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異世界でもうちの娘が最強カワイイ!  作者: 皇 雪火
第3章:紡績街ナイングラッツ編
82/252

第080話 『その日、仲直りした』

「んんー! ……はふう」


 数時間ぶりの日の光を受け、身体を伸ばし、よくほぐす。

 あの後ギルドの人から、魔物が沢山いる場所を教えてもらい、根絶やしにする勢いで討伐しに行った。ぶっちゃけ殲滅した。

 場所としては、街に流れる川に沿って進んだ先にある、洞窟だった。案の定そこも毒が溜まりに溜まっていて、ナイングラッツの街よりも瘴気が酷かった。と言っても森ほどではないけれど……。

 半アンデッドと化した魔物や魔獣相手に、切った張ったの大立ち回り。


 敵は全て、刀スキルを上げるために切り伏せた。ちょっと腐ったような臭いのする返り血もいっぱい受けたけど、すぐに『浄化』すれば臭いは残らないし、さっきまではストレス発散のために暴れていたからあまり気にならなかった。


 むしろ久々に刀を振り回して、とっても楽しかった。

 ……魔力で出来た武器だから、実物ではない分、振りや握りの感触でやっぱり違和感が出るし、本当は本物を振り回したいところなんだけど。安物を仕入れたところですぐに血脂でダメになっちゃうだろうし、ちゃんとした環境で刀を作りたいわね。

 あと、返り血を受けるのはデメリットばかりではない。いっぱい受ける事で伸ばせるスキルもあるからだ。これを機にと沢山暴れた。こんな姿、さすがに家族に見せるとドン引きされちゃうし。


 毒の川によって変質してしまった部分はあったけど、他は普通の……うん。何処にでもありそうな、魔物の多い洞窟だった。特別お宝とかはなかったし、強い個体の魔物とかも、付近のレベル帯からすれば少し高い程度のものだった。

 正直言うと面白みに欠けるところではあったけれど、ストレス発散になったから良しとしよう。


 あと、きちんと『浄化』で毒も血も死骸も、素材や討伐証以外の不要部分は全て塵に還した。なのであの洞窟は、いまやもぬけの殻だわ。

 『探査』に赤色が映らなくなるまで暴れまわったもの。

 生態系を崩したと言えばそうなるけど、街の近くに魔物の巣があるほうがよくないし、きっと平気よね。うんうん。


「あー、もう夕方か。帰って……うう、アリシアと顔を合わせ辛い」


 やっぱり言いすぎちゃったかな。あんなことをされたら、思い出すだけでも嫌だけど、まだ1回目なんだし、注意するだけでも良かったような……。

 アリシアの事が好きすぎて色々と要求しちゃってるとこ、ある、よね……。冷静になると自分がどれだけ酷な事を言ってしまったのかを思い出し、自責の念で押し潰されそうになる。

 アリシアが一時期、私に完全さを求めていたように、私もアリシアに対して、完璧さを求めていた……ってことよね。


 自己分析としてはこんなところかしら。

 うん、私、人のこと言えないし、ダメな主人だわ。


「帰ったら謝らないと……ああ、でもアリシアの反応が怖い。ママに仲介してもらおうかな……」


 あーだこーだと言いながら街へと向かった。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 ギルドに入り、そのまま受付嬢の所に向かう。


「あ、シラユキさん、おかえりなさい。魔物の巣の様子はどうでしたか?」

「殲滅したわ。はいこれ」


 討伐証と素材でいっぱいになったマジックバッグを提出する。素材に関しても、今後必要になりそうなものはメインのマジックバッグに収納している。不要な素材や、少し質の良くない物は全て売るつもりだ。


「……え、殲滅、ですか?」

「ええ、川は全て『浄化』して綺麗にしたわ。毒に汚染された洞窟の内部も、魔物も魔獣も全部ひっくるめて、まるごと綺麗にしたわ。もう子供が遊びに行っても安全に帰ってこれるくらいには、問題のない洞窟になったはずよ」


 リポップしなければ、だけど。

 この世界に来てからリポップの条件がよくわかっていない。まあゲーム時代と現実はその辺りほぼ間違いなく異なっているだろうけど、どう異なっているかがまるで分らない。偉い人なら知っているだろうか?


