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異世界でもうちの娘が最強カワイイ!  作者: 皇 雪火
第3章:紡績街ナイングラッツ編
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第078話 『その日、初めての折檻をした』

 温もりに包まれ、心地良い目覚めを迎える。腕の中には抱き枕になったママ。正面にはリリちゃん、背後には、見えないけどアリシアの熱を感じる。

 すやすやと寝息を立てる母娘を眺めながら、昨日の出来事を思い出す。


 ギルドでは簡略化した話の経緯しか聞けなかったが、宿で食事をとってからは皆がそれぞれどんな活躍をしたのかを聞かせてくれた。恐怖に抗って頑張ったママの事は沢山褒めてあげたけど、教えていない魔法の認識とイメージを自分なりの解釈で理解して、『浄化』の質を数段階引き上げたアリシアが、私としては一番凄いと思う。

 素直にそう伝えると、アリシアが嬉し泣きしてしまった。アリシアは涙脆い気がするわ。ここ最近はほぼ毎日泣いてる気がする。泣いてる姿がまた綺麗で、思わず心のシャッターを何度も切ってしまった。


 今朝、内なる欲望(シラユキ)とは主にその件……アリシアの美しさと、家族の大事さ。そして如何に今後別行動を取らないで済むかの議論で盛り上がった。

 結論としては、錬金釜で作る事が出来る、パーティシステムにおける経験値の分配を、総取り出来るアイテムの開発を急ぐという話になった。それが間に合わなければ、何とかして抱き枕を確保するという結論に至った。

 その総取りアイテムは、錬金術スキルはそれほど高くないというのが利点だ。学園に入ったら作らなきゃいけないアイテムの、心のToDoリストに入れておこう。


 そしてリリちゃんは、お手伝いを頑張っていたと聞く。リリちゃんに教えた魔法は、雷と土の2つだけだ。

 正直この2つは、生活に役立てるポイントがほとんどないので、今回リリちゃんは役に立てずに腐っていたりしないか心配だった。でも、ポルトに居た頃は魔法がない生活が当たり前だったので、住人の介護をする際は、何も問題はなかったらしい。

 アリシア曰く、ママとリリちゃんは息ぴったりで、以心伝心だったとか。お互いが次に何をしてほしいのかなど、言葉はなくとも伝わるという関係は、うらやましいとも言っていた。

 私とアリシアも以心伝心だよ! と伝えると、アリシアは困惑していたが、ママもリリちゃんも同意してくれた。まぁ、私が一方的にアリシアを理解しているところが多いから、まだまだこれからだと思うけどね。


 そして最後に私がどんな活躍をしたかを子守唄に、皆で仲良く就寝したのだった。


 さて、回想終了。

 ママとリリちゃんはまだ寝ているけど、ハッキリとわかることがある。アリシアは今、起きていて、背後でスタンバイしているという事だ。

 まだ頭はちょっぴりぼんやりしているけど、昨日と違って前も後ろも心地よい温もりがあるため、そこそこ頭は冴えてきている。


 でもやっぱり、この日課が無いと心が落ち着かないわ。あんまり朝からアリシアを困らせるわけにもいかないし……。

 ()()()()。しましょうか。


 後ろへと寝返りを打つと、視線が合う。

 目覚めの挨拶の代わりに互いの唇が重なった。

 舌が絡まり、昨日の分も一緒にしてしまおうと、貪りあう。

 普段よりも長く、永い時を経て、終わるころにはお互いに息切れをしていた。


「お、おはよう、アリシア」

「んんっ、お、おはようございます、お嬢様」

「止め時がわかんなかったわ」

「私もです。ですが、苦しくはありましたが、嫌ではありませんでしたよ」

「それは私もよ」


 もう一度唇を重ねる。今度は啄むような、軽いものだ。


「やっぱり朝は、アリシアがいないと始まらないわ」

「光栄です。私も昨日は、少し物足りなかったです……」


 んもう、何でそんなこと言うかなー。歯止めが利かなくなるじゃない!


