御家騒動2
暑いですねぇ、、
「………………へっ?!!」
スカドゥエの間抜けな声を無視してスクッと立ち上がり、扉の方へ行きノックする。
「すみませ〜ん!!トイレ行きたいでぇす!!!もう漏れそうでぇす!!!」
ドンドンと何度か叩いたら扉の前にいるであろう使用人に声が届いたのか、ドアが開かれ使用人が顔を覗かせる。
「ト、トイレですか?ではどうぞ、こちら………ぅっ?!」
瞬間、スカドゥエが使用人の腹に一撃を入れる。
ドゴッという骨の折れたような内臓が壊れたような鈍い音がなった後、使用人はその場に気絶した。
「いやぁ、素晴らしい殴打!さすが。防音魔法の解除のタイミングもバッチリだったぞ!!」
「ほんと、勘弁して欲しいんすけど……。思いたったら即行動するのやめてくれないっすか?せめて一言言ってくれないっすか??」
パチパチとその見事なパンチに拍手をしているとスカドゥエが目を更に細めて文句を言う。
「え?言っただろ?両親に会いに行くって。」
「いや、いやいやいや!!もっと心の準備というものがあるでしょうがっ?!」
「え?いる??」
「当たり前でしょう!!」
耳元で大きな声で叫ばされる。
耳が痛い。
「な、何の音だっ?!!」
「「あ。」」
先ほどの鈍い音に他の使用人も気づいたのかゾロゾロと俺たちの周りに集まって来る。
数はおおよそ十数人くらいはいて全員体格は細く、見るからに戦闘向きの使用人ではなさそうだ。
「スカドゥエ、全員相手って……」
「…………出来ない事はないっすけど面倒っすね…。」
そう言って、拳を構える。
まさかの物理で対抗するのか。
「ぼ、坊ちゃんが部屋の外に出てるぞっ?!!」
「あいつ、坊ちゃんの下僕じゃないか?!」
「そんな事より早く坊ちゃんを部屋へっ!!」
その言葉を合図に集まって来た使用人がいっせいに向かってくる。
側から見れば十数人相手しているこちら側が不利なのだが……
「ぐぁっ?!!」
「なんだこいづぅ?!!」
ボゴッ!バゴッ!!
と人体からは出てはいけない音と共に一撃で使用人が床に沈んでいく光景を目の前にし、思わず震える。
いや、初めて会った時に虚弱体質のロット君の体でスカドゥエの一撃喰らって起き上がれた自分、凄くない?
と、ふと9回目の事を思い出し、自画自賛する。
その間も鈍い音と呻き声が廊下に響き渡る。
鈍い音に反応して新たに使用人がやって来るが、その使用人もすぐさまスカドゥエの炸裂パンチをお見舞いされてすぐに沈めさせられた。
そうこうして全ての使用人が床に突っ伏した時間はものの10分もかからなかった。
「さて、とりあえずここにいる奴らは片付けられたっすかね。」
スカドゥエが手についた汚れを落とすようにパンパンと手を叩き汚れを落とす。
その表情には余裕があり、服もそれほど乱れておらず無傷だった。
使用人は問答無用でナイフやら鉄の棒やら武器を持ってスカドゥエに攻撃して来たのにそれら全てを華麗に避け、拳1つで沈めるその様は感嘆通り越してもはや恐怖だ。
「あ、あぁ、スゴイネ。アリガトウ。」
「ちょ、何すか?その引きつった顔は?!アーシ、一応アンタを守ってやったんっすけど?!」
「いや、ごめんごめん。つい。」
「つい…?」
それにしても、と廊下に広がる死屍累々を見る。
これだけ強いスカドゥエも運命の前では無力なんだよな……。
改めて、自分が成し遂げなければいけない事の難しさを感じて身を引き締める。
「よし、邪魔者は片付けた。早速両親に会いに向かおう!」
「アーシが片付けたんっすけどね。」
倒れている使用人達を踏まないように避けながら廊下を駆けていく。
とりあえずどこにいるか分からないので両親のプライベートルーム、食堂等、目につく部屋を片っ端から覗いては使用人を薙ぎ払いを繰り返す。
乱闘に参加していない使用人が廊下を駆けていく俺の姿を見て捕まえようとして来るがスカドゥエがすかさず一撃で意識を落とす。
そうして進み続けて、残すは執務室のみとなった。
執務室前の廊下で待機していた屈強な使用人も苦もせず一撃で倒し、他の部屋よりも豪華なドアの前に立つ。
「……やっぱここか?」
「まぁ、大体予想はついてたっすけどね。」
1番最後に着いた部屋は、出入りが禁止されていた執務室だ。
「それじゃ、開くぞ。」
ドアノブをグッと掴み、開けようと力を入れる。
が……
「ん?あれ??」
ガチャガチャと音がなるだけでドアは一向に開かない。
「何やってるんすか?変わるっすよ。」
そんな俺を見かねて今度はスカドゥエが取っ手を掴み引いたり押したりを繰り返したがそれでもドアは開かなかった。
「これってもしかしなくても鍵をかけてるのか??」
「可能性が高いっすね。」
そう言うと、スカドゥエが取っ手から手を離してドアから距離を取り、何やら準備運動をしている。
「…………?スカドゥエ?何を??」
「何って、坊ちゃんが言ったんじゃないっすか。強行突破するって。」
「え」
ビュッと目の前に何かが通り過ぎた後、バゴォ!!と大きな音が鳴り響いた。
恐る恐る音のなった方へと顔を向けると、片足を上げたスカドゥエと、真ん中に大きな穴の空いたドアがあった。
勢いが良すぎたのか、モクモクと煙が上がっている。
「wpM@wp.pJwpdpjwp.?!!!」
「よ〜し、これで入れるっすね〜。」
ドアノブが吹き飛んだので開けた穴を掴んでドアを開く。
「ちょっ?!これで両親が気絶してたらどうするんだよ?!!」
「好都合じゃないっすか。その隙に逃げられないように縛り上げるっすよ!」
「もっと平和的に解決をしたかったんだが……」
「甘いっすよ。しかもこんな状況ではもう平和もクソもないと思うんすけど。」
そう言いながら、部屋中に舞っている煙が晴れるのを待つ。
部屋の中の空気と共に煙が外へ散り、いちめん白い視界で覆われていた執務室の中がだんだんと色鮮やかな風景へと変わる。
「……………っ!?」
「領主様達が……」
完全に煙が部屋から出て、全貌が見える。
紅く綺麗な絨毯に豪華そうなソファが置かれており、天井には玄関ほどではないが小さなシャンデリアがぶら下がり、日当たりのいい窓の前には大きな横長の机があった。
その両壁には本棚があり、びっしりと隙間なく本が入っている。
実に見事な部屋の構造に目を見張っていたが、それよりも気になることがある。
「誰もいない……??」
「おかしいっすね、全ての部屋は見たはずなんすけど……。」
スカドゥエも首を傾げて考え込む。
どこか見逃している部屋があっただろうか?
