第086話 『その日、ナイングラッツから出た』
領兵達が忙しなく馬車と屋敷を往復する様を、ぼんやりと眺める。皆忙しそう……。
手伝っても良いんだけど、勝手が分からないし、多分遠慮されちゃうだろうから、ここで見ているしかないんだよね。
「暇ねー」
「暇だねお姉ちゃん」
リリちゃんと一緒に、用意された木製チェアに腰掛けぼんやりとする。
暇なら魔法の練習をするべきかもしれないけど、こんなに一般の人の目がある中でするのは、リリちゃんが集中できないだろうし、それにママ達はお仕事してるんだから、抜け駆けみたいでやりにくいのよね。
アリシアとママはメイド服を着ているからか、領兵達を手伝ってもとやかく言われないみたい。上手く溶け込んでいるわね。
まあ、私から忙しそうだし手伝ってあげてと言った手前、今更暇だから戻ってきてというのも、なんだかなーという感じだ。
最近は、常に何かをしてる時間と言うのがほとんどだったし、内なる欲望からも、もう少しゆっくりしなさいと言われちゃったし。
たまにはこんな時間があっても良いのかもしれない。
どうせなら、木陰に寝そべってデローンと溶けてしまうくらいの勢いで日向ぼっこしてみたいところね。でも、なんだかんだでまだ3月頭なのよね。肌寒いわ。
改めてカレンダーを見て知ったけど、この世界って毎月30日までの12ヶ月で360日なのよね。
それで学園の入学試験の応募締め切りが3月の10日とかそんなのだったはず。ここから馬車で2日か3日ほどだし、閣下が言った通り数日の余裕はありそうね。
元々はもっと余裕があったはずなんだけど、色々とイベントに巻き込まれすぎたわ。全部巻き込まれたおかげでたくさんの人たちを救えたけれど、それはそれ、これはこれよ。
「『時刻表示機能』」
『999年3月3日09時30分04秒』
うん、まだまだ日向ぼっこをするには、季節的にも早いわね。春の陽気よりも冬の残滓の方が微妙に強い感じだわ。
それに、暖なら隣にいるしね!
おニューのローブを着たリリちゃんを抱きしめる。うーん、ぬくぬく。
「お姉ちゃん」
「なあに?」
「えっとね、リリね、お姉ちゃんが作ったお水が飲みたいな」
リリちゃんの方からスリスリと甘えながらのおねだり。カワイ過ぎるわね。喉が渇いたのかしら。それとも私の出した水が恋しくなったかな?
練度の高い魔力水って、飲み水として使うと、体にスッと吸収されるからお腹に溜まらなくて、更には飲み易いのよね。あと美味しい。
けど、何となくだけど人体が取り込む際には、1度に摂取可能な限界量というのがある気がするわ。魔力の濃度的な意味で。
恐らくMPキッスと同じように魔力酔いしちゃうのかもしれない。怖いから家族には試してないけど。
だから一応飲み水として出す水は、スキルとしては50から80くらいのものを目途に、コップ1杯分を意識してる。
ポーションの素材として使うスキルラインも、たぶんその辺りが適正であると思うわ。
ただ味に関しては、それぞれで差がある。私としては誤差の範囲なんだけれど、料理をする側としてはそうでは無いらしい。
なのでその辺りのさじ加減はアリシアに丸投げしてる。なんでも、お茶を淹れるときの魔力水のベスト濃度を探すのが最近のブームらしい。それ、お茶の種類で求められる濃度が変わるとかいうキリがない奴じゃない? と思ったけど、アリシアが楽しそうだったし言うのは止めた。
アリシアの水魔法スキルは、今現在67もある。
最近魔物と出会う機会も無く、『神官』ではレベルが低過ぎてスキルが上げられないので、合流してからはアリシアの職業を『魔術士』レベル50に戻していたりする。
レベル上げをしないならこちらの方がスキル上げに適しているのだ。
ちなみに私と出会うまでの水魔法は60程だったみたいね。今もゆっくりとだけど確実に成長中だ。
