斑のバンドの男
『つけられてる? 誰に?』
『さあ、それは分からないわ。ここ一日二日の話だから、もしかしたら私の勘違いかも知れないけれど』と姉は言いました。
『何だか行く先々で同じ人とか車を見かけるのよね』
姉はそれ以上何も言いませんでした。私も大して気にはしませんでした。
姉は同じ双子でも、私とは比べ物にならないくらい外見に華があったので、誰か姉を気に入った異性が、姉を誘おうとして声をかけそびれている……というようにしか考えなかったのです。
ところがそれから一週間も経たない内に、姉は行方不明になってしまいました。「買い物に行ってくるわ」と言って家を出たきり、夜になっても帰らなかったのです。
すぐに警察に届け、義父と私は一晩中姉を探し回りました。姉の友人にも尋ねてみました。でも何処にもいません。姉が蒸発をするなんてありえませんから、誘拐されたのだろうということで落ち着きました。私はその時になって姉が尾行を気にしていたことを思い出して、『何故もっと心配しなかったのだろう』って……。自分の不甲斐なさが悔しくてなりませんでした」ヘレンさんは長いため息をついた。
「心が真っ暗になるような絶望の中で二日経ち、三日経ちました。そして、四日目のことでした。夕方頃だったと思います。突然私の携帯に、姉から電話がかかって来たのです」
「……詳しくお願いします」
ホームズさんは背筋を伸ばし、それから静かに目を閉じた。ヘレンさんは「はい」と頷いた。
「電話口の姉は、酷く興奮していました。全速力で走った時のように荒い息をしていて、言葉は切れ切れでよく聞き取れないほどでした。
『ヘレン、私よ、ジュリアよ!』
『姉さん!』私はびっくりして、携帯を取り落としそうになりました。
『姉さん、どうしたの?! 今何処にいるの?!』
『分からないわ、川のそばの工場みたいな所よ! さっきまで倉庫みたいな所に入れられてたの! 隙を見て逃げて来たけど、ヘレン……』言葉に詰まって、姉はすすり泣きました。
『姉さん! 姉さん! 大丈夫だから! 頑張って! 今警察に電話するから! そこがどんな所か詳しく教えて!』
メモ用紙を探そうとして、テーブルの上にかがみ込んだ時でした。
突然電話口で姉が、一生耳から消えそうもない声で叫びました。
『ヘレン、助けて! 斑よ! 斑のバンドの男よ!!』
まだ何か言いたいことがあったようでした。でも後の言葉は意味のない叫びになり、一瞬後にはブツンと電話が切れてしまいました。
私は、私は……すぐに義父を呼び、警察に通報しましたが、間に合わないことは分かっていました。数日後に、姉は変わり果てた姿で見つかりました。首を絞められて殺され、川に捨てられていたんです」
「斑のバンド……」
不意にホームズさんが海の底から聞こえてくるかのような低い声で呟き、目を開いた。その途端、ピンと周りの空気が張り詰め、ひやりとした冷気までが漂った。僕は思わず鳥肌を立ててしまった程だ。
「お姉さんは確かに『斑のバンドの男』と言ったのですね? 警察はそのことについて何と言っていました?」
「いえ、特には……。そういう服装の男がいたんだなという程度ですけれど、もしかして、お心当たりが……?」
それには答えなかったが、ホームズさんは「これはまあ、警察よりも私向きの事件です」と微笑んだ。
「時にヘレンさん。貴方は一刻も早くこの街から離れた方が良い。ご婚約者さんと連れ立って、少し早めの新婚旅行に行かれることをお勧めしますよ」




