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第二十五話

王と王妃との謁見を終えたグレイソンは苦虫を噛み潰したような気難しい顔をしていて誰も話しかけようとはしなかった。

ただ一人、例外を除いて。


「フィッツジェラルド侯爵、もし時間があるのなら、私に少しくれないか?

話したいことがあるのだ」


今、この場でグレイソンが一番会いたくなかった人物。


「これはこれは、ルイス王太子殿下、ご機嫌麗しく」


臣下として最低限の礼儀をもって、慇懃に挨拶をする。

いつもの柔和なグレイソンの態度を知っているルイスは少しバツの悪い顔をして顔を伏せた。


私の機嫌が悪い理由は、分かっているのだな。

フン、若造めが。


「時間、ですか、私はこの後、王太子妃に呼ばれてましてね。

申し訳ありませんが、失礼します」


「待ってくれ、それが分かっているから、こうやって声をかけたんだ…」


グレイソンはルイスを一瞥する。

ここで、何か変な事を言われても、聞かれても困る。

ここは王宮の廊下だ。

誰が通るか分からない。

それが分かっているのにルイスがグレイソンに声をかけてきた。


「…よろしいでしょう、手短にお願いします。どちらで話しますか?」


ため息をつきつつ了承する。

ルイスは近くの部屋に案内する。

部屋に入り、扉を閉めたのをきちんと確認する。


「それで、お話とは?」


グレイソンが早く用件を言え、と言わんばかりに問う。


「…イザベラに、イジーにあわせてほしい…」


グレイソンは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしてルイスを見た。


「…は?」


グレイソンはルイスが何をお願いしたのか、理解するのに時間を要した。

グレイソンだって、あの噂は知っている。

自分の娘が何て言われているのか、だって。

そして、辺境伯の娘がルイスの子を産んだことだって当然知っている。

今更、何を言うのか?

あの娘と晴れて一緒になれる、礼か?


「母上からの命令で、私は公の場以外でイザベラに会えないのだよ…

もう、既に聞いてると思う。私とイザベラの結婚が…白紙になると…

だから…」


ふう、と音が出るほど大きく鼻息を吐いた。


「私と一緒なら、会えると?」


ルイスが頷く。

髭を撫でながらグレイソンは少し考える。

王妃が、ルイスに会うなと命じたのは、イザベラが感傷的になって逃亡しないように、だろう、か。

イザベラに聞けば、きっと会いたくなくても会うと言うだろう。

これ以上、娘を傷つけたくない。


「王太子殿下に質問があります。

なぜ、我が娘に会いたいのですか?

何かご伝言があれば、責任をもって私から伝えますよ?」


言外に、今更何の用だ、その意味を込めてゆっくりと話す。

ルイスの視線が部屋の中を彷徨う。

何か口にしようとして、グレイソンを見つめているがルイスの口が開くことはない。


少しの沈黙。

やがてルイスは意を決したように顔を上げるとようやく口を開いた。


「いや、失礼した、フィッツジェラルド侯爵。時間をとらせて悪かった。

…手間をかけるが、一言だけ…伝えてもらえないか?」


顔を上げ、グレイソンを見る瞳に力があった。

顎をしゃくり、続きを促す。


「約束を守れなくて、すまなかった、と。

それだけ伝えて欲しい」


それを聞いたグレイソンは、さてどうしたもんか、と思った。

伝言内容によっては、自分の胸に秘めてしまおうとすら思っていたからだ。

ルイスは謝罪した。

約束を守れなかったと言って。

約束。

結婚式の誓いの約束だと思った。

トワイゼル王国の妖精に誓う、結婚の誓い。

妖精の番に選ばれた娘。

あぁ、だからか。

王族が公の場では謝罪できない。

王妃命令で公の場でしか会うことが出来ないのなら。

今、イザベラに会えるのは王妃が認めた人物か、フィッツジェラルド侯爵家の人間だけだ。

だから、気まずい思いをしても私に声をかけたのか。

直接、謝罪したくて。

そうか。

こんなんで腹の虫はおさまらない、が、少なくともルイスなりにこの結婚にケジメをつけたかったのであろうという誠意が見れたのは良かったのかもしれない。

色々思うことがあるが、二人には二人だけの時間が確かにあったのだろう。未だにイザベラの愛称を呼ぶくらいには、情もあるのだろう。


「必ず、伝えます。それでは失礼いたします」


部屋に入室した時よりかははるかに柔和な顔になり、グレイソンは後ろを見ずに部屋を後にした。


ルイスがグレイソンの背中に頭を下げたのを知っているのは、護衛のエリック、ただ一人だけだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] ルイスがグレイソンの背中に頭を下げたのを知っているのは、護衛のエリック、ただ一人だけだった。 いやぁスバラシイまでの今更感ですね。取り敢えず殿下は一度死んでみてはいかがだろうか。
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