危機一髪
ちょいグロ注意!
「……ちゃ………、ぼっ…………、………坊ちゃん!!早く起きるっすよ!!坊ちゃんっ!!」
意識の奥底で、スカドゥエの声が聞こえてスゥ、と目を開ける。
目の前はモクモクと煙が上がり、視界が真っ白だ。
自分はどうしたのだろうか??
やけに顔や体がベタベタする。
今、自分の体制は見えない透明の壁に体重をのせて背中を預けて座っている状態だ。
その後ろで真っ青な顔をしたスカドゥエが俺に何やら必死の形相で話しかけてくる。
「坊ちゃんっ!!早く足を……傷を無かった事にするっす!!早くっ!!」
「……??」
何を言っているんだろう?
足?傷?
そう言われて自分の足や体に目を向ける。
「っ!!!」
己の状態に、目を開く。
体にはところどころに深い切り傷が刻まれて、足にはおびただしいほどの血が出ていた。
足が、切断されていた。
「あっ…あぁ…………あぁ”あ”ああぁあ”っ!!!」
そうして、自覚して初めて身体のいたるところから痛みを感じはじめた。
痛い、いたいいたいいたいいたいいたいいたいっ!!
ヒュー、ヒューと呼吸音がおかしくなり、息もしづらくなる。
目の前が再び暗くなりかけ、血を流しすぎたのか寒さで体がガタガタと震える。
「坊ちゃん、坊ちゃんっ!!!早く、早く『運命の書』を出すっす!!」
ドンドンと透明の壁を叩きながら涙声で指示を出すスカドゥエの声を聞き、落ちかけている意識を何とか保ちながら手のひらを出す。
そうだ、『運命の書』……。
これで今の事象を、書き換える……。
ゴフ、と血を吐きながら、『運命の書』を出してパラパラとめくられるページを眺める。
最終ページになり、ピタ、と止まったページを見ると
学校長の魔法の斬撃で俺の足が切り飛ばされて、身体のあちこちに切り刻まれた旨の内容が書かれていた。
ガタガタと震える手で、文字をなぞり浮き出た文字を握りつぶした。
グシャ、と音がした瞬間、朦朧としていた意識がはっきりと鮮明になる。
寒気でガタガタと震えていた体も震えが止まり、血色も元の色に戻り、身体中、切り傷で血だらけだった体も何事も無かったかのように綺麗な状態に戻った。
切断されていた足も、きちんと動く。
成功だ。
ホッと、息を吐き、座っていた状態から立ち上がる。
パンパン、とズボンについた砂を落として後ろを見ると、スカドゥエがホッとした様子で俺を見ていた。
スカドゥエに助けられたな、と感謝を述べようと口を開けると学校長が唖然とした様子で俺を凝視する。
「ど、ういうことだ?お前、何をやった??」
「なに、と言われましても……」
『運命の書』で学校長が魔法を放たなかった事にしました、と説明しようとしたが、途中で口を閉じる。
はたして、目の前の相手に俺の事情を話してもいいだろうか?と話す事に躊躇したからだ。
相手が俺に心を許していない、というのが1番の理由なのだが、それ以外に敵かもしれない、というのも理由の1つだ。
その敵かもしれない、不確定要素の相手に俺の手の内を晒すような事はしたくないし、学校長の前で『運命の書』を出して事象が書き換わる瞬間を絶対に見せたくない。
「敵に言うと思いますか?」
「……フン、それもそうじゃな。」
そう、納得しつつも俺の態度が不満なのか、眉をひそめて手を振り上げる。
すると、そこから風の刃が数個生成され、勢いよく俺の方へと飛んできた。
反射的に、刃を避けて回避する。
「ホレホレ、どうした??後残り10分じゃぞ?」
そう言いながらも次々と、学校長は魔法を放って攻撃をして来る。
そうだ、一撃を当てないと10分後には俺を殺しに来る。
今も結構殺意が高めな攻撃を仕掛けて来るが、どちらかと言うと学校長は俺で遊んでいるように見える。
命を弄んだロット君のように、わざとワンパターンな攻撃をして無様に逃げ惑う俺を見て楽しんでいるのだ。
ずっと、同じ攻撃を繰り返し、俺をニヤけながら見ているのがその証拠だ。
こんなのに付き合うのも時間の無駄だな、
そう思い、足を止める。
一撃、たった一撃入れるだけで4つ目の条件がなしになるなら結構簡単な事じゃないか。
「??」
学校長は足をとめた俺に疑問を持ちながらも攻撃を止まない。
俺に何か策がある、と勘付いたのだろうが、それでも問題ないと思ったのだろう。
俺が魔力もない雑魚だから何もできない、と。
ロット君なら、そうだろう。
だけど、俺はロット君じゃない。
迫り来る刃をすんでのところで避ける。
避けた刃が透明な壁に辺り、そこから白い煙が上がる。
これは、使えるかもしれない。
避けても次の攻撃がくる。
その度にかわす、を繰り返す。
ドォン、ドォン、と後ろで学校長の放った魔法が激しく当たり、白い煙が上がる。
