第064話 『その日、治療して回った』
集落の中央。巨大な樹木を見上げていると、エルフの男性が駆け寄ってきた。
「イース、キース。無事だったか! そちらの女性は?」
「ただいま戻りました。トルスさん、朗報ですよ! この方があの憎っくき毒竜を倒して下さいました。至急族長達に報告をしてもらえませんか」
キース君が晴れやかな顔で私を紹介してくれる。カワイイなぁ。撫でてあげよう。うりうり。
「あはは、シラユキさん、くすぐったいですよ」
「ほ、本当か!?」
「ああ、シラユキ殿は魔力操作も戦闘能力も、私達を遥かに超える力をお持ちだ。その上慈愛に満ちていて、病に伏せた同胞達を診てくれるらしい。彼女は私たちがしっかりと案内する。トルス、頼めるか」
「人族嫌いのイースがここまで……。わかった、信じよう。シラユキ殿、同胞をお願いします」
トルスさんは深々とお辞儀をして、大樹の方へと走っていった。やっぱりあそこが長老の家なのね。大樹がエルフにとってのお城になるのかしら。あれが何ていう種類の木なのかは気になるけど、ここからだと遠くてチェックが機能しないわね。あとで近づいて調べてみようっと。
「イースちゃんって人族が嫌いなんだ?」
「き、嫌いという訳ではない。ただ、奴らは欲深い上に魔力の扱いが下手だ。その上、別の集落では人族により同胞が誘拐され奴隷にされるとも聞く。だから許せんだけだ」
それってつまり嫌いなのでは?
「姉さんもわかってると思うけど、全ての人族がそうというわけではないと思う。現にシラユキさんのような人族も居るようですし」
「ああ、わかっている。……いや、先程理解させられたと言うべきか。だが、この考えは私個人だけのものではなく、同じ考えの同胞も少なくない。シラユキ殿がこれからしてくれるという治療で、同胞も貴女は奴らとは違うのだと理解するだろう」
「ま、私は出来る事をする。それだけよ」
集落から少し離れた場所へと案内された。どうやら病人はマジックテントの中に集められているみたいね。
中に入ってみると空気は淀んでいて、血と毒、そして若干の腐敗臭が鼻をつく。まだ、瘴気は出ていないわね。
子供も大人も関係なく、所狭しと並べられた病人達。皆、顔色を悪くし、呻いている。まるで野戦病院だわ。
その中でも一際目立つのが、子供のエルフね。両手両足、そして体の至る所が真っ黒に染まっている。その上、その子の周りが歪んで見えるわ。
その子の周りでは子供達がハラハラと泣いているのが見えた。……これは、2日どころかあと半日あるかないかといったところじゃない? 危なかったわね。
そんな危険水域にあるエルフ達を見回しながら、部屋の中央まで歩く。病人も治療に勤しむ人達も、誰一人としてこちらをみない。気づいていないというよりも、気にする余裕がないのでしょうね。
それにしてもリアルな世界での魔物の毒というのは、本当に厄介で怖いモノね。外傷なく体の内側を破壊して行くんだから。治療に入る前に、まずはこの空気を綺麗にしなくちゃ!
「『浄化』」
空気中に広がる毒素、瘴気一歩手前の穢れに汚れ、悪臭にネガティブな空気も。まとめて『浄化』の輝きで押し流す。ネガティヴな空気は思いつきだけど、イメージは大事だ。出来るかは知らないけど出来たら良いな。という思いで使った。
その効果があったかは分からないけれど、輝きに気づいた人たちが顔をあげた。
やっとこっちを見てくれたわね。
さて、魔法名を口に出すだけで簡単に発動できるけど、この場面で普通に魔法を使うのは何だか勿体ない。
せっかく観客がいるんだもの。カワイイ演出と、振り付け……もとい、カワイイポージングが必要よね!
