襲撃
遅くなりすみませんっ!
カランカランと鐘を鳴らしながら木のドアを開けて定食屋を出る。
上を見上げると青い空にところどころ白い雲が程よく散らばっており、暑くも寒くもない丁度良い風が体に吹きかかる。
目の前にある時計を見ると、時刻はちょうど15時をさしていた。
今回の世界は日時やらの暦は地球と全く同じなのでわざわざ覚えなくても良いので楽だ。
「ところでこれからどうするんすか??あらかた情報も集め終わった事だし、もうこの街にいる意味ないと思うんすけど……。」
「お前はこの街に居たくないだけだろ。」
「そりゃねぇ…やったことがやった事っすから……」
アハハァ〜と呑気に笑いながら一刻でも早くここから立ち去りたいのか、街から出る事を遠回しに推奨するスカドゥエを呆れながらジト目でみる。
そんな俺の呆れた雰囲気を感じただろうがそんな事はものともせずに視線を逸らしながらヒュ〜と音が鳴らない下手な口笛を吹く。
だが、ふと冷静になって考えてみるとスカドゥエの言っている事は理にかなっている。
「…確かにもうここには用がないからその案はアリだな。というか逆にこの場に居続ける方が危険か。」
完璧に変装はしているとはいえこの体はロット君なのだ。
ひょんな事で変装が解かれて街の人達にロット君だとバレたら大変なことが起きる。
「じゃ、やる事もないしもう出るか。母親と父親の許可なしにここまできてしまったしそろそろ戻らないとまずいかも。」
そういえば一応、今日の朝まで心肺停止…死んでいたんだった。
つい先ほど知った事実を思い出し、ハッとする。
せっかく生き返った息子が戻ってこなかったらあの両親のことだから捜索願いとか出しかねない。
それどころか、この街まで駆け込んでくる可能性すらある。
あのモンスターペアレントが怒鳴り込んでくるさまを想像してしまい、ゾッとする。
第二の被害が起こる前に帰らなくては!!
体を荷馬車のある方角へと向けるといきなりスカドゥエが肩に両手をパンッと音が鳴るほど強く叩いてきた。
「イブキの坊ちゃん!そういえばアーシ、ヨウルのじいちゃん家に用があったんすよ!そこ、寄って行っていいすか??」
「はっ?ヨウルのじいちゃんって誰?てか、スカドゥエの知り合いがここにっ、ちょっ?!」
スカドゥエのいきなりの言動の変化に戸惑い質問をするが、全て無視され俺の背中を両手で押して無理やり荷馬車とは逆の方向へと足を進ませようとする。
何か慌てているような、焦っているようなそんな様子に少し不思議に感じながらも仕方ないな、と諦め抵抗せずに流されるまま歩く。
そうこうして歩くこと数分、人気のつかない路地裏らしきところでスカドゥエの足がピタリと止まった。
シンと静まり返る不気味なほど暗く細い場所に辿り着き、困惑する。
周りを見渡したが、どこをどう見ても家のドアらしきものがなく、ましてや人が住んでいそうにない程ドンヨリと空気が澱んでいた。
「どうした?ここがヨウルのじいちゃん?がいる家なのか?とてもそんな風には……」
「シッ!!静かにするっす…」
「っ!??」
そう言うや否や俺の口を塞ぎ、人差し指を自分の口の前へ持っていき黙るように指示される。
コクコクと、状況の把握がいまいちできないままとりあえず首を縦に動かす。
何か不穏な雰囲気に背中に冷や汗が流れるのを感じながらスカドゥエの顔を見るとどこか余裕のない表情をしており、聞き耳を立てているのかある一点を見つめたままジッと突っ立ったまま固まっている。
緊迫とした空気が数秒、数分と経ったのちにどこからか野太い声が靴音と共に複数聞こえてきた。
「見つけたか?」
「いや……完全に見失った。」
「やっぱり気づかれたか…。はぁ〜っ、だから言っただろ?!気をつけろって!!あの坊ちゃんの事だから護衛は手練れを雇ってるって言っただろ?!」
「いや、だってよぉ!!?手練れには見えなかったんだよ!あの顔だぜ?実は凄腕の護衛です、なんてそんな理不尽な事あるか?!!」
「わけの分からない理屈で言い訳をするな!!少しは反省したらどうだ?!お前の不注意とその隔たった認識のせいで見失ったんだぞ?!」
「2人とも、その辺りで。ここで言い争っても見つけられるものも見つけられないぞ。喧嘩するより対象を見つける方が先だ。」
「「ぐぅっ!!」」
