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異世界でもうちの娘が最強カワイイ!  作者: 皇 雪火
第1章:港町ポルト編
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第013話 『その日、捕虜を助けた』

 少女が泣き止むと、恥ずかしそうに頬を染めていた。カワイかったので追加で頭をナデナデしてあげた。


「あ、あの、お姉ちゃん、リリはリリって言います! 助けてくれてありがとう!」

「どういたしまして、リリちゃん」

「それからお姉ちゃんたちも、探しにきてくれてありがとう」


 そう言ってリリちゃんは、冒険者のお姉さん達に頭を下げた。


「いいのよ、依頼だったし」

「そうさ。それに助けられなかったどころか、私達も捕まっていたしね」

「けれど、リリちゃん以外の子は見つからなかったわね……」


 うん? 他にも迷子がいるの? 今この場にいないって事は、喰われ……。


「みんなはココにはいないの。悪い人達に捕まったんだと思うの」

「悪い人? リリちゃん、詳しく教えて」


 良かった。最悪の事態は避けられた。悪い人……もしかしてあいつらの事かもしれない。


「うん、リリ達はね、おうちのお手伝いがない日は、友達みんなで町の近くで薬草を採るの。でもあの日は、帰るときに門番さんと内緒話してる大人の人達がいて、見つかったら恐い顔して追いかけてきたの。怖くて、みんなで逃げ出して、森の中に入ったけど、みんな捕まっちゃったの。リリ、それからもずっと走ってたら、帰り道がわかんなくて、それで……」

「オークに捕まっちゃったのね」

「うん……」

「その人、どんな見た目の人だったの?」

「うん、えっと、お顔が怪我してて、頭に布を巻いてたと思うの」

「そう……怖かったわね。私がきたからにはもう安心よ」


 リリちゃんをもう一度抱きしめた。彼女が言った風貌には覚えがある。闇ギルドの幹部だったはず。それにしても、子供複数とはいえ、逃げられるなんてマヌケね。


「顔に傷……額にバンダナ……」


 包帯の女性が小さく呟いた。あら、彼女も何か関係が?


「でも、不甲斐ないです。私が罠を踏んでしまったばかりに……」

「もう、いつまで言ってるのよ。今回は全員のミスよ。それに助かったんだからいいじゃない」


 彼女たちはパーティで、リリちゃんを探す依頼を受けていたみたいね。これがいわゆる、ミイラ取りがミイラにってやつかしら?


「それに罠を抜けられてても、あの数のオークに、精鋭オークまで襲われたら勝ち目は薄いわ」

「あ、そうよ、精鋭オーク! 銀の君、ここに来るまでに精鋭オークを見かけなかったかい? 先程までここにいたんだが、急に消えてしまったんだ。オーク達も慌てていたから、奴らを探しているんだと思うけれど」


 ぎ、銀の君!? なにその厨二魂全開の呼び名は!

 ……おお、麗しの銀の君……ああっ、やばい、夢が広がるうう!!


「……奴らが消えた際、足元に魔法陣が浮かんでいたように見えた。あれは恐らく転移魔法陣だ。ギルドの資料で読んだことがある」


と、そこで包帯を巻いた女性がフラフラしながらやってくる。


「サブマスはご存知なんですか?」


 サブマス?


「うむ、十中八九間違い無いだろう。どこに飛んでいったかは不明だが……ああ失礼。自己紹介がまだだったな。私はシェリー。港町ポルトで副ギルドマスターをしている。今回の救助に感謝を。街に着いたらそれ相応の礼をさせてほしい」


 ああ、この人が行方不明だった副ギルドマスターなのね。なんという偶然かしら。


『観察』


**********

名前:シェリー

職業:武闘家

Lv:38

補正他職業:格闘家

総戦闘力:2183

**********


 あら、ハイランクの前衛。格闘家の条件も満たしているし、そこそこ強いわね。

 それに身体はスレンダーで筋肉の付きも良い。カッコいい系のお姉さんかしら。あとお尻が少し大きいわね。

 それに眼鏡が似合いそう。真面目な委員長タイプかしら? ぴっちりしたズボンを履かせて執事風に仕立てれば可愛くなりそうね。


 改めて捕まっていた5人を見る。

 ……彼女たちは本来、正史では帰らぬ人になっていたのだろう。強い母体は強い子を産む。それが元になって、1年後は巨大な軍団が出来上がっていたのかもしれないわね。

 ある意味で彼女はオーク達の母でもあるのかしら? 不名誉な称号ね。


「あの、貴女は昨日ガボルを吹き飛ばした人よね? あれは見ていてスカッとしたわ。あいつのセクハラにはみんな嫌気が差していたの。今回のことも併せて本当にありがとう。貴女は女性達の味方ね」

