体験入学で初体験
異伝人学園。正式名称は私立東応大学院異伝人学園。この学園は昭和中期から平成初期まで東応大学院という小中高一貫の学院でした。平成初期に生徒不足により廃校してしまい、現理事長が立て直しを実行し異伝人学園となる。創立の際以前の学院の卒業生が母校を無くさないで欲しいと理事長に頼んで正式名称に以前の名前をいれて今に至る。
通学スタイルは自宅からの通学、遠方からの通学を希望する方には男女別の寮も完備。
私立東応大学院異伝人学園公式サイトより
「異伝人学園には幼稚園から高校までエスカレーター式に進めて、共学で制服が毎学年変わる以外は普通な普通科、女の子しかいなくて制服がよりどりみどりで1番おしゃれな女子棟、あと、へぇ俳優、声優、役者、アイドルを目指す人が入る芸能学科!センセーも元タレントとかアイドルなんだー。すごー!近代的ー」
私、白浜柘榴来年13歳になる今は12歳。ちなみに6年生に進級したばかり自分で言うのもなんだけど成績優秀。高校受験の予行練習として中学受験をしようと考えてて、いろんな学校の情報をタブレットとか紙の資料で見てたとき、異伝人学園の資料を見つけた。
異伝人学園、あんまり聞いたことないな…。ん?でもなんか、聞いたことある…………………あ!!
「そーだそーだ!!前いた学校の翠明日香さんが行ったんだった!」
私のお父さんは転勤が多い仕事で、私の家族は転勤族。2年に一回は転校する。2ヶ月前、翠明日香って子が急に転校することになって、初めて転校する子を送る会で送る側になったっけ。確か異伝人学園にいくって…。
つい最近のの転校生を送るクラス会を思い出す。
【翠さん、どこの学校にいくの?】
【私は異伝人学園って言う、寮もある学校へ行くの。私世継ぎになることにしたから、そこの世継ぎ科ってところに行くの】
【世継ぎ?!かっこいーねぇ!】
世継ぎ科。パンフレットの中にあった自分の世界に浸って見逃していたもうひとつの学科の名前。
世継ぎ科。正式名称は後継者育成学科。名前の通り世継ぎを育成する学科。生徒は自営業に始まり、政治家、医者等多種多様の親族、(他人から頼まれたでも可)何らかの職の後継者、すなわち【世継ぎ】であれば学力偏差値年齢性別関係無く入学、年齢に応じた学年に編入できます。後継者育成にとても力を入れており、教師は教員免許以外にも10種類幅広い資格を持った優秀な人材。現場の空気を知るため、跡継ぎ先へ赴き学ぶための休暇、世継ぎ休暇もあります。
「世継ぎ科…え?すごーい!体験入学を1週間も出来るんだ」
翠明日香と特別仲良しだったわけではないが、異伝人学園に個人的に興味が湧いた。
世継ぎではないけど、普通科もあるなら、寮もあるなら悪くないかもしれない。
「えーっと、体験入学期間は、おぉ!すご!再来週の月曜日から金曜日じゃん!……やってみよっかな」
正直2年に1回の父の都合に同行するための転校に嫌気がさしていた。仲良くなった友達と別れるのに慣れることはない。
柘榴は両親をうまく説得して、手早くウェブ上で体験入学の申請書を申し込むと、2日後、希望する学科の名前と日時を記入する書類が送られた。
異伝人学園は柘榴の住む住宅街の少し外れの、坂を少し登ったところにあった。
4階建ての校舎の屋根はエメラルドグリーンに外装はレンガ造りの茶色。窓は西洋風の作り。この作りの建物がざっと4棟ある。パッと見た感想。取りあえず、
「で、でかい広い凄い」
