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異世界でもうちの娘が最強カワイイ!  作者: 皇 雪火
第4章:魔法学園 入学準備編
112/252

第109話 『その日、歴史が変わった』

 繋いでいた手を解いて、安心させる様に頭を撫でた。リディはちょっと不服そうな顔をしたけど、緊張はほぐれたみたいね。そのままキスもしてあげたいけど、そんな時間はないか。

 公爵様を含め、下がっているよう手振りで説明して前へと出る。


『貴様、モウ一度言ッテミロ!』

「あら、理解出来なかったかしら? 元からオークみたいだったのに、魔物に変身してもオークだなんて、笑えるって言ったのよ」


 おつむの足りない魔物に復唱してあげた。こいつはゲームでも沸点は低かったし、簡単に挑発に乗ってくれるわね。

 魔物へと変貌したアブタクデを()()


**********

名前:人工魔兵・アブタクデ

形態:オークキング

レベル:55

説明:エルドマキア王国の貴族、アブタクデ伯爵が魔人の力により魔物へと変貌した姿。魔人達の技術により元となった人間の欲望が原動力となっており、その変化形態は多岐に渡る。

**********


 魔人は欲深い人間を探し出し、特殊な技術と力で人間を魔兵へと改造する。魔人はその際、人間を洗脳し、都合の良い手駒とする。そうやって人間社会を内側から蝕んでいるみたい。

 彼ら魔人の武力を持ってすれば、こんな回りくどい真似をしなくても王国を正面から叩き潰せるんだけど、魔王を復活させるために魔兵から『とあるもの』を回収しているらしい。


 人工魔兵は、普段は元となった人の姿をしているけれど、魔人が作った特殊なアイテムを使用することで、体の内側にある魔人の力と融合し、魔物へと変質する。


 だからアレはもう、人ではない。

 もう完全に手遅れな、人の形をした魔物なのよ。

 彼らを救う手立てがあるのかは分からないけれど、変身した今となっては、殺してやるのが救済だわ。


 正史ではこうなってしまった人工魔兵のボスが何人か出現するんだけれど、アブタクデは結構終盤のボスだ。王国の膿を生み出した元凶ともされていて、実装当時はかなり苦戦した記憶がある。それを最初に倒しちゃうって言うんだから、この後の展開は予想出来なくなるわね。

 でもここでコイツを倒しておかないと不幸になる人は絶対に増えてしまうんだから、ここで撃破しないという選択肢は無いわ。それにあの時とは私の強さには違いがあり過ぎる。それにアブタクデも万全の状態ではないみたいだわ。本来の時よりもレベルがかなり低い。


 朝食をとり終えてすぐにこの状況を思いついた私、スゴイわ! と自画自賛したいところね。

 今後の展開を悩む陛下達の背中を押し、急遽その日の内に無理矢理理由をでっち上げて貰って、コイツを呼び出してもらったのだ。


 本当はアリシアも来たがっていたけど、ボスとの戦闘になるのは目に見えていたから呼ばなかった。経験値的意味で。

 未だ家族とはパーティ機能の解散はしていない。してしまえば経験値の分配や総取りとかをいちいち気にせずに戦えるんだけど、出来ればギリギリまで繋がっていたいのよね。これは私のわがままでもあるんだけど、アリシアには理由を説明したらリディを同伴すると言う形で折れてもらった。


 まあそんなリディは、後ろで腰抜かしちゃってるんだけど。


『貴様、我輩ノ姿ヲ見テヨクゾ言エタモノダナ! イイダロウ、コレクションニ加エテヤロウト思ッタガ、コノ場デ貴様ヲ陵辱シ血肉ヲ喰ラッテヤロウ!!』

「フフッ。言ったそばから言動がオークそのものじゃない。っていうか見た目も既にオークなんだから、現実を認めてブヒブヒ鳴いてなさいな」

『グオオオオ!!』


 アブタクデが自身を取り囲む近衛兵を乱暴に弾き飛ばし、こちらへと駆け出して来た。私を捕まえようと伸ばして来た手に対して、()で受け止める。


「『フレイムブレード』」


『ジュウウウ』


『アギイイイイ!?』


 正直触りたくなかったから咄嗟にコレを出したんだけど、失敗だったわね。肉の焼け焦げる匂いがするんだけど、とてつもなく酷い臭いだわ。鼻が曲がりそう。

 焼け爛れた手を庇い、転げまわるアブタクデに吐き捨てた。


「あなた臭いわね。ちゃんとお風呂入ってるのかしら」

『ギ、ギザマァ!』


 逆上し、今度は逆の手で私に殴りかかって来た。

 けど、本当にバカなのね。いくら強力な力を得たからって、戦いの素人が無手で武器持ち相手に勝てる訳がないじゃない。まぁ私が、貧弱な村娘だったらそれでもお構いなしにヤれたんでしょうけど。