「洞窟に近寄ると魔物に襲われる被害があったため、そのお話が本当なら、すっごく街の人達も助かると思うのですが……まずはこの査定からさせて頂きますね」

「ええ、山ほどあるから、結果は明日以降でも構わないわよ」

「そんなにあるんですか? ……うわ」


 マジックバッグに手を突っ込んだ受付嬢さんが驚きで固まってしまった。うん、私もやり過ぎたかもしれない。ただ、討伐に掛けた時間と回収作業をしてた時間、3対7くらいはあるのよね。

 だから、そこまでは、酷くない……と思う。


「それじゃ、私は帰るわねー」


 まだ何か言いたそうな受付嬢を放置して宿へと向かう。『探査』で見る限り、宿にいるみたいね。家族以外も居るみたいだけど、これはイングリットちゃんに、イースちゃんにキース君も居るわね。

 ううーん、井戸の方はどうなったのかしら。宿でのんびりしてるということは、何かしらの決着がついたのかしら? それとも疲れ果てて休憩中?


 ……いえ、結果はどうあれアリシアにはきちんと謝らなきゃだわ。

 アリシアならこれくらいは出来ると信じて、それが出来なかったからって勝手に失望して当たり散らすなんて最低だわ。


 宿に入り、一直線に部屋へと向かう。

 今泊まっている部屋は宿の最上階。ワンフロアの半分を使用した豪勢な部屋だ。宿屋の主人からのご厚意で、使ってほしいと言われたわ。

 どうやらアリシアが頑張って助けた人の中に、この宿の親族が居たらしい。お金は有り余っているけど、遠慮なく受け取る事にしたのだ。


 部屋の前で一度深呼吸をし、勢いよく部屋に入る。


「ただいま!」

「おかえりなさいませ、お嬢様」


 部屋の入り口近くで待ち構えていたアリシアが、腰を45度折り曲げ、お辞儀をしていた。


 両者の間で、少しの間沈黙が流れる。

 ママやリリちゃん達がこちらを見てソワソワしている。一緒にいたんだし、話は聞いたってことよね? ……うん、私がやっぱり言いすぎたわよね。


「あ、あのねアリシア」

「お嬢様、この度は申し訳ありませんでした」

「……」

「出来る事をした、つもりになっていました。実際にはまだ出来ることや試していないことが沢山あったことも気付けず、お嬢様に全て任せきりにしてしまいました。また、家族の事も侮り、信頼出来ていませんでした。このような失態、お嬢様がお怒りになるのは尤もです。もう2度と間違いを起こさないよう注意しますので、どうか、どうかお許しを……」


 頭を下げたまま、アリシアは告白した。

 うん、ちゃんとアリシアからは反省の気持ちが痛い程に伝わってきたし、私が何に怒ってたのかを理解してくれてるみたい。

 アリシアに先を越されたけど、ちゃんと言おう。


「私も貴女に伝えたいことがあるの。さっきは怒鳴ってごめんなさい、それに酷い事も言ったわ。私の理想を押し付けて勝手に失望して、本当にごめんなさい」

「お嬢様……いいえ、いいえ! 従者として、そして……家族として、あのような行為は咎められて当然です。それに理想の押し付けは、私もしてしまった事がありますし……」

「……そうね、そんな事もあったわね。私はもう、アリシアがいないと生きていけないわ。もう怒っていないし、貴女を捨てるなんて有り得ない。だからずっと一緒に居て。お願いよ、アリシア」

「お嬢様……。はい、ありがとうございます。ずっとおそばに……」


 アリシアと抱き合う。しばらくそのままでいると、アリシアが何か言いたそうだったので、ハグを緩めた。


「あの、改めて誓いを立てさせて下さい」

「ええ、受け取るわ」

「私アリシアは、今後どのような困難に当たっても、私自身の力を使い、お嬢様のお役に立ってみせます。もし私の力及ばずとも、簡単にあきらめず、試行錯誤し、それでも足りなければ周りの力も借りて、お嬢様の隣に立ち続けられるよう努力し続けることを誓います」