自分の体に光を纏わせ、その場で踊るようにくるりと回る。癒しの力が籠められた光の玉が次々と現れ、暗いテントの内部に星空が現れる。
周囲に小さな風を発生させ、私の髪と、ワンピースのスカートをなびかせた。
「癒しの力よ、降り注げ。『エリアハイヒール』!」
光の玉が空気に溶けるように紐解け、ゆっくりと光の下にいる数多のエルフ達を包み込む。そして全員に『ハイリカバリー』の効果が現れた。
それはこの場に案内してくれたイースちゃんやキース君も例外ではない。恐らくどこかケガをしていたりしたのだろう。
姉弟や治療者達、そして軽度の病人達の順で次々と光が消えていく。最後には沢山のエルフに介護されていた重篤症状の人達からも光と共に毒と呪い、黒い染みに傷すらも消え去り、完全に治癒したようだった。
そうしてテントから、苦痛の声が消え去った。
今し方使用した魔法は、先ほどの戦いで神聖魔法スキルが上昇し、修得した魔法だ。さすがにスキルが上がり切る前にニドヘッグの体力が尽きてしまったので、カンストするまでには至らなかったけれど。
それでも、いくつかの魔法を修得する事が出来た。
その内の1つがこの『エリアハイヒール』。効果は、指定した範囲内にいるプレイヤー、NPCにまとめてハイリカバリーをかけるというもの。対象人数が増えるほどに消費魔力も増大するが、今の私には関係ない。
本来は癒しの力場が発生するだけで、光の玉なんて出てこないし、風も起きたりしない。全て、私が今イメージして追加した演出だ。
魔法はイメージとスキル次第でどんな形状でも扱うことが出来る。それは修得した、演出が決められた魔法も例外ではない。
ただ作業的に魔法を使うのは味気がないものだ。戦闘中などの忙しい時は、下手に弄らない方が発動速度があるし、効果も安定もする。
ただ、余裕があるときは演出や発生過程に一手間付け加える事で、良いアクセントになる。
今回は突発的にやってみたけど、周りにはどう映ったのだろう。私としては30点ね。もっとじっくり練らないと、私のカワイさを表現しきれないわ。せめて癒しの象徴たる杖が必要ね。
やっぱり早くカメラとか欲しいなぁ。出来れば映像も撮れるやつ。アリシアに渡せば、喜んで使ってくれそうだわ。
むしろ手放さないのでは?
「今の光は……?」
「不思議だ、先ほどまでの苦しみが、何ともないぞ」
エルフ達は自身の身に起きた現象に驚き、続いてその身を蝕んでいた苦痛が無くなったことに気が付き始める。
この反応を見る限り、『エリアハイヒール』自体知られていなさそうだし、きちんと効果を伝えておきましょうか。
「安心なさい、あなたたちを蝕んでいた毒は、体内の穢れと共に消し去ったわ」
エルフ達は次々と起き上がり、当人も家族であろう人たちも、喜びを噛み締めているようだ。そして子供達が集まる一角では、一際大きな歓声が上がる。
「カープ! 大丈夫ですの!? ああっ、良かった。本当によかった……! 精霊神様、ありがとうございますわ……!」
2人の女の子が抱き合い、仲間の回復を心から喜んでいるようだった。重篤だったはずのその子は、ふらつく体に鞭打ちながら、なんとか立ち上がろうとしていた。
私は慌てて駆け寄った。
「ちょっと君、回復したばかりなんだから無茶しないの。今はゆっくり休みなさい」
「……お姉さんが治してくれたんですか?」
顔をよく見ると、妖精のような美しさを持ったエルフがそこにいた。とても中性的だわ。正直私ですら、その子が男の子なのか女の子なのか、すぐには判断がつかなかった。
けれど、どちらにせよカワイイわ。
こんな子まで毒を受けていたのね。……そういえば、さっきイースちゃんが言っていた頑張り屋は、この子のことか。
エルフ族にとって子供は希少な存在だ。数少ない子供を失えば、村の未来は暗澹たるものだっただろう。
視線を合わせて頭を撫でてあげる。
「そうよ、今までよく耐えてきたわね」
「……はいっ。あの、お姉さん。治してくれて、ありがとうございました」
助かった事を実感したのか、それとも周りに感応したのか、その子は目を潤ませ、震える声でお礼を告げてきた。
はぁー! カワイイー!!
