ロット君と商人8
ザワザワと人の賑わう声が街中に響き渡る。
村より多少大きい街の中で俺はスカドゥエと一緒に探索をしていた。
「スカドゥエ!!ちょっと来てくれ!!あれ!あれ!!めっちゃ美味そう!!買って!!」
途中で屋台に売ってある肉の棒のいい匂いに釣られてスカドゥエを呼ぶ。
そんな俺に呆れた顔をしながらも肉の棒を買ってくれて、疑問を投げかける。
「……イブキの坊ちゃん、アンタ目的忘れてないっすか??」
「わ、忘れてないわ!!」
買ってもらった肉の棒を片手に持ちながら叫ぶ。
街に行くまでの道のりが長く険しくてちょっと忘れかけてはいたが完全に目的を見失ったわけではない。
肉を頬張りながら街や人を見渡す。
この中に、悲運の子がいる可能性がある。
もし、ここに悲運の子がいると仮定するとして、
俺がここにいる事によって今までの街の日常とは多少異なっているからきっと街の変化に気づくはずだ。
俺はそれに戸惑うやつを見つければいい。
そうやって周りを見渡すが、なかなかそういう人物は見当たらない。
そうこうしているうちにまた巻き戻るかもしれない。
時間の見えない制限時間に少し急いだ方が良いかもしれないという焦りが今更ながら募ってきた。
そう考えているとふと、気づく。
今、ループしたらこれまで過ごして得たスカドゥエの信頼が無くなってしまう、という事に。
出会って数時間しか経っていないけれど、それなりにスカドゥエとの信頼関係を築けている。
だが、ループしたら得た信頼も全て無かった事になるのだ。
巻き戻ったらスタート地点はあの屋敷だ。
屋敷からこの街まで馬車で長くて40分以上は必ずかかる。
その道のりを徒歩で行くとなると何時間かかるか…。
街に行くにはスカドゥエの馬車が必要となる。
それに、この街に入る為の通行許可証。入街許可証でもあるこの許可証。
この街に入る前にスカドゥエが坊ちゃんの分っす!と言って出してくれたあの紙。
屋敷には無かったものだからあれはスカドゥエが持っていて、ロット君と一緒にこの街に入る時に出していたものなのだろう。
あれも必要となってくる。
ならばどうやっても街に入るにはスカドゥエが必要となってくるのだ。
そんな重要な事に今更ながらに気づき、愕然とする。
そんな俺の様子を不思議に感じたのか、スカドゥエが俺に声を掛けてきた。
「どうしたんすか?イブキの坊ちゃん??」
ハッとしてスカドゥエを見る。
街に入る前の姿とはうってかわった二重瞼の青色の瞳が不思議そうに目を丸くして俺を見つめる。
そうだ、とりあえずスカドゥエにこの世界におこっている異変から話さなければならない。
話そうとは思っていたもののなんやかんやあって話せず終いだったのを思い出し、今この世界に起こっている異変を話すべく、スカドゥエの方へ顔を向ける。
「スカドゥエ、ちょっと話さなければならない事があるんだ。覚えているか?俺がこの世界に来たのはこの世界に起こっている異変を治すためだって。その事について、話しておきたい。」
「え?今っすか??ここで??」
このタイミングで?とそんな風に思っているだろうスカドゥエが首を傾げながら俺を見る。
「今だ。本当は早く伝えるべきだったんだけど…」
そう言って俺は近くにあったベンチへ座り、これまでの経緯を全てスカドゥエに話した。
「なるほど……。今まで8回世界は巻き戻っていて、今回が9回目。アーシ達、この世界の人間は繰り返されている事に気づかないまま同じ行動をずっと繰り返し続けている……って事っすか?」
あまりにもの規模のでかい世界の異変に唖然とした表情を見せる。
「そうだよ。俺とその悲劇の子以外は世界が繰り返されている事に気づきもしない。疑問にすら思わないだろう。」
「そ、うなんっすか、?じゃ、じゃぁ、アーシ達が会ったのもこれが初めてでは……」
「いや、これが初めてだよ。初めてじゃ無かったらもっと上手く対応してるって。」
「あ、それもそうっすね。弱すぎたっすもん。」
「おい、一言余計だ。」
そう言ってスカドゥエの背中を軽く叩く。
ハハハ、と笑うスカドゥエに安心しながらも、寂しい気持ちになる。
今のこの時間も、悲運の子が死ねばなくなる現在だ。
そう考えてしまい、顔を俯かせる。
そしてそんな俺の様子にまた、スカドゥエが声をかけてきてくれた。
「さっきからどうしたんすか??そんなしょげた顔をして。」
「いや、このスカドゥエと一緒にいる時間も悲運の子が死ねば無かった事になるからさ…」
買ってもらった食べかけの肉の棒を眺める。
この肉を買ってもらった事実も無くなってしまうのだ。
あとでお金を請求するっすからね!!と睨みをきかせながら渋々お金を払うスカドゥエの姿を思い出す。