閑話休題。
「でも、リリちゃんはもう、自分で出せるでしょう?」
「そうだけど……あんまり美味しくないの」
リリちゃんはビー玉サイズの『ウォーターボール』を作り、口の中に放り込んだ。けど表情がしんなりしょんぼりしてるわね。まぁ最初に作れる魔力水なんて、そこらの井戸水より残念に感じるレベルだし。
リリちゃんがこうなっちゃうのも頷ける。
意地悪しちゃおうとしたけど、だめ。カワイイからあげちゃう。
「もう……仕方ないわね。でも自分でも出せるように頑張るのよ」
「うん! ……あ、でも」
「どうしたの?」
「美味しい水が飲めるようになる為に頑張るのって、変じゃないかなぁ?」
「そんなことはないわ。魔法スキルを上げる理由は人それぞれだもの。美味しい物を食べたい為に炎スキルを頑張る人だっているわ。だからその理由も十分、頑張る理由なのよ」
「そっか!」
笑顔を見せるリリちゃんを撫で繰り回す。
生きている内に特定値以上の炎魔法で殺さないと上質な肉を落とさない魔物とかもいるし、あながち嘘ではないはず。
そう言えば皆と合流してから初日はママを重点的にカワイがって、2日目は色々あったけどアリシアをカワイがって、それからは皆を均等に愛でたつもりだったけど、リリちゃんを重点的にカワイがってはいなかったわね。
このままリリちゃんに普通に飲ませるのもなんだし……。
今、カワイがっちゃいましょ。
「リリちゃん」
「はいなの」
「せっかくだから口移しで飲ませてあげる」
ソフトボールくらいのサイズの『ウォーターボール』口に含み、そのままリリちゃんにキスをする。
「ん! ……んくっ、んぐっ」
「こくっ、こくっ」
リリちゃんに分け与えつつも自分も飲んでみる。
うーん、なんというか…… 口と舌が忙しくて水を味わってる暇がないというか、それどころじゃないって感じね。
つまりよくわかんないわ!!
「ぷはっ。……どうだった?」
「……よくわかんなかったの」
「ふふ、そう。私もわかんなかったわ」
「えー、お姉ちゃんもなの? えへへ」
「ふふっ」
アリシアから呼びかけられるまで、リリちゃんとそのまま終始イチャイチャしていた。
その後周りから遠慮がちな視線を受けて不思議に思ったら、アリシアが教えてくれた。どうやらリリちゃんとイチャイチャしていた時、領兵やメイド達が遠目から注目をしていたらしい。まるで気付いていなかったわ。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「おー、結構壮観ね」
並ぶ馬車を見て、感嘆の声が漏れる。
まずは貴族の馬車! と言えるような豪華な外装をしていて、牽引する馬がバトルホースという馬車。それが2台も。さすが子爵家。
1台目には、グラッツマン子爵と世話役のメイドさん、執事さん。更にはイングリットちゃんが乗り込む。
2台目は私達『白雪一家』専用。さっき中を見させてもらったけど、マジックテントの機能を応用したものみたいで、中の空間が歪んでいて、見た目以上に広かった。本来ならこれを使うのは領主であるべきなんだけど、是非にってお願いまでされてしまった。
お願いまでされては断れない。快適な旅を楽しもう。途中で邪魔が入ることは確定事項だけど。
そして商業用というか、人や物資を大量に運ぶために用いられるタイプの幌馬車が3台。こちらは普通の馬が2頭ずつね。1台は例の犯人たち。私が精神的にボコボコにしたから廃人1歩手前で、自分から能動的に動くことは考えられないわね。
念のため縄で縛っているけど、見張りも最低限だ。
ママもこいつらとは顔を合わせたくないだろうし、出来るだけ後ろにしておく。
2台目は護衛の領兵達がいる。
