運命の書
50話までには終わらせたい!!
「力の使い方っすか??」
「そう、今までなぁなぁに過ごしてきたけど、流石に力の使い方が分からないまま敵と対峙するわけにはいかないだろ??だから実験に付き合ってくれるか?」
このままの何もできない状態で挑む、なんてそこまで簡単に倒せる相手ではないだろう。
視線を自分の体に移してみる。
借りた服はボロボロで所々擦り傷ができていた。
これが本命の相手だった場合、この程度ではきっと済まない。
目を見る暇もなく瞬殺される。
「別に良いっすけど……その紙の束でそんな大層な事が出来るんすか??」
「紙の束って……、確かに見た目は見窄らしいけど立派な『運命の書』だぞ!………多分……きっと……おそらく……」
「だんだん自信無くなってきてるじゃないっすかっ!!しっかりするっすよっ!!」
「自信無くさせるような発言した奴が言うんじゃねぇっ!!」
仕切り直し、再度運命の書へと目を向ける。
まずは何ができて、何が出来ないのか確認する。
「確か、イブキの坊ちゃんの知り得ない事は書かれてないんすよね?」
「ん?…あぁ。だからこの先、どんな未来になるかも分からない。」
「思ったんすけど、その紙に『この事件を仕込んだ犯人が分かる』的なことを書いたら知る事ができるんじゃないんすか?そしたらこんな危険な目に逢わずに事件解決するんじゃ?」
スカドゥエが俺の方へと顔を向けた。
なぜ、それをやってこなかったか、と言うような目を向けてくる。
攻めているような、そんな居心地の悪い視線を感じた。
そんな視線と合わせないようにスカドゥエから逸らし、言いづらそうに疑問に答える。
「あぁ、それな〜、やったんだよなぁ〜」
「え、やってたんすか?………できなかったんすね。出来てたらこうなってないっすし………。」
そう、できなかった。
物語には順序があるように、簡単に犯人がわかる事がなかった。
スカドゥエと会う前、試しに書いてみたら見事に文字が四散して消えたのだ。
「だから、都合よく空から金が降ってくる事はないし、今回の黒幕の名前も分かる事もない。」
「あくまで物事の順序に則って書き換えろ、と言う事っすか?なんか色々と規則が多いっすね、その紙の束。しょぼいくせに」
「おい、一言余計だ!……だけど、まぁ、概ねそう言う事だ。」
シーン、と静寂な時間が数秒流れる。
スカドゥエはフヨフヨと手のひらで浮かんでいる『運命の書』を見るや否や、眉間に皺を寄せて叫んだ。
「ほんと、何ができるんすか!?今のところできない事だけしか出てきてないっすよ!??」
「そ、それを今から確かめるんだろ?!」
グサグサとスカドゥエの言葉が体に刺さりながらも何かできる事がないかを考える。
そうこう考える事数分、そういえば、とスカドゥエ達が来るまで自分がしようとしていた事を思い出した。
床に落ちている、俺を縛っていたであろう縄がちょうどあったのでそれを手に取り、スカドゥエの方へ顔を向ける。
「スカドゥエ、ちょっと縄で縛られてくれるか?」
「は?アーシにそんな趣味はないっすけど。」
「はっ?!俺にもねえわ!!ちょっと確認したい事があるんだよ!!!」
「はぁ……?」
さっさと両手を出せっ!!と顔を赤らめながら言うと、スカドゥエは恐る恐る両手を差し出してきた。
まるで魔王に捧げられる生贄みたいな顔が癪に触ったが、スカドゥエが大人しくしている間に差し出された両手をすかさず縄で拘束し、解けないように固く結ぶ。
「よし!」
「は?ちょっと、ほんとなんなんっすか?これ?」
「俺がスカドゥエ達がここに来るまでにしようと思っていた事だよ。これならいけるんじゃないかな?って思っていた事を今から試そうと思って。」
そう言って、『運命の書』を開く。
パラパラと開かれた『運命の書』の最後のページには、スカドゥエが縄で拘束されている事が書かれてあった。
「よし、この部分だな。」
ツツ…、と文字をなぞる。
すると、その文字が空中で浮き、しばらくすると四散して消えた。
その光景を不思議そうに眺めていたスカドゥエが、ある変化に気づく。
「?なにをしたんっすか?………あれ…?!」
「お、上手くいったか?!」
その変化が予想通りにいったことに俺の口角が上がった。
「縄が、無くなってる…?」
そう言って、不思議そうにスカドゥエは先ほどまで縛られていた自分の両手を交互にみている。
スカドゥエに縛ってあった縄は最初、俺が拾った箇所へ落ちていた。
やっぱり、これなら大丈夫だった。
俺が先ほどやった事は事象の削除。
消した事象は俺が縄でスカドゥエを拘束した事。
なので今スカドゥエの両手は自由だ。
「事象の削除。あったことを無かった事にする。これは結構使えるんじゃないか?」
ムフフっ!と誇らしげに胸を張り、笑う。
どうだ!しょぼくてもやる時はやるのだ!!