「俺はこの道を真っ直ぐ行く。お前は右へお前は左へ行け。見つけたら簡単な魔法を上へ放て。いいか?あくまで生きたまま捕らえること。抵抗してきたら痛めてもいいが殺さない範囲で、必要があれば手足を折ってもいい。」
「…おう。」
「ちっ、分かった。」
ある程度、会話をしてからまたバタバタと走る足音がうるさく路地裏に響き渡る。
幸か不幸か、足音が俺たちのいる場所に近づいてくる気配はなくピンとはっていた緊張が解けてホッと一息ついた。
「仮にも尾行する者があんなに足音を出すなんて、まるで自分達がここにいるって言ってるようなもんじゃないっすか……。いや、もしかしてアーシ達を釣り上げるための罠……??」
「スカドゥエ…??」
危機は去った、と思ったがいまだに険しい顔をしながら考え込んでいるスカドゥエの顔を見て、まだ危ない状況だと把握し、体を引き締める。
「イブキの坊ちゃん、分かっていると思うんすけどさっきの奴らの目的はイブキの坊ちゃん…いや、ロットの坊ちゃんっす。多分、街に入った時からつけられていたっす。」
全く気づかなかった、と悔しそうに奥歯を噛み締めるスカドゥエを眺めながら先ほどのヨウルのおじいちゃんのくだりは奴らを撒くためのでまかせなのだと合点がいった。
「いや、それを言うなら俺の方が気づいてなかったよ。しかも俺の変装がバレていたなんて……。」
自他共に認めるほどに完璧に変装が出来ていると自負していたがプロの目では誤魔化せなかったらしい…。
「街に入る時の門兵との会話を聞かされていた可能性が高いっすね。赤い目のくだりとか…」
「それは隣国の特徴だって誤魔化したはずだぞ?それだけで俺がロット君だって確信するには少し弱くないか?俺の変装前を見たならともかくな。」
「それなんすよねぇ〜…。なんで分かったんすかねぇ〜……。」
う〜ん、と唸りながら腕を組み、難しい顔をしてまた考え込む。
が、すぐに顔を前へ向けて俺の腕を掴んで進行方向へ体を向ける。
「いや、ここでずっと考えこんでも危ないっすからとりあえずこの場所から移動するっすよ。」
「あ、あぁ。でもどこに??」
「最終的な目的地は馬小屋っす。商品が入っている積荷は勿体無いっすけど捨てるしかないっすね。馬さえあれば逃げられるっすから馬を確保したらすぐに街を出て屋敷へ行くっすよ!」
余裕のない、スカドゥエの言葉を緊張しながら聞いた後、コクリと頷く。
「アーシが囮に、とは考えたんすけどイブキの坊ちゃんの1人行動の方が今は危険っすからね…。魔法も使えない、身体能力もノミ以下……。相手は最低でも3人、それ以上いる可能性もあり…。ぶっちゃけ詰んでるっすよ……。」
「おい。」
ハァ〜と深いため息と共にちょくちょく聞き捨てならない言葉が聞こえて少し怒りが湧く。
何度も言うが身体能力と魔法不能は俺のせいではないからなっ?!
ジリジリと怒りを込めて睨みつけているとスカドゥエが人差し指を前に突き出し、そのままの格好で空中に何かを描く。
いきなりの奇妙な行動に驚きながらも黙って見守っていると空中から魔法陣が現れてさらに呪文らしきものを唱えはじめた。
『其は我の分身』
「?!」
『我となり我の願望を叶えよ』
『オルター・マリオネット』
「っ?!!」
唱え終わったかと思うと、次の瞬間スカドゥエと瓜二つの人物が魔法陣から出てくる。
これは……
「分身っ?!」
「しっ!静かにするっすよ!!」
「あ、ごめん。」
ハッとして、すぐに自分の口を押さえる。
慌てて辺りを見渡してあの3人組に気づかれていないか確認する。
幸いなことに誰もこちらにやってこない事から居場所はバレてはいないようだ。
「ほんと、気をつけるっすよ。あの会話を聞く限り坊ちゃんはかろうじて命は助かるかも知れないっすけどアーシの命の保証はないんすからね。」
「いや、ほんと悪かったって。なんせ、初めて魔法とやらを見たもので……」
てへ、舌をだして照れながら謝る。
可愛くねぇ〜、とボソリと呟かれたが、そんな事よりも目の前にいるもう1人のスカドゥエに目を向ける。
顔の造形や身長、体型、髪型、服装までもがそっくりそのままのスカドゥエの分身に興味がわく。
「コイツって喋れるの??意思疎通できる??」
「ツンツンつつくなっす!!アーシは本物っすよっ!!」
「あ、ごめん。」
本物を突いていた…。
「コイツを囮りに奴らを引きつけるっす。コレにかかってくれるか分からないっすけど、まぁ無いよりはマシっすからね。」
