入学の条件
遅くなりすみませんっ!!
そして、少し長いです!!
ニコリと笑ってはいるが、目には光がない。
見せかけの笑みを浮かべている老人が、目の前に立っている。
ゴクリ、といつの間にか溜まっていたツバを飲み込んで礼をする。
名は名乗ってはいない。だけど、この老人から漏れ出しているオーラがただ者では無いと言っている。
緊張しながら、頭を下げて挨拶をする。
きっと、この老人は……
「ご、無沙汰しております…。学校長殿。」
「いやいや、ワシになど礼はせんでもええです。いやはや、お久しぶりでございますなぁ、ロット様。もしかして帰ってしまっているかと思っておったが……いてくれて良かったですわい。」
ハハハ、と笑う。
その笑い声がとても胡散臭い。
本当はそう思ってない癖に。
目を見たら分かる。
光のないその目は明らかに帰ってくれたら良かったのに、と言っている。
スカドゥエが言っていた事は間違いではないのだろう。コイツはわざとここまで遅れて来たのだ。
「………学校長、俺に建前も媚びも不要です。ただ、俺の話を聞いてくれますか。」
ピクリ、と学校長の眉が動いた。
自分の思考が俺に読まれている事に気づいたのか、怪訝そうに俺を見る。
が、すぐに表情を戻して頷く。
「ふむふむ。なるほど、よかろう。ここまで待ったお主の褒美として聞こうではないか。」
とりあえず、追い出されずに済んだことにホッとして、本題へと入る。
「お金をあなたが望むだけ寄付いたします。なのでクラスタン魔法学校への入学の許可をいただけますでしょうか?」
「ふむふむ………」
変わらず、胡散臭い笑みを浮かべたまま俺の方をジッと見る。
しばらく、うんうんと頷き、そうじゃな〜、と呟いた後、
「うむ、よかろう。」
と手をポンッと叩いた。
あまりにもあっさり許可がおり、スカドゥエがポカンと口を開ける。
だけど、素直に喜べない。
何かある。
眉をひそめて警戒をする俺の行動が予想外だったのか、はて?と首を傾げる。
「入学できるのじゃぞ?喜ばんのか??」
「あ、いえ、大変喜ばしいですよ。だけど……」
あんな大損害を起こした俺(ロット君)を4時間大人しく待った程度でチャラにする程この老人は優しくはない。
「何か条件がおありでしょう??」
「ほぅ、少しは賢くなっているのぅ。」
スゥ、と俺を見定めるように学校長の目が細くなる。
数秒、俺を見つめた後にエホンッとわざとらしい咳払いをした後に、では……と言葉を続けた。
「入学するための条件、それは、授業料1ヶ月550万シギーを払うことじゃ。」
「ご、550?!」
日本円で言うと約8000万円、授業料にしては高すぎる値段に目が飛び出しそうになった。
いや、これがこの世界の貴族が払う月の授業料なのだろうか?
基準が分からないからこれが高いかどうかが分からない。いや、高いのは高いんだろうが、貴族にとって高い値段かが分からない。
ちょいちょい、と隣にいるスカドゥエの腕を突く。
それに気づいたスカドゥエが首を傾げて俺の様子を伺う。
俺の、屈んで、というジェスチャーを悟ったスカドゥエが俺の顔の高さまで屈む。
そして、学校長に背を向けてボソッと聞こえない音量で口元を隠し問いかける。
「スカドゥエ、貴族の坊ちゃんの1ヶ月の学費ってどんくらいなのの??550万ってめっちゃ高い感覚で合ってる?」
「めっちゃ高いどころじゃないっすよ。高すぎるっす。ぼったくりっすよ。それに、前に来た時に提示された金額は確か41万シギーっすから10倍以上は高いっす。」
「じゅっ?!!」
驚きすぎて思わず声をもらす。
そんな俺たちの反応がおかしいのか、愉快そうに学校長が笑った。
こっちは笑えない値段をふっかけられて固まってしまっているのに、相手がこちらをおちょくるように笑う。
俺たちの反応を見て、楽しんでいる。
その事に気づいて、目の前の老人に不快感が湧き、顔が歪みそうになったが、それを必死に抑えて平静な表情を保つ。
ここで怒ってしまうとそれこそ学校長の思う壺だ。
コイツはわざと俺を怒らせて、暴れさせて、そしてもう2度と俺がこの学校に足を踏み入れる事が出来ないように口実を作ろうとしているんだ。