 その後、納まりがつかなくなったので、今度は私がアリシアに覆い被さり、彼女を求めた。キスの応酬が永遠に続くと思われたが、起きるタイミングを窺っていたママに肩を掴まれ「ほどほどにしなさい」とやんわり怒られてしまった。


 しょんぼりしているとママがすかさず頬に朝の挨拶をしてきたのでお返しする。そしてリリちゃんも甘えてきたので甘え返す。


 ルームサービスで部屋に運んでもらった朝食を摂りながら、昨日の続きをリリちゃんが求めたので、話の続きをすることにした。


「お姉ちゃん、あのね、昨日言ってた竜ってね、解体とかはもうしちゃったの?」

「ううん、そんな暇はなかったし、『浄化』したといっても毒の塊のようなやつだから、なるべく周りに被害の出ない場所でやりたいの」

「そうなんだ……。ちょっと見るだけでも危ないの?」


 昨日、竜の話が出た時、リリちゃんは目を輝かせていたし、多分見てみたいのよね。でもごめんね、安全を確保するまでは見せられないのよね。


「ええ、危ないわ。属性を冠する炎竜や水竜とかなら、別に死骸はどうってことないんだけど、毒竜や邪竜は死んだ後も気を使わなきゃいけないのよねぇ……」

「面倒な相手なのですね」

「昨日ギルドを見回したけど、周辺の魔物は大人しい部類が多いから、解体場の規模も小さそうなのよね。だから、毒竜の解体とお披露目は王都についてからになりそう」

「そっかー」


 でもココの領主やギルドマスターは、役職上確認が必要ではあるのよね。毒にかかる可能性に了承してもらってから、私とアリシアで全面的にバックアップするとか?

 はぁ……面倒ね。


「お嬢様、ある程度の危険はお2人共ご理解されているでしょう。お嬢様が気を揉む必要はありませんよ」

「そうよね、ありがと……え? 私今、口に出してた?」

「いいえ、勘でございます」


 アリシア、しゅごい。


「やっぱりお姉ちゃん達は通じ合ってるの!」

「そうね、お互いの考えが分かっちゃうものね」

「光栄な事です」


 照れるアリシアがまたカワイらしく、再び私はアリシアに引っ付くのであった。



◇◇◇◇◇◇◇◇



「それで、ここがその井戸な訳ね」

「はい、このような場所が街に何カ所もございます」


 私は朝食を食べてから、アリシアと2人で件の井戸までやってきた。ママとリリちゃんはギルドに向かい、他の用事を済ませてもらっている。

 井戸にはポンプが取り付けられているが、そのポンプの蓋の隙間から、若干の瘴気が漏れ出ているのが見て取れた。これが爆弾か、ふうん?

 確かに時間が経過して瘴気が溜まれば、そのうち蓋を破損させ、瘴気の煙が爆発して広がっていく()()()()()()わね。

 まだ中を覗いてないし、確証は持ててないけど。


「お待たせしました!」


 イングリットさんがパタパタと走ってくる。修道服で走るのって大変そう。そして盛大に()()()()。凄い。


「別に構わないわ。時間に余裕もあるし、ここで魔力の行使の仕方を教えましょうか」

「はいっ、よろしくお願いします。シラユキ様!」


 深々とお辞儀をするイングリットちゃん。うーん、でかい。

 そのまま2人を連れて、井戸から少し離れた土手に座り込み、じっくりと魔法の行使をレクチャーする。『神官』の子に教えるのはなんだかんだで初めてだった。今までは『リカバリー』の魔法書を配るだけだったしね。