3台目はカモフラージュ用の安っぽい服を着たマネキンが並んで座っている。一応夜逃げのていだから、閣下と相談して用意してもらった。
十中八九待ち構えているであろう人狩りの連中の目を誤魔化す為。そして連中を確保した時に放り込む為でもある。用途が終わったマネキンは、マジックバッグに放り込めばいいしね。
たぶん幌馬車1つじゃ足りないから、1台目の連中の所にもすし詰めにするつもりである。
あと、夜に見たら怖そうね。そんなの見たら泣くかもしれないから、極力見ないようにしよう……。
5台の並びとしては領兵の馬車、『白雪一家』の馬車、閣下の馬車、犯人の馬車、マネキン。勿論馬車の外には、馬に乗って警護に当たる騎士様達もいる。
たぶん、人狩りの連中は夜逃げする領主一行と思って襲い掛かってくるでしょうね。時期的にも、本来『毒薬君』が破裂するタイミングだろうし。
そして犯人達を絞り上げた一昨日、人狩りの連中が居る事を知った閣下は、すぐさま街中に伝令を放ち、数日間は誰一人として王都に向かわないよう呼び掛けた。
その呼びかけの中には今後の施策であるエルフの集落との交易を始めとした流通の話、そして私たちの活躍が含まれていた。
呼びかけが実行される前に、そそくさとエルフの集落に向かったからその内容は知らなかったけど、昨日『アラクネの御手』から出た後は、頻繁に声を掛けられたわ。まぁ、その内容は気絶したママに対する心配が過分に含まれていたけど。
この呼びかけ後に街から離れていく人たちがいないかは、領兵達が目を光らせていたし、戻って来て知った私も協力する為、広大な『探査』情報をアリシア達に共有をして見てもらっていた。
でも、誰も離れなかったみたい。そこは安心できる情報でもあるわね。
だって、白縁の中に敵が混ざっていなかったってことでもあるんだから。
「『白雪一家』の皆さん、準備が出来ました。馬車に乗ってください」
「ありがとう」
私たちの馬車を運転してくれる御者さんに声を掛けられた。バトルホースに懐かれて驚かれるイベントは2度目なのでスルーした。
閣下やイングリットちゃんはもう乗り込んだあとみたい。
早速馬車へと向かおうとすると、後ろから歓声が聞こえた。振り向くと、大勢の人たちが詰めかけていた
『シラユキ様ー! ありがとうございました!』
『アリシア様、お元気でー!』
『リーリエさん、ありがとうー!』
『リリちゃん、またねー!』
そんな感じの言葉が何度も聞こえて来ていた。色んな人たちが別れや、お礼の言葉を口にしている。今回は私だけの賞賛ではなく、家族も含まれているのは嬉しいわね。
でもちょっと待って? 私にお礼を告げているのは、格好からして教会の人達よね? ……今回私何もしてないのに!?
思い当たる節をチラリと見る。ドヤ顔で頷いていた。……犯人は隣にいるのかもしれないわね。どうせ問い詰めても嬉々として布教したとか言いそうだわ。ああ、頭が痛い。
よく見ると領主様は馬車からにこやかに手を振っていた。
私達も真似よう。彼らには手を振って答え、馬車へと乗り込んだ。
はぁ、別の意味で疲れちゃった。
馬車に乗り込んだ後も、窓から見える彼らが見えなくなるまで、手を振り続けた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
特製マジックテントは、馬車にも関わらず揺れを一切感じない。旅をしてるはずなのに、とても穏やかな時間が流れているわ。テントの中でゴロゴロしているだけで移動出来るなんて、こんなのダラけちゃうわね。
まあでも、出発してすぐの場所に人狩りは現れそうにないので、今日1日は装備の作成に集中できそう。
……と思ってたんだけど。
「アリシア? どうしたのさっきから」
アリシアはチラチラとこちらを見ていた。新手の構ってアピールかしら?
