アストロ邸へ
「王都にあるロイヤード魔法学校……、確かに、カルロス君程の実力者が行くとしたらそこっすね……」
お昼に定食屋から持って帰ったご飯を2人で食べながら、俺は得た情報をスカドゥエに話す。
あの後、定食屋を出た後、真っ直ぐに宿へと帰ったが、お腹が膨れてたせいか眠気が押し寄せてきて俺も眠りについた。
ハッと目を覚ますと、辺りはすっかり暗く星が輝いており、寝ていたスカドゥエも目を覚まして手荷物の整備をしていた。
俺が目を覚ましたのに気がつき、目があって開口一番にお腹が減ったっす!っと言うスカドゥエにはいはい、と苦笑をしながらお弁当を渡して今に至る。
「王都1番の学校って言ってたし、相当凄い学校なのか??」
「そりゃもちろん。実力があれば平民も歓迎する実力主義の学校っすよ!ロットの坊ちゃんも行きたがっていたっすけど、なんせ魔力なし筋力なし体力なしのザコっすからね。第一関門の魔力測定の時点で落とされたっす。」
「あ〜……」
その時の光景が目に浮かび、言葉を失う。
プライドの高そうなロット君のことだ。
その場で暴れなかったのだろうか??
「裏口入学ってものもあるらしいっすけど、月々の金が莫大かかるらしく、流石にロットの坊ちゃんのポケットマネーでは支払えなくて断念したって感じっすかね。」
「そんな有名な学校なのに裏口入学とかあんの?!」
ギョッとしてスカドゥエを凝視する。
どの世界にも裏口入学とかあるんだな……
「バカな貴族には金だけ払わせようって魂胆っすよ。そのバカな貴族から搾り取ったお金で有望な平民の学費を賄っているって話っす。学校長は相当頭が良いっすよ。」
見習いたいっす、と言いながらお弁当のご飯をかき込み、ゴクン、と飲み込んだ。
なるほどなぁ、バカな貴族は金さえ払えば王都1番の学校に通っている、という肩書きがつく。一方、学校側はそのお金で高い学費を払えない有望な平民を育成できる。お互いがWin-Winの関係って事か。
スカドゥエの話を聞き、よく考えられてるな〜と少し感心しながらふと、疑問が生じる。
「そういえばロット君って学校行ってないのか?スカドゥエと悪徳商売をやっていたって事は行ってなさそうな感じがするけど……今の年頃の貴族は普通学校に通うもんじゃないのか??」
「今更っすか??ロットの坊ちゃんは各地の学校で問題を起こしすぎて全ての学校の入学を拒否されたんっす。」
「ふぁっ?!!!」
衝撃で持っていたフォークが床に落ちる。
「そ、そそそ、それって、ロイヤード魔法学校もか?!!ロイヤード魔法学校も対象なのか?!!」
「え?もしかしてロイヤード魔法学校に入学するつとりなんすか?!」
「そこにカルロス君がいるんだ!当たり前だろ!!」
お金さえ払えば通える、という話しを聞いてまず思ったのが、そこに行けばカルロス君に会える!という事だ。
カルロス君が学校に通っていると言う事はこのループの中で学校で死んでいる、という可能性が少なからずある。
もし、本当にそうなのだとしたら、学校にあるであろう「死」の要因を調べるために、カルロス君を守る為に、ロイヤード魔法学校に通う必要がある。
なのに、
「あなたは各地で問題を起こしまくってるのでいくら
お金を積まれようと入学は許可できません、なんて言われたらもうどうすることもできないじゃないかっ!!」
「………………」
「なんで黙るっ?!!」
「ま、まぁ、まずはアストロ邸へ行って、領主様に会ったらどうっすか??一応、カルロス君の邸宅っすから待っていれば会えるっすよ。学校に行ってお金を積んで入学願いを出すよりか会える可能性は高いっすよ!」
「それ、遠回しに入学を拒否される可能性の方が高いって言ってない??」
「………………………」
「いや、だからなんで黙るんだよっ!!」
カルロス君に会えるまで後もう少し、という所で思わぬ壁にぶち当たり、不安がよぎる。
最終的に話し合った結果、1番カルロス君に会える可能性の高いアストロ邸に行く事を決め、その日は眠りにつく。
出発する日までの残り6日間、体力の回復と共にアストロ領主への訪問したい旨の手紙をしたためたり、土産(賄賂)などの準備に取り組んだ。
―――――――――――――――――――
「着いたっすよ!ここがアストロ領、領主様の邸宅、アストロ邸っす。」
アストロ領、最初の街から出て1時間後、少し街から離れた所に邸宅はあった。
「お、おぉ……でっかいなぁ……」
さすが、本家とも言うべきかアスタ邸より一回り大きく、それでいてたくさんの彫像や綺麗な噴水、綺麗な花が咲き誇る花壇などがバランスよく配置されている。
「お、俺の格好とか大丈夫か??スカドゥエが持ってきた服を着てみたけど……」
改めて、己の姿を確認してもらう。
今の格好は平民の姿であるラフな格好とは打って変わって豪華な服を見に纏っている。
上質な白いシャツの上には手触りの良いベースは黒く、所々に金の装飾がされてあるジャケットを羽織り、胸元には小さな赤のリボンを着用しているのでいくらオーラが凡庸でも見た目は貴族なので平民に見える事はないだろう。
「ロットの坊ちゃんはそれが1番高くて貴重な服だって言ってたから性質については文句ないと思うっすよ。一応、髪も整えたし平民には見えないっすから大丈夫っすよ!」
「平民には」、という言葉が少し引っかかったが、グッとスカドゥエからのOKサインが出たので、ドキドキと胸を鳴らしながら門番に近づく。
よし、ここに来るまでに習得したロット君の真似を披露する時だ!!