 けどまさか、魔法の行使が神への祈りパワーによるものだと考えているとは思わなかったわ。

 まぁ、思い込みっていうのもイメージ力に繋がるわけだし、それを否定するつもりは無いんだけどね。アリシアも似たようなところあるし。


 30分程で、神聖魔法と複数の属性魔法の扱いに慣れさせたところで、レベルの上げ方を伝えてレクチャーは完了だ。


「王国に戻りましたら、恐らく次の辞令が下されるはずです。その時に、必ずこの教えを生かしてみせますね」

「誰かとパーティを組むの?」

「はい、恐らく王族の方々や上位貴族の後継者達のパーティに、護衛として参加すると思います」

「ふぅん、学園の外部協力者の位置付けか。それなら、また会えるかもね。最後にもう一度伝えるわ。後ろで回復ばかりしていてはレベルは上がらないわ。前に出て直接殴ったり、攻撃魔法で支援することを忘れないでね」

「はいっ、シラユキ様。きっと立派な『聖女』になってみせます」

「期待しているわ」


 その前に、うちのアリシアが聖女になるだろうけど、それを言うのは野暮だ。黙っておこう。


「さてと。それじゃ、この蓋はどうすれば良いのかしら?」

「はいっ、瘴気と毒で金属が駄目になってしまったみたいで、1度作り直すそうです。なので壊してしまっても構わないと、職人さんから伺っております」

「そうなんだ? よっと」

『バキャッ!』


 私のステータスなら、金属……しかもただの鉄程度なら、ネジで補強されていても引き抜くのは容易い。

 引き抜いた瞬間、中に溜まった瘴気がモクモクと昇ってくるが、あの森に比べたらカワイイものね。いや、物理的にカワイくないけど。


「『浄化』」


 さて、中は……と。なるほどね、確かに濁りが濃いわ。それでも森のヘドロみたいな毒水に比べれば薄いし、アンデッドを作り出すほどに変質もしていない。

 ただ、この水の一番最下部。そこに沈んでいるモノは、直接視えはしないけれど、魔力を通せば解るわ。

 恐らく毒竜の素材で作られた()()()ね。


「……」


 ん? ちょっと待って。アリシアは、魔道具なんて一言も言ってないわよね? 私は改めて、魔道具だと認識できた事で、これが爆弾足り得ると理解出来た。

 魔力の動きから察するに、この魔道具は常に一定の毒を吐き出し続けるように設計されているみたい。周囲の毒の濃度なんて関係なく、常に一定の速度で吐き出し続けている感じがする。

 そして毒に染まった水は腐敗し、瘴気を発生させていく。発生した瘴気は狭く密閉された空間の中で膨れ上がり、次第に耐え切れなくなった井戸が決壊し、起爆する……という流れだろう。

 確かに爆弾だ。でもそれは、底に沈んであるのがそういう魔道具だと理解していなければたどり着けない。


 ちょっと確認しなきゃいけないわね。

 ……1度詳しく聞いて、内容次第では折檻ね。


「アリシア」

「はい」

「コレの解決が出来なくて、私を呼んだ。間違いないわね?」

「え……はい。私の力では『浄化』が出来なかったので……」


 そうね。『浄化』だけじゃ解決は出来ないわ。魔道具だもの。

 だからこそ、それ以外の手法を取る必要があるんだけど、今の感じからして……。


「もう一度最初から、この井戸に対して実行した内容と、判断した内容を教えなさい」


 怒気を込めて、背後に居るアリシアに伝える。アリシアが身を竦めたのをなんとなくで感じる。


「こ、この井戸は街中で最初に毒が発生した場所と聞いて、昨日『浄化』をしに来ました。街の職人に協力してもらい、その蓋を開けてもらいましたが、中に溜まっていた毒の瘴気が噴き上がりました。急いで『浄化』をし事なきを得られましたが、底に沈む何かによって、明確に『浄化』が弾かれたことを感じ取りました。ですので、私では解決出来ないと判断しました」


 そう、魔道具とは分かっていないわけ。それでどうしてその判断に至ったのかしら?


 アリシアが話し終えるとしばらく沈黙が続いた。

 え、それで終わり? そんな訳ないわよね??


