、僕はバッと起き直った。白いセーター姿のロビンさんは、苦笑いとも取れる妙な笑い方をしながら、勝手にカーテンを開けていた。


「おはよう、マフィン君。今日も良い天気だね」

「ちょ、ど、どうして」寝起きのせいか、恐怖のせいか……上手く口が動かない。


 だって部屋の鍵はしっかりかけてあった。鍵を回した後、ドアノブが動いたりドアが開いたりしないかどうか一々確認したからそれは確実だ。(理由? 絶対にあの人形を入れたくなかったからだよ)

 それなのにどうしてこの人がここにいるのか。さっきまで見ていた悪夢のように、どうして何気なくベットのそばに立っているのか。まさかこれも夢?! こんなに痛い思いをしてもまだ僕は、あの酷い夢の続きを見ているの?


 僕はベットから飛び降りて、全速力で逃げようとした。

 そして次の瞬間、もんどり打って床に転がった。足がもつれてしまったせいで。


「おいおい、お前さんは一体何なんだ……」


 頭上に長いため息が降って来た。僕の目の前には、黒光りする二つの靴の爪先があった。


「きゃああああああーーっ!!」







「落ち着いたかな、マフィン君」

「おい、水はもういいだろ。このコーヒーを飲め。紅茶もあるぞ」

「リーハさん、大丈夫ですか? 急に環境が変わったせいでしょうか……無理をしないようにしてくださいね」

「ハイ落ち着キマシタ、モウ飲ミ物ハイイデス、アリガトウゴザイマス……」


 恥ずかしくて顔から火が出そうだ。それに、凄く惨め。

 何でも、ロビンさんとホームズさんは僕が一晩中悪夢にうなされてぎゃあぎゃあ言っているのを見かねて、多分ドライバーか何かで部屋の鍵をこじ開け(「マリーが内側から開けてくれたのさ」とかロビンさんは言っていたけどそんなはずはない。そんなはずは!)、起こしに来てくれたらしい。それなのに勝手に勘違いしてパニックになった僕は、こうして赤々と火の燃える暖かなサンクチュアリの居間のカウチに座らされ、まるで五歳の子供であるかのように看病されている。


 ロビンさんは僕の背中を何度もさすり、外国に住んでいる時に人形のマリーが見つけて来たという、白い生地に何かもやっとした赤い染み?模様?がある上着をかけてくれようとしたし、ホームズさんは、普段化学の実験に使っているというフラスコやビーカーでコーヒーや紅茶を作ってくれた。……どちらも不気味だし安全性に不安があるから遠慮したけど。

 ユウミさんはわざわざ僕のために暖炉に火を起こしてくれて、「昨日作ったものですが、スコーンがありますよ。温かいミルクと一緒に、いかがですか?」と優しい声をかけてくれる。いやでも、ミルクって酷い……。


 そりゃあね、皆が心配してくれるのは嬉しいんだ。昨日の時点でホームズさんとロビンさんには嫌われたかなと思っていたから、尚のこと。あの恐ろしい夢が現実でなかったことにも凄く凄くホッとしてる。僕はただ感謝すべきなんだ。皆の優しさと、またこうして平穏な朝を迎えられたことに。

 でも、こんなに子供扱いしないでよ。僕は「大丈夫?」の一言だけで十分なんだよ。こんなにされて、しかもユウミさんに「ミルク飲む?」なんて言われて、正直辛いよ。プライドがズタズタだよ。皆、どうして分かってくれないのかな……。


 僕は「はあ……」とため息をついた。ちょうどその時、居間の古い壁時計が「ボーンボーン」と厳かに鳴り出した。


「あら、もうこんな時間!」


 ロビンさんたちと最近の政治問題について語り合っていたユウミさんは、まるで魔法が解ける時を告げられたシンデレラのように、ハッと顔色を変えて立ち上がった。と、同時に「あー、僕もそろそろ支度をしないと」「お前は来なくていい。部屋で大人しく地獄絵図でも描いていろ」と言いながらロビンさんたちも立ち上がり、慌ただしく居間を出て行こうとする。

 何だ何だ、急に一体どうしたんだ。皆、何処かに行くつもりなの?

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