フゥ、と心の落ち着かせるように深呼吸をする。
値段を少し下げられないか交渉してみるか…。
まぁ、ダメだと思うけど……
「550万はちょっとぶっかけすぎでは??前に来た時は41万で良いと言っていたではないですか。」
「なにを言う。これはお主が散々周りにやって来たことじゃろう?なんじゃ??払えんのか??」
と、さらにロット君のやって来た悪行を掘り返して煽ってくる。
いや、俺がやったわけではないんだけれども……
と言葉が出かけて押し留める。
グッ、と何も反論できずにいると、コソコソと耳元でスカドゥエが囁く。
「どうするんすか?ロットの坊ちゃんは550万シギーなんて持ってないっすよ??」
「………だろうなぁ〜」
確かに最初の41万も払えないロット君が550万も持っているはずはない。
だが、王都へ来る前の事を思い出す。
ここに来る前、アスタ家での騒動の時。
アスタ領両夫妻と話し合いをする為に執務室に押しかけた時に、アスタ家が保有している財産、シギーの貯金額が書かれた、所謂家計簿的なものをついでに見つけていた。
今でもその金額をハッキリと覚えている。
「………………分かりました。払いましょう。」
「なっ??!払えるんっすか?!!」
「ほぅ?良いのかね??」
辺境の領地であろうと領主である両親にはそれなりにお金を貰っていたらしく、多額の財産があった。
足らないお金はそこから賄おう。
「はい。これで条件はクリアですね?」
「…………うむ。」
ニヤリと挑発的な笑みをし条件を受け入れた俺が面白くないのか、学校長はあからさまに不機嫌な顔をする。
そうして、条件をクリア出来たことに今日何度目かのを安堵する。
すると、その俺の顔を見ていた学校長が、不機嫌な顔を隠さないまま、話しかけて来た。
「まだ安堵するには早いぞ?2つ目の条件じゃ。」
「はぁ?なんすか??まだ条件があるんっすか?」
「フンッ、条件は1つだけとは言ってないじゃろう?勝手に勘違いをするんじゃない。」
「………………最初に勘違いするような言い方をしたのはそっちじゃないっすか。」
「ま、まぁまぁ、言い争いはその辺で。2つ目は何ですか?なんでも受けますよ。」
バチバチとスカドゥエと学校長の間に火花が飛び散っているように見え、このまま傍観しているのはまずい、と思い険悪な雰囲気になりつつある2人の間に入って仲裁する。
これでさらに学校長の機嫌を損ねてしまって、入学はさせない、なんて言われたら大変だ。
しかし、逆にそんな俺の行動を不快に思ったのか、眉間の皺を更に深くさせてギロリと睨まれる。
「随分と余裕じゃな??お主は自分で犯した罪の重さを理解しとらんのか?」
「そ、それは分かってますよ……!!」
そのあまりにもの強く怒りに満ちた眼光に背筋が凍る。
何か逆鱗に触れたのだろうか、と焦る。
「3年経って少しは成長したかと思ったが、どうやら勘違いじゃったようじゃ。お主は前と何も変わっとらん。いや、むしろ悪化しとるわい。」
学校長が、ハァ、と深く息を吐く。
いまだに俺を睨んでいるその目には、失望と侮蔑の感情が見えた。
「お主に何の心境の変化があったのかはワシには分からん。じゃが、これだけは分かる。お主は今、己の目的達成のためにこの場をやり過ごそうとしているじゃろ?じゃからお主の言葉はあまりにも軽くてあまりにも他人事なのじゃ。」
そう言われ、体が硬直する。
他人事。
確かに他人事だ。
だって、ロット君が詐欺行為をしたのであって、俺がしたわけではない。今でもそう思っているし、俺には関係ない話だ。
そうだ。
だから、被害に合った人たちの話を聞くときはいつも第三者視線で見てしまう。
俺には関係ない、と。
だけど、学校長はそんな俺の気持ちを見透かしていたんだ。
きっと、以前と態度や性格が違うことも、何かあったんだと察しているだろう。
流石に死んで中身が変わってる、とまでは気付いてないだろうが……
なんにせよ、中身が違かろうがこの体は確かに罪を犯したロット君本人だ。
殺人犯が、記憶を無くして別人みたいになった。
今の人格は殺人を犯した人格ではないから罪を犯した事にはならない、関係ない、なんて言われても被害者側は絶対に納得なんてしない。