「その、えっと……」
珍しくモゴモゴしてるわね。
んん? ……ははーん、そういうことね。
「アリシアも口移しされたかったんだ? へぇー」
「あっ……はい」
私の言葉に三者三様の反応を見せてくれる。
皆カワイイわね。
「うーん、してあげても良いけど……」
アリシアとママがソワソワし始めた。うーん、リリちゃんとイチャイチャするために始めたことだし、2人にも簡単にしたらなんだか軽く思えちゃうわね。焦らしちゃお。
「どうせなら私がするんじゃなくて、2人が最高に美味しく出来たと思える魔力水を私に飲ませて欲しいなー」
自分の唇をツンツンする。これで意図は伝わっただろう。ママはまだ戸惑ってるけど、アリシアの目の色が変わった気がする。
「お姉ちゃん、リリは? リリもしていい?」
「良いわよ。美味しく出来たと思ったらいつでもいらっしゃい」
「「頑張ります!!」」
「他の魔法を疎かにしちゃダメだからねー」
「ま、ママも頑張ってみるね」
火を付けるには十分だったかな? がんばって成長してくれると嬉しいわ。
なによりリリちゃんは、魔法スキルは高ければ高いほど、学園では人気者になれるだろうし。頑張ってほしいわ。
さて、皆が水魔法に夢中になっている間に、私は新しい装備品でも作ろうかな。
皆の服というか防具は昨日で完了したし、今度は武器よ!
アリシアはあの短剣で十分みたいだし、ママとリリちゃんの専用カスタマイズ品を作らなくちゃ。
マジックバッグから『神樹の枝』を取り出す。精霊ちゃん達は根っこのように生み出したけど、分類上は枝だったらしい。
弓と杖を作ろうと思うけど、序盤の装備はやっぱり木製よね。色々段階すっ飛ばして神樹スタートだけど、良い木材が他にないんだし仕方が無いわ。
「お嬢様、その枝は……」
水魔法に夢中になっていたはずのアリシアが、目ざとく見つけてしまった。
けど、無視しよう。
まずは杖から作ろうかな。
神樹と言うだけあって、触れただけでも内部に魔力が満ちていることがわかる。端材が出来ても、なるべく有効活用しなくちゃね。
風魔法で不要な部分を削り落とし、杖の形状へと整える。そのままでは少し不格好だったから、本来ならヤスリで滑らかにするべき所なんだろうけど、魔力を通して見て分かった。
この素材、魔鉱石と同じ扱いが出来そう。
と言っても私の魔力で形状を維持しているわけではないのでいつものようには行かない。霊鉄以上に硬いので力と魔力を込めて丹念にグネグネする。
納得の行く肌触りや形状が出来上がったら、あとは先端に宝石を嵌め込む。取り付けるのは先日、ピシャーチャから摘出……もといドロップして、リリちゃんの為に選んだ『フローライト』だ。
仕上げに宝石と神樹の間に魔力の回線を繋げて、魔石のかけらを随所に埋め込んで、付与の彫り込みを描いて、魔力でコーティングしてっと……。
「完成!」
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名前:紫電樹のエルダーロッド
説明:内蔵可能な魔力が最高峰のフローライトと、高品質の魔石をふんだんに散りばめられた神樹の杖。雷系統の魔法効率を増大させる効果を持つ。
攻撃力:260~295
武器ランク:6
効果:全ステータス+20。特殊効果:INT+50。雷魔法のMP消費量半減。威力3割増。
製作者:シラユキ
付与:打撃強化・魔力強化
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うんうん、良い出来ね。神樹って結構スペック高めだし、何なら雷属性のシングルではなくデュアルやトリプルも行けそうよね。でもフローライトに並ぶレベルの宝石が無かったから、今回はシングルで諦めるわ。
名前に攻撃力や効果、付与をメモに書いて、近くでそわそわしてるリリちゃんに杖ごと手渡しする。
「これがリリちゃんの武器よ」
「わぁ……」
リリちゃんはお礼を言おうとして、言葉が出なかったみたい。メモと杖を交互に見て、その性能を理解しようと必死な様子だった。
うん、そんな反応も新鮮で嬉しいわね。
アリシアは神樹を削り出した辺りから色々と諦めたような顔をしていたし、ママはメモの内容を見て固まって……いえ、動いてるわね。ちょっと諦めたような顔で苦笑いしている。
ようやく耐性が付いてきたかな? たぶん、次に来る自分の武器もこんな感じだと予想して覚悟を決めているんだわ。
さて、それじゃあそんなママにトドメを刺す為にも弓を作りましょうか。
現在ママが使っているのは、ロングボウの機能をなるべく詰め込んだショートボウだ。
ママみたいな小柄な人や、ノームのような小人が弓を使う為に編み出された武器で、本来は空想上の産物だけど、魔物素材やらなんやらで弓の性能を引き上げている。