 アリシアの宣言に頷く。


「私も誓うわ。私がこの先どんな道に進もうと、一番のメイドは貴女だけよ。だから、ずっとそばに居なさい」


 私の宣言にアリシアが頷く。

 そしてもう一度ハグをして、改めてキスをする。

 今回は『MPキッス』を遠慮なく使う。でも、前みたいに気絶させないように、加減はするけど。


 唇を離すとアリシアは高揚し、息も絶え絶えだったが、その笑顔はとてつもなく妖艶で美しかった。

 もう一度しようかと思ったけど、我慢我慢。強めに抱きしめて、背中をさするくらいに留めておいた。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 その後、ママから軽めのお小言を貰い、数日ぶりの家族会議を開く事にした。昨日はなんだかんだで出来なかったし、井戸の件も報告を受けなきゃね。

 今回は家族だけでなくお客さんも参加している。今は食事用の大きめのテーブルを、皆で囲んで座っている状態だ。イングリットちゃんのお腹が張ってる? なんだかちょっと苦しそう……。大丈夫かしら。

 心配して聞いてみたけど、魔力回復のポーションをたらふく飲んだみたい。お腹に溜まるってことは低級とかそこらのかしら。勿体ないわね……素材さえあれば最高級と行かずとも、高品質くらいのは用意できるのに。

 

 さて、家族会議だけど、基本的に私に関わる内容は秘密事が多いわ。でも、彼女達になら別に聞かれて困ることはないし、なんなら一緒に寝ても……え、今日はダメ?

 アリシアに目で制された。理解されてるのが嬉しかったので、愛情たっぷり込めた目で見つめ返したら、照れていた。

 伝わったみたい。カワイイ……。


 そのままアリシアに手を伸ばそうとすると待ったを掛けられる。


「シラユキちゃん、アリシアちゃん。そういうのは終わってからにしてね。今日はお客さん居るんだからね」

「はーい」


 怒られちゃった。でもでも、私今、すごくアリシアにベタベタしたい気分なんだもの。

 終わるまで我慢出来るかなぁ?


「ごめんなさい、お母様」


 ……おや? アリシア、ママに対してなんだか柔らかくなったような。気のせいかな?

 リリちゃんに対しては、前々から甘やかしが滲み出てたから、変化ない気がするし、気のせいかな。気のせいかも。


「それじゃあ私から!」


 そう言って挙手する。今日の私はちょっと荒れてたから、したことと言っても単純明快だったから、報告もすぐ済むと踏んでのものだ。


「はい、シラユキちゃん」


 今日はママが司会を務めるみたいね。なんだか家族会議全体もほんわかしてる気がするわ。


「今日はちょっと、私荒れててごめんなさい。みんなには心配をかけたわ」


 皆、首を振って否定してくれた。イングリットちゃんも合わせてくれる。良い子だわ。エルフの姉弟も事情は聞いているらしく、にこやかな雰囲気だ。


「それで、別行動した私は、川をもっと下りていった先の洞窟まで行ってきたの。そこが魔物の巣になってるって話だったから、憂さ晴らしに魔物や魔獣は殲滅してきたわ。弱かったけど、数はいたから楽しかった。終わり!」

『……』


 ママは遠い目をし、リリちゃんは目を輝かせ、アリシアとイースちゃんはうんうん頷き、キース君は苦笑いし、イングリットちゃんは困惑してた。

 うん? なんか変なこと言ったっけ?


「シラユキちゃんはいつも通りなのね」

「うん? そうかな?」


 ……というか何が? いつも殲滅したりはしてないわよ?


「では私も、お嬢様に報告を」

「うんうん、どうなったの?」

「イングリット様やお母様、リリの協力のおかげで、無事全ての井戸を復旧出来ました!」

「お、おおー! ……え?」


 復旧まで漕ぎ着けたの!? どうやって?

 リリちゃんもってことは、雷魔法で壊したのかな?