「何? ガボルの奴め、まだ懲りていなかったのか。帰ったら折檻が必要だな」

「あはは、サブマス、それなら大丈夫だと思うわ。あいつ彼女のビンタで頭から壁に突っ込んで気絶してたんだもの!」

「何だと? ははは、それは私も是非見たかったものだ」


 彼女たちは助かった安心感からか、ワイワイと話している。ただし全裸で。この体でなければ、上か下に血が集まっていたわね! 惜し気もなく晒されているんだし、見ない方が失礼ね。じっくり見ておきましょう。

 そして先程まで猿ぐつわを咬まされていた女性が駆け寄ってくる。


「シラユキさん、今回は助けていただきありがとうございました。お聞きしたいことがあるのですが、いいでしょうか?」

「ええ、何かしら」

「もう1人捕虜を見ませんでしたか? 弟なんです!」

「ああ、それなら居たわね。問題はなさそうだったから人数の多いこちらを先に見にきたわ」


 半分嘘だ。実際は『探査』で見ただけに過ぎず、オークも近くにいなかった為後回しにしたのだ。

 男は食料だ。綺麗にしてから食肉にするつもりなのだろう。

 ゴブリンは腐肉だろうと食べるが、オークは綺麗好きなところも相まって新鮮な肉を好む。食べる直前までは無事だろう。そしてオークはこの騒ぎよう。大丈夫じゃなかろうか。多分ね?


「……よかった、安心しました」

「ところで猿ぐつわをしてたけど、何故かしら?」

「えっ? あ、はい。呪文詠唱防止のためだと思われます。呪文を唱えないと魔法は出せませんから」


 その言葉に衝撃を受ける。噛もうとしたわけじゃなかったのね!

 ではなく、呪文詠唱……? なによそれ、知らないわよ? 『WoE』に魔法名の詠唱ならともかく、呪文詠唱なんてものは存在しなかったわ。……そういえばNPCの魔法って、発動までに時間がかかっていたわね。もしかしてソレが原因なのかしら。


 ちなみに『WoE』には2種類の魔法行使の手段が存在した。1つが魔法名の詠唱。これは魔法名をキーに魔法を使うというもの。修得していなくても使えるが、完ぺきではない模造品。

 もう1つが無詠唱。これは修得が必須の上、スキル値が修得値の3倍必要というもの。ボール系なら9。ランスなら45ね。


「魔法で思い出しました! 先程声を外に出さないようにしているとのことでしたが、もしかして『エアウォール』ですか?」

「え、ええ、そうよ」


 あ、なんだかその先がとてつもなく聞きたくないわ。


「凄い! 上級魔法が使えるなんて、憧れます!」

「……」


 ……はぁ、わかったわ。この世界は余りにも魔法知識が足りないようね。魔法学園に入ったら、駄目さが分かり次第教育改革を行わなきゃ。そうしないと私の目標達成は困難になる。これは決定事項よ。

 それにしてもスキル40……レベル8相当が上級だなんて。スキルレベル15の各種ランスは、もしかしたら中級だなんて言われかねない。だ、大丈夫よね?ランスは初級よね?


 魔法がこの扱いを受ける理由は、現時点で考えられるのは2つ。

 1つはレベル上げが出来ていない。もう1つはスキル上げの手段が確立されていない。

 魔法が秘匿されている可能性が高い以上、後者である可能性が高そうね。シェリーのレベルは38もあるもの。

 ……でも、まともな魔法も使えなければ経験値なんて入らないわね。……もしかして両方? なら正直お手上げね。この世界は滅ぶわ。


 ……だって最初のラスボス、世界征服を目論む魔王だもの。


「シェリーさんの怪我はどうしてです? そこそこ強そうに見えますが」

「ははっ、そこそこか。……いや、確かに私はそこそこの強さしか無かったのだろう。現にこうなっているのだからな」


 シェリーさんは落ち込んだようだ。理由は知っているが、正直に言い過ぎてしまった。でも落ち込む彼女もカワイイわね。ついイジメたくなっちゃうわ。


「君ほどの実力者なら耳にしているかもしれないが、いま街には不当な行いをする輩がいる。リリの件もそうだろう。そいつらの噂を掴んで乗り込んだまではよかったが、信頼して連れていった配下が奴らの手先でね。背後からやられてしまったんだ。不意を突いて逃げ出したは良いが、疑心暗鬼になってしまってね。街の外で回復を図ろうとしたところをオークに捕まってしまったんだ」


