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第四話

王太子宮からお城までは馬車で15分もかからない。

その15分、私は一言も喋れなかった。

隣にいるアメリアも、何も喋らずに傍にいた。

何を言っても、言葉などこの場では意味をなさないからだ。

慰められたくないし、何よりも、私の矜持がそれを許さない。

城に着き、通された茶室に王妃様は座っていらした。


「いらっしゃい、イザベラ。

ご機嫌如何かしら?」


大輪のバラのような笑顔で私を迎え入れてくれる、私の義母。

王妃教育の要、要で顔を出し厳しくも愛溢れる指導をして下さった方。

彼女に恥じないためにも、私は完璧な王太子妃であり続けたい。


「有難う存じ上げます、王妃様。

王妃様もご機嫌麗しそうで、なによりでございます。」


「フフフ、そうね、ご機嫌麗しそう、ね」


王妃様はちょっと困った顔して笑った。


「先ほど使いがこちらにきて、西の方の陣痛が始まりはじめた、と聞きました、それを聞いた愚息が足早にそちらに戻っていったわ、会ったのかしら?

まぁ、そんな状況ですので、正直言って、ご機嫌麗しい状態ではないわね」


温厚な王妃様には珍しく、投げ捨てるように言ったのを俯き、黙って聞いた。


「それに、ねぇ…」


扇で口元を隠し、視線を落とす。

王妃様には珍しく、口ごもる。


「妖精の番探しが始まるのよ」


驚いて顔を上げて王妃様をマジマジとみた。


「昨日、王の夢で、妖精が告げたらしいわ。

この月中に、こちらにくるみたいね。

部屋はこちらで用意するけど、私は前王妃からお話のみお伺いしただけですし、前王妃もお話のみですからね。

正直、初めての事で戸惑っているわね」


いつも涼しい顔して執務をこなす王妃様でも、今回の事はイレギュラーもイレギュラーの案件だったらしい。

いや、それは私も同じ。

どうしても実感がわかない妖精の存在、そして番探しがまさか現実に起きるなんて。

話としては、一応教育も受けていたし、歴史書を読んだばかりで分かっていたつもり、だったのだけど。


「次回がいつかは知らないけれど、イザベラが王妃になった際にもいらっしゃるかもしれないから、二人で一緒にお迎えの準備をしましょう。

何を手配し、どう采配するか考えないといけないから」


「妖精が来たら、バラの紋様が左胸に現れると言いますが、どのように確認作業をするのですか?」


一番の疑問を王妃様に聞く。

バラの紋様は、誰が見てもバラなのか、それは一気に現れるのか。

それとも、なんとなく、痣が出るだけなのか。


王妃様は小首を傾げた。


「それも、文献ではバラの紋様としか書かれていないので、私も正式には分からないのです。

胸に痣がある娘を集めて、妖精が確認するのかしらねぇ?

それとも、一人だけしか紋様は出ないのか。

あぁ、最初の確認は、村ごと、町ごと、領主夫人が確認するのよ。

領主夫人は報告に上がる際にその領地を管轄する夫人で調べることになります。

貴族も同様です。

男爵は男爵位の中でも優秀なメリベール婦人、子爵は子爵を取りまとめているオックスフォード夫人が、伯爵はアッシュバートン婦人とロイドディル婦人、そして、侯爵、公爵、そして報告をする婦人たちを見るのは私達です。

一応この辺までは決定事項ですね」


フウ、と王妃様が一息つく。

侍女がすかさずお茶を差し出す。

私も王妃様も黙ってお茶を飲んだ。


やはり、お茶会というよりは執務連絡兼ねているのだな

と、お茶を飲みながら王妃様のお顔を見つめる。


王妃は慰問、外交の場の接待、他、色々差配しなければいけない。

感情を伴う処分をくだすこともなくないので、基本表情が読めない。

だが、さすがに昨日の今日だ。

少しお疲れなのかもしれない。


「お声をかけてくだされば、お手伝いを致しますので何なりと申しつけ下さい。

私も王太子妃として、出来る限り王妃様のお手伝いを致します」


「ありがとう、イザベラ。

本当に、あなたは良くやっているわ」


王妃様の優しい労りの声が、胸にしみる。

及第点はもらえているらしい。

心の中で安堵する。

王妃様は、王太子妃として、認めてくれる。

それだけでも、私はまだ頑張れる。


「ありがとうございます」


私は久しぶりに、心からの笑みを浮かべた。


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