 あれは見た限り、壊したところで大して酷いことにはならないけれど、それでも井戸は完全に破壊されるはず。そのあと井戸を復旧させたのかな?

 かなりの重労働ね!?


「回収した魔道具は全てこちらのマジックバッグに収納しています。この処理はお嬢様にお任せしようかと」

「えっ? 処理ってことは、もしかしてまだ動いてるの?」

「はい、傷付けないよう回収したので、マジックバッグから出せばまた稼働し出すかと」

「無傷で回収!? ええ……?」


 壊したわけじゃ、ないの??


「アリシア、話が見えないから最初から話して」

「はい、畏まりました」


 アリシアは満面の笑みで答えた。



◇◇◇◇◇◇◇◇


 一通りの経緯を聞いた。魔道具である事を突き止めたという時点でリリちゃんを褒めてあげた。けど、その先の水魔法で持ち上げるという流れに関しては完全に予想外。

 そりゃ、出来るか出来ないかで言えば出来るけど、まさか家族がそんな発想をして更には完遂出来ちゃうなんて。

 私が想定していた解決方法はかなりの力技だったから、もっと簡単にクリアした彼女達にそれを説明するのはちょっと恥ずかしい。やっぱり1人の発想だと限界があるのね。

 今回アリシアはそれを学んだけど、私も学ばなきゃ。


「それで、お嬢様はどのような解決方法を考えていたのですか?」

「ええっ、それ聞いちゃう?」

「はい、気になりますので」

「力技だから、立派な作戦でもないし、最後には壊しちゃうつもりだったわ。だから、皆の努力でなし得た今回の結果には遠く及ばないの。つまり、恥ずかしいから言いたくない」

「……そうですか。今回、お嬢様が手放しで褒めてくださいましたし、それだけで十分ですね」

 