子供は素直が一番ね。病み上がりなので優しく寝かしつけると、すぐに寝息を立て始めた。
するとお世話をしていた2人の女の子がやってきてお礼を告げてきた。皆カワイイわ!!
うん、もうこれがエルフ達からの報酬ということで良い気がしてきたわ。私、既に満足しちゃったもの。
ああ、でも今日はここで泊めてもらう事になるだろうから、この子達を抱き枕にしたいところね。要求したら通るかしら?
周囲の大人たちは最初に喜んだ後は静かなものだった。互いの無事を確かめ合った後、急に静かになっていた。
どうやら魔法の考察をしているようだった。
「しかし人族が、あれほどの魔法を……」
「ああ。目を疑う光景だった。村の治癒師や薬師が匙を投げた猛毒だったのに……」
「エリアハイヒールだったか。リカバリーの系統魔法なのだろうか?」
「何にしても凄まじい魔法だったな。さぞや名の知れた者なのだろう」
子供たちを一通り愛で終えて満足した頃には、騒めきは収まり、何人かのエルフがこちらへとやって来た。
「人族の娘よ、礼を言わせてくれ。本当にありがとう! 欲しいものがあれば遠慮なく言ってくれ。可能な限り便宜を図ろう」
「気にしないで。助けられて良かったわ」
「なんと謙虚なのだ……。先ほどの魔法は、失われゆく我らの命を繋ぎとめるのに十分役立ったのだ。どうか遠慮せず、我らに礼をさせてくれないか」
そこまで言うなら、貰ってあげなくもないけど……。
「分かった、受け取るわ。ただ、特に困っている事もないから……ひとまず、休めるところが欲しいわ。この集落に泊ってもいいかしら」
「もちろんだとも。このような状況下だが、何かあれば遠慮なく言って欲しい。それとお客人、御存じかもしれんが集落の西には危険な魔物がいる。くれぐれも近づかないようにしてくだされ」
ん? ……ああ、まだあれが倒されたことを知らないのね。後ろで成り行きを見守っていた姉弟に目配せをする。
「皆、聞いてくれ!」
「む、イースか。森の警戒をしていたはずだが……何かあったのか?」
「ああ、シラユキ殿の魔法は皆も見た通り、長い時を生きたエルフが人に化けているのを疑うほどだが、こと戦いにおいても比類なきものなのだ。彼女は先ほど、その力で毒竜を葬り去り、更には素晴らしき魔法で湧き水も浄化してくださった。この方は我々の恩人なのだ!」
『なんだって!?』
綺麗にハモったわね。
「私とキースがその証人となろう」
「はい、シラユキさんの戦う姿はとても洗練されていて、見惚れてしまうほどでした!」
エルフ達の視線が再びこちらへと集まり、大人達は混乱と困惑の極みに陥った。そして子供達は目をキラキラとさせている。まあ見た目が子供なだけで、実際は私より年上の子も居るんだろうけれど。それはそれでアリね!
次第に正気に戻った大人のエルフ達は、次々と跪いた。
「それが事実ならば、我々は集落を捨てる必要がなくなったという事だ。なんとお礼を言えば……」
「貴女のおかげで我々は救われました。本当にありがとうございます」
「この美しさに魔法の技量……、シラユキ様は精霊の御使い様なのでは」
「確かに……我々ですらなし得ないあの魔法には驚かされたが、そう言われれば納得もできる」
「御使い様だ……」
「御使い様!」
おおぅ……、一部のエルフ達から信仰され始めたわ。褒められてるのは間違い無いけど、このまますべてのエルフに伝播したら、『白の乙女』と同様の扱いになりかねないわ。
というか発想がいきなり飛躍しているわね。これも高すぎるステータスのせいかしら。適当に宥めておかなきゃ。
「褒めてくれるのは嬉しいけど、私はそんな大それた存在じゃないわ。御使いでもないし、ちゃんとした人族よ。……それに喜んでいるところに水を差すようで悪いけれど、元凶は確かにこの手でやっつけたわ。でもその爪痕は森全体に残り続けている可能性があるけど、私は王都に向かう途中で、全ての治療にまで手を貸すほど、時間に余裕もないの。ごめんなさい」
エルフの大人たちに向け、頭を下げる。
神の使いじゃないから、最後まで面倒は見切れないと言ったつもりだけど、伝わったかな……?