「そ…、うですね……。確かに他人事のように言ってしまいました。申し訳ございません。」
グッと学校長に頭を下げて謝罪する。
鋭い学校長の視線が俺の背中にビシビシと感じる。
「ぼ、坊ちゃんっ、それはしょうがな…」
「しょうがなくないよ、スカドゥエ。学校長の言っている事は正しい。」
これがロット君の身体を使うという事なのだ。
その持ち主の罪も、一緒に背負わなくてはならない。
「…………なんじゃ。やっと理解したか?」
「はい。お手数おかけしました。おかげで理解はしました。」
「フン。それならばよろしい。」
声音が少し和らぎ、安心する。
顔を上げろ、と言われたので下げていた頭を上げて体を元の体勢へと戻す。
「なっ…!!偉そうにっ……!」
隣でスカドゥエが拳を振るわせて学校長を睨みつける。
しかし、そんなスカドゥエを無視して学校長は懐から手の平より少し大きめの10枚にまとめられた紙の束を出して俺の方へと投げた。
床に落ちる前に慌ててそれをキャッチする。
「これは??」
「条件2つ目じゃ。」
これが?と思い、パラパラとめくる。
紙には名前らしきものが書かれてあった。
これは何の名前だ?と思い首を傾げると、学校長が俺の思考を読んだのか、俺が聞く前に教えてくれた。
「そこにある名前はお主が3年前に詐欺と脅しをかけて入学を辞退した者の名前が書かれた物じゃ。」
「っ!!」
「こやつらに償いをし、全員から許しを得る事が出来たのなら、再度ここへ来るがよい。そうそう、許してもらえた際はその者から許したという証明の署名を貰うんじゃぞ。よいか?1人でももらす事は許さん。」
そう言われ、またパラパラと紙をめくり人数を数える。1枚につき、20名の名前が書かれておりそれが12枚あるから……
「136名……。こんなに……」
今からこの人数の人達に頭を下げに行かなくちゃいけないのか……
しかも居場所が分からないから、そこから探し出さなきゃいけない。
これが全部終わる頃には一体いつになるのだろう、とグッと思わず紙を握り締める。
そんな俺の様子を見て、学校長が口を開く。
「嫌ならば辞めても良いぞ。どちらかと言うとワシはその方がいい。」
「………いえ、どっちみち謝罪はしなければならないので快く引き受けさせていただきます。」
覚悟を決めて、2つ目も受け入れる。
学校長は少し残念そうな顔をして、ため息のような息を吐いたあとに、3つ目の条件をだす。
「…………では、条件3つ目じゃ。お主がここへ入学をする際に、5000万シギーを一括で払ってもらう。」
5000万シギー、あまりにも桁の多い数字に今日何度目かの硬直をする。
でも、これはきっとあれだろう。
「それは、本来入学するはずだった貴族が3年前から今日まで支払われるお金ですか??」
「そうじゃ。お主が辞めさせた貴族が本来通っていたら払うはずだった額じゃ。」
「……わかりました。」
それならばしょうがない。
それも、責任もって払わせて頂こうと了承する。
「条件4つ目」
「ちょっ!?まだあるんすか?!」
「当たり前じゃ。これはお主にも関係する話じゃぞ。」
と、スカドゥエの方へと目を向ける。
「は?アーシにも??」
「そうじゃ。お主はここに残れ。クラスタン学校に入学するんじゃ」
「「は??」」
思いもしなかった学校長の言葉に、俺とスカドゥエの声が重なり、身体が固まる。
ギギギ、と首を鈍い音を鳴らしながらスカドゥエの方へと顔を向ける。
見ると、目を丸くして顔を青ざめていた。
「お主の魔力、魔法、中々の物じゃ。そこの子供に仕えるには勿体無い。その力をもっと練磨すれば今よりもっと高みに行ける。これはお主の為の提案じゃぞ?」
「い、いや……、なんでそれがアーシのためって決めつけるのか意味分かんないっすけど……??」
引いてる。
スカドゥエは顔を引き攣らせて、学校長から距離を取るかのように後退りをする。
「ふむ?もしかして、お主より歳下の相手と学ぶ空間が嫌かの??それならばワシの弟子になるか??」
「いや…いやいやいやいやいや!!!そう言う事じゃないって!!………っ坊ちゃん!!!」
青ざめた顔をフルフルと横に振り、助けを求めるかのように俺に顔を向ける。
