ロット君の従兄弟と情報収集
ガタガタと荷馬車に揺られること30分。
後10分で街へと着く道の最中、俺はスカドゥエからロット君の従兄弟についての情報を得ていた。
「ロットの坊ちゃんの従兄弟の名前は、カルロス・フォン・アストロ。となりの領地を経営している領主っす。」
「カルロス君か…。」
その子が悲運の子候補、ロット君のコンプレックスの塊の子か…。
「なんでも、学校の成績は学業優秀、魔法も学生の中でもできる奴がいるかいないかの中級魔法も会得している超天才少年らしいっすよ。」
「この世界の魔法のことはあんまり分からないけど、聞いているだけでなんかすっごい経歴そうだな……俺でもちょっと嫉妬しちゃうレベルだわ……」
俺もその魔法が使えたのなら少しは情報収集をスムーズにできたからしれないのにっ!!
残念ながら、俺自身にそんな魔法に関するチート能力は備わってないし、逆に今世の体の身体能力に引っ張られるので転生した体が魔法使えない体だったら前世いくら魔法が使えたとしても使えなくなるのだ。
今回の転生…憑依もそれだ。
ロット君は魔法も使えないし、ましてや運動もできない、むしろ超と言っても良いほど虚弱体質だ。
いや、これはもしかしたらスー◯ーキノ◯の薬を飲んだ影響か??
まぁ、それがあったとしても今回の体は動くにはあまりにも不便だ。
そこでふと、自分の…ロット君の身体を見る。
細い腕に細い胴体、足の筋肉なんかは申し訳程度にはある。
こんなに弱いならロット君は自分の身体を鍛えようとは思わなかったのだろうか?と首を傾げてスカドゥエへ聞く。
「なぁ、スカドゥエ、確かロット君とは10年来の付き合いだよな??ロット君が身体を鍛えた事は無かったのか??」
「あ〜、あったといえばあったっすよ……?」
苦笑いをしながら頬を掻く仕草に、不安を感じる。
あったと言えばあった??
なんだその煮え切らない返事は。
また腑に落ちない答えに嫌な予感を覚えて眉をひそめる。
「いや、ロットの坊ちゃんも頑張っていたんすよ?でも、数日、数カ月経っても一向に変化がないから……」
「あぁ…、なんか悟ったわ…。」
つまり、諦めたって事な…。
ロット君の身体的、運動的センスがそこまで酷いとは思いもしなかった。
いや、ここまできたらもはやもう呪いなんじゃないのか??
悪知恵以外の才能を全て無にする呪いにかかっているって言われた方がまだしっくりくる。
つくづく不幸な体質をもったロット君にまたもや同情する。
がスカドゥエがいやいやいや、そうじゃなくて、と手を顎の前でブンブンと左右に揺らして俺の考えを否定するかのように言葉を続けた。
「八つ当たりで同じ学校に通っていた同級生5人を不登校に追いやってしまったんすよ。」
ロット君っ!!!!!
思いもしなかった衝撃的な発言に両膝が90度に折れ、両手を拳にして荷馬車を叩いてしまう。
とりあえず先ほどの同情は取り消す事にした。
マジで色々とやらかしてるやん!!この子!!
しかも下手に身分が高いから誰も注意も処罰も出来ない。
苦言でも言えば何されるかもわからない。
最悪、街から追放もあったんだろう。
それもあいまって調子に乗って好き勝手にやりたい放題な悪循環が生まれてしまった。
その結果、こんなgoing my way(我が道を行く)の唯我独尊クソ野郎になってしまったのか……。
こ、これは、甘やかし過ぎた親に責任があるぞ……
のほほんと微笑む母親と父親が脳裏に浮かんだ。
短い付き合いでロット君の両親の全容はまだ分からないのだが、あの両親ならロット君がどれだけ悪い事してもその行為、行動を叱ることなく逆に肯定をしていたのだろうな…。きっと。
「ま、まぁ、それはもう過ぎ去りし過去の話しっすよ!そんな事は頭の隅の隅の隅の方へ置いとくっす!」
「衝撃が強過ぎで隅の隅の隅に置いてもひょっこり出てきそうで怖いんだがっ?!」
頭を抱えながらロット君は俺が思っている以上に厄介でわがままなお坊ちゃんだという事を改めて記憶した。
これだけやらかしているならこの領土以外にもロット君の悪い噂が流れてきそうだ…。
ここの領土じゃなくても自分がロット君だと言わない方が良いのかもしれない。
「スカドゥエ、街の中に入る時は俺のことをイブキって呼んでくれ…。石を投げられたくない……。」
「あぁ、そういえばそれが坊ちゃんの名前だったっすね。心配しなくても街の中でその名前を言う事は禁忌っすから言わないっすよ。……というか当たり前のようにアーシも街に入る前提で話しをするんすね…。」
「だって、俺、お金持ってないから……」
「アーシを財布にするつもりなんすか?!!」
「言い方悪いなぁ!後で返すから今だけ貸してくれよ!」
早くスカドゥエに会いたいがために今回も無一文で屋敷を飛び出してしまった。
