第五話
それ以後は王妃様と、妖精が来訪された際の準備の話し合いをした。
城の客間を用意するのか、離宮を一つ用意したほうが良いのか、色々決めなければならないことがある。
警備の面でどうするのか、侍女はどうするか、食事は人間と同じで大丈夫なのか。
はたまた確認のために来る婦人たちの部屋決め。
余りにも沢山決めることがあるので、時間もかなりおしてしまった。
気がついたら、日が暮れる時間になっていた。
「とりあえず、ここまでにしましょうか。
大体の段取りは決めたことですし、あとは、そうね、前回のお茶会で何か気になる事がなければ、もう戻って良いわ」
そう、今回のお茶会は、本来であれば前回開いた王太子妃主催のお茶会の報告がメインのはずだった。
王太子妃、王妃主催のお茶会はさりげなく、宝石、ドレス、小物類全てにチェックをし、どこが羽振りがよいのかを観察したり、派閥形成が変わってないかを見たりと、色々と情報収集に忙しいのだ。
婦人方の視線や表情から色々と読み取らなくてはいけないし、声にならない声を拾う大切な場でもある。
また、報告で上がってくる領地の収益と比較して夫人の装飾品やドレスが異様に華美であり過ぎたり、逆にどことなく貧相であれば何かしらの探りは入れなくてはならない。
優雅にお茶を飲み、茶菓子を食べ、歓談する。
王家主催のお茶会、聞こえは良いが、内実かなりきな臭い会合ともいえる。
特に代わり映え無かったので、報告するような内容はなかった。
「特に、これといった変わりはなかったと思います。
では、私はこれで。
明日も、こちらに来てお手伝いをしたほうがよろしいでしょうか?」
「そうね、多分、その方が良いと思うわ。
多分、なにかとそちらにいたら気がかりでしょうし。
それに、初産は時間がかかると言いますし、ね」
王妃様は含みのある言い方をした。
私はそれに気が付かないふりをする。
「あぁ、そういえば、まだ報告が上がってきてませんね」
妖精の番探しという非日常の話を聞いてしまったからか、もしくは意識的に考えないようにしていたのか、今まで気にもとめなかった。
多忙というのは良いことだ。
色々と気欝なことを考えなくてよいのだから。
それにしても。
この調子でいくと、明後日の慰問は短時間になってしまいそうだな、とぼんやり思う。
だが仕方ない、今は優先順位が高い方から進めなくてはいけないのだから。
王太子宮に戻ると、すぐに執事のフィンレィに明日も城で執務する旨を伝え、部屋に戻り軽く着替えて食事の間に向かう。
意識して中庭を通らないようにした自分に苦笑してしまう。
さすがにこの時間にいることはないだろうが、やはりあの二人のやり取りを無感情でやり過ごすことは出来ない。
そして、どことなく宮の空気が落ち着かないのは、西の方の出産が控えてるからだろうか?
それとも、私がただ単にそう思って邪推してしまうのか。
城から出る前に使いは出していたので、完璧なタイミングで料理が出てくる。
暖かいものは、暖かく、冷たいものは冷たく。彼らのプロフェッショナルぶりには感心する。
黙々と、食事を口に運ぶ。一人の食事も、もう慣れた。
会合で誰かと共にする食事は、気を使い、逆の意味で味がしない。
ならば一人の時のほうが気が楽だ。自分のペースで食事がとれる。
だが、味気ないだけだ。
味気ない食事など、もはや食事ではなく、私が生きながらえるための餌なのかもしれない。
食後の紅茶を口に含んだ時に、執事のフィンレィが音もなく部屋に入ってきた。
私はチラリと視線で許可を出す。
「王太子妃様、食事の後でよろしいのですが王太子様が執務室にお呼びです。」
口に含んだ紅茶の、味はしなかった。
「分かりました、後程伺いますと、伝えてください」
あぁ、ついに来た。
無事に生まれたのか。
安堵なのか、落胆なのか。色々な感情が混ざり合う。
ティーカップを持つ手が震えるが、どうにかソーサーに戻した。
一口だけ、口をつけた紅茶は飲む気も起きずそのまま残した。