本来のロングボウサイズになればその性能は遺憾無く発揮されるだろうけど……。まぁ、小柄な人がスナイパーをするのも利点はあるし、何よりカワイイから万事オッケー。
それで今回作るのは、ロングボウ以上に強力な合成弓を、無理やりショートボウサイズに押し込んで、本来以上の力強さを発揮させる悪魔のような弓を作ろうと思う。
うん、何言ってるのかわかんない。わかんないけどそんな感じの武器を作る。
今ママが使っているのよりは、素材や調整の都合上、どうしても少し大きめになっちゃうから、狭い場所では取り回しが難しくなると思う。でも、そもそも狭い場所での弓職は、あまり仕事がない。
なのでそんな想定を危惧するのは無意味だ。ママなら魔法もあるし、頭も良い。
自分で何とかするでしょ。
もう神樹を扱うのは慣れたもので、必要分だけ切り抜き、足りない分は魔鉱石と同じ要領でくっつけたり伸ばしたりする。
その過程で倉庫の肥やしになっていた『キラーアントの甲殻』、『キラーアントの牙』、更には『ピシャーチャの皮』を少々混ぜ込む。
魔物素材は作成の過程で魔力のパスを繋げれば、生来の魔物の能力がアイテムに宿る事がある。しかしそれは、器となる素材が、その力に耐えられるだけのキャパシティを持っていなければならない。
さすがに『ピシャーチャの皮』を大量に使ってしまうと、神樹でも耐え切れそうに無かったので、ちょっぴりだけ使った。魔物の能力が出るギリギリのラインで。
あと、倉庫の肥やし2号である邪竜は、属性からして相性最悪なので、見送った。
色々な素材を混ぜたことで合成弓としての条件は達せたので、最後にママが選んだサファイアを中心に嵌め込んで、魔石のかけらを全体に散りばめた。
今使った分でポルトの闇ギルドで得た魔石の大部分を消費してしまった。ま、王国に行けばまた補給出来るでしょ。
本体が終われば次は弦だ。でも普通の糸では、この凶悪な本体に耐えきれず、千切れてしまうだろう。この武器に合う耐久性の高い紐となると、昨日作った霊鉄線が丁度いいわ。
素材的にはエルフ専用も作れそうだけれど、どうせアリシア用に作るのなら、魔物素材の合成弓より霊銀をメインにした機械弓を作るべきかもね。ま、それはおいおい考えましょ。
糸を取り出した辺りから、またアリシアの視線を感じるけど、それも無視しましょう。
弦も張り終えたし、あとは本体に印字を彫り込んで、魔力コーティングしてっと。
「完成!」
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名前:蒼魔弓のエルダーボウ[至高]
説明:水の魔力を纏う矢は使い手の意思を受け、迫り来る敵を容赦なく打ち砕く。その一撃はまるでキラーアントの鋭利な牙を思わせる。更に使い手は、暴食王の加護も得られるだろう。
攻撃力:445~495
武器ランク:10
効果:全ステータス+60。特殊効果:STR+50、DEX+50、VIT+100。HP自動回復
製作者:シラユキ
付与:刺突強化・魔力強化
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あっ……壊れてるわ。バランス崩壊的意味で。
やっちゃった。てへ。
……うーん、張り切りすぎたかなぁ。ハイクオリティの意味を冠する『[至高]』までついちゃった。
素材に関してもキラーアントだけならまだしも、ピシャーチャはやりすぎかなぁ。でもせっかく使えるチャンスだったし、これに見合う素材もなかったし。
いやまあ、解体出来ていれば毒竜『ニドヘッグ・フィラー』の爪とかが丁度良かったんだけど。あいつはいまだに五体満足なままだし。
ランク2桁は、説明文の雰囲気もガラッと変わるのよね。2桁武器を使い始めると、文字通り世界が一変するから、説明文も本腰が入るみたい。
あと、ママの事を考えて、もう少し5~8の辺りで慣れさせてから作るべきだったかもしれないわ。
でも出来ちゃったものは仕方ないわ。うん、仕方ない。
……完成した武器の前で言い訳を考えていると、皆が心配そうに聞いてきた。
「お嬢様、大丈夫ですか……?」
「あ、えっと、その……」
何て言おうかな。いや、ほんと何て言おうかな。
ママショック死しちゃわないかな? しどろもどろになっているとママが優しく頭を撫でてきた。
「シラユキちゃん、もしかして失敗しちゃったとか? それならママは気にしないわ。今まで上手く出来ていたのが凄い事だもの。シラユキちゃんが気に病むことはないわ」
「そうなの! お姉ちゃんはすごいの!」
どうしよう。てかなにこの空気。言いづらいっ!!