 アリシアが、ママやリリちゃんをチラリと見やる。


「うん!」

「そうね、皆で得た結果よ」


 ほっ、言わなくて済んだわ。まあアリシアのことだし、本気で気になるなら、この後内緒で聞いてきそうだけど。

 そのくらいなら答えてあげても良いわね。恥ずかしいけど。しかもそれは場合によっては井戸が壊れるから、欠陥もあった。やらなくて正解だったわ。

 そう思っていると、リリちゃんがおずおずと手を挙げた。


「あのね、お姉ちゃん」

「どうしたの?」

「リリね、マジックバッグで捕まえる役目だったけど、もっと役に立ちたかったの。リリ、他に出来ること、何かあったかな」

「うーん、そうね……。あれが魔道具だって気がついたのは大手柄だと思うけど……」


 まあ冷静になったアリシアなら、そのうち辿り着いていた可能性が高いのよね。だから私もあの時怒っちゃったんだけど。……うん、反省。


「一応、リリちゃんが役に立てるポイントはあったわ」

「ホント!? 教えてほしいの!」


 と言っても、最初から思いついていたとかじゃなく、皆の解決方法を聞いて浮かんだ案だけど。


「手があったの? ママも何度もこなす内にあれが一番良いと思っちゃってたけど。そのせいでイングリットさんには負担をかけてしまったわね」

「ふふ、どうかお構いなく。私も良い勉強になりましたから」

「まあ、それが良いかどうかはともかく……」


 アリシアや他の皆も気になっているみたいだし、説明しますか。水魔法と土魔法で、小さな井戸の模型をテーブルの中心に作るところから始める。

 といってもミニチュアみたいな物だし、物の数秒で出来上がった。


「とりあえずこれが井戸と仮定するわ」


 この時点でお客さんから驚嘆の声が漏れ出る。リリちゃんとママも興奮してるみたいだし、アリシアは興味深そうにしている。

 まずはその井戸の中に、小さな鉄片を放り込む。


「今入れた鉄片がその魔道具の」

「『毒薬君』です!」

「ど、『毒薬君』とするわ」


 イングリットちゃんからすかさず合いの手が入る。ううん、独特な名付けね。

 そのまま紐のように細い水の棒を差し込み、ママがやったように鉄片を水魔法で掴み取り、途中まで上に持ち上げる。


「ここまでは良いわね?」

「はいなの!」

「さてリリちゃん、貴女の覚えた魔法で使えそうなのは?」

「雷は壊しちゃうから、土なの?」

「そうね、雷はどれだけ工夫しても魔道具との相性は最悪なの。それを使った瞬間、規模はどうあれ弾け飛ぶわ」


 リリちゃんは以前注意した事を覚えてて、実行しないでくれていたのよね。優秀だわ。


「じゃあ問題よ。井戸は何で囲われてる?」

「えっと……石のブロックなの?」

「そうね、じゃあ石は何で出来てる?」

「えっとえっと、土!」

「そうよー」


 リリちゃんを撫で回すけど、まだ不思議そうな顔をしているわね。


「でも、石の壁を使ってどうするの?」

「簡単よ。ママと同じことをするの」


 そう伝えて、鉄片の下、中空になっている場所に石壁から棒状に伸ばした石を、✖マークでクロスさせ、下へ落ちないよう封をする。そしてその中心部を少しへこませた。

 水魔法を解除し、鉄片が✖︎マークの窪みに入った事を確認したら、あとはその✖マークを上へとズリズリ動かしていくだけだ。最後に鉄片を指で摘んで軽く掲げる。


「こんな感じね」

『おおー!』


 皆から拍手される。照れるわね。えへ。


「ママが途中で落としそうになったって話もあったし、✖︎印を上へと移動させず、休憩ポイントを作るだけでも十分貢献出来たわ」


 力技で、最初から井戸の底から持ち上げてくるって事もやろうと思えば出来る。かなり大技というかアレな方法だけど。

 リリちゃんは出来ることはあったけど思い浮かばなかったことが悔しいみたい。ちょっとしょげちゃってるわ。けど、その方法も今の力技も、推奨は出来ない。


「リリちゃん、落ち込まないで? 今の方法はしなくて良いというか、しちゃダメな部類の物なのよ」

「えっ、どうして?」

「だってそんなことしたら、井戸が2度と使えなくなっちゃうじゃない」

「あっ」


 皆も形状が変化して使えなくなった井戸を想像出来たみたいね。私みたいに直せるならその手段もありだと思うけど。

 皆が感心している中、1人アリシアは先程から物思いに耽っていた。多分さっきの、石壁を操作する解決法を何通りか考えているんでしょうね。そんな感じの顔だわ。


「しかしシラユキ殿の発想は本当に豊かだな。土魔法でこのような方法を浮かべられるとは」

「そうですね、リト草や鉱石の採集なども土魔法でしたし昔から得意なのでしょうか?」

「そうでもないと思うわ。子供の頃、土遊びや泥遊びとかしたことない? それで色んな形状にコネコネして遊んでいれば、自然と思いつくと思うな」


 まあこれは、魔法のない世界であんな風に出来たらなと思いながら遊んでいたからこそ出来る発想かもしれないわね。


「土遊びか、久しくやっていないな。……キース、集落に帰ったら長老に相談しよう」

「まさか姉さん、日課にする気じゃ……」

「そのまさかだ。頭を柔軟にするには、それくらいしなければシラユキ殿のようにはなれんぞ」

「確かにちょっと楽しそうだね。毎日は少し厳しいけど、数日おきに1度は訓練に取り入れてみようかな」


 エルフ達が土遊び……何その光景、面白そう。

 姉弟の会話に触発されたのかリリちゃんとママ、アリシアとイングリットちゃんでそれぞれ土遊びに関して話している。

 それぞれに耳を傾けてみると、リリちゃんは私のミニチュア井戸みたいなものを作ってみたいらしい。そしてイングリットちゃんは、王都にある孤児院を思い出しているみたいだった。孤児院かぁ。腕白坊主がいそうなイメージね!


