表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
改竄された現世にて  作者: ゴノサキ
第一章 異世界の転生
15/19

エイユウ様の御心 1


「怪しいのよ」


 俺のベッドを背もたれ代わりにし、正座を少し崩しおしりが床につく形…いわゆるペタン座りをしていたアネシィが、ふと懐疑的な声を上げた。


「なにが」


 俺は二枚目の雪の宿を口に運びながら応える。甘味と塩味はその悪魔的な相乗効果から一度食べ始めるとやめどきを失ってしまう凶悪なコンビだが、それを一つで実現してしまう雪の宿は駄菓子の一つの到達点ではないかと常々思う。



「最近のフィー」


「怪しいってどう?」


「なんか隠し事してるみたいでね」


 フィールが隠し事。フィールとアネシィの間は、たとえ道端ですれ違った赤の他人でも『仲良さそうな姉妹だな』と思いそうな程度には良好な関係だ。

 …まあ、フィールは実の姉でも敬語なのが少しの違和感を孕むが、それでも彼女らが一緒にいる空間はやはり和やかな空気に満ちている。本人の性格からも、あまり隠し事なんてしなさそうだが。


「別に隠し事くらいならどうってことないのよ。ただ、最近忙しそうにしててね。一人でどこかに出かけたり、夜遅くまで起きてたり…」

「どうかしたのって聞いても、何でもないとか大したことないしか返ってこなくて」


「うーん…。彼氏ができたとか?」


「はぁ? それはないわよ」


 心底あきれたような口調で諫められてしまった。そんなにおかしな発想だったか? 聖者なんて謳われていようとその前に立派な成人女性、誰かと付き合うなど何らおかしくないと思うが。


「あの子、自分一人で抱え込みがちな性格だからちょっとね…杖を持って出かけることもあるし、無理しないか心配で」

「……私がもっと強かったらな」



「なんて?」


「なんでもない! それで、なんか思い当たることある?」


「そうだなあ…思い当たること…」


 この世界が融合し、"EH(アースハライア)"となってから、約一か月が経とうとしていた。世界が変容したあの日から彼女らとは毎日のように顔を合わせていたが、ぶっちゃけそれ以前の彼女らのことは何も知らない。

 神授の聖者と呼ばれるような権威ある人物だし、同じパーティーだといっても常に一緒というわけでもないんだな、なんて納得していたものだから、そもそもあまり違和感を感じてなかった。


「いやぁ…思いつかないな。…調子はアネシィから見てどうなんだ? 確かに元気なさそうな感じはするけど」


「はぐらかそうとはしてるけど結構まいってる、かな」


「まあ俺から聞いてみてもだめだったら、気の進まない方法ではあるけど…最悪尾行して確かめるとか」


「…そうね」


 自分を頼ってくれないのが寂しいのか、アネシィもだいぶ気落ちしているようだった。


 少々過保護だとは思うものの、杖を持って出歩くこともあるというのは少し気がかりだ。もし魔物たちが棲息するような領域にも一人で出向いているとしたら万一のこともある。



 ところで、


「………女子から悩みを引き出すってどうやってすんだ……?」


「…あんたねぇ……」


 いや、なにせそんなに女子と親密になったことがない。相手の相談に乗るならともかく、相手から悩み事を引き出すなんてのはレベルが高すぎる。


 うーむ。女の子相手は優しく気遣い、堅くならないように顔文字とユーモアさを付け加えて…。


「えーと…

『フィールちゃん、今何してる?(^_^;) 最近のフィールちゃん、忙しそうで心配です…(´・ω・`) 何か用が立て込んでるのカナ?(-"-;)  ボクたちのこともっと頼ってよ! チカラになるからネ(^_-)-☆ それでもっとおチカづきに…なんて(//∇//)』

 と…」


「はったおすわよ!!? てかこのおじさん誰!?!?」


「わからない…これ以外だとあとはもう彼氏持ちの女にナンパするチャラ男構文しか…」





「はぁー……。あんたはもう女心がぜんっぜんわかってないんだから! ほら、こういう雑誌でも読んで勉強しなさい!」


 アネシィはそう言うと手提げカバンから雑誌を取り出した。バリバリの女性向け月刊誌だ。表紙は爽やかな格好をしたモデルが飾り、その周りを流行のアイテムだのデートで見ておくべき男のポイントだの特集のテーマが囲っている。



「えぇ…」


 気後れして仕方がない。本来は一生縁がない類のもののはずだ。どうせ中を見たところで自分が持ち合わせていない部分を女性的視点でグサグサと刺されるに決まっている。『デートの相手がクーポン使ってるところを見ちゃった。今回で終わりかな(笑)』みたいな文章に乗せて。