「それで、どうするつもりだったの」

「そ、その後、犯人達の件を解決して、住人への水配りを終えたあと、他の井戸も見て回って、中に溜まった瘴気を『浄化』して回りました。予定としては、その後お嬢様をお呼び立てするために、森へと向かうつもりでした……」


 そう。自分では出来ないと判断して、私を呼びに行くつもりだったのね。


「……はぁ」


 ため息が出る。

 昨日は『浄化』の正しい扱い方や、イメージするための認識方法を教えていないのにもかかわらず、きちんと解釈して自分なりの答えを見つけられたから、凄いと思ったのに。

 まさか『浄化』だけ試して満足するとは想定外だわ。そして、そんな危険な判断をして何も理解していないだなんて。


「アリシアに期待しすぎていたのかしら」

「!?」


 思わず言葉が漏れた。


 今回、川の『浄化』や治療による成長が無ければ、この井戸は仕方が無かったと諦めたでしょう。だって、『浄化』が出来なければ井戸の底に沈むものが魔道具かどうかだなんて分かるわけないもの。けれど、成長したのならある程度までの対処が出来るはずよ。

 それでももし、魔道具と分かってて対処が出来なかったと言うのなら、この井戸の件は80点くらいは彼女にあげても良いとは思う。けど、その後の判断が台無しにしているわ。

 今回彼女が下した判断は0点どころかマイナスよ。


「アリシアはこの井戸を時限式の爆弾と評したわね?」

「……はい」

「それは何故?」

「その、瘴気が溜まれば、蓋を破壊して噴き上がり、爆発的に街へと広がると思ったからです」

「何故それだけだと思ったの?」

「えっ……?」


 やっぱり分かっていなかったわね。


「底に沈んでいる物が何かもわかっていないくせに、何故()()()()()()()()()()()()()()だと思ったのかを聞いているのよ」

「……あっ」


 もし底に沈んでいる物が魔道具と判明していれば、井戸に手出しせずに、更には犯人の連中とは関わらず、一定の距離を置く必要すら出てくる。


 何故ならば魔道具の中には、()()()()を持つ物が存在するからだ。

 その多くは炎属性の魔道具で作られる、文字通り爆弾に用いられる機能で、手榴弾のように使う事もある。

 もしこの毒素製造機に、自壊用のプログラムが組み込まれていたとしたら、持ち主は好きなタイミングで魔道具を暴走させ、中の毒を広げることが可能なのだ。


 連中は何もせず捕まったと言うし、安全だとは思いたいけれど、念のため直接視よう。


「『浄化』」


 底に沈む魔道具を目視する。

 ……うん、こいつは自壊機能は備わっていない。むしろ質もそんなに良くないわ。

 この魔道具で、この大きさの井戸を瘴気で満たすには、5日か6日ほどかけて瘴気を溜め込む必要がありそうだわ。製作者の腕が悪いのかしら。

 私なら、毒の瘴気のレベルを数段階引き上げ、更には半日で井戸を瘴気で満たす生成速度を持ち、更には遠隔自爆機能も搭載出来そうだけど。


 とにかくこの井戸はしばらく安心だ。念のため他の魔道具もチェックはしておこう。油断させて本命があるのかも知れないし。

 ある意味アリシアの対応は間違っていなかったと言える。でもそれは結果論でしかなくて、場合によっては街の人たちだけじゃなく、ママやリリちゃん。アリシア自身すら犠牲になっていたかもしれない迂闊な行動だったわ。

 きっちりと咎めなければいけないわね。


「アリシア、底に沈む何かは見たの?」

「はい」

「誰と?」

「私、1人だけです」

「何故?」

「危ないと、思ったからです」

「それだけ? 何か分からない物を分からないままにしておく方がよっぽど危険じゃない? それとも、自分が分からないならどうせ誰にも分からないとでも判断したのかしら?」

「それは……」

「ママやリリちゃんには相談しなかったの? むしろ解決出来ないならどうなったのって聞いてきたはずよね? ママは心配性だもの。それに対して貴女はなんて答えたのかしら」

「……」


 反論がないという事は聞いてきたのね。でもママはこの事に関して何も言ってこなかった。という事は何も聞かされていないという事。

 何のための家族会議だと思ってるの。私やママがしたような過ちを起こさないためのものだというのに。相談する価値が無いとでも思っていたの? 心のどこかで他人を馬鹿にしてたって事かしら?