そう言った後にスカドゥエがスカドゥエ(分身)の背中を強く叩く。
バシッと音が響いた後に無表情のスカドゥエ(分身)がわざと音を立てて走り出した。
「さ、アイツとは逆の方向へ行くっすよ!!」
「え、あのスカドゥエは大丈夫なのかっ?!」
タッタッと走り去るスカドゥエ(分身)の後ろ姿に慌てて指をむけて確認する。
「あれは魔力でできた分身っす。攻撃されれば魔力が四散するだけなんで心配する必要はないっすよ!」
「な、なるほどなぁ〜」
「もっとちゃんと詠唱する時間があればもっとマシな分身が作れたんすけど今は時間が無いっすからね…、詠唱を省いた分、だいぶ脆いんすよ。だから……」
そう言うや否や、スカドゥエは肩に俺を担ぎ…米俵担ぎをして走り出した。
「アイツがやられる前にまずはここから脱出するっすよ!」
「うわっ!!」
風が通り抜ける音が耳に響く。
人1人担いでいるとは思えない程早いスピードで細く狭い路地裏を音もなく駆け抜けていくスカドゥエの身体能力の高さに感心する。
しばらく走っていると、スカドゥエ(分身)が走っていった方向から赤い光が上へと上がった。
「スカドゥエっ!!赤い光がっ!!」
「ちっ…、やられたっ!!思っていたより時間を稼げなかったっすね…!!仕方ないっ!!!」
どうやら分身がやられたのを感じ取ったのか焦った様子で走りながら前に手を突き出して何やら描きだす。
その魔法陣は、自身の分身をだしたあの魔法を出したような模様をしており、描き終えた時にスカドゥエが唱える。
『オルター・マリオネット!』
「??!」
唱え終わった後に魔法陣が光り、沢山の黒い人らしきものが出てくる。
呪文は先ほど聞いた分身を作る魔法だが、どれもこれもスカドゥエに似ても似つかない、顔のない等身大の影が魔法陣から量産されていた。
「分身のクオリティは下がるっすけど、これで相手を混乱させる事はできるはずっす…!!」
描き出した魔法陣が消え、黒い分身が出てこなくなった時にふと声が聞こえた。
「見つけた。」
「「っ!!!」」
「金髪長身の男に黒い眼鏡をかけた茶色の髪の男。何かから逃げている様子からみるとお前らか。」
いきなり進行方向を妨げるように俺たちの前へ武装した男が現れ、スカドゥエは驚いたのか足を止め、固まってしまう。
そして、それは俺もそうだった。
何も言わずに固まってしまった俺たちを武装した男は気怠げそうな顔をした後、頭を掻いてため息を吐き、片足に重心を置いてリラックスするかのように戦闘状態だった体勢を崩して言葉を続ける。
「争うのも面倒くさいから先に選択肢をやる。ソイツを渡せ。そしたら命だ………
『ミスガイディド・グラジ!!!』
武装した男が交渉を持ちかけている途中に、スカドゥエが聞いたことのない魔法を唱えた。
瞬間、ドォォン!!!と武装した男付近で激しく爆発し、辺りが黒い煙幕で覆われる。
その隙を狙って、スカドゥエが武装した男の頭上を通って瞬時にその場から走り去る。
「相手が油断していて助かったっすね!この隙に逃げるっすよ!!」
「…………うん、そうだね。」
敵が喋っている最中にも関わらず、容赦なく攻撃するスカドゥエに若干引きながらも今の状況ではそれが一番正しいので何も言わずにただただ肯定する。
チラリ、と武装した男がいる場所を見るとウゴウゴとスカドゥエの分身もどきが道を塞ぐように男の周りを囲い、覆い被さっていた。
「あの分身もどきも役に立つんだな……」
「そんな悠長なこと言っている場合じゃないっすよ!さっきの爆発で他の奴らに気づかれたっす!!新手が来るっすよ!!」
「ずっと思っていたんだけど、なんでこんないかにも襲ってくださいってところに来たんだよっ!!!」
「アーシだってここに来る予定はなかったんすけど相手が思っていた以上に手練れだったからここまで撒けなかったんすよ!!結局見つかってしまったんすけどっね…!!!」
「うぎゃぁあ!!!」
スカドゥエがそう言い終わると同時にいきなり方向転換をしたかと思えば俺を上に投げ飛ばす。
どういう筋肉をしているのか、その細腕にどれほどの筋力があるのか定かではないが軽く20メートル…家の屋根が見えるほどの高さまで飛ばされた。
フワッとお腹を突き抜ける不快な浮遊感を感じた後に飛ばした張本人のスカドゥエを見ると、先程出会した男とは違う武装した男達が前と後ろにスカドゥエを挟み込むように包囲をしていた。