「『ゲイルブレード』」


『スパッ!』


『アギヤァアア!!』


 アブタクデでの手を切り裂くも、腕を両断するまでには至らなかった。先程の火傷も、たった今切り裂かれた拳も、瘴気と共に徐々に回復していた。

 流石に『魔兵化』しただけあって、従来の魔物よりもタフね。ただのオークキングにはこんな能力は備わっていないわ。それに、自動回復するなんてもうコイツ人間辞めてるわね。

 ……いやまぁ、私も似たような能力あるんだけど。


 ただ、元が家でゴロゴロして好き放題怠惰な生活をして来た豚なだけあって、痛みには慣れていない様だわ。ちょっとしたダメージで悲鳴を上げてしばらく行動不能に陥るんだから、再生機能を足しても本物のオークキングよりは弱いんじゃないかしら。

 ゲームではここまでダメージに対してオーバーリアクションは取っていなかったし特殊な『闇の衣』を纏っていた。演出上の問題でカットされたのか、痛覚を気にしないヤバイ薬でもキメていたのか、はたまた魔人によって痛覚すらも改造されていたのか。

 ……今では知る由もないわね。


 それでもこの回復機能は厄介だわ。

 魔法武器で今のように圧倒することは出来るけど、謁見の間はそんなに広くはないし大立ち回りするには向かないわ。チマチマした攻撃では削りきれないし、魔法攻撃もこんなところでは使えそうにない。

 それに、このまま何とか体力を削りきったとして、その時には謁見の間が血溜まりになってるんじゃない? それはちょっとナンセンスよね。


 それならここで戦いを続けるのではなく、()()()()外に持っていくしかないわよね!


 痛みに悶えるアブタクデから視線を外し、事前に決めていたように陛下に確認をする。


「陛下、このままでは埒が空きませんので、あちら側の壁を壊しても構いませんか?」

「良かろう、許可する。今回発生する損害は余が保証しよう。好きなだけ暴れて構わん」

「感謝します、陛下」

『貴様、ヨグモヤッデクレダナ!』


 アブタクデが鼻息荒く突っ込んできた。こいつもしかして知能落ちてない? さっきから愚直な攻撃ばっかりだわ。


「さっきから煩いわね! あんまり触りたくなかったけど……シラユキちゃんパンチ!!」

『ブギョゴッ!!』


 突進するアブタクデの横に回り込み、脇腹に渾身の正拳突きを放つ。その腹にめり込む感触に顔を歪めながらも、思いっきり拳を振り抜いた。

 アブタクデは勢いよく壁に激突し、そのまま屋外へと突き抜けていく。私もそのまま穴を通って外へと飛び出した。



◇◇◇◇◇◇◇◇



「『浄化』『浄化』!」


 殴ったとき、ダイレクトに嫌な感触がしたし心の底から穢れた気がしたので二重に綺麗にした。念のため匂いもチェックしよう。

 くんくん……よし!

 問題はないけど、気分的には良く無いから、この戦いが終わったらシャワーを浴びよう。そしてアリシアに丹念に洗ってもらおう。


 体術ってなんだかんだ便利だし、使い勝手は良いんだけど、その反面感触がネックなのよね。格闘系統の武器は、この世界に来て武器屋を何度か覗いたけど、無骨な物ばかりだったから、買う気は失せていたけれど、カワイイ装備が無いなら自分で作った方がいいわよね。

 例えば猫の手を模した様な肉球ナックルとか?

 素材が手に入ったら、是非とも作ってみましょ。


 と、そこで今の自分の状況を思い出す。城から飛び出した今、自由落下するのを待つのみなんだもの。私のステータスなら地面に叩きつけられても痛みを感じることすらないでしょうけど、一応戦闘中だったわね。気を付けなきゃ!