 ああ、段々ムカムカしてきたわ。


「言い訳はあるかしら」

「……」

「あ、あの! シラユキ様、犯人たちの内1人が、全ての井戸は数日以内に毒の雨を撒き散らすと言ってました。ですから、瘴気を消した井戸は安全なのではないでしょうか」


 イングリットちゃんが沈黙に耐えきれずに助け船を出す。でもそれは、解決にはならないわ。


「イングリットちゃん、それは、井戸を後回しにしてから判明した事よね? だから井戸を解決出来ずに捨て置いた際の材料にはならないわ。それに、その発言をしたのは誰かしら。実行犯? 商人? 貴族?」

「えっと、確か、貴族の方です」

「そんな、わが身可愛さで情報を流すような馬鹿が、全ての情報が与えられているとは思えないわ。だからその言葉を鵜呑みにするのは危険よ」

「……そ、そうですね」


 アリシアは俯いたまま動かない。反省している? それとも茫然としているの?

 まあいいわ。言いたいことをちゃんと伝えておかなきゃ。


「アリシア、罰としてこの井戸、もう一度挑戦なさい。当然私は手伝わないし助言もしない。イングリットちゃんも解決のために助力なさい」


 その言葉にイングリットちゃんが真っ先に声を上げた。


「シ、シラユキ様、私には出来ませんっ。私は『浄化』をきちんと使えたことすらありません。ましてやこの濃度の瘴気を相手になど……」

「イングリットちゃん。出来る事しかやらないなら、『聖女』どころか上を目指すことすら、永遠に不可能よ。『浄化』の扱い方は、アリシアに使い方を聞きなさい」

「それは! ……確かに、その通りです。私、凄い人達が現れて自分では何もできないと甘えていました。申し訳ありませんでした。私、頑張ってみます……!」


 イングリットちゃんは解ってるわね。人と自分を比べたって、前に進むことは出来ないわ。

 次はアリシアだけど……心を鬼にしていくわよ。


「アリシアも、この子が優秀だと思って私に会わせたのなら、ちゃんとお世話をしなさい」

「そ、それは構いません。しかしこの毒は」

「くどいわ。頭の良い貴女なら、すぐにとは言わないけれど、これを解決出来たはずよ。それが出来なかったのは何故かわかる?」

「……」


 困惑しているわね。というかアリシアを叱ること自体初めてだものね。


「自分では解決出来ないと思った時、貴女はどうしたの? 他になんとか出来る手段がないか模索した? 誰かに聞こうと思った? いいえ、していないわ。だって、なんでも解決できちゃう私が、後ろに控えているんだものね?」

「そ、それは……」

「自分が出来る事はしたと、やるだけやったと満足していたのよね? 貴女は街の人達や家族の命が危険に晒されている可能性すら気付かず、いつ戻るか確証がない私に丸投げしたのよ。がむしゃらに足掻くこともせず、自分では解決できないからと諦めて。……私に甘えてくれるのは嬉しいけれど、それは時と場合によるわ。思考放棄の結果による甘えは嫌いよ。ええ、大っ嫌い!」

「……!」


 あ、泣きそう。私も泣きそう。

 でも、これだけは言わなきゃ。


「もし今後もそういう頼り方をするなら、私は貴女の事が信じられなくなるわ。そんな人を横に連れて歩くなんて出来るわけがない。最初に言った通り、安全な家で私の帰りを待つ側にでも回りなさい」