スカドゥエは後ろの男に気付いてないのか、目の前の男ばかり視点を向けていて今にも鋭いナイフで後ろから斬りつけられそうになっている。
「スカドゥエっ!!あぶな…っ」
「人の心配をしている場合か?」
「っ!!!」
咄嗟に声のする方へ顔を向けると、そこには1番最初に出会った武装した男が、上へ飛ばされて空中にいる俺の目の前に現れた。
「やはり3人で来たのは正解だったな。おかげで楽に任務が達成できそうだ。」
最高到達点に達し、落下するところで武装男が俺の方へと手を伸ばす。
なんとか捕まらないように腕や体を動かして距離を取ろうとするが、全く遠ざる気配はなく逆に距離が縮まっていく。
捕まる
そう、思ったその時
武装男がいきなり目の前から消えた。
いや、顔に激しい蹴りを喰らわされて真横に吹っ飛んでいった。
この蹴りには見覚えがある。
初めてスカドゥエと出会った時にくらったあの蹴りだ。
驚いたのも束の間、またもや体を肩に担がされ、ドンッという重い振動が体にのしかかった後に、ずっと感じていた気持ち悪い浮遊感がなくなった。
それと同時に肩から体を降ろされ、足が地面につく。
地に足がついている事がどれだけありがたい事か、そしてどれほど安心感がするか感じながら生きている事に感動していると、横からいつもの安心する声が聞こえてきた。
「イブキの坊ちゃん、大丈夫っすか??」
「ス、スカドゥエ〜!!!」
最後にみたスカドゥエの姿は正に絶対絶命、後ろから斬りつけられる瞬間だった。
そのことを思い出して慌てて怪我が無いかを確認する。
「あ、大丈夫だったのか?!!背中、斬りつけられただろ?!」
が、少し泥やらがついてるだけで衣服には特に破れた痕跡はなく、本人の顔もケロッとしていた表情をしていた。
本人曰く、「ちょっ〜と手こずったっす」らしく、大きな怪我どころか傷ひとつない姿を見て、ひとまず安心した。
「まぁ、怪我がなくて何よりだよ……。」
「アーシも、少し上に飛ばしすぎたっすから上でイブキの坊ちゃんの心臓が止まってないかヒヤヒヤしてたっすよ。無事で良かったっす。」
「飛ばしすぎた自覚はあるんだな。」
軽く家の屋根を超えていたもんな……、もう2度と経験はしたくない。
「それじゃ、ここも物騒だしすぐに出るっすよ。一応、縛って森の方角へ飛ばしたんすけど奴らがいつ目覚めるか分からないっすからね。」
「と、飛ばすっ?!」
「今は処理する道具を持ってないっすからね。本当は殺すのが1番なんすけどここで死体がでたらまた面倒くさくなるっすから……。」
「また……??いや、いいや。とりあえず行こうぜ。馬小屋ってどっち方面だ?」
「こっちっす。」
俺の前へ走って行くスカドゥエの後ろについて行く。
右へ、左へ、複雑な路地裏を数分、走っていると見慣れた街並みが光と共に見えてきた。
路地裏から出て前を見ると数メートル先に馬小屋が見え、小屋の中には馬が休んでいた。
「あ、馬だっ!!」
「……怪しいやつはいないっすね。」
辺りには特に怪しい人物はおらず、ホッと一息をつく。
そうして一歩、馬小屋に向けて足を前へ出した。
「油断していて助かった。」
「……………………あ〃??」
「……………………え」
俺ともスカドゥエとも違う声が後ろから聞こえ、振り返る。
最初に出会った武装した男が、スカドゥエの後ろにいた。
ボタボタ、と水分が落ちる音が聞こえる。
赤い、赤い、真っ赤な鮮血が
スカドゥエの左胸から出ているナイフを起点に溢れ出ている。
「ス、カ…ドゥエ……?」
目から光が消える。
ズシャ、と体から力が抜けたように崩れ落ちた。
スカドゥエは動かなくなった。
「ダメだろ。どんなに面倒であれ敵対者は殺らないと。」
蹴られた時に出たのであろう鼻血をグイ、と腕で拭いた男は血溜まりの中で倒れているスカドゥエの頭を足蹴りをする。
その光景を見て、すぐさまその場を離れる。
スカドゥエを殺された怒り、悲しみ、全てをアイツにぶつけて反撃したいが、俺の今のステータスでは到底あの男には敵わない。
悔しい気持ちを押し込めて、とりあえず人混みの中に紛れ込もうと人通りの場所へ向かおうとした時
「遅い」
ぶっきらぼうに呟いた声が聞こえた後、首に鈍い衝撃が当たり俺の意識は暗転した。
スカドゥエの魔法は詠唱破棄をしている為、ほとんど失敗しております笑