そのせいか辺りが真っ白になり、学校長の姿が見えなくなる。
よし、これで…
「目を使えなくしたくらいでワシが攻撃を止めるとでも??」
真っ白な空間から、学校長の声が聞こえた。
それと同時に、四方八方からまた風の刃が飛んでくる。
切れ味の良い刃が俺の体を切る。
学校長が見えなくなった分、刃を避けるのも難しくなる。
だけど、それこそが俺の目的だ。
相手ががむしゃらに魔法を放つと言う事は俺の姿が見えていない証拠だ。
それならば、これほど良い環境は他にはない。
手を開いて『運命の書』を出す。
相手の視界を塞いだ理由、それは学校長に攻撃する為ではなく、『運命の書』の存在を相手に悟られる事なく使用する為だ。
飛んでくる刃を避けながら、空中で文字を書く。
学校長は言った。
血を一滴でも流させたら4つ目の条件を無しにする、と。
なら書く事は決まってる。
サラサラと書かれた文字を白いページに誘導する。
文字は、拒否する事なくスゥとページの中へと溶け込んだ。
それと同時に学校長の攻撃が止む。
「……?っな、なぜっ?!!」
攻撃が止んだことで、白い煙が四散し、辺りの景色が見えるようになる。
学校長も見えるようになり、目を向けると学校長が何がおきたのか理解が出来ないのか呆然と突っ立っていた。
「これで4つ目の条件は無効でよろしいですよね?学校長。」
「………お前っ!!!何をした?!」
ギロリと睨む学校長の右頬には血が一筋流れていた。
「言ったでしょう?敵に自分の手の内を晒すような事は言わない、と。」
「っ!!」
「これは俺が死ぬ程苦労して手に入れた力なんです。これ以上は詮索しないでくださると助かります。」
「………………ちっ」
何も言わずに目を逸らして舌打ちをする。
顔は不満そうだが、何も言わないと言う事は納得はした、と言う解釈でいいのだろうか?
う〜ん、とどう判断して良いか分からず首を傾げていると、スゥ、と空気が軽くなるのを感じて周りを見渡す。
不思議に思い、周りを見渡そうと顔を横に振ると、誰かに勢いよく抱きしめられた。
「うぁあぁぁん!!!ぼっちゃぁん!!!死ぬかと思ったっすよぉ〜!!!」
「ス、スカドゥエ…!!い、痛い痛い……!!」
どうやら俺と学校長を囲っていた透明の箱が消えたらしく、それに気づいたスカドゥエがすぐさま俺の元へと飛びつき抱きしめる。
メリメリと骨の軋む音がなり、また気を失いそうになる前にスカドゥエの背中をバシバシと叩く。
それに気づいたスカドゥエが、おっと、と言いながら離れていき、体の圧迫感が無くなった事でやっとの思いで一息をついた。
「坊ちゃん、ほんと良かったっすよ〜!!足が飛んで身体中が血だらけで倒れた姿を見た時は、あ、終わったって思ったっすもん!!」
「いや、俺もマジで死んだと思ったわ……。」
あの時、スカドゥエの声がなかったら完全に意識がなくなってそのままお陀仏だった。
改めて考えると大分危機一髪だったな
それに、すごく心配をかけてしまったようだし。
チラリと見ると、泣いていたのか、目から出た涙を手で拭っていた。
とにかく、スカドゥエにお礼を言わないと……
「スカドゥエ、ありが……」
「坊ちゃんが死んだらアーシも死ぬ可能性があるんすから、もっとちゃんと周りを警戒してほしいっす!」
「あ、あぁ、そう、そうね……」
プンスコと腰に手を当てて、俺を叱りつけるスカドゥエに、体の力が抜ける。
スカドゥエの心配も涙も俺を想っているわけではなく、あくまで自身の命の心配から来た感情なんだ。
「あぁ、ハイハイ、お前はそういう奴だよ。」
「なんすかっ!!その態度はっ!!もう少しアーシに感謝するっすよ!!!」
「ハイハイ、アリガトウゴザイマス」
思惑はどうあれ助けてもらった事は事実だ。
死んだ目でお礼を言うと、学校長がわざとらしく咳払いをする。
「どうやったかは知らんが、約束は約束じゃ。4つ目の条件は無しで良いからさっさと謝りに行って来るが良い。」
シッシッと眉をひそめて俺たちを追い払う。
「あ、はい!行ってまいります!!」
「ちっ!!!」
最後に不満たっぷりの舌打ちが聞こえて思わず苦笑いをする。
学校長にとってこの結果は大変不服だろう。
だけど、気にしてはいられない。
目的達成のために、俺は進まなければならない。
必ず、条件を満たして学校に入学してみせる。
そう、決意して足を進める。
しかし、この時の俺たちは知るよしもなかった。
これから先、更なる困難に見舞われる事を、
進展するのに、これから合計100回を超えるループを繰り返す事になる事を、
そんな事になることなど、つゆ知らず俺たちは足を前に進めた。
今度は鬼滅の刃にハマってしまいました笑




