とある悪逆貴族の独白
久しぶりの投稿、、、
一応まだ生きてます!笑
長いので2つに分けています!
この悲劇の始まりはいつからだっただろう?
この惨劇はどうすれば止められたのだろう?
俺たちの住んでいる土地、アストロ領はとても豊かで天気の日もあれば悪い日もある、住みやすい所だ。
春にはそこらじゅうに花が咲き誇り、鳥が新たな作物の種を持って帰ってくる。
夏には沢山の作物ができ、恵の雨が降り注ぐ。
秋には森が綺麗なオレンジ色に染まりその景色はとても美しく、素晴らしいものだ。
冬には白銀の雪がしんしんと降り積もり、森の凶暴な動物達は眠りにつくのでひと時の安全が保障され、冬の山菜が取り放題である。
そして、その土地を管理しているのが俺「カルロス・フォン・アストロ」の父であり領主の「ロイ・フォン・アストロ」だ。
父は人柄が良く厳格な性格ではあるが心根がとても優しい領主だった。
困っている領民がいれば必ず助けに行き、食料も自分達だけ贅沢はせず、領民に配っていたりした。
街が魔物に襲われ危険に晒されようと逃げずに真っ先に立ち向かった。
そんな父は「領主たる者、領民が困っていれば必ず助けに行くのが義務だ。自分達だけ贅沢してはならない。楽してはならない。権力を振りかざしたりしてはならない。領民がいるからこそ私達は生活ができるのだから。」と、とても優しくて心が安まるような笑顔で俺に語っていた。
だから俺もそんな領主になろうと頑張って勉強したり領民との交流を進んでしていた。
誰もが誰も笑っていて、とても幸せな日々だった。
そんな平和な日常が突如崩れ落ちたのは俺が10歳の時だった。
いや、父や俺が気づかなかっただけで本当はもっと前から崩れて来ていたのかもしれない。どちらにせよ俺にとっては唐突だった。
領民達が屋敷の門の前で暴動を起こしたのだ。
隠している食料を出せ
自分達だけ贅沢するのはやめろ
領民から取っているお金を返せ
逃げるつもりか
あらぬ濡れ衣を着せられていた。
どれもこれも心当たりのない事を責められていくら説明しても全く聞き入れてもらえなかった。
隠している食料なんて物はないし、贅沢もしているつもりもない。
お金を徴収しているわけでもない、逃げるなんて考えた事もない。
私たちはあなた達が住みやすくより良い生活が出来る様に心がけている。
いくら説得をしても領民が理解できなければこれはただの言い訳に過ぎなかった。
その日から俺たちの生活はガラリと変わった。
領民が納得するように俺たちの最低限の食料を残して全て渡した。
お金が足りなく困っている、と言うのでこれも俺たちが生活できるギリギリのお金を残して平等にみんなに分けた与えた。
屋敷にいる使用人は解雇するわけにはいかないので業務内容を変えて領民を支えるように命じた。
流石に屋敷を手放す事は出来ないので、屋敷は俺たちの住処兼領民の避難所とした。
これが最大限の譲歩で解決策だと信じて疑わなかった。
これでまたみんなと幸せに暮らせる時がくる。
これでこの暴動は治った筈だ。
しかし、そんな期待は絶望へと変わった。
母が殺された。
食料を配っている最中の事だった。
とある夫婦に食料を渡した時、足りないと文句をつけられたらしい。
しかし、配分は決まっている。みんな平等に配っているのだからこれ以上は配る事は出来ない。
母はそう説明した。
だがそれに逆上した夫婦が母を襲い、持っている食料を全て奪い殺したのだ。
母は無残な姿になって帰ってきた。
美しかった顔が赤黒くなってどこが目でどこが口か分からないほど変形していた。
首も、手も、足も、普通ならあり得ない所で折れ曲がっていた。
まるで見せしめとでも言うように。
言う事を聞かないからこうなったのだ、と言っているように。
それからだ。父が人が変わったように行動を起こしたのは。
まず、これまで行ってきた慈善事業は全て取りやめ、民達との交流を完全に絶った。
使用人達を呼び戻し、その中で腕の立つ人間を護衛として屋敷に留まらせた。
これまで父が領地の見回りをやっていたが関係を絶った為、領地を守る傭兵を雇うことになりそのための税金をそれなりに取らせるようにした。
当然のように民達はこれまで以上に反発をする様になり、襲いかかってくる回数も数倍増えた。
しかし、父はそれを物ともせずに処理をするようになり、反逆者や決まりに逆らう者たちを次々と処罰や処刑を行った。