それに気づいたのはスカドゥエに会う少し前なのだが、お金を持たず考え無しに屋敷を飛び出す己の行動に自分のことだが腹が立ってくる。
せっかく絶対記憶能力を持っていたとしても使う本人がこうも思い立ったらすぐ行動をしていまうようならマジでこの力は宝の持ち腐れだな、と思いながら、もうすぐ着くであろう街へ入る為の変装をする。
今回は怪しい人物にならないように、なるべく普通の村人をコンセプトに変装しよう。
着ている豪華な服を全て脱ぎ捨て、スカドゥエの服であろうものを着用する。
高身長のスカドゥエの服を普通に着ると両手、両足の長さが足りずにダボダボの彼シャツ状態になるので余った布は手、足が出てくるまでに折り曲げる。
途中で、お気に入りだったのにっ!!!と後ろから何か聞こえたが無視だ。
カツラは前と同じ茶色で、帽子は今回は被らず目の色を隠す為のサングラスはかけずに伊達メガネをかける。
「よし、今回はこれで行こう!スカドゥエ、どうだ??村人に見えるか??」
「え?ちょっと待ってっす。」
そう言うと、荷馬車を道の端に避けてからスピードを少しずつ下げ街の門より少し手前の場所で完全に馬を停止させた。
荷馬車が停まった事で街の門に着いていた事に気づき飛び降りるように荷馬車から降りた。
「お〜、結構いい感じのモブっすね〜。貴族の貴の字も感じない凡庸な雰囲気を感じるっす。すごいっすね……。まるでロットの坊ちゃんとは思えない……」
と、同じように運転席から降りたスカドゥエが手を顎に乗せて感心したように俺を見て褒める……褒められてるのか……??
まぁ、モブだとか、凡庸なオーラは狙ってたコンセプト通りにできたので良しとした。
「あ、目の色は隠さないんすか??」
「あぁ、隠すためにサングラスかけようとしたけどそれだと怪しくなるだろ?だから少しでも印象を変えるために伊達メガネをかけたんだよ。」
ドヤッと顔を誇らしげにしてメガネの縁に手をかける。
そんな俺を見て心配そうな顔をしてスカドゥエが指を俺の目の方へと指す。
「……確かに印象は変わるっすけど……その特徴的な赤目はフォン家にしか無いものだからもしかしたらバレるかもっすよ………。」
「はっ?!マジで?!!」
そういえば母親の目が赤かったな…
と言う事は父親の方が婿養子という事だったのか……
と考えて首を振る。
今そんなことはどうでもいい。
「なら、目の色を誤魔化す物は何かないか??カラーコンタクトとか、なんかあんまり目立たないやつ……」
「カラー…タクト??なんすか?それ??目の色を誤魔化すなんてそんな都合のいい品物はないっすよ!」
「思ったより文明が進んで無いんだな…この世界は……」
「もう坊ちゃんが何言ってんのかアーシには理解が出来ないっすよっ……」
ハァ、とスカドゥエが深いため息を吐き、頭を抱える。
「とにかく、怪しくなっても目を隠した方が良いっすよ。裏からサングラス持ってくるっす。」
「あ、あぁ、ありがとう……」
そうブツクサ呟きながら商品が載せている荷馬車へ向かう。
そうしてスカドゥエの後ろ姿を見送りながらお礼を言った。
その時
「おい、そこの行商人!そこで何をしている?!」
「っ!!!」
門兵の1人が俺たちに気づいて近づいてきた。
あぁ、前回も確かこのタイミングで呼び止められたな、と思い出してからすぐにこの状況が危機に陥っている事に気づいた。
ま、まずい…!!今このタイミングで振り向いてしまうと俺がフォン家の者だとバレてしまうかもしれないっ!!
いくら変装していると言ってもフォン家の特徴と言われている赤い目は普通に外に晒されている。
「??なんだ?お前?こちらを向け!!」
いつまでも門兵に背を向けて顔を合わせようとしない俺を怪しんでか、声を荒げて叫ぶ。
ここでスカドゥエが来るまで待っていてサングラスをかけてもそれはそれで今よりもっと怪しまれてしまう。―
ふぅ、と息を吐いて深呼吸をする。
そして思い切って門兵の方向へと顔を向ける。
バレてしまったらバレてしまったまでだ。
そうなった場合はなんとか誤魔化そう!!
そう決心をして目を見合わせる。
「っ!!!お前……その目っ?!」
案の定俺の目を見て驚いた門兵は手に持っていた槍状の武器を俺の方へ向ける。
警戒をしているのだろう。
やはり赤い目はフォン家の特徴で畏怖の象徴なのだろうか??
若干震えている門兵の手を見つけて思わずため息を吐く。
それから無害アピール…両手をあげて、人当たりが良い笑顔をしながら門兵に言葉をかけた。
「すみません、俺、行商人で……珍しい物が入ったのでここの街の人達のために売る商品の検品をしておりました。今、別の者が通行許可証と商売許可証を持ってきますのでもう少しお待ちいただけますか??」
「…………へっ?!」
「?どうしました??」
目を丸くし、間抜けな声を上げながら俺を見つめる門兵を不思議に思い、問いかける。
俺、そんなに変なこと言ったか??
