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女性はホームズさんを訪ねてやって来たらしい

 女性に怪我はないようだけど、完全に放心状態だった。

 少ししてからやって来たホームズさんも含め、僕たちはしばらく、運転席のドアを開けようとして頑張った。でもドアは窓枠に抑えられているせいでどうしても開かない。そこで僕らは庭へ周り、後部座席のドアをこじ開けて女性を救出した。


「ソファに座ってもらうのが良いだろう」とロビンさん。

「そうですね」僕は頷き、一足先にサンクチュアリに入った。


 そして急いで床に散らばったガラスの破片を掃除機で吸い取り、壊れた椅子やテーブルを隅に寄せる。居間が綺麗かつ安全になったところで、僕は初めてこの女性のことをはっきりと見た。

 着ているのは、首回りや裏地に動物の毛(ファー)がたっぷりついた、お洒落で高級そうな黒い服。しかし、女性が醸し出す暗い雰囲気のせいで、何だか喪服のようにも見えた。

 女性の顔は、激しい動揺のためか、引きつって青ざめている。恐怖におびえた目は、追われている動物のように、たえず揺れ動いていた。顔立ちや体つきからすると、三十代に見えるんだけどな……早くも白髪が出始めている。


 一体どうしたんだろう。このやつれ方は、今の事故だけが原因じゃないぞ。


 とりあえず気を落ち着けてもらおうと、僕は「あの、何かお飲みになります? レモネードとかコーヒーとか……」と声を掛けたが、女性はちょうどその時、まるでオブジェのような……窓に突っ込んだセダンを見ていた所だった。

 女性はわっと泣き出してしまった。


「ご、ごめんなさい……まさか、こんな……! 私は、あの、ホームズさんにお会いしたくて、それだけだったのに……」


 え、っと僕は驚いた。ホームズさんを訪ねて来たということは……何か重大なトラブルでも抱えているのだろうか。

 話を聞きたい気持ちは凄くあったけど、僕はコーヒーだけ淹れて、(レモネードの方が良かったかも知れないが、女性の返事がなかったので、とりあえずコーヒーにしたのだ)それ以上は遠慮して居間を出た。


 玄関にはロビンさんがいた。あの人形が引きずっていた絵の道具が壊れていないか、揃っているか、調べているところだった。


「素晴らしいよマリー。おかげで助かった」なんていいながら、人形の頭をなでたりしている。

 何なのこの人。不気味に思って一歩後ずさると、ロビンさんはぱっと僕を振り返った。


「そうだ、紹介が遅れたね。マフィン君、彼女はマリー・アントワネットと言うんだ。僕が作った人形だよ」

「えっ、ロビンさんが作ったのですか? これを?」

「そうだよ、良く出来ているだろう」ロビンさんは自慢げだ。


 うん、確かにかわいくて綺麗な人形だとは思いますよ……動いたりしなければね……。


 とりあえず、僕は「す、凄いですね」と言う。すると、ロビンさんの返答はこうだ。


「そう、革命の終わりにギロチンで首を刎ねられた、フランスの王女の名を付けたのさ」


 わあ、どうしてこうも、次から次へと変なことばかり言うんだろうこの人は? 夢に出てきそうなほど怖い由来じゃないか……。


「昨夜は僕がバタバタしていて、ちゃんと紹介していなかったから、ずいぶん君をビックリさせてしまったね……すまないね。まあ、でも、何にも怖がることはないし、心配することもない。これは一人で勝手に動いたり、名前の通りに時々首を飛ばしたりするだけだから」

「は、はい?」今何て言ったこの人。勝手に動くし首も飛ぶ……?

「ど、どうしたら心配しないでいられるのか、全く分からないんですが」


 そう言った僕の声をかき消すように、遠くからウーウーとサイレンの音が近づいて来た。

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