憑依したらしい
大きな豪華な窓から優しい光と爽やかな風が心地よく入ってくる。
その風を感じ、日本でも異世界でもこの風の心地よさは同じなんだな、と懐かしく思いながら窓の外を見る。
すると、コンコン、とドアが叩く音が聞こえた。
「ロット、そろそろ休憩しましょ??もうお昼の時間よ?」
母親がドアをノックした後、入ってきた。
その声で目線を窓の外から壁にかけられている時計に移す。
時計の針が両方とも12へ指していることに気づいて、声をかけてくれた母親にお礼の返事をする。
「あ、もうそんな時間?俺はここを片付けて行くから先に食堂へ行ってて。ありがとう、お母様」
「っ!!!」
「??お母様??」
「っいいえ、ごめんなさい!お母様、なんて久しぶりに聞いたものだから……。」
…………マジか、ロット君もしかして反抗期真っ只中だったのか??
そういえばロット君は17歳。思春期真っ最中の年頃だったな、と心の中で思いながらペンをおき、ぐぐッと背伸びをする。
ロット君の体に入って約2ヶ月、ループの回数は今回で8回目だ。
1回目〜5回目までは死ぬまでの時間が早かったが、6回目からは慎重になったのか、段々と生きている時間が長くなり、8回目の今、今日で1ヶ月をむかえた。
初めて1ヶ月以上生きられて、記録更新っ!!とテンションが上がったが、こう楽観的ではいられない。
今回はいつまで生きられるか……
だらけた姿勢をもとに戻して、机の上に雑に広げられている本とグチャグチャの文字が書かれているノートを見る。
―――この1ヶ月で大体、文字の方も覚えられたな。
自分が書いたノートを手に取り、パラパラと自分の頑張りの成果をみる。
今、俺がやっていることは勉強だ。
言葉が通じない限り、会話する事も情報を得る事もできない。
なのでまずは言葉を覚えるようにした。
最初、母親も父親も俺が(というかロット君が)またバカな遊びを始めたと思ったらしく、俺の言動やら行動やら、しばらくスルーされていた。
……あまりにも自然にスルーされるものだから多分ロット君は何回かバカな事をしでかしていたんだろう。ここにきて元の体の持ち主の弊害が出てくるとはおもわなかった。
だが、俺のあまりにも必死な表情と意味の分からない言葉(日本語)で話し続ける姿を見て言葉が通じない、言葉が分からないという事と事態の異変さに気づき、すぐに医師や教師を雇ってくれた。
教師を雇ってくれた、それは良い。
だが、次の壁に突き当たる。
言葉がわからないから何を言っているのか分からない。
きっと、これは〜ですよ、とかあれは〜ですよ、と言っているのだろうが、言語の意味が分からないから何言っても、何聞いても分からないのだ。
互いが互いに分からない言語で話しているから最初はどうやってやり取りをしようかと勉強の進行が難航してたが、そこはお互いジェスチャーで意思疎通をしてなんとか言葉を覚えた。
単語の意味が分かればあとはこっちのものだから、言葉を話せるようになったのはそれほど時間はかからなかった。
こういう時に自身に与えられた能力が役にたつなぁ、と一瞬感心したが、
教師と俺の必死な顔で身体全体を使ったジェスチャーでのやり取りを見ていた召使やメイド達の、何やってんだコイツら……という困惑してドン引いた顔も頭の中から離れない……。
教師も俺のせいであらぬ被害をうけ、本当に申し訳ない。
まあ、その冷たいメイドと執事の視線も俺と教師のジェスチャー授業も未だ誰かわからない悲運な奴が死んで戻った事で無くなったがな…。
そこはラッキーだったのかもしれない。
よし、と手を机に置いて、椅子から立ち上がる。
文字も言葉もマスターとまではいかないが日常生活にを送っていても支障がでないくらいには分かるようになった。
後は情報収集だ!
この後、昼食を食べ後、屋敷から出て街へ行こう。
今、この世界がどういう状況で、何が起こっているのかを聞かなくては。
屋敷の人達だけの情報じゃ、偏ってるからな。
そう思い、部屋から出ようとドアの取っ手に手をかける。
今日の昼食は何かなぁ、と、わくわくしながらゆっくりと取っ手をひねり―――――――――――
「キャァァァァァアアアアアァ!!!!あなたー!!!ロットが目を覚ましたわアアアアアアアァァァァァァアアアァァア!!!!」
「。」
世界が巻き戻った。
いきなりの事で悲鳴も出てこなかった。
取っ手を捻ったら世界が巻き戻ったなんて事ある?!!
昼食のご飯楽しみだったのにっ!!
母親に泣きながら抱きしめられ、ユサユサと体を揺さぶられながら遠い目をする。
そして改めて今の状況を冷静に考えて、気づく。
多分、前回…8回目はだいぶ慎重に動いたんだろう。
今までよりかはだいぶ長い期間生きていたからな、
でもそれでも殺されている。
これが元の世界の強制力なのか、悲運の子がそれほど誰かに恨みを買っているのかは分からない。
どちらかかもしれないしどちらもかもしれない。
どちらにせよ、早くその悲運の子を探さないと、その子の心が壊れてしまう。
死んだ回数でいうともう俺と同じくらい死んでる。
予想ではあるが、きっと死に方も俺みたいにあっけなく死ぬのではなく、苦しんで死んでいるのではないだろうか?
この世界はつくづくその子を悲惨な目に遭わせたいらしいからな。
よし、今回は早めに行動をしよう、と決意する。
幸い、この8回のループで言葉も文字ももう分かるかるようになった。
外に出ても言葉が通じないなんて事はないだろう。
泣いて抱きしめている母親を押し退けてベットから足を出す。
「ロット?!だめよっ!あなたは今万全な体じゃないんだから安静にしなきゃっ!!」
「そうだぞっ!ロット、今日はゆっくりしていなさい!」
父親と母親が慌てて俺の肩を掴んでベッドへ寝かせようとしてくるが、掴まれた肩を振り解いて強行突破で2人の間を抜ける。
「お父様、お母様!!俺、今すぐいかなきゃ行けないところがあるから行きます!!すぐに帰りますから!!」
そう二言告げて部屋を出る。
飛び出した部屋から母親と父親がロットくんの名前を呼んでいる声が聞こえたが、そんな事には構っていられなかった。
世界が巻き戻るから死ぬことはないって思っていたけど、そんな悠長な事言ってる場合じゃない。
心が壊れてしまう前に見つけないと!
今も、たった1人で戦っているであろうその子を思い、俺は街へとかけていった。