先ほどからしょぼいしょぼいと言っていたスカドゥエも目を丸くして驚いている。
「確かに、これはすごいっすね……。事象の削除か…。ならイブキの坊ちゃんが攫われる、という出来事も無くす事ができるって事っすか??」
「え?いや、それは……」
思いもしなかった言葉に言葉が途切れる。
無くす事は、できる?
でもできたとしてもそれは……
「俺が攫われなかった、となるとここで起こった出来事もなくなるからコイツら生き返る事になるぞ。」
「あ、それは面倒っすね。なら、このままでいいか……。」
それも面倒なのだが、1つ、問題がある。
それは人の生死の書き換えはできない、という事。
先ほど言ったように俺が攫われなかった、と書き換えてしまうと武装男達は生き返ることになる。
それはある意味、死を生に書き換えてしまっている、という事なのだ。
それは許される行為なのか?
さらに、今、この時間帯での俺達はどうなっているのか、という事。
もし、書き換えができたとしたのなら、もちろん、今この場に俺たちはいない。
その場合、どのように『運命の書』は加筆、修正されるのか。
考えたら考えるだけ複雑と化し、難解になっていく『運命の書』の扱いの仕方に頭がショートしそうになる。
「………俺をここに送って来た神は、小さな書き換えしかできないって言っていたから今現在が大きく変わるような書き換えはできないんじゃないか??」
「なるほど……?あっ、そういえばイブキの坊ちゃんにお願いがあるんすけど……。」
「なに?」
「この返り血を浴びた服、綺麗にする事ってできるっすかね??ほら、その『運命の書』で!!」
「………………俺は洗濯屋じゃないんだぞ…。」
まぁ、やってみるけども……。
と軽い気持ちでやってみたら普通に出来た。
服の汚れの有無は禁忌に触れないらしい。
さて、次は何を試そうか、と悩んでいるところで呻き声が聞こえる。
「うぅ……?」
気絶させて転がしておいた医者がちょうど起きたらしい。
医者は目覚めたてで状況が理解できないのか、うつ伏せの状態から顔だけ上へ上げて辺りをキョロキョロと見渡している。
「やぁ、おじ〜ちゃん。おはよう。よく眠れた?」
「っ?!!」
そして俺は医者の目の前まで移動し、目覚めの挨拶をした。
これから自分に起こる事が何か分かっているのだろう。顔を青ざめ、目を大きく開け、恐怖に満ちた顔をしている医者を見て、ニヤリと口角をあげる。
「やっぱりお医者様って賢いんだね。これから何が起こるか目が覚めた後瞬時に理解しているんだから。」
「や、やめ……」
「やめて、という言葉でやめるバカはいないだろ?スカドゥエ、コイツを椅子に座らせてくれるか??」
「はいよ〜っす」
ドガッと大きな音を立てて、乱暴に椅子に座らす。
そして、またどこからか持ち出した縄を取り出し今度は医者と椅子を固定した。
「んで、コイツをどうするんっすか??」
「うん、まずは吐いてもらおうか?お前の依頼主は??」
「わ、ワシの依頼主なんぞお前達に言ったって分からんぞっ!!」
「はぁ〜?ここまできて吐かないとかあるの?それに俺たちが分かる分からないなんてお前に関係ないだろ。分からなかったとしても調べれば良いだけの話だしな。」
「だ…としても、簡単に吐くと思うか?」
「……強情だなぁ。」
頑なに依頼主を吐こうとしない医者に剛を煮やす。
今、この場面、コイツにとってはもう詰んでいる状態だ。
なのになぜこうも口を閉ざすのか理解ができない。
吐けば命は助かるかもしれないのに……