転勤族としては長年にあたる?3年この町に住んでたのに、こんなオシャンティ~な学校知らなかった。手元のパンフレットに学園を上から見た絵があるけどざっくり描かれてて分からなかったけどヤバイくらい広い。
「こりゃパンフレットにある日本庭園とか武道場とか集会場とか講堂も期待できるなあ」
さすが私立。集会場と講堂なんて他の学校だと体育館として合併されてるところを別れてる。まだ校門の前たけど、なんだか私立はワクワクする作りで楽しくなってきちゃった。
体験入学を申請して申込書を郵送すると、すぐに異伝人学園の事務所からメールが届いて、(当日の10時に校門前にお待ちください、担当者がお迎えに上がります)って返ってきた。どんな人かな?ちなみに私が体験するのは世継ぎ科。私のお父さんはホテルマンで、私も継ぎたいって思ってるから世継ぎじゃん?ついでに翠さんに久々に会おうって思って
「こんにちは」
好奇心を刺激されていると、背後から聞き取りやすくてきれいな声がした。
「はい!」
「まぁ元気なお返事、ありがとうございます。今日から一週間の体験入学希望者の白浜柘榴さんですか?」
「はい。そうです」
「よかった。私は異伝人学園の体験入学者を案内したり、これから関係者になる方や保護者の案内をする学園では園外顧問と呼ばれる役職の谷津音符と申します」
「あ、今日はよろしくお願いします!」
「はい。お願いします。それではまずは体験入学に必要な物を揃えましょう。こちらへどうぞ」
谷津先生に先導されて、私は異伝人学園に足を踏み込んだ。
あ、これは未来の私からの感想。知らぬが仏って言葉知ってる?この言葉の意味を、私は激痛って位痛感させられたよ。これから話すね。
案内された先は、てっきり教室がある校門から入ってすぐのレンガ造りの4階建ての校舎。でもここ、部屋はあるけど教室じゃないんだって。
「ここは管理棟。1階は職員室に学園の関係者は誰もが使える更衣室、2階は先生方が授業の準備をする教科準備室、3階は空き教室、4階は教員用の喫煙所がある管理棟といいます」
なにそれ漫画みたいな施設。そんな夢物語みたいな学校が実在するなんて。
ん?なんで三階はまるっと空き教室なんだろ?あれかな?最近分煙が厳しいから、生徒の健康衛生を守るため?何て考えて歩いてると谷津先生に私は更衣室に案内された。
「世継ぎ科体験希望でしたね。こちらのクローゼットの中に体験入学者用の制服があります。お好きなサイズの合う制服をお選びください」
「え?体験入学の人専用の制服もあるんですか!?」
「はい。私服だと浮きますし皆さんと同じだと誰かに声をかけられてしまいます。見学者とはっきり判別できるように」
「すごーい」
着替えられるよう谷津が部屋を出るとクローゼットを開ける。
「か、かわいー!」
制服自体の色は多彩な、襟の大きな、ボタンが四つついたデザインのブレザーにチェックのスカート。可愛い。体験入学でこんなおしゃれな制服を貸してもらえるなんて!どれにしようかな…
「決まりましたか?」
「はい!」
試着室から出た柘榴はピンクを基調とした体験入学用の制服に着替えた。胸元にはリボンもついている。
「よくお似合いですわ!では早速異伝人学園の体験入学を始めます。世継ぎ科へ案内しますね」
いよいよだ。翠さん、私のこと覚えてるかな…。
世継ぎ科の教室はまたまたオシャンティ~なアーチ状のレンガが影を作る渡り廊下を渡って講堂、集会場を通り抜けた校門から少し離れたまたまたレンガ造りの教室棟。そこにはまたまた登場レンガ造りの立て札で世継ぎ科ってあった。
中へ入ると、1年B組と記された教室の前へ。え?1?