その後で、が本当に来るのか今はまだ分からない。
「………………。」
「アーシが忘れても、坊ちゃんは覚えているでしょう?」
「………え?」
スカドゥエの言葉に顔をあげる。
スカドゥエと目があい、そしてフッと優しく微笑んで言葉を続ける。
「イブキの坊ちゃんは、アーシを覚えている。なら、次のアーシの対応ができるって事っすよ。」
そう言って俺の頭に手を乗せてポンポンと優しく叩く。
そうして俺を安心させるように優しく叩きながら、俺と目をあわせて話を続ける。
「良いっすか?坊ちゃん。次のアーシの信頼を手っ取り早く手に入れたいのなら、これだけは守るっす。」
「つ、次のスカドゥエなんて……そうだな、大人しく聞いとくよ。」
「そうっす。大人しく聞いといてほしいっす。もしかしたら今のこの次の瞬間に巻き戻るかもしれないっすから。」
そう、真剣な顔をして俺に告げる。
「まずは、嘘をつくな。アーシが戸惑っても、疑う表情をしても、何をしても嘘だけはつかないでほしいっす。誤魔化すのも無しっす。全てにおいて正直に赤裸々に話すっすよ。」
「………あぁ。」
「そして、もう一つ、それでもアーシが信じなかったら、この言葉を必ず言うっす。」
「言葉?」
「月明かりが照らすゴミ貯まりにいた事を知っている、と言ってくれればいいっすよ。」
「?どういう意味だ?」
言葉の意味がわからずに首をかしげてスカドゥエの顔を見る。
その顔は寂しそうな、昔を懐かしむようなそんな顔をしていた。
「ロットの坊ちゃんがアーシを見つけてくれた場所っすよ。綺麗な月がのぼった寒空の中、ゴミだめの中で死にかけていたアーシを助けてくれたのがロットの坊ちゃんだったんすよ。」
齢7歳のガキが、ゴミやら怪我やらでボロボロになっているアーシに手を差し伸べてオレの僕になれっていったんすよ?
と、当時の状況を思い出したのか、少し照れくさそうに頬をポリポリと掻きながら俺に話してくれた。
ロット君との出会いを話してくれたスカドゥエにそれほど心を許してくれた事に嬉しさを感じ、落ち込んでいた心が少し晴れたような気がし、思わず口角が上がる。
「そうか。ならロット君とスカドゥエは10年の付き合いがあるんだな。」
「はい、そうしてなんやかんやで10年も経っていたっすね。ついでに、これを知っているのはアーシとロットの坊ちゃんだけで、それ以外は誰も知らないんで!最後の一押しの時にこの言葉を言うのをオススメするっす!!」
目をキラキラさせながらグッとガッツポーズを作り、そうオレに教えてくれた。
「それじゃ、連絡事項はもうないっすか??ないなら坊ちゃんの目的をさっさと果たすっすよ〜!!」
よし!と言って、ベンチから立ちオレの手を取って市場へ駆け出す。
そんな頼もしい背中を見て俺は胸から込み上げる感情と目から出そうになる涙を押し殺しながらスカドゥエに感謝を告げた。
「おう、ありがとな、スカドゥエ」
「お礼はお金でいいっすよ。そのカツラと服とまとめて請求するんで!」
ちゃっかりしてんな〜、と吹き出しながら俺はスカドゥエと共に街の探索を続けるために、足を前へと動かした。
――――――――――――――――――――――
街の探索を始めて約2時間。
時間帯的で言うと、午後3時のオヤツどき。
ひと通り全てのお店、屋台、家を周り終えて俺たちは噴水近くのベンチで休んでいた。
途中、街の人たちが何も買わずにブラブラ歩く俺達を不審そうにジロジロと睨んでいたが、多分それはスカドゥエのぼったくり店とロット君の事件で警戒しているのだろうと甘んじて受け入れた。
街の人たちが商人を警戒するのは十中八九、ロット君とスカドゥエのぼったくり商売のせいだからなぁ…。
そう思いながらも、居心地の悪いまま街の中を歩いていた。
いたたまれない気持ちになりながらも探索をつづけているとスカドゥエが
「アーシらが外部から来た行商人だったんでここらで見ない商人を見て街の奴らが警戒してるんすよ〜」
なんてヘラヘラと笑いながら呑気に話すもんだから若干腹が立った。
そうやって針のむしろになりながらも探索を続けること2時間後、全て見終わって街の中央にある噴水の近くのベンチにスカドゥエと並んで座っている。
「どうっすか??ひと通り街の中を歩いてみたっすけどそれらしき人はいたっすか??」
この2時間の街の探索を思い出して、思い出し怒りをしているところでスカドゥエが確認するように話しかけてきた。
「……今のところ、見当たらない。…………もしかしたらもう街の外に出ているのかもしれない。」
もし、そうだったとしたらこの2時間は何の時間だったんだっ…!!