 『ビシッ』とした委員長タイプだと思っていたが、吐露する毎にどんどん弱くなっているように見えてしまう。


「ははっ、自分が情けない。ギルドマスター……メアリースの事は今でも心配だが、誰が敵か分からないのがとてつもなく怖い。また知っている者に裏切られたらと思うと足がすくんでしまう。全く、情けない。……ッ!?」


 最後には小さく震えてしまった彼女を、優しく抱きしめた。見ていられないわ。


「大丈夫ですよ。怖くたって良いんです。情けなくなんてありません。シェリーさんは女の子なんですから、怖いものや出来ないことがあるのは当たり前です。全部背負わなくて良いんですよ」

「だが、私が動かないとメアリースが……」

「私がいます。私が彼女を助けます。ついでに悪党もぶっ飛ばします。だから貴女は安心して、私についてきてください」


 シェリーさんを慰め、リリちゃんにしたように頭を撫でてあげる。彼女の震えが収まるまで、ギュウギュウナデナデしてあげた。うん、シェリーさん……改めシェリーちゃんと呼ぼう。カワイイし。


「そのケガ、痛そうなので治しておきますね。『ハイリカバリー』」

「中位の回復魔法まで……多彩なのだな。……暖かい、とても落ち着くよ。ありがとう。しかし、君には情けないところを、いや、君に言わせればそれも良いんだったか?」


 神聖魔法スキル25のハイリカバリーで中位……。ランスは? ランスはギリギリ初級!?


「ええ、女の子が怖くて泣いちゃうのは普通のことです」

「はは、女の子か。そんな風に言われたのは何年ぶりだろうか……む?」


 冒険者の女の子たちがヒソヒソしあっていた。


「オーガも黙らせるサブマスが泣いてるとこ初めて見た」

「あたしも。サブマスにもしおらしいところあったんだな」

「ほらー、やっぱりサブマスもオークに捕まるのは怖かったんですって」

「おい、お前たち……」

「「「ヒイッ!」」」


 3人は蛇に睨まれたカエルみたいになっていた。


「シェリーちゃん、ダメですよ脅かしちゃ」

「うっ、は、はい……」


 追加で撫でると大人しくなる。カワイイなぁシェリーちゃん。3人のニマニマが深くなるが、気にしていては話が進まないので放置しておく。

 ちなみにリリちゃんは私の腰にしがみついている。カワイイ。こっちもナデナデしてあげよう。


「さてと、今の街の状況を含めて、シェリーちゃんに説明しておきますね」

「シェリーちゃん……。ああ、よろしく頼む」

「まず現在、街では闇ギルドが本格的な活動を開始していると思います。2日前ギルドマスターが捕らえられ、街中の女性も狙われている可能性が高かったです。シェリーちゃんが行方不明扱いになっていたので彼らも調子付いているのでしょう」


 冒険者組は驚いている。闇ギルド、そして今の街の状況。本当に秘密裏に動いているのだろう。

 私も未来の情報がなければ気づかなかっただろう。……いや、もしかしたら絡んできた男(ガボル)から芋づる式に釣れていたかもしれないが。

 そしてシェリーちゃんは唇を噛んでいた。その展開も予想していたのだろう。


「そして私は準備もなく突撃するのは得策ではないと思い、必要にかられて北の森に来ました。その途中、原因はわかりませんが精鋭オーク3匹が目の前に現れ襲ってきたので返り討ちにしました。皆さんが見た奴らと同じ個体であれば、ここには戻ってこないと思います」