 アネシィに催促され、仕方なく折り目のついてあるページを適当に開き、アオリ文を朗読する。


「はぁ…。え~となになに…『気になるあの子と急接近!? "秘密"のフレグランスが彼を惹きつける!』」


「ちょっっ! とまっって!」


 大慌てで雑誌をアネシィに奪い取られた。

 アネシィのチェックしてたところを読んで何が悪いというのか。ジト目で彼女に訴える。

 というか内容もいまいちピンとこない。要約すれば、二人だけの秘密があれば仲も深まるよね! ということだが、今から突然自分の秘密を討ち明かすというのも相手からしたら突拍子がなさすぎないか。


「…秘密の共有ってどっちかというと、心許した相手への信頼の証みたいなもんで接近した後の話じゃないか?? 今から秘密を共有するにしても遅くない?」




「~~~~っ!! そっ! ぅかもしれないけど!」


「?」


 アネシィがなぜか顔を真っ赤にしながらしどろもどろしている。こんなことでうまくいくのだろうか…。







 二日後。

 俺とアネシィは電柱に隠れるなんて超古典的な隠密行動を実行していた。


「コントかな?」


「ちょっと、静かにしなさいよ…!」


 あまりにも間抜けな様子に思わずツッコむと、アネシィから小声で叱られる。

 犬の散歩をする奥さんが不審者を見るような目でこちらを見ていた。


 あの後、SMSでフィールにメッセージを送ってみた。

 アネシィとの協議により、自分の相談事をしたうえでフィールも何か抱えてないか尋ねるという作戦をとったものの、フィールの件については軽く流されてしまい終了。残念ながら結果は得られなかった。



 そんなわけで心苦しいながらもアネシィとの尾行を決行。

 さすがに普段着ている服で尾行なんて速攻でばれてしまいそうなので、新しく服を買ってから臨むことになった。


 アネシィは普段肘位の高さまで伸ばしてある髪をお団子状にまとめてあり、胸元にフリルのついた白いシャツ、下半身はシックでホテルのカーテンのようなスカート、おなかの辺りにコルセットみたいな調整用のリボンがついている。

 普段はボディラインの出る、どちらかといえばスポーティよりなトップスにショートパンツのいで立ちなので、受ける印象が全然違う。だいぶ淑やかそうでフェミニンな服装である。

 ついでとばかりに赤の伊達メガネもかけていて用意周到。これならぱっと見でアネシィとは思わないだろう。


「な、なによっ……」


 アネシィが髪をいじりながらなんかそわそわしている。というかこれ完全に、


「いや童貞を殺す服じゃねえか」


「なっ、どっ……!!? いきなり何言いだすのよ!!」


「え…? その気0…? 自力で辿り着いたのか…?」





「というかあんたのそのサングラス何なのよ」


「若き日の憧憬…まさか使う時がこようとは」


 一方の俺は普段の倹約気質が顔を出してしまい、割引がついた上着一枚買っただけで済ませてしまった。

 家に着いた後、さすがに適当過ぎたかと罪悪感が立ち込めてきて何かないかと探したら、中学の頃勢いで買ったサングラスが出てきたのだ。

 かけてみたら新しく買った上着との組み合わせも悪くないように思えた。中学の頃の俺よ、あの頃憧れた男に少しでも近づいたかもしれんぞ…。


「動画始めたてのYouTuberみたいね」


「………」


 視界が明るくなる。ダンディズム溢れるアクセサリーは今、胸ポケットでいざという時心臓の身代わりとなるお守りに変わった。

 所詮、その場の変なテンションで買ったものなどこうなる宿命なのだ。卒業旅行で買った剣に龍が巻き付くネックレスや、夏休みの自由研究カタログで買ったスライムのように。






「…駅ね」


「電車移動で助かったな。まだ尾行しやすい」


 やんややんやと言いながら尾けていると、フィールは七美丘駅のホームに入っていった。目的地には電車で向かうらしい。

 電車に乗車し、別車両の遠く見づらい位置から監視する。監視対象のフィールは、時折船を漕いではハッと目を覚ますのを繰り返してた。


「あれ、目的地ちゃんとつけるか…?」





お読みいただきありがとうございます。今回はちょっと中途半端な締めですみません。

今までが世界観の説明と作風の披露とすると、今回からは本筋の進行となります。お待たせしました。

評価や感想等お待ちしてます。よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