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第二十七話

翌朝、王妃様から朝食に誘われた。

慌ただしいのは、きっと明日の夜が満月だから、だ。

最終調整に入った彼女には時間がないのだろう。

食欲がない、といって断るわけにはいかないのだろう。

知らずのうちにため息が出る。

アメリアが黙々と準備をするのをカークウッドがじっと見ていた。


「おはよう、イザベラ。

調子はどうかしら?

昨夜遅くに、フィッツジェラルド侯爵家に婦人達が到着した連絡を受けました。

モーニングティーを私も一緒に取るように取り計らいましたのでそのつもりで用意しておいてちょうだい。

その後は、イザベラ。私の手伝いは結構よ。

家族と積もる話もあるでしょう。家族と一緒にお過ごしなさい」


にこやかに、大輪のバラのように微笑む王妃様は、相変わらず王妃様で。

私はその発言に、あぁ、ルイス様と私はもう、既に家族ですらないのかと目を伏せた。

あの、王太子宮での朝に過ごしたのが、ルイス様と二人で過ごした時間だった。

それ以外、ルイス様がいるのは全て公の場で。

王妃様の指図だろう、私とルイス様の個人的な接触は意図的に避けられている。

結婚を白紙に。

そういうことだ。

改めて思い知る。


「ありがとうございます。

お言葉に甘えさせてもらいます」


素直に礼を言う。


「もし、かなうのであれば、王太子宮に行きキャサンドラ様に挨拶に行きたいのですが。

出来れば、ルークとフィンレィやミセス・ハウデン、ミセス・オットマンにも」


王太子宮の要である彼らにも、出来れば直接挨拶したかった。


王妃様は頷く。モーニングティー前に行って帰るだけだからそんな時間はないが、会えるのは有難い。

アメリアが伝令を伝えに席を離れるのを見て食事を再開する。

焼いたリンゴに蜂蜜をかけ、オートミールと一緒に頂く。

あまり食欲がなかったが、キャラメライゼされたりんごの甘さと程よい酸味が助けになり、美味しく食べられた。

私も王妃様も朝食はそんなに食べないのであっという間に終わる。

食後の紅茶を飲んでいると、王妃様が長いまつげを伏せた。

少しの間、何かを考えているようだった。

陽の光を浴びた王妃様は、綺麗だった。


「イザベラ」


王妃様が目を開き、優し気に微笑んだ。

そして、その声は私が今まで一度も聞いたことがないくらい、慈愛に満ちていた。


「もう、こうして義母と義娘として会うことはないのでしょうね…

次に会うのは…

私は王妃として。

イザベラ、あなたは妖精の番として」


そして、寂しそうに微笑んだ。

両親や祖父母以外でこんなに私を叱咤激励して下さった方はいなかった。

いつでも、王妃様は私の目標だった。

義母と呼べなくなるのは、とても寂しい。


「…私も、王妃様を義母と呼べなくなるのは寂しいです」


私も素直に返した。

これが二人きりの最後の会話になるのだろう。知らず、涙があふれそうになる。

王妃がふと視線を外した。


「一つ質問が。

なぜ、あの時子流しの薬を使わなかったのかしら?」


やはり、西の方の妊娠、出産を納得していなかったのか。

そうだろう。

私だって、最初聞いたときは使おうと思った。


「…せっかく芽生えた命をつむのは心苦しく…」


無難な答えを伝えようとして口籠る。


「いえ、…違います。

ただ、私は、ルイス様の喜ぶお顔が見たかった、それだけです」


そう、それだけ、だった。

私を女として見られないのなら。

子供を産む機会が得られないのであれば。

後継を望まれる立場のルイス様にお子様を授けられるのは、キャッサンドラ様ただ一人。

私は、ルイス様が喜ぶ顔が見たかったのだ。

王太子妃としては落第な答えだろう。

でもいいのだ、私はもう、王太子妃ではなくなる。


その答えに、王妃は瞠目した。

何も言えずに私の瞳をじっと見た。

私も見つめ返した。

そこに嘘がないと思ったのか、王妃様は眼を伏せた。


「…結果として、あなたの判断は王家として今回とても助けになりました。

イザベラ、あなたにとても酷な事を言うようだけど、感謝しています。

…。

そして…。

ルイスの母として、そして、義母として、イザベラ、あなたに謝罪したいわ…

本当にごめんなさいね。

…イザベラ、あなたはこんなにもルイスの事を想ってくれていたのに…」


王妃様は、静かに首を振った。

王妃様の目に涙が見えたのは、気のせいだろうか。

私の目から涙が出てるから、そう見えるだけだろうか。


「イザベラ、私はあなたの事を実の娘のように思い、慈しんできたわ。

私にとって、いつまでもあなたは義娘のままよ…。

…。

…もう、時間もないわ、下がりなさい」


「今までの多大なるご厚意に感謝いたしております。くれぐれもご自愛くださいますようお願い申し上げます」


もう十分、私は王妃様から愛情を受け取った。

十分過ぎるほど。

私はあなたの義娘として不甲斐なかったかもしれませんが、私も王妃様の義娘でいられて幸せでした。

言葉に出して言わない代わりに、イザベラは微笑んだ。

全ての感謝を込めて。


最後に綺麗なカーテシーをしてイザベラは座を辞した。


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