「今はお休み時間中です。まずはどんな感じか覗いてみてください。」
「え、ま、待ってください谷津先生!私まだ6年生で中学生は来年ですよ?もちろん転校するなら来年からですけど、一応6年生から見てたいです」
谷津先生はあ、と慌て出した。すると後ろからふふって笑う声。
「世継ぎ科は独自の学年表現をされていて、1年生、2年生等を1等生、2等生と呼んでいて、一般的な6年生のことを1等生と呼ぶの。理由としては来年新たな道を歩むための予行練習としてね。ちなみに一番最初の学年は0等生と呼ばれてるの」
年生を等生、6年生を1年生…。マジな1年生は0…。私立はほんとに独自の呼び方があるんだ。教えてくれたのは茶色い短い髪をした、黒いシャツにカーディガン、白い長ズボンスタイルの女性がいた。
「あ、多谷先生。よかった。柘榴さん、この方が1年B組の担任の先生、多谷美純先生です」
「とっても可愛い女の子ね。よろしくね」
「よろしくお願いします」
この多谷先生の第一印象は正直、解らない。だった。いや、学年表現の説明はめちゃくちゃ分かりやすかったよ?違うの。解らない。なのは多谷先生の雰囲気。若くもなく、かといってオバサンにも見えなくて、谷津先生のようなお姉さんぽさもなくて、大人というアダルティックな空気も漂わせてなくて、きっと私が成長してもこうはならない、なれない、イメージしている大人じゃなくて、とにかく解らない雰囲気で一杯だった。
「谷津先生、案内ありがとう。今からは私が案内するね」
「はい、それではお願いします!」
私がまだ見ぬ大人を考えていると、2人が勝手に話を進めて、谷津先生がバイバイ。と私に手を振って行ってしまった。
「白浜柘榴さん、ね」
「あ、はい!」
「はい。良い返事。今お休み時間なの。まずはこの窓から中を見て、教室の感じを見て、みんなに紹介しましょうか」
「はい!」
よかった。いきなり教室に入って自己紹介は得意だけど、前準備ができたらもっと巧い自己紹介ができる。そっと中を見ると、
中は大学のような長机が並んでいた。空いている席の椅子を見ると、お洒落で座り心地の良さそうな椅子もある。
そして、中の生徒は…
黒い首まで隠れるスポーツインナー風のスクールシャツだけが統一された、色とりどりのジャケットに長ズボン。
ズボン。聞こえてくるのは野郎の声。
「世継ぎ科は名前の通り世継ぎを育成する学科だから、後継者だから男の子が多いの」
驚いた表情で固まる私に多谷先生は笑って言った。
き、聞いてないしパンフレットにも書いてなかった!けど普通に考えたら後継者=男は世間一般的な考えだ!!私がなんにも考えずに来たのがおかしい!え?女の子は?そう!!翠さんは?
「あ、あの女の子はいますか?」
衝撃的な光景に声が上ずって翠さんの名前を言えなかった。
「女の子?勿論いるよ。ほら、あそこ」
「てなわけでさ、自分だけの決意は口に出すより何回も何回も自分にだけ言い聞かした方がありなは良いと思うよ」
「で、でもありなは毎回決意を言葉にするじゃない」
「ありなは生きてる限り想いを口にするよ。幼き日、初めて好きになったキャラが死んじゃった分ありなはそのキャラの分生きて言葉を発するのだ!!!!!」
「お前は昔から報われないやつが好きなんだな」
「うっさいなぁ!」
多谷が指差す先を見ると、前髪を左右に開いた額の広い色素の薄い茶髪の髪を肩まで伸ばした、私とは少し違う、青を基調とした体験入学者用の制服より襟が少し小さく、紺色のラインが入っていて、無地の水色の膝丈スカートの上部が隠れる長さのボタンが6つついたジャケットを着た小柄な女の子がいた。
つか何の話してんの?そしてあの子は翠さんじゃない。他、他に女の子は?
「もう一人はあそこ」
私の目が忙しなく動いて女の子の姿を探しているのだと分かった多谷先生が騒がしい教室の窓際を指差すと、あの女の子と同じデザインだけど色が黒い制服に身を包んだ背中の真ん中辺りまで髪を伸ばした女の子がいた。おとなしそうな雰囲気は翠さんに似てるけど、彼女も違う。
よく見たら男の子も女の子もジャケットの隙間から見えるインナーから三角のマーク(▼)がある。パンフレットにもあったこの三角が校章みたい。
って違う違う!翠さんは?こんな男の子だらけの教室にはいるのちょっと勇気いるんだけど!