コイツを見ている限り、依頼主に忠誠を誓っている、という感じも取れない。
ならばこれはあれか?吐いたら殺される、的な……
「どうするんっすか?コイツ、吐きそうにないっすよ?依頼主の情報を吐けば死ぬ呪い的なのをかけられてるんじゃないっすか?」
「十中八九そうだろうな〜。めんどくせぇ〜」
手を前に出して『運命の書』を開く。
「?何を?」
スカドゥエが俺の行動を不思議そうに眺める。
「まぁ、ちょっとな〜」
空中で文字を書き、文字をページへ誘導する。
すると書いた文字が、スゥ、とページへ馴染んだ。
なるほど、これは大丈夫、と。
本から視線を医者へと移す。
瞬間、医者の叫び声が部屋中に響いた。
「うが……あぁぁぁぁぁああぁあっ?!!!」
ボタボタと医者の右腕から、右腕があった場所から大量の血が流れ出ている。
「……え?な、にを……したんすか?」
いきなり起こった出来事に流石のスカドゥエも動揺が隠せないのか、声を震わせながら医者の方へと指を刺す。
それもそうだろう。
先ほどまで血一滴も流してなかった医者が、縛り上げていた右腕が、無くなっていたのだから。
「『運命の書』でコイツの右腕を切られた事にした。」
「そ、そんなこともできるんっすか?ソレは…。」
「拒否されなかったからできるんだろ。」
『運命の書』から医者へと目を向ける。
息が絶え絶えになっている医者に再度、質問をする。
「よし、じゃあ、質問。もう片方落とされたく無かったら正直に答えろ。その依頼主とはどこで会った?」
「……………い、いえなぃ………。」
「………はぁ〜?!もしかしてこの質問も処分対象になんの?!随分と用心深い依頼主だな!!」
「それだけ周りを警戒してるって事っすよ。裏切り者は許さないっていう牽制も込められてると思うっすよ、これは。」
「裏切りって……依頼主にとってコイツは駒であって仲間でも何でもないだろ。」
「それよりアイツ死にそうになってるっすけどいいんすか?人の生死の書き換えは禁忌って言ってなかったっすか??」
「………あ〜、ま、大丈夫だろ。」
ヒュー、ヒュー、と呼吸音が怪しくなって、顔も青通り越して紫色になっている。
側から見れば俺が『運命の書』を使って人の生死を書き換えた事になっているが、多分これは禁忌ではないのだろう。
だって、『運命の書』はこれを受け入れたから。
「これでもし死んだとしてもそれが運命だったって事だ。どうせ俺がここで見逃してもどこかで死ぬって事だろ。コイツの未来はもう決まっている。」
「そういうもんなんっすか?」
「そういうもんなんじゃないか?」
人の生死を書き換える事は禁忌だが、どのように死ぬかまでの書き換えは許容範囲、という事なのだろう。
ここでまた、『運命の書』の理解が深まった。
「でも、まだ聞きたい事ややりたいこともあるし、戻しておくか…。」
先ほど書き換えた文字をなぞり、削除する。
すると、先ほどまで紫色の顔だった医者の顔は元の健康色に戻り、血がとめどなく流れ、無くなっていた右腕は元通りに血一滴流れていない綺麗な状態で戻っり、縛られていた。
医者も何が起きたか分からず、目を丸くしている。
ただ、右腕が無かった記憶はきちんと残っているのか、呆然と己の右腕を眺めていた。
「………そんな事も出来るんっすか…。受けた攻撃を無かった事にした、って事っすよね?」
「まぁ、そんなとこだな。にしてもすげぇな〜。新しい情報が増えすぎて頭パンクしそう。」
あった事を無かった事に、無かった事をあった事にする事ができる、
思ってた以上の『運命の書』の性能に少しだけビビる