「……いえ、お嬢様は失敗したわけではなさそうです。別の意味で居た堪れなさそうな顔をしています」
「あら、そうなの?」
「そうなのー?」
さすがアリシア。私の事をよく見てくれてる……。でも何か言いにくいし、ちょっと確認はしておこう。
「あー、アリシア? 聞いておきたいんだけど、私に出遭うまでアリシアにとっての業物は、武器ランクとしていくつくらいの事を指してた?」
「……3から5ですね」
腰に下げた短剣をチラ見した上で答えてくれた。
「じゃあ、貴族が持っていて威張り散らすレベルは?」
「6や7ですね」
「国の保管庫にあるのは?」
「8とは聞いたことがあります」
「……」
「……」
今更だけど、この国弱っ!!
和国なんて、業物呼びすらされない市販の武器ですら、7や8は当たり前なのに……。
そりゃ、こんなレベル水準の低い国、魔族もちょっかいをだして遊び場にするわけね。
「……ふむ」
真面目な顔のアリシアと目が合う。……真面目な顔のアリシアもカワイイ。好き。
あっ、目を逸らされた。
「お、恐らく今までで一番の、会心の出来だったのではないでしょうか。ですがお母様に気を遣って言えなかったのではと。あまりの性能に」
「ええっ、そうなの!?」
「そうなのー?」
「……正解」
アリシアしゅごい……。
「アリシアちゃんの武器でもランク6だったのよね。防具も7から9、だったし……。すーっ、はーっ、すーっ、はーっ……」
ママが大げさに深呼吸をしている。そして覚悟を決めたような、戦闘中のような眼をしてこちらを見た。いや、別にそこまでし……いや、そこまでしなきゃママは耐えられないわ。きっとたぶんそう。
「シラユキちゃん、良いわよ。いつでも来なさい!」
「あ、うん」
でもたぶん無理だろうなって思ってます、はい。ママだし。
そう思ってたからか気の抜けた返事をしてしまった。
そんな中ママは1人覚悟を決めた顔をしているけど、その後ろでアリシアは何かを察したような悲しい目をしているし、リリちゃんは枕と毛布を用意し始めた。
先ほどの性能と『[至高]』に至るまで、全てを明記した紙をママに見せる。
まず『[至高]』の文字の部分で10秒ほど固まり、説明文でフリーズし、1分ほどかけて解凍したと思いきや、攻撃力とランクで後ろへと倒れてしまった。リリちゃんがセッティングした枕の位置へと丁度収まったみたい。
その後、落とした紙をアリシアとリリちゃんが覗き込み、2人共フリーズした。再起動を果たしたアリシアから、悲しい目をしたまま言われた。
「……やりすぎでは?」
「……うん、ごめんなさい」
『ママの寿命が心配だわ』
この作品が面白いと感じたら、ページ下部にて評価していただけると嬉しいです!




