姉の死
「しかし、この頃から義父は、私達に暴力的な側面を見せ始めました。私達が旧家へ戻った時、近所の人たちは『昔のように仲良くしましょう』と歓迎してくださったのですが、義父の存在が全てを壊してしまいました。
義父はむっつりして家にひきこもり、たまに外出しても、誰彼なしに酷い言い合いをするのです。いいえ、言い合いで済むのならまだ良かったのですが、義父は相手を怪我させてしまったり、川に投げ込んでしまったり、とにかくとんでもないことをするので、事件が警察裁判にまで持ち込まれたことがありました。
そんなことですから、姉のジュリアと私は、なにひとつ楽しいことのないまま日々を送っておりました。町の人は義父の姿を見るだけで逃げてしまうというありさまでしたから、友人さえ作れません。私達も肩身が狭く、日が明るいうちは、なるべく外出をしないようにしていましたので、ロンドンの旧友達とネットで連絡を取り合う他は、寂しい思いをしておりました。
苦しい日々が続いたからでしょう、姉は死んだ時、まだ三十歳でしたが、髪には今の私と同じように、もう白いものが出始めていました」
「お、お姉さんは亡くなられているんですか……?!」
僕は息を呑む。ヘレンさんは切なげに頷き、「はい」と言った。
「姉は三ヶ月前に死にました。今の私の悩みは、ひょっとしたら、姉の死に関係があることかも知れないのでお話します。
今ご説明した通り、その頃の私達は、友人にすら満足に会うことが出来ませんでしたが、親戚の叔母が一人いました。彼女はロンドンで、アパートなどの幾つかの不動産を管理しております。母の妹なのですが、五十過ぎからリウマチに悩まされており、ヘルパーを雇って暮らしております。
私達は義父から、短い期間なら、叔母の家にときどき泊まりに行くことを許されました。
ジュリアは二年前のクリスマスに叔母の家に行った際、叔母が近所の人達と開いたパーティーで素敵な男性と出会い、婚約することになりました。義父にその事を話したのは、私達が帰ってからでしたが、特に反対する様子はありませんでした。
けれども、結婚式当日まで二週間を切った日の事です。突然、姉が『最近、誰かにつけられている気がするの』と私に相談して来たのです」