スゥ、と深呼吸してから門番の前に立つ。
「おい、そこの下民。私はアスタ領領主の子息である、ロット・フォン・アスタだ。手紙に書いた通り、領主に話したい事がある。アストロ邸へ入らせろ。」
「は、はっ!!恐れながら、そのような事を領主様からは何も聞いておりませんが……」
「は?」
どう言う事だ?
住所は確かにここに記した。
だから確かに届いているはずだ。
「ここに訪問する旨の手紙を書いたんだが届いてないか?」
「あ、はい、ロット様からの手紙は確かに確認いたしました!自分は執事殿に届けただけで、その後のことは何も……」
ということは、考えられる可能性は2つ。
執事が領主に届けてないか、届けているが、領主が無視しているか、だ。
「どっちだと思う??」
「後者っすかね?」
「だろうな。」
まぁ、無視されて嫌がらせをしてくる相手(気づいているかわからないが)の息子からの訪問の手紙なんて気味が悪いし関わりたくもないか。
さてどうするか、と門の前で考え込んでいると、門番が言いにくそう声を上げる。
「あ、あの、領主様の許可がない限りここら一帯の立ち入りは出来ませんのでお引き取りを願います。」
「「…………………………」」
暗に、早くここから立ち去れ、と言っているのだろう。
門番の気まずそうな視線の中俺たちはスゴスゴと荷馬車の方へと撤退した。
「まさかのカルロス君に会うどころか邸宅に入ることすら出来ないなんて……予想外だった…。」
と早速行き詰まった状況になすすべもなく荷馬車へ撤退し、今度の対策を考える。
「どうするんすか??門前払いなんて貴族にとっては屈辱そのものっすよ。」
「え?そうなの??もしかしてあの門の前で暴れるのが正解だった??」
「いや、雑魚が暴れても……」
「お?喧嘩か??喧嘩するか??」
「そんな無意味な事する暇ないっすよ。」
スカドゥエの冷静な指摘に振り上げた拳を下におろす。
確かに、今ここで俺たちが暴れてもなんの意味もないしただただ疲れるだけだ。
「…………強行突破するか?」
前回もそれで上手く行ったし、それが1番領主に会える確率が高い。
が、スカドゥエはこの意見には否定的だ。
「いや、それは止めておいたほうがいいっす。自分の家でやるのと他人の…しかも本家の領主の邸宅でやるのとではわけが違うっすよ。アスタ邸で上手くいったのはあくまでアーシがあの使用人たちの事を知っていたのと、邸宅の構造を知っていたから。アストロ邸では円滑にいく事はまずないっす。」
「正攻法でいくしかないって事か。めんどくさいな。」
う〜ん、と唸りながらも何か案がないか頭を捻りながら考えるが、いくら考えても良い案が思い浮かばない。
「カルロス君が帰ってくる時間帯までここで待つって手もあるっすよ。」
「それもあるが、ここからあの門まで間に合うのか?」
今、荷馬車を停めてあるこの場所は門から遠く離れている。
1回、門の手前に停車させたら、
「申し訳ございません、ここはアストロ領領主様とご子息様が通られる道となっておりますので、停車させるならあちらへ……」
と、現在いるこの場所へと移動させられたのだ。
この場所が、俺たちが居座っても大丈夫なギリギリの範囲らしい。
もし、この範囲から出ればすぐさま使用人が走って来て、「ここら一帯の滞在は許可出来ませんので……」と範囲内まで戻されてしまう。
「荷馬車を置いて俺たち2人でも範囲から出れば注意しにくるんだもんな〜。」
どんだけ用心深いんだよ。
「とりあえず、ロット君の馬車が来るまで待つっすか?」
「そうだな。それっぽい馬車が来るまでここで見張っておこう。」
しかし、待てど暮らせどそれらしき馬車がアストロ邸に来る事はなく、辺りは茜色に染まり、やがて真っ暗な夜になった。
そして、チュンチュンと小鳥が綺麗な朝日を浴びながら木々から飛び立つ頃
「え?来なくない??」
「来ないっすねぇ〜…」
「…………帰るか。」
「そうっすねぇ〜。」
諦めて帰路にたった。
――――――――――――――――――――――
「あいつらはやっといなくなったのか?」
「はい。今朝早くに。」
「ふん、しぶとい奴らだ。」