カラーンコローン
申し込みは世継ぎ科にしたけど普通科を受けようかと考えていると、聞きなれないメロディなチャイムが鳴る。
「あらいけない。休み時間が終わる鐘。じゃあ白浜さん、みんなに体験入学者って紹介するわね」
「えっ、ちょ!?」
聞きたいことと拒否したいところを、私のタイミングを完璧に無視して多谷先生は元気にスライドドアを開け放つ。
「はいはーい皆さんチャイムがなりましたよー。席についてくださーい」
多谷先生が入ってくると生徒達はバタバタと各自席に戻る。
「授業を始める前に、今日は体験入学のお友だちが来たから紹介するわね。入って~」
この流れは普通の学校と変わらないからいつも通りにしゃんとして教室へ。
入ったらまた驚かされた。生徒がめっっっっちゃ騒がしい!!教壇の横へ着くとシンバルの合唱みたいな大声が飛び交う。何か言ってるようだけど、私頭良いけど聖徳太子じゃないから一気に言われたら聞き取れない!それもビックリしたけど!
それより驚いたのは黒板がある教壇の前!多谷先生は手を触れず、教壇の前の壁に手を翳してスワイプみたいな動きをすると、SF映画とかに出てくるような電子掲示板が出てきて、そこに私の名前を打ち込んだ。
この学園、最新技術も取り入れてるみたい。
私の名前を入れ終えると、多谷先生は手を数回叩いて生徒たちを静まらせた。
「今日から一週間この世継ぎ科B組で体験入学をする白浜柘榴さんよ。みんな仲良くしてあげてね。白浜さんからも一言」
生まれてこのかた転勤族の長女の私はこれは大得意。私は軽く自己紹介をすると再びシンバルの合唱、おっと失礼。元気な声で受け入れられた。
「席はー、そうね。こんなに男の子ばかりの教室は慣れないだろうから亜莉那ちゃんのお隣ね」
「こんにちはろー!てんこーせー!ありなここだよー!!ありなは城君亜莉那!よろしくねー!」
額が広い小柄なあの子のとなりになった。言われた通りの席に着くと、大学のような長机は引き出しのなかはしっかり小分けされていて、椅子は見た目通りめちゃくちゃ座りやすい。背もたれと座るところはスベスベしててふかふか。普通の学校の木製の椅子に戻れなくなりそう。
取り敢えず二時間目の授業を体験した。普通の国語の授業だった。
カラーンコローン
この独特のチャイムは慣れたら普通なんだろうけど短いし音程も独特で慣れるまで時間かかりそう。休み時間は恒例の転校生質問タイムだろうか。男の子の対処を巧く出来るだろうかとシミュレーションをして待っていたのに。
「ねぇねぇ白浜さんは給食と弁当どっち派?あ、ごめんごめん。異伝人学園はお昼ご飯学食かお弁当か選べるんだー。日替わりランチがみんな好きだけどありなは高い金出して定食派なの。定食の方が日替わりランチより器でかいんだよ!なに食べるかは気分によるんだ。あ、学食といっても侮るなかれ!!なんと、学園の学食はカフェテリアって呼ばれてるんだ!何でかって言うとね!ケーキを始めとするスゥイーツがあるんだよー!」
話しかけてくるのは隣の城岩さんだけ。しかも話す内容は食べ物のことばっかり。他の生徒は在校生と喋ったりふっつーに遊んでる。男子冷たいな。あとカフェテリア気になるな。嫌、男の子はこんなもんか。あ。それより翠さんのことだよ!
