その後のルイス2
僕達が結婚してから1年、何の問題もなかった。
それが2年目に入る少し前位から、僕の調子が悪くなった。
僕は王太子、世継ぎを作ることが必須の人物。
父、王宮医、側近のブルースと、護衛のエリック。
この4人以外は、僕の状態を誰も知らない。
ブルースも、エリックも、父も、王宮医からもイジーと話しあうように言われたが、言えるか?言えるわけない。
そんなこと言ったら、イジーが不安になってしまうじゃないか。
いや、違う、僕のプライドが邪魔して。
尊敬される男でいたくて。
頼れる男でいたくて。
だから、言わなかった。言えなかった。
イジーに、可哀そうという目で見られたくなかった。
今なら、分かる。
それが、どんなに自分勝手なことだったか。
今なら分かる。
それが、どんなにイジーを傷つけていたのか、を。
イジーは何も言わない。
何も聞かない。
聡明な彼女の事だから、僕が話すのを待っていたのだろう。
でも、逆に、あの時イジーが文句でも何でも、何かを聞いてくれたら、もしかしたら、僕は打ち明けられていたのかもしれない。
僕は、打ち明けるタイミングも失ったまま、途方に暮れていた。
何をしても無駄だったのだ。
途方にも、暮れるだろ?
そして、転機が訪れた。視察と訓練をかねた最中に、毒蜘蛛に噛まれた。
雪の草原で地図片手に、道が見えない場所でどう行動するか実践訓練をしていた。
ウサギを追いかけていた野犬が急に飛び出してきて、馬が驚いた。
運悪く、僕は片手に地図を持って、地形を確認していた。
咄嗟の事で、僕はすぐに馬の暴走を止められなかった。
馬はギャロップになり片手で手綱を捌いていた僕は、飛び跳ねた馬とタイミングを合わせられなかった。
振り落とされる、と思った瞬間に、両足とも鐙から離して、受け身の体制をとった。
落ちる瞬間、イジーの笑顔が頭に浮かんだ。
受け身を取りながら落馬出来たから良かったものの、そうじゃなかったら、怪我だけじゃ済まなかっただろう。
でも、落ちた場所が悪かった。太ももを毒蜘蛛に刺され腫れあがり、高熱が出た。
何日間かうなされた後は、毒消しの副作用で意識が朦朧としていた。
あの時、僕の傍で僕の面倒をしてくれていた人を、僕は、イジーだと思っていた。
目が覚めたら、隣で寝ているのはイジーじゃなかった。
そして、思い出したのだ、自分が視察の最中だったことを。
イジーに、何と説明しようかと焦ったが、既にお手付きの状態の令嬢をそのままに捨て置けなかった。
彼女を屋敷に連れ帰らなければならなかった。
早馬を飛ばし、戻る際にはキャッサンドラを連れ帰ることを伝えた。
イジーが責めてくれたら、言えたかもしれない、ここでも僕は、卑怯だった。
イジーが何も言わずに受け入れてくれたから。
だから、僕は結局イジーの好意に甘えたのだ。
イジーが我慢しているのに、気が付かないふりをして。
そしてキャッサンドラは全てを知っていたから、僕はとても楽になってしまった。
なにせ、男としてみっともない姿を見られている。
良い恰好をしなくてもよいのだ。彼女といると、気が楽だった。
無理しなくていい、それが、とても心地よかった。
その後、キャッサンドラが妊娠した。
無事にマッケンジーが生まれるまでは、彼女の状態はそれこそ良くなくて。
悪阻でどんどんやせ細り、目が離せない状態が続いた。
彼女の状態が安定したのは、それこそ、臨月と呼ばれる時だったろう。
そして、無事にマッケンジーが生まれた。
僕は、心底ホッとしたし、嬉しかった。
これ以上ないプレッシャーの海から、僕は這い上がれた気がした。
ようやく。
ようやくイジーに向き合える、僕は思った。
全て説明をして、イジーに話そう、と。
イジーなら許してくれる、そんな傲慢な考えで。
イジーの、我慢の上に成り立っていた関係だったのに。




