ホームズさんとロビンさんは……
な、何でこんなところに人形が? 僕はギョッとして立ちすくんだ。
誰かが僕の部屋に置いたのか? 部屋を間違えて? うーん、どういうことなんだろう……。
僕はしゃがみ込み、人形を持ち上げてみた。この人形はかなり大きい。両手に収まるサイズではないし、結構重いので、自然と腕に抱える形になる。
僕を見上げる人形の瞳は妙に生き生きとして見えて、何だか気味が悪かった。着ているドレスはレースが沢山ついている美しいものだったが、ところどころほつれている。髪の毛もボサボサだから、まるでホラー映画に出て来る人形みたいだ。こんなの、一体誰が欲しいと思うんだろう。
まさか君、自分で動いてこの部屋に中に来たんじゃないよね? と確認したくなる。
い、いや、やっぱりしたくない。もしそうだったら……怖過ぎる。
僕は自分の考えにゾッとして、人形を床の上に放り出した。
人形は力なく横たわり、大きな青い目で僕の事を見ている。勿論、ただの人形だからそれ以上動く事もないんだけど、何か嫌だった。かといって、これ以上触るのも嫌だった。
そこで僕は人形を荷物で廊下に押し出し、そわそわしつつもPCで日記を書いたりしてディナーの時間を待っていた。
夜の七時半。「ディナーは八時から」ということだったのでもう頃合いだろうと思い、僕は人形を掴んでいそいそと下へ降りてみた。でもダイニングルームにはまだ誰もいず、壁際のTVだけがうるさく何事かを喚いている。僕はしばらくそれを見ていたけど、政治家の汚職がどうとか、女優や俳優の不倫がどうとか……そんなニュースばかりで、あんまりつまらないので消してしまった。
部屋は急に静かになり、時計のカチコチいう音だけが聞こえる。
うーん、ホームズさん達、来るのが遅いな。
ホームズさんはサンクチュアリに来てすぐに部屋に入ったまま出て来ないし、ロビンさんは外へ出掛けたきり、帰って来ていない。何してんのかな。
席に着いて間も無く、居間へ続くダイニングの扉がパッと開いた。
現れたのはホームズさんだった。ホームズさんは足を踏み入れるや否や、僕がテーブルの上に置いた人形に目を止めた。
「浪人、その人形はどうした」
前の酷い呼び方に戻っているって事は、ホームズさんは僕の名前を覚える努力を完全に放棄したのかも知れない。
「……リーハ・マフィーですよ。僕は」
「そんな事はどうでも良い」
ホームズさんは眉をひそめた。ひそめたいのはこっちだけども。
「それよりその人形だ。どこにいた。お前さんの部屋か?」
「ええ、そうですけど……」
人形の事を「あった」ではなく、「いた」と表現するのはいかがなものか。
それじゃ、まるで人形が動く……生き物みたいじゃないか。
「チッ」とホームズさんは舌打ちをした。
その顔はとても険しく、どうしてだか分からないけど、人形を睨みつけているみたいに見える。
一体どうしたの? 人形に何か恨みでもあるんだろうか?
その時、何の前触れもなくまたダイニングの扉が開いた。
青と金のラベルが巻かれた透明の瓶を持った、にこにこのロビンさんが現れた。
「やあ、何とかディナーには間に合ったみたいだね。今夜はお祝いにシャンパンを買って来たよ。皆でどうかな? 親睦を深めよう」
――と、弾かれるようにホームズさんがロビンさんを振り返った。
「何故お前がここにいる!」
みるみるうちにホームズさんの顔は、僕が今まで見て来た人の表情の中で一番怖いものへと変貌した。特に目がやばい。刺すように強い光を放っている。
「おや……懐かしいね。僕も何故君がここにいるのか聞きたいよ」
ホームズさんと顔を合わせたロビンさんの顔からは、笑みがすっと消えた。元々色白の顔が、一層冷たく白く冴え冴えとしている。
「俺が先に質問しているんだが?」
「君が先に答えるんじゃなきゃ、教えない」
「はっ、相変わらずだな」
「君こそ変わらないね」
い、いきなりどうしたんだろう……。落ち着いて座っていられなくなり、僕は椅子から腰を浮かせた。どうも二人は前からの知り合いだったらしい。でも、こんな険悪なムードになるって事は……仲は良くなかったってことかな……?
二人は僕のことなどすっかり忘れた風で、火花を散らすように睨み合っている。底の知れない暗さを纏った冷たい空気がじわじわと広がって来る。
「何年ぶりだったかな?」
「五年と半年ぶりだ。俺がお前をあの素晴らしい刑務所へ放り込んでやった一件から、それぐらいは経つ」
へ? 刑務所?
「ああ、そっか。それじゃ、僕が君をあの素敵なマフィア・ファミリーの家に追い込んであげた時から、もう七年は経った計算になるね」
え? マフィア?
二人とも、どういう話をしているの?