ハァ、と深いため息を吐き頭を抱える。
そして、もう一度深く、きちんと最初から考える。
今までの転生の法則は、中心人物になりうる人物の近くに転生、又は大きな事件、出来事が起こる場所に転生をしてきた。
今回の中心人物といえば悲運の子。これは絶対だ。
一応、屋敷の中にそういう人物がいないかをこの7回のループで確認したが、それらしき人物は見当たらなかった。
だから屋敷の中にはいない。そう確信した。
そして、その次に1番近い場所と言ったらこの街だ。
だからボロボロの体になりながらもここに来たわけだが………
隅々まで探しても見つからない。ここにいるはずなのに見つからない悲運の子に切羽詰まっているとスカドゥエがそんな俺を見かねてか、質問をしてきた。
「坊ちゃんの転生する場所は、中心人物の近く、又は事件、災厄が起こる場所でしたっけ??」
「?そうだけど。」
「なら、もうここじゃ無いんじゃないっすか??最初からここに、その悲運の子はいない。そういう事じゃないんすか??」
「え?」
「近しい人物ってそれは距離的に近いのか、血筋的に近いのかも分かりませんし。」
まさかのスカドゥエの言葉に目が丸くなる。
「ど、どうだろう……。今までの転生はみんな距離的に近かった。例えば勇者の幼馴染とか、世界一の魔法使いとかの近くに生まれ変わっていたから血筋とかは考えた事が無かった……。」
そう言われればそうだ。
近しい人物、と言われれば血筋も候補に入る。
「スカドゥエ、ロット君に親戚…従兄弟とか兄弟って存在するのか??」
「ロットの坊ちゃん、アスタ家っすよね?もちろんいるっすよ。」
そう言って、スカドゥエは眉をひそめ険しい顔になる。
「何を隠そう、ロットの坊ちゃんがあんな風に歪んだのはその本家のせいっすからね。」
「え、本家??」
本家がある事に驚き、思わずおうむ返しをしてしまった。
「え?そこ、知らないんすか??流石にロットの坊ちゃんの本名は分かるっすよね??ロット・フォン・アスタ。アスタ家は分家なんすよ。」
「ロット君の本名くらい知ってるわい!!分家だの本家だのは教えてもらってないんだよ!!」
失礼な物言いに少し苛立ってしまったが、とりあえず話を続ける。
「そんで?何でその本家のせいでロット君が歪むんだよ?」
「だって、本家でしかも魔法も学力も運動能力もはるかに優秀の同い年の従兄弟がいるんっすもん。魔法も使えない運動能力もクソなロットの坊ちゃんにとってそいつの存在はロットの坊ちゃんの自尊心をボロボロに切り刻むデスカッターみたいなもんっすよ。」
実際、親戚には同じ血筋なのにそこまで能力の差がある事にバカにされたこともあったらしいっすからねぇ、と俺はロット君の境遇に初めて同情をした。
というか、ロット君、あなた魔法も使えないのか…
ならばその従兄弟とやらはロット君にとってコンプレックスの塊なわけだ。
そこまで差があって、さらに親戚すじには従兄弟と比べられた後にバカにされてりゃ、そりゃ道を外れても仕方ないかもしれないな…、
さらにはストッパーであるべき両親がデロ甘ときたもんだ。
「今までロット君の事、クソだクソだと思っていたけど初めて可哀想だと思ったよ。」
「まぁ、アーシも初めてロットの坊ちゃんの状況を聞いた時は同情したっすね。」
ハハ、と笑い遠い目をしながら空を見上げる。
「んでさ、そのロット君の従兄弟の名前は何て名前なの?」
「あぁ、何て名前だったか…あっ!」
そう言って空を見上げていた顔が俺の方へ向く。
そして人差し指を上に指して口を開く
「確か、そいつの名前は……」
そう、スカドゥエが言った瞬間
世界が暗転した。
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