そうして、反逆者たちの数を減らしていき、ついに母を殺した夫婦を捕らえる事が出来たのだった。
―――――――――――――――
「この悪魔!!これが人のする事か!!!」
目の前には綺麗なブロンドヘアーを乱した女が今はもう動かないであろう血だらけの男を抱きかかえて泣き叫び、赤く腫れた目を見開き今にも殺して来そうな雰囲気を俺に向けて叫んでいる。
いや、正確にいうと俺の後ろにいる父に向けて睨みつけ、叫んでいる。
こいつらは母を殺した夫婦だ。
「悪魔?私が?何故??」
ハッと乾いた笑いと共に軽蔑と嫌悪の目を女にむける。
「私が悪魔ならお前達は何なのだ?」
怒りと憎しみと悲しみ、それら全ての感情をぶつけるように父は言葉を投げた。
「食べる物がないからとお前たち夫婦や他の領民に温情をかけてやったにも関わらず我が家を貶め、我が家を汚し、あろう事か我が妻を手にかけたお前達は!!!一体!!!何だと言うんだ!!!」
女の夫を殺したであろう剣を持っている手とは別の手を白くなる程握りしめる。余程強く握っているせいかその手には血が滴り落ち、小さな赤い血溜まりが出来ていた。
「何故奪った!?何故襲った!?何故殺した!?何故!?」
いくら問いかけても女は何も答えない。唇を噛み締めて憎しみのこもった目で父を睨みつけるだけだ。
「私を貶めて何がしたかった?誰かの差し金か?誰に命令された?答えろ!!言え!!」
シン、、、と静寂が続いた。それは何分か、何時間か
「………誰の差し金でもない。命令もされていない。私達は何もしていない。」
ボソリ、と女の口が開いた。その声はかすれていて先ほど父を責めた時のような覇気がない。
「そう、私達は何もしていない!なのにお前達は誤審で私達を糾弾し、あまつさえ夫を殺した!!」
しかし、今度は狂ったかのように顔を俯きにし頭を掻き回しはじめた。
「お前の、お前達のせいだ……、私達がこうなったのは、夫が死んだのは、私がこんなに苦しいのは、全部、全部、全部!!!」
そう、ひとしきり叫んだ後、フラフラ立ち上がり歩き出した。その足取りはなんとも不安定で不気味で気味が悪い。
カツ…カツ…と、甲高いヒールの音が不規則にだだっ広い屋敷に響き渡る。
「お前達のせいだ!!!!」
女が父に向かって手を振り上げる。その瞬間5メートル辺りまであった距離が一気に縮まる。
振り上げた手はほのかに赤い光が輝いていて熱を帯びていた。
魔法、火属性だ。
あまりにも突然で護衛達や俺は反応できずにただみているだけだった。
「お父様!!!」
「………愚かな………」
女の拳が火魔法と共に父の心臓へ到達する直前、父が剣を振り上げた。
女の首が血を撒き散らし、回転しながら空中を舞う。
胴体から離れたその顔は絶望と憎しみと憎悪で固まっていた。
ドスッとトドメを刺すように胴体だけになった女の心臓に剣を突き刺す。
まるで人を人として見てないようにとても冷ややかな目を遺体に向けていた。
「もう、誰も信じない……」
父はポソリと誰に言うまでもなく、しかしその場にいる者全員に伝えるように一暼してその場を去った。
そして、これが俺が見た最後の父の涙だった。
………………………………………………………
――――どうしてこうなってしまったのだろう?
自問自答してもやはり答えは見つからない。考えて、考えて、考えてもこれといった解決策や正解は何も思い浮かばない。
俺は何を間違えてしまったのだろう?
俺はどうすればよかったのだろう?
答えが見つからない問題をいつまでも考える。
誰が悪かった?
誰が元凶だ?
答えを見つけられないのに問題ばかりが増えていく。
だけれど、分からない事だらけの中でこれだけは確定して分かる事がある。
父は何も悪くない事、そして、領民に裏切られた俺達は被害者だと言うことを。
「ロイ、あいつらは悪魔だ。あいつらを信じるな。最低限の接触以外干渉をするな。お前まで失ったら私は壊れてしまう……。」
全てを処理した後、父は体を震わせながら俺を抱きしめてそう言った。
泣いてはなさそうだが弱々しく呻き声に似た苦しそうな声音だった。
「あいつらに弱い姿を見せてはいけない。常に強情でいろ。逆らわせないように圧迫しろ。付け入る隙を与えさせるな。いいな。」
その日、悪逆貴族「カルロス・フォン・アストロ」が誕生した。
ありがとうございました!