「そんな! 気に病まないでください!」
「恩人であるシラユキ様を困らせるなどもってのほかでした、申し訳ありません」
先頭に居たエルフの方が謝罪をし、つられて他のエルフ達も頭を下げた。
「シラユキ様、本日私達は、人族の貴女に救われました。今回、対抗する術がなかったこちらの落ち度でもありますし、森の調和は我らの領分。どうかお気になさらず」
「……ありがとう。代わりと言ってはなんだけど、この集落だけはきちんと治していきたいとは思っているわ。だから、他に体調を崩している人や毒で汚染された場所があるなら案内してちょうだい」
「それなら私が責任を持って案内しよう。皆は長老へ報告と、宴の準備をしていてくれ」
「シラユキさん、僕もお供します」
イースとキースの2人が名乗りを上げてくれた。診療所に居た人達にその場は任せて、集落中の『浄化』と治療に走り回る事になった。毒に侵された人たちや土地を放って宴なんて、楽しめないもの。
幸いな事に軽度の毒に罹った人が無理に仕事をしていたくらいで、重症化している人は居なかったし、毒に汚染された物は一箇所に集められていたので、『浄化』作業も簡単に片付いた。
元々魔法や状態異常に対する耐性が強いエルフだからこそね。普通の人間だったら、7日も保たずに死んでいたわ。下流の街は原液ではなく薄めた物が流れているはず。魔法抵抗の弱い人族の街が発生地点だったら、ゾッとするわね。
集落の治療に目処がついたところでキース君から呼び声をかけられる。
「シラユキさん、恐らく皆、広場に集まって宴の準備をしていると思います。そこで確認なのですが、シラユキさんはお世話されるならどんな層がお好きですか?」
「というと……」
「はい、宴でお世話をさせていただく者達です」
「あー……」
そこまでしてくれるだなんて、考えてもいなかったわね。しかも層って! 言わなきゃイケイケの男性エルフが来るかもしれないのね? それはそれで面白そうだけど、どうせならカワイイ子がいいわ。
いつもはアリシアにお世話されてるし、もしこの場にいたら他人にお世話は譲らせなかっただろうなぁ……。
「そうね、男女問わずカワイイ子達が好きね。勿論キース君やイースちゃんもカワイくて好きよ」
「えっ……あ、わかりました。伝えてきます!」
そう言ってキース君は慌ただしく駆けていった。うーんカワイイ。イースちゃんはそっぽを向いて小さくごちる。
「私が可愛いなど……」
「あら、別にお世辞じゃないわよ?」
「!? ま、まあ、その、なんだ……。広場に行こう」
「ふふ、わかったわ」
守人ってことは戦士って事だし、褒められていないのかしら。やっぱりこういった、言われ慣れてない子を褒めると、初々しくて良いわね。
案内されるまま広場に着く頃には、陽も傾き大勢の人に出迎えられた。イースちゃん曰く、集落中のエルフが全員集まってきているみたい。ここまで揃うことは滅多に無いんだとか。
改めて沢山のエルフ達からお礼の言葉を受けたり、尊敬の眼差しを受けたりと、少々こそばゆかったが、普段から的確に褒めてくるアリシアのおかげで耐性ができていたのかも。照れて挙動がおかしくなる、なんて事にはならなかった。
そしてイースちゃんから紹介された、長老を名乗る若いエルフに連れられ、そのまま主賓席に腰掛けた。
「あら、いい椅子ね」
思わず声に出してしまう程には、座り心地の良い椅子だった。木製の椅子にもかかわらず、ほんのり温もりを感じるし、心地よさを感じる不思議な魔力も込められている。
私の言葉に、近くにいた長老が反応する。
「ありがとうございます。その椅子はエルフ王から下賜された『生きた家具』と呼ばれる物でして、王国にいる名工が長い時をかけ作り出した逸品なのです」
「そんないい物を使って大丈夫かしら」