「どうするっすか?また探しに行きます??」
執務室の周りをキョロキョロと見渡しながら、スカドゥエは俺に指示を仰ぐ。
「…………………いや、ここで待とう。入れ違いになったら面倒だしな。」
「それもそうっすね。」
「どうせだから待っている間この部屋を調べようぜ。あの人達が隠している何かを見つける事ができるかもしれない。」
まずは1番何かありそうな机の方へ向かい、引き出しなどを漁る。
だが、見つけたのはほとんどこのアスタ領の経済政策、農業政策などの領地経営に関する書類だった。
部屋に鍵をかけ、更に見張りをつけるほど厳重に警備してある執務室だ。
これだけしかないことはあり得ない。
何かないか、机の下に潜って探る。
すると、引き出しの下に何やら封筒が引っ付いていた。
おっ?!いかにも何かありそうな封筒っ!!
そこに手を伸ばす。どうやってくっつけていたのか不明だが、自然に剥がれ落ちすんなりと手の中に収まった。
そうして、その中に入っている書類を出して見ることができた。
「…………?これは、依頼書??なんの??」
手にした書類をパラパラと流しながら見る。
これは依頼書、内容は何かの薬の材料の採取……と書いてある。
薬…なんの薬だろう??
読んでみると、薬の元になるであろう沢山の薬草、生き物の名前が書かれてある。が、途中からぐちゃぐちゃに黒く塗りつぶされており、最後まで読む事は出来なかった。
まだ見ていない書類を見る。
今度も依頼書だ。
しかし先ほどとは違って依頼書には処理済み、と大きな字で書かれていた。
『処理済み』?
普通ここは『済み』か『了』という字ではないのか??
処理、という不穏な字に違和感を感じながらも続いている文字を読み続ける。
「依頼内容は……アストロ領主とその息子、カルロスに関する悪事を吹聴……各地で流す…??なんだこれ??」
悪事を吹聴、という事は悪い噂を流す、という事だよな?
なんでこんな依頼書がここにあるんだ?
これじゃ、まるで両親がカルロス君達の悪評を意図的に流しているみたいじゃないか。
自身の心臓の音がドクドクと大きく動くのを感じる。
更に読み進めていると、その依頼を担当したであろう人の名前が書かれてあった。
「担当者、トーティブ……??」
どこかで見た覚えのある名前だった。
そう、最近知った名前だ。
でも一体どこで……
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『バカな噂話を流したっ、弟も悪いんだけどさ……。でも、それ如きで?って思ってっ、しまうんだよ。そんなくだらっ、ない事で処刑なんてって……』
『弟は人と話す事が大好きな奴でね……。本当にあった事もあからさまに嘘だろってこともそれはもう楽しそうに話すんだよ。』
『トーティブ、5月1日 12時 処刑される』
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脳裏に街の食堂で出会ったあるお兄さんの思い出す。
そして、そのお兄さんの弟の、名前も。
「トーティブっ…て、もしかしてバカな噂を流したからって処刑されたトーティブっ?!!」
この辺境の土地にまでアストロ領やカルロス君の悪評が届いていたのはこのトーティブの仕業だったってことか??
そして、それを依頼したのはアスタ家領主?
という事は、裏でアストロ家の没落を企んでいたのはアスタ家だった、ということか?
アストロ家の悪評を流し、評判を落とすように仕向けたのがアスタ家。
そして、それを実行したのがトーティブってわけか。
なるほど、それで『処理』。
スーパーキ◯コの噂を流すだけで処刑なんてバカバカしいって思っていたが、本来の目的は自分達がアストロ家を没落させようと裏で動いている事を言わせないための口封じ。
周りに自分達の行いがバレないように、文字通り処理をしたのか。
「でもまさかアスタ家がアストロ家の悪い噂を吹聴していたなんて……。」
この国の良し悪しの基準がまだよく分からないが、アスタ家が行っているこの行為が良くない事は理解できる。
新たにわかった事実にスカドゥエにも教えようと、顔を書類から前へと向ける。
スッと目線を上に上げ、目に映ったのは、スカドゥエではなく豪華な衣装に身を包まれた女性と男性……
「ロット……?」
「何を……しているんだ?」
「………父上、母上、」
アスタ家の領主とその奥方、
ロット君の両親が、顔を真っ青にしながら書類を持つ俺の方を見ていた。




