今夜、ついに全員集合!
「お兄ちゃん達! 二人とも、ありがとねー! またねー!」大きく手を振るメアリーちゃん。
「ワン!」元気に吠えるメルちゃん。
二人ともかわいいなあ……別れが思いのほか名残惜しく、少ししんみりとしてしまった僕だけど、ロビンさんと一緒のベーカー街への道のりは話が尽きる事がなく、とても楽しかった。
「いやあ、まさかこんな所でフラットメイトに会えるなんてね。驚いたなあ」
「僕もビックリです」本当に凄い偶然だと思う。
「ロンドンに戻って来て良かったよ。これからの生活には期待が持てそうだ。こんなに良い出会いがあるんだからね」ロビンさんは惚れ惚れするくらいに綺麗な笑顔で僕を見た。
「まあ! どうされたんですか?! そんな、ずぶ濡れで!!」
僕達を玄関で迎えてくれたユウミさんは、ロビンさんのなりを見てちょっと取り乱した。
川であった事を手短に説明すると安心し、また感心してくれたようだったが、「とにかく、すぐにシャワーを浴びてください! 早く着替えないと風邪を引いてしまいますよ!」と叫んでロビンさんを二階へ急き立てた。
そのロビンさんが残した水滴を片付けるユウミさんを手伝ってから、僕はサンクチュアリの玄関に届いた荷物の整理を始めた。
しかし、疲れたな……。玄関から三階までの往復を三度もすると、すっかり息が切れてしまった。僕の荷物はそんなにないのに、一つ一つが重いんだ。それに、それをちゃんとした場所に収めるのにも時間がかかる。本とか服とかその他色々。
僕は階段に座り込み、ぼーっと休憩をする。その時、不意に玄関の扉がバタンと開いた。
ちょうど、シャワーから出たロビンさんが「ディナーの時間には帰ります」と言って出かけたいた矢先だったので、「あれ、ロビンさんが帰って来たのかな……?」と一瞬思った。でも違ったみたいだ。首を伸ばすと、火星のような赤褐色の瞳と目が合った。
バーツの時の白衣姿とは正反対の全身真っ黒けの服装で固めた、カカシみたいにのっぽのシャーロック・ホームズさんがそこに立っていた。
「あ、ホームズさん! こんばんは!」
「ハリーか」ホームズさんは口の端で笑った。
そうだった、忘れていたけど、この人もロビンさんと同じくらい……タイプは違うけど……めちゃめちゃ格好良い人だった。
もし名前を間違えられていなかったら、その笑みに見惚れていたかも知れない。
「あの……ホームズさん。僕はハリーじゃなくて、リーハですよ。リーハ・マフィーです」
「改名しろ」何でだよ。
「ハリーの方が覚えやすい」
ホームズさんは澄ました顔でめちゃくちゃな事を言う。
「変えられませんよ。それくらい覚えてくださいよ……」
まあ言っても無駄なんだろうな……。半ば諦めながら僕が呟いていると、ダイニングルームの方からパタパタと軽やかな足音を立ててユウミさんが駆けて来た。
「あら、ホームズさんじゃないですか! どうされました? 確か明日からと伺っていましたが……もしかして?」
ユウミさんはとても嬉しそうな顔をしていた。遠くからでも目が輝いているのが見える。
「こんばんは。ベランジェール…いやユウミさん」
ホームズさんは黒い中折れ帽を取ると、それを胸に当て優雅なお辞儀をした。僕の名前は忘れていた癖に、ユウミさんのフルネームはちゃんと頭にあるらしい。
「実は思っていたよりも早く仕事が片付きましてね。今日から自由の身という訳です。一日早いですが、構いませんか?」
「ええ、ええ! それはもう! お部屋の準備は整っていますわ!」
夜には全員集合ですね! と、ユウミさんは喜んでいる。
なるほど……ホームズさんも今日からここに住むのか。
ついにサンクチュアリの住民全員が揃うのか。僕とホームズさんとロビンさんと。それは凄く楽しみだ!
「ふふふ、今夜は張り切って美味しいものを作りますよー!」
明るく笑うユウミさんの声を聞きながら、僕はウキウキ気分で立ち上がった。最後の荷物を持って階段を上がり、三号室の扉を開ける。
すると、だ。青い宝石のような二つの瞳と目が合った。
全く見覚えのない、薔薇模様の赤いドレスを着た金髪のフランス人形が、部屋の真ん中にちょこんと座っていた。