「勿論ですとも。シラユキ様の行動を知れば、エルフ王も賛同されるに違いありません」
長老と呼ぶには、まだまだ若々しい風貌だが、それでもエルフだしかなりの年齢なのだろう。最近代替わりしたのか、それともこの集落自体が若いのか定かではないけど。まぁそんなタイミングで毒竜の危険に晒されるなんて、大変だったわね。同情するわ。
そして「生きてる家具」か。これはゲーム時代にも存在した家具で、それなりに力の篭った樹木を使用して作る家具だったはず。木材加工は生産スキル外の位置づけだけれど、求められる練度としてはかなりの技量が求められたはず。この世界でなら、世界最高峰といっても過言ではないわね。
「何かありましたらこの子達に伝えて下さい。それから、大したおもてなしは出来ませんが、今日はゆっくりとお寛ぎください」
そう言って長老の背後から5人の子供達が現れる。その子達は、先程の診療所にいた子供達だった。見た目の年齢は、10歳から15歳前後だろうか。実年齢はその倍あってもおかしくないが。
彼らは元気よく挨拶をしてくれたので、1人ずつ頭を撫でてあげる。すると皆とびっきり笑顔になるのでとても癒された。この子達、すごく人懐っこいわ。
私は、先ほど重篤症状で死にかけていたカープ君に声をかけた。
「カープ君、病み上がりだけど、起きていて大丈夫なの?」
「はいっ、先ほどは失礼しました。一眠りしたら元気になりましたし、何より助けて頂いたシラユキ様に、少しでもお返ししたいんです」
イースちゃんが褒めるだけあって、とってもいい子ね。
そうして子供達をカワイがっていると、宴の準備が完了したようで、長老が音頭を取り、改めて私が紹介された。軽く手を振るだけで皆大盛り上がりで、正直もう笑うしかない。
お酒は飲まないので辞退し、代わりに森で採れたフルーツのジュースを頂いた。この世界に来て一番美味しいと感じたジュースだった。喉越しもよく、程よく冷えていて最高と言わざるを得ないわね。
子供達曰く、たくさん採れるので月に何度か、川下の街で果物やお酒、工芸品などを商人に売って、そのお金で他の必需品と交換しているとのこと。川下の街とは持ちつ持たれつなのね。
「そんなにいっぱい採れるなら、今回の報酬にたくさんの果実を要求しようかしら。すごく美味しかったし」
「気に入ってもらえて嬉しいですわ。それでしたら明日、皆で集めてきますわ!」
このお嬢様口調の女の子は、最初に挨拶をしてきた、年長のリーズちゃん。カワイかったので更に撫でてあげる。
「他は、何をもらおうかなぁ……。あっ、翠鉛鉱はあるかしら?」
「すいえんこう……ですか? ごめんなさい、分からないですわ」
「あら」
イースちゃんが着けてるから知ってるのかと思ったけど……じゃああれは、国からの下賜されたお古か迷宮品だったのかしら。でもエルフの集落なんだし、中央には古代樹もある。付近には必ずあるはずなのよね。
「ならこの近辺で岩場はない? そしてその辺りに緑の石があれば完璧なんだけど」
「岩場ならありますが……」
「……あっ。あの、コレのことでしょうか」
そう言って声をあげたのは、カープ君。おずおずと腰に下げた鞄から、拳大の石を取り出した。
「カープ、それはただの石ですわよ」
「うん、そう見えるよね。僕も理由は分からないけど、時々緑色に光ることがあって……」
「ふむ……貸してくれるかしら」
「はい、勿論です」
カープ君から貰った石に、土の魔力を流し込む。鉱山で採掘した時と同様、石を砂へと解き、中に詰まっている物を現出させる。
手の中に残ったのは、深い緑に光る、輝く石だった。
『宝石も綺麗だけど、私もそのジュースが飲みたいなぁ』
この作品が面白いと感じたら、ページ下部にて評価していただけると嬉しいです!