 眼下には、先ほど吹っ飛ばしたアブタクデが瓦礫と一緒に広場へと落ちていくのが目に入る。さらにその広場では、多数の騎士が広場の外周を取り囲んでいる姿が見えた。


 そう、今アブタクデが落ちている先は兵士たちの訓練場兼、演習場でもあったのだ。そこは屋外な上に周りは平らな場所となっており、遮るものは何もない戦いに向いた場所だ。

 そこならば、私も周囲の被害を考えずに暴れられると思って、事前に陛下にお願いをしていたのだ。


 正直、取り囲む騎士さん達が邪魔ではあるんだけど……。今からする内容が内容なだけに、流石に無観客でやる訳にもいかないか……。


「『ライトニングブレード』」


 『ライトニングブレード』を空中で構え、何かを叫びながら自由落下を続けるアブタクデに照準を合わせる。


「『雷鳴流、二の太刀・飛雷』!!」


 雷鳴のような速さで加速し、アブタクデへと激突する。しかしそこで勢いは死なず、そのまま地面へと縫いつけた。


『グアッ!?』


 苦しみ悶えるアブタクデの魔の手から離れ、一呼吸をする。『ライトニングブレード』は奴の体を貫き、地面と一体化している。その上、貫かれた状態で回復を繰り返していて、その痛みでずっと悶え続けているわね。

 まるで標本にされた虫みたいにジタバタしているわ。醜い。


『ギッ、ギザマ、一体何者ダ! 魔人ト、契約シ、人間ヲ超越シタ、我輩ヲ! 圧倒スルチカラ……!!』

「ここで死ぬあなたが知る必要はないわ」

『何故ダ! 何故邪魔ヲスル! モウ少シ、モウ少シデ我輩ノ目的ハ達成出来タトイウノニ!!』

「そうね……あなたがこれから起こしたであろう悲劇は私にとっては到底許容出来る物じゃないわ。それによって悲しむ友達を救いたかった。理由は他にもあるけど、一番の理由は……そうね。私、あなたの事が大嫌いなの。それだけよ」

『グゥ……!!』


 魔法をまともに使えない奴が張り付けにされると、本当に無力ね。ここで『人工魔兵』となって強化された魔法が飛んできたなら()()()鬱陶しかったのに。


 それ以上会話をするつもりもなかったので、私は魔法の発動を準備する。

 今回、コイツは塵一つ残すつもりはない。正直コイツの所持品にも、魔物へと変貌したことにより変質した素材にも、一切興味がない。というかキモいから持ちたくない。

 だから、全力で滅するつもりで魔力を展開した。


 大技を決めるのは、オークの集落以来ね。こいつもオークだし、変な因縁でもあるのかしら。あの時は広大な集落全体を包むため、炎と雷で燃やし尽くし、風で広げる必要があった。

 でも今回の対象は1匹だけだ。それにおあつらえ向きに()()()まである。下準備としてはばっちりね。


 放つのは単体、そして威力特化型の魔法だ。正直周囲への余波は、どのような被害が出るかは分からないけど……陛下が弁償してくれるみたいだし、思いっきりやっちゃいましょ!


「『結合魔法(デュアルマジック)』『建御雷(タケミカヅチ)』!!」


 ハイエンド職業『賢者』のスキルによる、雷+雷の結合魔法(デュアルマジック)が発動した。


 晴れ渡っていた空には雷雲が出現し、荒れ狂う龍のような蒼い稲光がその中で暴れまわっていた。その龍は次第に雷雲の中央へと集まり、トグロを巻き降りてくる。

 そうしてゆっくりと眼を開き、下部にいる()を睨みつけた。


『GYAOOOO!!』


『ヒイッ!』


 まるで蛇に睨まれたカエルのように、アブタクデの動きが止まる。

 蒼い龍は轟音と共に一筋の閃光へと転じ、訓練場の中心へと降り注いだ。そのあまりの衝撃に音は消し飛び、視界は閃光と砂塵に包まれ、しばらくは何も感知できなくなってしまう。


 雷魔法の並列発動ではなく結合魔法(デュアルマジック)により効果がブーストされている。威力としては、単純に計算をしても『ハイサンダー』の威力を2倍にし、更に2乗されているのだ。下手な相手なら消し飛ぶほどだろう。