豪華で質の良い服を着ている男は目頭を掴んで息を吐く。
「いきなり手紙を寄越したかと思ったら……ふざけたことを……」
そう言って、手に持っている手紙をグシャリと握りつぶす。
手紙の内容は、大まかに言うとこうだ。
・アスタ領両夫妻が亡くなった事
・これはアストロ領の没落を狙っている何者かの仕業だと言う事
・次の狙いはカルロス・フィン・アストロだと言う事
・このまま何もしなければ最悪の事態になると言う事
・その事について話し合いの場を設けたいと言う事
「子供の探偵ごっこに付き合っている暇はない。」
ただでさえ、流れている悪い噂を信じて苦情を言いに来る領民達の対処で忙しい身なのに。
どの口が……と苛立ちを表へ出ないように深呼吸をして心を落ち着かせる。
何にせよ、手紙の内容を素直に信じられる程、バカではない。何か狙いがあるはずだ。
本当の目的が分かるまで何としてもあいつらとカルロスの対面は避けたい。
握り潰していた手紙を暖炉に入れて燃やし、念の為、カルロスと甥が会ってないかを使用人に問いかける。
「カルロスはあの出来損ないと接触はしてないだろうな?」
「はい。カルロス様は基本転移で邸宅へ帰ってくるのでまず接触する事はないかと……。」
「なら良い。この事はカルロスには知らせるな。余計な心配はさせたくない。」
「かしこまりました。」
もう下がれ、と言って使用人を部屋から退室させる。
窓の外に目を向ける。
心地よい朝の日差しと一緒に汚い荷馬車が目に映る。
嫌なものを見てしまった、と眉をひそめて視線を外そうとした、その瞬間、
背筋がゾッとする。
荷馬車から顔だけ出してこちらを睨みつける、赤い目と、自分の目が、合った気がした。
すぐさまシャッと勢いよくカーテンを閉める。
それが、これ以上こちらを見れないように。
あれの名前は、ロット…
不出来な妹と、どこぞの貴族との間にできた、魔力がない不出来な子供。
遠い昔に、そう、聞いた。
会ったことは1度もないが、特徴は人伝にそう聞いた。
そいつの話だと、傲慢で頭の悪い癇癪持ちの子供だと聞いていたが、今見た奴はそうとは思えない程不気味で、まるで得体の知れない生き物のように見えた。
あの目を思い出し、忘れるように首を振る。
まぁ、良い。これ以上考えても無駄な事だ。
どうせもう2度と会うことがない。
ふぅ、と深く深呼吸をして、イスに座る。
やらなければならない事が山積みだ。
まずは……
山積みになっている書類の束に手を伸ばす。
ペンを手に持ち、作業に取り掛かかろうと書類に目を移した、その瞬間
ガシャァァッン!!!
「おっはようございま〜す。突然窓からのご訪問、申し訳ございませ〜ん!あ、俺の事、分からないといけないので、一応名乗らせていただきますね!!」
朝日と共に背の高いキツネ顔の男の小脇に抱えられて窓から侵入してきた少し興奮気味の青年を見て、目を見開く。
コイツは先ほど目が合った、もう2度と会う事はないと思っていた、不出来な妹の子供、ロットだ。
「俺の名前はロット・フォン・アスタ。アスタ領領主の息子だ。知らない訳ではないだろ?」
トンッ、と男から離れて床に立ち、目上の貴族に対しての綺麗な礼をした後、自分の方へと顔を向ける甥の圧力に思わず硬直し、言葉も失う。
「さて、俺が貴方に会いにきた理由は分かるな??」
そう聞かれ、ハッとし手紙の内容を思い出す。
こいつが遠い道のりを経てここまできた理由、
「あんなふざけた内容、私が本気で信じると思っているのか??」
ギリ、と自分の中の恐れを掻き消すように、手を強く握り拳を作る。
カルロスが狙われているだの、アストロ家が没落させられるなどのふざけた内容を思い出し、目の前の甥を睨む。
「あ、あぁ…!そうだ、それもある。だけど、その話の前にアンタに聞きたいことがある。」
「?」
まるで、思い出した!と言わんばかりの反応に少し違和感を感じながらも続く言葉を待つ。
「アンタからアーカイブ(仮)の気配を感じた。この巻き戻りは、アンタの仕業か??」
思ってみない質問に、脳が理解できずに思わず固まってしまった。