果たして俺みたいなただの人が使って大丈夫な力なのだろうか?これは。
『運命の書』を使えば使うだけ何かが変わっていく、そんな感覚がする……
いや、今はそれを置いておこう。
ふぅ、と気持ちを切り替え、笑顔で医者へと顔を向ける。
「さて、次の質問に移ろうか?」
「ヒ、ヒィッ…!!」
悲鳴とは失礼な!なんて言いながら拷も…お話し合いを続けた。
――――――――――――――――
「―っあ〜!!疲れたっすねぇ〜、」
「おう、お疲れ〜」
時刻は18時、日が傾き初め、街がオレンジ色に染まり太陽も半分沈んでいる。
あれから特に医者から知りたい事は聞けず、結局は『運命の書』の実験体としてしか役にたたなかった。
「にしても、意外にもイブキの坊ちゃんって冷酷だったんっすねぇ〜。あんなに簡単に人の腕を無くすなんて。戦闘も分からない知らないボンボンの坊ちゃんだと思ってたからびっくりしたっすよ。さらには医者から情報が聞きだせないと知るや否や実験体にするなんて……」
「あのな〜、転生を繰り返してるって言ってるだろ?見た目はぴちぴちの17歳でも中身は100歳越えのじいちゃんだぞ?こんなんでもスカドゥエよりも大分年上で経験豊富なの。俺は。」
「ふ〜ん?」
「な、なんだよ?そのニヤニヤ顔は……」
「いや、アーシが死んだと勘違いして大泣きしてたくせにって思って……」
「っあ〜っ!!忘れろ忘れろ!!」
「残念っすねぇ〜!!見なかった事には書き換えられないんっすから〜!!」
「は、腹立つコイツっ!!!」
そうなのだ。
この実験で分かった事、
人の意識を操るような書き換えはできなかった。
いつまでたっても依頼主をはかない医者に剛を煮やして、それならば「はかせてみせよう!」といざ実行すると文字は四散して消えた。
そのほか色々試した結果、記憶の改ざん、意識の書き換えは全て拒否される事が分かった。
「は、恥ずかしい記憶は消せないのかよ…っ!!」
「ま、イブキの坊ちゃんがアーシの事を好きだって気持ちは十分に伝わったっすからそれでいいじゃないっすか……ブフッ!!」
「笑うなっ!!」
恥ずかしすぎて顔が熱くなるのを感じながら殴りかかるために腕を振り上げスカドゥエを追いかける。
が、もちろん追いつくはずもなく、先に体力が切れてその場に座り込んでしまう。
ロット君の体力の無さの事を忘れてた……っ!!
ゼェゼェと荒い息を整えていると、スカドゥエが余裕の表情で俺の元へと歩いて来て、俺へ手を差し伸べる。
「それにしても、医者をあのまま放置して大丈夫なんっすか?」
「ああ…?大丈夫、だろ……」
ある程度、『運命の書』の実験に付き合ってもらい、大体把握したところで俺たちは医者をそのままにして武装男達のアジトから外へと出た。
「2、3時間あの場所にいたのに新手はやってこなかった。医者が雇った輩はあの武装男達だけだろ。それに俺たちが何かしなくても近いうちにアイツは死ぬ。」
「…………それがあの医者の決められた運命って事っすか?」
「そうそう。決められた運命。」
差し伸べられた手を取り、立ち上がる。
目の前に映るのは荷馬車が置いてある馬小屋だ。
「帰りが思った以上に遅くなったな……家に寄ってくか?」
「……そうっすね、領主様達に挨拶もしたいっすから寄って行くっす。」
少し冷たい風が吹くなか、俺たちは街を出て屋敷への帰路へ着いた。
今回は運命の書の使い方講座のお話でしたっ!!
次回はどうなることやら、、、
では次回予告
「スカドゥエ、死す」
お楽しみに!!なんちゃって