 ……長い静寂だった。頭がクラクラするし、目もチカチカする。近距離であの爆音と閃光に巻き込まれたのだから、こうなるのも仕方な……あっ。

 集落の時もそうだったけど、また耳栓するのを忘れてたわ。鼓膜が破れちゃってない?? 目もぼやけてるし。幸い痛みは来ていないけど、やっちゃったわね。


 実際、目の前でスタングレネードが爆発したようなもんでしょ? そりゃこうなるわね。

 てへっ。


「『ハイリカバリー』」


 視力と聴力が戻ったことで、改めて現状把握に努める。まだ目の前は砂埃が視界を埋めているし、遠くからは混乱したような怒号が聞こえて来ていた。

 それにレベルアップ通知が来ていない事から、アブタクデはまだ生きているのか、それとも戦闘終了の判定に入っていないのか、そもそも経験値が足りていなかったのか。判断がつかないわね。


「『ウィンドストーム』」


 魔法スキル30。風属性の竜巻を発生させ、砂塵を吸い込んでいく。竜巻は訓練場の砂埃を全て巻き取り、視界をクリアにした。

 『建御雷(タケミカヅチ)』が落ちた場所では、案の定クレーターが出来上がっていた。これは後で埋めるとして……。


「しぶといわね」

『ア……、グ……』


 四肢は吹き飛び胴体の大部分は炭化していたが、アブタクデはまだ生きていた。しかし、先ほどまでの回復力は無くなっている様だった。

 回復にも限界があるのか、ダメージ量が多すぎたのか、発動の為の生命力か何かが尽きたのか。それは分からないが、放っておいてもコイツは死ぬだろう。


「何か言い残す事は?」

『グッ、……グフッ。グフフフ……。貴様ガ、ドレホドノ強サヲ持ッテイタトシテモ、アノオ方ニハ敵ウマイ! ソ、ソレニ我輩以外ニモ、コノチカラヲ、授カッタ者ハ存在スル。セイゼイ、怯エテ暮ラスガ良イ!!』

「はいはい、テンプレな台詞をありがとう。『結合魔法(デュアルマジック)』『極炎鳥(ごくえんちょう)』」


 続けて炎+炎の『結合魔法(デュアルマジック)』を発動させる。私の頭上に蒼く燃え盛る炎の鳥が現れ、まだ何か言いたそうなアブタクデへと飛び込んだ。

 アブタクデが燃え上がるのを確認して、すぐさま視線を外す。コイツが燃え尽きるのを黙って見つめるほど、酔狂じゃないし。ドロップ品に関しても、私はその存在を許さない。全部燃えてなくなっちゃえ。

 そうした方が、私の精神衛生上、大変宜しいわ。


 背後から聞こえる怨嗟の声が小さくなっていき、次第に途切れた。


『レベルが14になりました。各種上限が上昇しました』


「おっ、上がったわね」


 タフさだけで言えば毒竜よりも上だったけど、魔法も使えなければ特殊な武器も能力も無い。耐久力が高くて腕力もそこらのオークキングよりも強くてレベルも高い。けど、他になんの特徴もない、サンドバックみたいな奴だったわね。


『ステータスチェック』


*********

総戦闘力:20670(+3250 +1250 +1591 +20)⇒20454(+3500 +1340 +20)

STR:2385(+146 +166)      ⇒2382(+156)

DEX:2385(+146 +166)      ⇒2382(+156)

VIT:3132(+650 +191 +218) ⇒3131(+700 +205)

AGI:2385(+146 +166)      ⇒2382(+156)

INT:2385(+146 +166)      ⇒2382(+156)

MND:3893(+1300 +237 +271)⇒3889(+1400 +255)

CHR:3929(+1300 +238 +272 +20)⇒3926(+1400 +256 +20)


称号:求道者、悪食を屠りし者


*********


「ふぅん、杖無しでも2万超えたのね。乙女無しでも19000くらいはあるのか。しばらくは平和なはずだし、これだけあれば困ることはないはず……よね?」


 命を薪に燃え上がっていた炎を忘れずに鎮火し、報告の為に謁見の間へと戻るのだった。


『思ったよりあっけなかったけど、これで平和になるはずね!』

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