「お、お嬢様……お許しください! それだけは、どうか……」

「……貴女、最初に誓ったわよね? 私のそばで共にありたいって。あれは嘘だったのかしら?」

「嘘などではありません!」

「なら、証明してみせなさい。私はその辺ブラブラしてるから、終わったら声を掛けなさい」


 言うだけ言ってすぐさまその場を離れる。

 空気的にいたたまれないし、アリシアの顔もまともに見れない。

 本当なら遠くから見守ってあげるべきところだけど、今の私にそんな余裕はない。もう自分のマジックテントに引きこもって、泣いてしまいたい気分だわ。


 主に私が落ち着くまで、しばらく離れておこう……。



◇◇◇◇◇◇◇◇



「はぁ、やっちゃったわ……」


 事前に聞いていた各井戸を回り、それぞれの質は全て同一であることが分かった。つまり、ガス抜きさえしてしまえば何の危険もないということだ。

 でもそれはアリシアには絶対に教えない。反省するといいわ。

 言うだけ言って逃げてきちゃったようなものだけど、私は裏切られたような気分だもの。仕方がないわ。


 もしあの子が、解決方法をどれだけ模索しても分からなかったり、上手くいかないようなら相談に乗ってあげたい。

 自分で考えられる全てを行使して、他の人達の知識や手を借りて、足掻いて足掻いて、それでも出来なければ力になりたい。


 けれど、私の知識と力を最初からアテにされるのは違うと思う。あの子が誓ったんだもの、ただのメイドとしてではなく、一緒に歩いていくって。

 なら、物事の解決に、私の存在が大前提とするのは……。おんぶに抱っこな関係は対等とは言えないわ。


「……アリシア、どうしてるかな。言い過ぎたかな……。でも、あれは隣に立つと宣言した人の行為じゃないわ」


 もしあの子が、私があの魔道具を最初に見たときに考えた解決策と、同じ事を思いついて、その上で()()()()()()()()()と結論を出したなら、大絶賛の上で花丸の合格点をあげたいわね。

 だけど、もう1度見に行って何もせずに諦めたという結果になってたら、どうしよう。私立ち直れないかも。……その時は、内なる欲望(シラユキ)に慰めてもらおうかな。


 コレが日常的な生活の一部で、手伝ってほしいとか助けてほしいならなんら問題はない。けれど、私のいないところで他者の命や、家族の命がかかった状態で、自分ではなく私の力に縋るのは……。


「ああもう、やめやめ! ホントにムカムカしてきちゃう。こういう時は魔物でも斬り捨てて発散しましょう。衣装作りや生産スキルの上昇は、楽しむ余裕がある時にやってこそだもの。こんな状態で鍛冶をしても怪我するだけだし、調合スキルはアリシアと一緒にする予定だし、1人だけで上げちゃうわけにも……」


 そこまで言って、改めて自分がアリシアの存在を前提に考えていることに気がついた。


「はぁ、許してあげるべきかなぁ。でもこの一線を許すとズルズル行っちゃいそうだし、ここは心を鬼にして……はぁ」


 何度もため息が出る。ああ、辛い。

 今は怒りが勝ってるけど、怒りが引っ込んだら悲しみで泣きそう。怒りがあるうちに敵を斬って斬って斬りまくらないと。動けなくなっちゃうわ。


「お姉ちゃんお疲れなの?」

「そうよー、はぁ……」

「そうなの? 大変なの!」

「大変なのよー……」


 こんなんじゃ集中出来そうにないわ。刀のスキル上げが出来そうな狩場でも探そう……。


「あれ、お姉ちゃん? お姉ちゃーん……行っちゃったの」

「何かあったのかしら。アリシアちゃんが一緒に居たはずよね」

「うん……行ってみるの」


 うん? 今リリちゃん居なかった? ……居ないわ。気のせいね。はぁ……。


 あ、いつのまにかギルドのカウンターに着いてるわ。


「あのー、この辺に魔物がいっぱい出る場所とかありますか?」


『マスターったら、久しぶりにダメダメになってるわね』

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