ブラコンお姉ちゃんは弟にすごいって言われたい。(2/5)
「もしもし?」
買い物カゴを抱えた主婦たちが、少しでもいいものを、少しでも安いものをと家計を支えるべく奮闘する戦場。
比較的年齢層が高めのその戦場の入り口脇で真希の姿は少しばかり浮いていた。時刻は昼過ぎ、平日、若者が出歩くには少し早い時間。そしてショッピングモールなどではなく、主婦利用が大半のご当地スーパーの前となれば真希が浮くのも当然と言えるだろう。
思えば真希がここを利用するのも三カ月ぶりだ。昔から瀬野家の食卓を支えてくれた格安スーパー。瀬野家を支えてくれているというのは今も変わらないが利用する人物が異なる。
「明日の皆のお弁当なんだけど、私が作りたくって。……そうじゃないよ。私が料理したいの」
スマホ越しでも、母の表情が声に乗って伝わる。
やはりというべきか、真希がお弁当を作りたいと言うと、母は自分のお弁当に不手際があったのかと不安になってしまったようだ。
「ほら、たまには料理しないと腕が鈍っちゃうから。大丈夫、お母さんのお弁当は美味しいよ」
まだまだ関係が堅いことは否めない。だがこればかりは時間が解決してくれるのを待つしかあるまい。
「うん……うん……今スーパーの前。大学は今日は午前中だけだったから。……うん、明日の分だけだし自分のお小遣いから……いいよ、別に。うー……分かった。うん、それじゃ」
通話終了ボタンを押す。
結局、食材にかかる費用は別途で出してくれるそうだ。これぐらい自分で出してもいいのに。
(さて……)
そこまでがっつり買い込むつもりはないが、カートをとってきて買い物カゴを乗せる。
大人びた容姿の真希がカートを押していると、一人暮らしの大学生というよりは新婚の若妻に見えないこともない。
それはそうと作る予定こそ取り付けたが、具体的にまだ何を作るかは決めていない。
(ハルの好きなもの……)
カートを押しながら売り場を巡る。
(カレー、オムライス……どっちもお弁当には向かないかぁ……)
姉として当然ではなるが、日葵の好きな物は全て完璧に把握している真希である。
ちなみに苦手なものは納豆やオクラ、ねばねばしたもの。
(でも苦手でも食べてくれるんだよなぁ、ハルは。天使だからなぁ……)
例え美味しくなかったとしても、作った人のことを思って日葵は美味しいと言うのだ。若干頬を痙攣させつつではあるが。
日葵は優しくて嘘を吐くのが下手なのだ。天使だから。
(お弁当に入れるとすると、ハンバーグなんか無難かな)
精肉コーナーで挽肉のパックを手に取る。
(無難過ぎるかなぁ……なんかこう、インパクトがあるものがいいな)
やはりここは、お姉ちゃんすごい!と思ってくれるような、日葵をわっと驚かせるような何かが欲しい。
(でもやっぱりお弁当だし、あんまり凝り過ぎたものは……うーん……)
とりあえずカートのカゴに挽肉を放り込んだ真希だが、何か物足りない。
と、何となしに眺めていた売り場のポップが目に入る。
(タコさんウィンナー……)
お弁当に最適!の文字と、タコの形にカットされたウィンナー。海苔を使って表情までついている。
(……キャラ弁!)
キャラ弁、ごはんやおかずを使ってキャラクターを描いたもの。もともとは嫌いな食べ物を子供に食べさせるための工夫の一つであったが、現在はお弁当の一ジャンルとして確立している。
(今まで作ったことないけど、だからこそ見た目のインパクトは十分……これだ!)
キャラ弁を貰って喜ぶ年齢を日葵はとうに超えているように思えるが、行き詰っていた姉にはこれ以上の名案は思いつかなかった。
(海苔と、あと桜でんぶ……あんまりすごいのは難しいしとりあえずそれで……)
一度何を作るのか決まってからの真希の行動は速かった。
もともと家事を担当していたのは伊達ではなく、無駄なものは買わず、必要なものをなるべく最低限に選択してカゴに入れていく。頭の中ではすでにお弁当のイメージが出来つつある。
あらゆる行動の中心に弟が入ってくるせいで変人のレッテルを張られがちな真希だが、家事や勉学など、要領はかなりいい方である。