いきなり矛先が俺に向けられ、ビクッと肩を上げる。
「おれ?!!お…、おお…俺は別にそんなに悪い提案じゃないと思うョ?」
「はぁ?!!」
まずい、動揺しすぎて語尾が変なイントネーションになってしまった。
スカドゥエは俺がふざけていると思っているのか、少し苛立っているようだ。
握った拳をこちらに向けて威嚇している。
そうだ、冷静にならなければ。
そもそも、スカドゥエが俺と離れればスカドゥエの本来の運命……『死』を迎えるかもしれない。
数時間、数キロ程度離れるには大丈夫かもしれないけれど、136人に贖罪をするには何日も何十日もかかるし、きっと距離もだいぶあるだろう。
4つ目の条件はスカドゥエの命に関わるから、とてもじゃないがのめない。
「が、学校長、俺としてもその方が良いと思います。ですがその条件はのめません。」
「………ほぅ?ならば諦めるか?」
「いえ、そうでなく……。これはスカドゥエの生死がかかっているのですよ。スカドゥエは俺と離れれば死んでしまうかもしれません。」
「どういう事じゃ?…………もしやお前、この者と奴隷契約をしておるのか??」
おぉ、ついにお前呼び+鋭い眼光……。
グザグザと視線が体に突き刺さりながら、どう説明すれば良いのかを考える。
すると、今度はスカドゥエの眼光が鋭くなり、学校長を睨んで、自分の目をトントンと突きながら挑発的な言葉を吐いた。
「はぁあ?どこをどう見たらアーシが奴隷に見えるんすか?目ぇ大丈夫っすか??」
「スカドゥエ、ちょっと黙ろうか……。」
そのスカドゥエの肩を抑えて俺は静かに注意する。
そして、学校長へと向き直す。
それにしても、どう説明すれば良いのやら……
それが運命なんです、なんて言ったら更に変な目で見られそうだ…
「学校長、申し訳ないのですが詳細は言えません。まぁ、言える範囲で言うと……『呪い』みたいな物です。」
「じゃから、お前がこの者に離れたら死ぬ呪いをかけとるんじゃろう??」
「う〜ん、何と言ったら良いか……、離れたら死ぬ、のはそうなんですけど……。どちらかというと俺がいるから生き永らえていると言うか……。」
「………なるほど。わかった。」
そうポソリと呟く学校長に、一瞬、ホッと胸を撫で下ろしたが、目つきは変わっていない事に気づき体が固まる。
これは、分かっていない。
学校長の俺に対する敵意は消えていない。
「お前が消えたら全て解決するという事がな。」
そう言って、学校長は何やらブツブツと唱える。
なんだ?と疑問に思った時にはもう遅かった。
「坊ちゃんっ!!!早くアーシのそばにっ!!」
『エンクロゥ・シナー』
バッ、とスカドゥエが手を伸ばしたと同時に俺と学校長、2人が入る程の大きな透明の箱が出現し、その箱に囲まれた。
チッ、とスカドゥエが舌打ちをし箱を殴るがビクともしない。
いきなりの展開で呆然としていると、学校長が口を開く。
「こういうのはどうかね??お前がワシに血、一滴流させられたらお前の言う通りに4つ目の条件は無しとしよう。」
「っ!!!」
「ただし、時間は15分以内にじゃ。できなかったら、お前の命はワシがもらう。」
「…………それは実質、死ねってことですか??」
冷や汗が出て、背中を伝う。
いきなりの命の危機に、顔を引き攣らせる。
「そうじゃ。そうすればあの者もお前という呪縛から解放されるであろう。」
「いや、だからスカドゥエは俺の奴隷じゃ……」
と、説明しようとした瞬間に右頬に鋭い痛みが生じた。
ツゥ、と何やら生温かいヌメヌメした水滴みたいなものが頬を伝って床に落ちる。
赤い、鮮血。
血だ。
「ほれ、早う攻撃せんと15分立たずとも死んでしまうぞ??」
学校長が、手のひらをコチラへ向けて何やら放とうとしている。
あ、まず…………
逃げの体制を取ろうと体を動かした時、目の前にはすでに風の刃が迫っていた。
ザンッ、と自分の足の感覚が消え、体のあちこちに鋭い痛みを感じたと同時に俺の意識は闇へと消えた。
学校長がこんなにもスカドゥエに執着するのは優秀故ですね笑
何としてでも手元に置きたいとも思っているので、スカドゥエや主人公の言葉はフル無視してます笑