 土弄りが方々で盛り上がる中、ビシッとイースちゃんが手を挙げた。


「折角この場に参加させていただいたのだ、私も報告させて頂いても構わないだろうか」

「勿論よ、イースちゃん達がどうなったかは私の頑張りの1つだし。ある程度までは見届けるつもりよ」

「有難い。報告の前に、同胞よ。素晴らしい主人に巡り会えたな。我らからも祝福させてくれ」

「おめでとうございます」

「ありがとうございます。これから私の全てを懸けてお仕えし、支えていく所存です」


 えへへ、嬉しい。


「うむ、では改めてになるが、ナイングラッツの森に住むエルフの集落代表としてやってきたイースだ。こちらは弟のキース。この度私達エルフの民は、シラユキ殿に命と尊厳を守ってもらった。お返しする事もままならない状況だが、シラユキ殿のご厚意に甘え、紡績街ナイングラッツとは友好を結びにきたのだ。先日シラユキ殿のお力添えも有りギルドマスターとは話がついたのだが、領主殿はご多忙のため中々出会えそうにないというのが現状だ」


 ふむ、そういう状況なのね。

 というかあの森にも川や街と同じ名前があったなんて。普通にエルフの森とか呼んでたわ。恥ずかしい……!


「それなら明日、一緒に行きましょう。そろそろ私も会っておきたいところだし、例の連中にもちょっと()()をしないといけないのよね」

「そうですね、子爵閣下には十分な時間を与えましたし、そろそろ良いのではと思います。では明日、皆で領主の館に行きましょうか」

「異存なし!」

「ママ達はどうしよっか」

「お買い物なの?」


 ママ達は奴らに会いたくないかな。でも明日は一緒に来てもらうわ。最悪外で待ってもらえればいいし。


「あ、ママ達もついてきて。領主と会ったら、そのまま皆でエルフの森に行きましょう。この2人を送り届けるっていうのもあるし、様子も見たいし報酬も受け取りに行く必要があるから」

「リリ達もエルフの森についていって良いの?」

「私の家族なんだから、当然よ。ね?」


 イースちゃんとキース君を見やる。2人共気持ちの良い笑顔で頷いてくれた。


「ああ、勿論だ」

「皆さん、大歓迎ですよ」

「お嬢様、実はイングリット様とは王都まで一緒に行くという話になっているのです。折角ですので後学のためにも同胞の集落にお連れしても構いませんか?」

「そうなんだ。全然構わないわよ」


 本当に気に入ってるみたいね。アリシアが彼女を気に入った要素ってなんだろう?


「お誘いはとても光栄なのですが、部外者の私が参加しても、宜しいのですか?」

「良いわ。アリシアが貴女のことを気に入ってるみたいだし、1人増えたところで問題ないでしょ」


 エルフの姉弟も頷いている。というか、彼らエルフは、私やアリシアの知人を拒む事はなさそうなのよね。


「あ、それと確認なんだけど、アリシアは『浄化』しきれなかったところとか無かった? もしあるなら私がやってくるけど」

「その点ならご安心を。子爵閣下にお伺いしていた箇所は終わりましたし、井戸の魔道具は全て回収しました。今の所は問題ないかと」

「アリシア、ホント優秀ね! でも無理だけはしないでね? 貴女が倒れたら私泣いちゃうから」

「! はい、絶対に無理はしないとお約束します」


 泣くと言ったら一瞬ビクッとしたけど、もしかしてトラウマに……。

 そんな事、ないよね?


 あと、出来そうな事をやっていないと怒るとか、最低な事を今朝したばかりだから、今の無理はしないでと言う言葉は、ちゃんと届いたかか分からないわね……。


「ご安心ください、お嬢様。きちんと届いておりますので」

「ホント? ほんとにホント?」

「はい」


 眩しい笑顔にクラッと来る。

 もうアリシアに考えが読まれても驚かないわ。だって私のアリシアだもの。


「アリシア……」

「お嬢様……」


 アリシアと見つめ合い、同時に近寄り抱きしめ合いキスをする。


「はい、じゃあ2人の世界に入っちゃったから、今日の家族会議は終了ね。あ、シラユキちゃん。果物あったら頂戴。皆で頂くから」


 腰に取り付けたマジックバッグを取り外し、テーブルの上に放り置く。そのまま私はアリシアと一緒にベッドに飛び込んでイチャイチャしだしたのだった。


『アリシアと仲直り出来て良かったわね、マスター』

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