「本当かい!? 精鋭オークがこの規模に対して3匹いる事すら異常事態なんだ。それ以上いるとは考えにくい」

「うむ、彼女の言う通りだ。転移の謎はあるが、残りはただのオークだけだろう。それでも100体近くいるだろうが……」


 彼女たちに説明はできないが、『探査』でこれ以上いないことは確認済みだ。


「最後に、オークに見つかって戦闘になると、誰かが人質に取られかねないので、彼女の弟くんを先に助けに行きます。その後は、私が魔法でやつらを殲滅します。道中は私の魔法で隠れていてもらいますが、魔法の詳細は秘密です」


 スキルレベル40程度の魔法ですら上級扱いだ。今から使うのも神聖魔法スキル40までに覚える魔法だが……危険な魔法でもある。知らないなら知らない方がいい。

 頷く彼女たちを見回し、準備をさせる。


「では皆さん、いつまで裸でいるつもりですか。手早くその辺の布を千切って身にまとってください。男性やオークに視姦されたいなら止めませんが」


 そして私も隙あらば視姦する。

 オークの集落にある布は、オークが扱うだけあって割と清潔だ。その為身に纏うことを忌避する者はいない。

 手慣れた感じの冒険者やシェリーちゃんは置いといて、リリちゃんのために適当に見繕う。


「せっかく助かったのに、風邪なんて引いたら大変よ」

「えへへ、ありがとう、お姉ちゃん」


 リリちゃんは布にくるまっただけだが、他の女性陣は紐を使ってズレないよう要所を縛っていた。本当に慣れてるなぁ。


「それじゃリリちゃんは私が背負います。シェリーちゃんは私と手をつなぎましょう。3人は一列に手を繋いで、私の余ってる手と繋がってください」


 リリちゃんを背負い両手もすぐに埋まる。もう全身が柔らかい。私自身が柔らかいけど周りも柔らかい。控えめに言って最高ね。

 別に魔法のためだからって背負ったり手を繋ぐ必要はこれっぽっちもない。ただ、私の体と相手が繋がっていればいい。最悪電車ごっこみたいな一列でも問題はないけれど、それじゃつまらないもの。

 あと列が長いと管理も大変だし、役得も欲しいわ!


「それでは今から皆さんをオークから完全に知覚出来ないようにします。ただ、直接触れられたらバレます。近くに寄ってきたら慌てずに離れてください。また、私との接点が外れると魔法の効果も切れますので、手は絶対に離さないように。もう一度言います。手は、絶対に、離さないでください」


 何度も頷く彼女たちを見届ける。リリちゃんは見えないが、『ぎゅっ』と腕に力を込めているのがわかる。プニプニ! 柔らかい!


「では、いきます」


「『デオドラント』『インビジブル』『サイレント』」


 全て神聖魔法で、『デオドラント』はレベル30で修得した。効果は自身の全ての匂いを100%カットするという優れ物。

 ただし永続ではなく10分で効果が切れるのでお洗濯にも部屋の掃除にも使えない。


 次に『インビジブル』。神聖魔法レベル35で修得した。効果は透明人間になれる。効果時間は10分。

 どこでも使えるが、当たり判定は無くならないため、人混みで使えば押し潰されるかも。自分が。

 もしこの魔法が出回っていないのであれば、公開せずに封印するべきだと思う。イタズラし放題だものね。


 最後に『サイレント』。神聖魔法レベル40で修得。効果は全ての動作から音が消えるというもので、効果時間は同じく10分。


 これら3種の知覚阻害魔法は全部使えば最強に見えるが、もちろん欠点がある。

 まず1つが、自分にしか掛けられない。しかし、発動時に肉体的に触れている相手とは効果が共有できる。

 次に大きな動作……例えば攻撃やジャンプ、生物を対象としたアクションなどを行えば全ての効果が切れる。

 なのでイタズラは驚かすことくらいにしかできないし、直接盗みも出来ない。でもそれは使い方次第だ。なので封印ね。……私は使うかもしれないけど。


 彼女たちは魔法の効果に慌てるも、手を離すことはなく、ちゃんと握り返してくれている。

 術者の私だけは薄らと彼女たちの様子が見える。キョロキョロしているがパニックにはなっていないようだ。シェリーちゃんは驚愕して固まっていたが。

 とにかく効果時間は有限だ。私たちはゆっくりと、もう1人の捕虜がいる建物へと足を進めた。


『ああ、人助けする私もカワイイわ』

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