もしかして何か間違ってしまったのだろうか?!
何か知らぬ間にやらかしてしまったのかもしれないと頭がサーと真っ白になり、背中に冷や汗が流れていくのを感じた。
どちらもピクリとも動かない、そんな硬直状態が数秒か数分続いた後、安心するイケメンボイスが背後から聞こえてきた。
「私らは遠い国からの行商人でしてね、この赤い目もその国の特徴なんですよ〜。あ、私の髪がこんななのは、私の両親はここの生まれでその特徴を引き継いでいるんですよ。」
「な、なんだ?!お前はっ!!」
「あなたが武器を構えている人の連れですよ。物騒なのは苦手なので下げていただけると嬉しいのですが……」
そう言って現れたのは前回と同じようにパッチリ二重の金髪のイケメンになったスカドゥエだ。
困ったように眉を下げながら儚く笑い、綺麗な言葉遣いをしながら現れたスカドゥエによって先ほどまでピリピリと緊張感が漂っていた空気が一気に軟化した。
そのおかげか、門兵の槍は下がってはいないものの、槍を握っている手の力が抜かれている気がした。
イケメン滅びろ…と思わず心の中で毒を吐いてしまったが、すぐにその雑念を捨てて今すべき事をする。
まずはスカドゥエの方を向いてから今の状況を伝える。
伝えなくても今の時点でもうすでにわかっているだろうが、念のために。
その後の事はスカドゥエが勝手にやってくれるだろう。
「さっきからずっとこの状態なんだよ。俺の目を見たら急に槍を向けられてさぁ。何してるのかって聞かれたから商品の検品をしているだけです、って言ったら何故か硬直しちゃって……。あ、ちゃんとお前が通行許可証と商売許可証を持ってくるって話もしたぞ?」
「………なるほど。」
俺の言葉を聞いて全てを察したのか、ふむ、と手で口を覆った後何かを考え込むスカドゥエ。
「門兵さん、この人はさっきも言ったように遠い国の出身です。赤い目だからってフォン家の者だとは限りませんよ??」
「っ!!だ、だが……」
「それに、よく見て下さい。彼に貴族たる雰囲気を感じますか??このうっすい存在感……目の色を見なければそこら辺にいる村人ですよ?」
「…………え…」
ポツリと呟いた後、門兵は俺の顔を見た。
おいこらおまえ!!うっすい存在感ってなんや!!
確かに俺は貴族のような輝くようなオーラは放たれてないが、一応神の使いだぞっ!!
そう、叫びたくなる衝動をグッと抑えて大人しくモブを演じる。
大体、貴族たる雰囲気ってなんだよ…。
そんな雰囲気あっても感じ取れるわけが…
そう、呆れ気味に2人のやり取りを静かに見守っていく。
すると、門兵が目をパチクリとさせた後、確かに…、と小さく呟いき構えていた槍を下げて謝ってきた。
「す、すまない……、この街ではその目の色をした貴族に散々好き勝手にやられていてね、またその貴族にやられるかもしれないって警戒をしたんだ。よく見れば…………君はあの貴族なんかよりもずっと地味だし貴族の貴文字も感じない凡庸な雰囲気の青年だ…。」
と、苦笑いしながらどこかで聞いた覚えのある評価に不満と憤りを感じたもののロット君だとバレなかった事に安堵した。
「いえいえ〜、こちらこそコソコソとすみません。あ、これが通行許可証と商売許可証です。」
「あぁ、拝見する。……………うん、大丈夫だ。街へ入る事を許可する。本当にすまんな。」
「い、いや、こちらこそ、手間をかけさせてすみません……」
「いやぁ、俺はてっきりあのクソガ……貴族が街へ悪徳商売する為に変装して来たもんだとばかり…。敬語を使った時は、そこまでして入りたいのかって思考が停止してしまいましたが、そもそもあのクソ貴族が俺たち下民に対して敬語なんて使う事ないからその違和感に早く気づくべきでしたね。」
「あー……アハハハ…………」
照れ笑いしながら頭を掻く門兵の心情とは打って変わって俺は乾いた笑いをして誤魔化す。
言葉の端にちょっと聞こえたクソガキやクソ貴族は聞き流す事にする。
それにしてもロット君領主の息子のくせに警戒されすぎだろう…。
まぁ、やった事がやった事だから仕方がないって言ったら仕方がないが…。
「それじゃ、許可が下りたことだし街に入るとしますか!イブキの坊ちゃん。」
「ん?あぁ。そうだな。」
そう言って荷馬車の方へと向かうスカドゥエの背中を追う。
次にやるべき事を頭の中で整理しながらゆっくりと動き出した荷馬車の中で俺は街へと入っていった。
「あ、そこの雰囲気が地味の坊主、目を隠しといた方が良いぞ!!」
「雰囲気が地味って要らなくないっ?!!わざわざ言う必要あったか?!!」
え、こいつらまだ街に入ってないん??と、作者の自分でもびっくりしてます笑
読んでいただきありがとうございました!!




