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王太子妃ですが、エルフの番に選ばれました  作者: たま


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第三十三話

まだビショップがトワイゼルという名を名乗っていた頃。


トワイゼルは、かなり高位の妖精だった。

おまけに、妖精内でもかなりの容姿を誇り、年頃になったトワイゼルの周りにはいつでも番に選ばれたがる沢山の妖精がいた。

妖精は自分の意思で番を選ぶ。

番を選ぶのは生涯1度だけ。

番を認定したら、お互いに番の紋様を相手に捧げる。

妖精は長寿だ。だから必然的に番に選ぶのも同族が多い。

逆に妖精以外を番に選ぶ者は一人もいなかったといってよい。


トワイゼルは自分の周囲で番に選ばれようと愛想を振りまく妖精に辟易していた。

何をしなくても周囲に寄ってきて、媚を売られる。

そんな生活を毎日続けていくうちに、トワイゼルは自分でも気が付かないうちにどんどんと傲慢な性格になっていった。


ある日、気まぐれに妖精が誰もいないような地域に行って、少し一人になってみようとブラリと北の最果ての地へ行ってみた。

妖精は暖かい地域を好む。

常夏とまではいかなくても、それに近い気候の地域で主に暮らす。

だから、誰もいないであろう北の地は、一人になるには最適だった。


雪が全てを埋め尽くし、見渡す限りの白。

針葉樹が雪の重さに耐えきれずに、時折バサリと音を出して雪を跳ね落とす。

緑が見えても降り続く雪に少しだけ見えた緑は瞬く間に色が変わる。

トワイゼルは、ただ一人、ぼんやりとその雪景色を見ていた。

雪が深々と降る。

白一色。

周囲には煩わしい妖精はいない。

自分、一人。

トワイゼルは久々に生き返るような気持ちになった。


一人の時間を堪能していると、トワイゼルの耳に人間の叫び声が聞こえてきた。

この静かな空間を壊すには十分すぎる声だった。

こんな雪が降る中、人間が行動するなんて命知らずな事を。

普段のトワイゼルなら、人間が生きようが死のうが頓着しない。

彼にとってはどうでもよい事だから、だ。

だが、その日の彼は気分が良かった。

つい、その叫び声につられて、何が起きているのか見に行った。

人間を助ける気は、無かった。

ただ、雪女が楽しそうに獲物を狩っているのを見るだけのつもりだった。

雪女よりも妖精のほうが強い。

気配を消したトワイゼルに、彼女が気が付くことはなかった。

雪女はそれはそれは楽しそうに狩りをしていた。

それをしばらく見ていると、襲われている人間の少女と目が合った、ような気がした。

まさか。

自分と目が合うなんて有り得ない。

人間が自分を認識する事なんて、有り得ない。

そう思っても、依然彼女の目線は自分に向けられており、彼女は必死にトワイゼルに向かって助けを乞うていた。


気の迷い、もしくは好奇心。

トワイゼルは、その少女に興味を持った。


人間のくせに我を認識するとは面白い。


興味を持ったが最後、ビショップは人間を救うために手を出した。

雪女は獲物を奪われて激高した。


普通に考えても雪女は力の差を考えて妖精に勝負などしてこない。

その油断が、トワイゼルをこの地に縛り付ける呪いになった。

雪女は死んだ。

当然だ、力の差は言わずもがな。

だが、彼女はトワイゼルに呪いをかけた。

自分の力をトワイゼルに全て譲る代わりに、この地から離れていけないように。

彼女は雪女だった。

当然北の寒い地にしか住むことが出来ない。

彼は、自分が生まれ住んだ故郷に帰れなくなった。

トワイゼルは一人になりたかったから、友人にも誰にも北の地に行く事を言っていなかった。

位の低い妖精ならば、この地に来ただけで命を縮めてもおかしくない。

こんな場所に好き好んでくる妖精など、トワイゼル位なものだ。

彼は、正真正銘一人になってしまったのだ。


彼は成り行き上、助けた人間の一団を保護し、体に取り込んだ雪女の力をもって吹雪を止めさせた。

夜を超えさせられるような洞窟に案内し、洞窟内を自分の力で暖める。

冬の山脈を超える厳しい状況と、雪女の攻撃により、助けられた人間の数はそこまで多くはなかった。

それでも、全員が全員、感謝をした。

恐怖の目で遠巻きにトワイゼルを見るものもいたが、特に気にしなかった。

彼は興味を持った少女以外、どうでもよかったからだ。


少女と目が合うと、彼女は自分が人ではない事を知っているのに、躊躇せずに傍に来た。そして、トワイゼルの手を取って自分の目を見てきちんと御礼を言った。


「私の名前はディジー。助けてくれて、どうも有り難うございます。

あなたが助けてくれなかったら、私達は今、生きていなかったでしょう。

本当にありがとう。

あなたのお名前は、なんて言うのかしら?」


まだ顔色も悪く、目に涙を浮かべ震えている少女はそれでも気をしっかり持ってトワイゼルの名前まで聞いた。


「…我が名はトワイゼル」


「トワイゼルさん、どうも有り難うございました。

お陰様で村のみんなも、私の両親も兄も無事です」


「全員は助けられなかったがな」


それでもディジーはお礼を重ねて言った。

あなたがいなかったら、全滅だった、と。残念だけれど、仕方ないと。


人間にお礼を言われたのは初めて、だった。

そして、自分が自分以外の誰かに興味を持ったことも、また自発的に何かをしたことも、とても久々の事だった。


トワイゼルは何だかんだで、ディジーやディジーの両親、または村のみんなと一緒に行動をした。

彼らはトワイゼルを最初は遠巻きにしていたが、最終的には気にせずに気楽に付き合うようになった。

トワイゼルも率先して動き、土地に恵みを与えた。

気候を穏やかなものにし、土壌を豊かにし。

さすがに雪女の呪いがあるから、自分の故郷のような温暖な土地には出来なかったが、それでも北の最果ての地で、この気候を可能にしたのは高位妖精のトワイゼルの力の賜物だろう。

そして、彼はディジーと恋に落ちた。

最初から、彼女は特別だったのだ。

人間のくせに、我を認識したのが、その証拠だ。

傲慢にも彼はそう思った。

そうして、トワイゼルはディジーに番の紋様を授けたのだ。

その話をしたとき、ディジーは涙を流して喜んだ。

私があなたの特別なのね、と言って。


幸せな時間だった。

穏やかで、愛に満ち溢れて。

二人の間に子が出来ない事をディジーが気にしていたが、トワイゼルは気にしなかった。

異種族間だから、難しいだろうとは思っていたからだ。

その代わり、トワイゼルはディジーの涙から白い鳥を作り出した。

ディジーはカークウッドと名付けた。

カークウッドをディジーは自分達の子供のように可愛がった。

トワイゼルは、幸せだと思っていた。

この小さな箱庭のような世界で、優しい周囲の皆と、そして愛する妻を持てて。

この世で一番幸せだ、と。

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― 新着の感想 ―
[一言] え、番ってそういうものだったの。この腐れ妖精NTR野郎だったの。好感度が息していない。
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