「あの、城岩さん」
「ん?」
「このクラスに女の子ってあの子と城岩さんだけ?」
「うんそうだよ。あ、あの無口な子は五光打泉科っていうの。泉科と話したい?」
「あ、ちがうちがう。え?二人だけ?」
「▪▪▪▪▪うん。今はね」
「うそ!信じない!」
「あ、あのさ白浜さん」
「柘榴で良いよ。なに?」
「え、あぁうん。じゃあありなのことも亜莉那で良いよ柘榴。その子は柘榴とどんな関係?」
名字での呼ばれ方に慣れていない私は亜莉那に名前呼びを許した。そして彼女亜莉那の一人称はありならしい。そうじゃなくて!質問の意味が解らなかった。取り敢えず1から説明してみよう。
「翠さんは私のいた学校のクラスメイトだったの。2ヶ月前に異伝人学園の世継ぎ科に転校するって言って転校してった。名前は翠明日香さん。私より少し背が高い女の子よ」
補足すると翠さんはふくよか、悪い言い方をすればポッチャリな女の子だったから存在感があった。そんなこと本人が居ない環境でも女子の体型を言うのは自分がされたら嫌だから気が引ける。
「ただのクラスメイトでしょ?特別仲良しじゃないなら別に気にかけることないでしょ」
冷たい言い方に、冷静を保っていた私の心に怒りが込み上げてきて、長机を強く拳で叩きつけた。
「なにその言い方!亜莉那あなた冷たい!たしかに私と翠さんは親友ではなかったけど、同じクラスになって話をすれば友達でしょ?!友達を探して何が悪いの?!」
怒鳴りあげるつもりはなかったのに、つい心の本音をぶちまけてしまい、賑やかに談笑していた教室が静まり返った。
「あ…」
言いたいことを話した私は正気に戻る。亜莉那を見ると目を丸くして固まっていた。
「おい体験入学の人」
亜莉那に謝ろうとするのを、他の男子生徒より前髪も後ろ髪も長くて、黒い宝石みたいに丸い瞳を縁取るまつげが私より長い少年が遮った。声は変声期を迎えてない少女のような少年の声。
「いきなり人を怒鳴るとか酷いんじゃないか?話聞こえてたけど、知らないものは知らないんだよ」
可愛らしい見かけによらないキツい言い方に泣きそうになった
。
「け、鏡斗!言い方ってもんが…」
「なんだよ、亜莉那が困ってたから鏡斗庇ってんだぜ?」
その後ろから鏡斗君にどこか似ている前髪のこめかみ辺りの髪が左右に触覚のように跳ねている白い髪の男の子まで遠回しだけど亜莉那を擁護する言葉をかける。完全に悪人私状態。
「鏡斗、正宗ありがと。ありなは平気だよ」
それ被害者が使う言葉。ネットバッシングが主流のこの時代にこんな古典的な精神ダメージ食らうなんて!
いたたまれなくなった私は教室を飛び出した。
行く宛がない、解らないままめちゃくちゃに走り回った私は壁と同じ水色の扉の前に着いた。軽く押すと扉は開いて、中は図書室だった。扉を閉めて、扉に背を預けてそのまま引きずられるようにズルズルと降下していき、床にしゃがみこむ。
最悪。何で私が、私は歓迎されるポジションの体験入学者だよ?何てこんな昭和から平成初期に流行った四面楚歌イジメなみたいな目に遭わなきゃいけないの。私はただ翠さんに会おうと来たのに。
その時、亜莉那の言葉が脳裏に蘇る。
ただのクラスメイトでしょ?特別仲良しじゃないなら特に気にかけることないでしょ?
冷えきった頭にその言葉が正しいものかもしれないと思う。彼女とはクラスメイトになって休み時間話したり給食を一緒に食べたりはしたけど、休みの日に一緒に遊ぶ等はしなかった。只単に話をするクラスメイトであって友達でもない気がしてきた。
散々な目に遭わされたこんなところに入学したくないし、もう翠明日香を探すの早めよう。
「決めた!やめてや、ぐぇっ!」
突然背もたれにしてた扉が豪快に開け放たれて、その勢いに押されて吹き飛ばされた。なに?なんなの?!
「ふぁー泉科ちゃん、流石に図書室のはしごはキツいねー。次の時間は自習だから少し休もう」
「そうだね………………?……一騎君大変。体験入学の子が」
「んん?わっ!どうしたの?!」
目の前に本を前が見えなくなるほど積み上げた状態で両手に抱えた、癖の強い茶髪の男の子と、さっきまで教室の窓際にたそがれていた泉科とかいう子。
「ごめんねー。図書館を見に来ていたなんて知らなくって!」
慌てながらおずおずといった感じで癖っ毛な茶髪の男の子が手を差し伸べてくれた。
「あ、俺はいっき。中地之一騎。本名はいつき。だけどみんなから(いっき)って呼ばれてるんだ」
いっきは先程の休み時間の騒ぎを知らないのか、私に普通接してくれた。
「休み時間に図書室に来るんだ?」
「あ、俺と泉科ちゃん、初等部の図書委員会の委員長と副委員長で、休み時間に顧問の先生から中等部の図書館から本の移動を頼まれてて、次の時間が自習の時、世継ぎ科では委員会活動も許されてるから早めにしようって泉科ちゃんと来たんだよ」
「へぇそうなんだ」
ということは二人は私が起こした事件を知らないのか。
「あ、何か聞きたいことある?」
カウンターの席に泉科とほほ同時に座って、持ってきた本をノートに記帳しながら一騎が聞いてきた。内向的な性格なのか、言葉の始めがつっかえている。その一方声は鏡斗と違ってあと少しで声変わりが始まりそうな声。一騎なら本当の事を教えてくれそう。
「あの…いっきくん」
「なに?」
「B組に女の子って、二人だけ?」
その言葉に二人の一瞬肩がピクンと揺れた。
「う、うん…今はね」
しどろもどろに答えた。 いまは って、どういう意味?私が少し気にしていると、本の数を数えるのをやめて泉科が口を開く。
「世継ぎ科って、他の学科と違っていつでも他の学科に転入出来るんだよ」
「そう!他の学科に転入は他の学科だと中等生になってからでないと出来ないけど、世継ぎ科だと初等部からできるんだ!あ、ありな分かるよね?君の隣の!ありなも親の世継ぎになる為に少し前に転校してきたんだよ」
さりげない泉科の言葉に一騎は、身ぶり手振りをして追加説明をしてくれた。
亜莉那は転校生だった。そして1つの可能性が浮上した。亜莉那が転校してきたと同時に翠明日香は違う学科に転入してしまったのかもしれない。飛ばされてしまった衝撃で先程の友達ではないからどうでも良いという思いを忘れて、再び翠明日香を探す決意を決めた。
「そうか!!じゃあ翠さんは転入しちゃったんだ!なら話は早いや!ねぇ二人は世継ぎ科にずっといるんでしょ?翠明日香って女の子、知らない?」
泉科は無言で首を振って、一騎は大きく首を振る。二人も転入生なのかな?
「そっか…でもいいこと聞いた!あとは自分で探す!!」
人の話を聞かず何でも決めつける癖を持つ柘榴は図書室を出ていった。一騎と泉科は複雑な表情でカウンターから見つめていた。
「翠さんの知り合いなんだね…白浜さん」
「…そんなこと言われてもね」
一騎は初等部0等生から世継ぎ科にいて、泉科は初等部0等生の頃は女子棟、二等生から世継ぎ科に編入したので、翠明日香のことを知っていたが、言えなかった。
困った。これからどう行動すれば良いか解らない。まずここがどこなのか?私は殺風景な渡り廊下に立っている。この学園、敷地も広ければ中も迷路並みに広くて絶賛迷子。さっきは無我夢中で走ってて偶然図書館に辿り着いたのであって、B組へどう戻れば良いんだろう。何より私はクラスの空気を暗くして飛び出してしまった。どんな顔でみんなに会えば良いのか…。今は授業中で、私の行動を責めるような錯覚に陥らせるような沈黙が渡り廊下同様に続く。はぁ。どうしよう。
世継ぎ科の見学に来たのに戻りたくない。今日はとりあえず帰ろうかな。明日になってみんなのほとぼりが覚めてから謝ろう。でも私は悪くないし。
とりあえず最悪な体験入学初日が終了。