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第二十四話

何をするわけでもない一日というのは、長い。

今までの日常とは違う時間の流れ方に、イザベラは手持無沙汰だ。

王妃の手伝いは、2時間もあればよい方で、それ以外は何もすることがない。

キャッサンドラの王妃教育が始まるだろうから、何かアドバイスを、と思っても、書類も帳簿も王太子宮の執務室にあるものばかりで手がつけれない。

ただ、良い事もあった。

アメリアと口頭による打ち合わせをするが、長い事イザベラの傍に伊達にいたわけではない。

彼女はやはり有能な侍女だった。

大体の事は、理解できているので話が早い。

夜会で直接会うわけではない貴族の人相や人柄はお手上げなので

二人で貴族名鑑を見ながら、丁寧に説明をする。

アメリアの質問に答えているとノックの音と共に扉が開いた。

驚いて開いたドアを見ると、慌てた様子の護衛、召使と一緒に入ってきたのは、父、グレイソンだった。


「イジー!」


父のグレイソンの登場にイザベラもアメリアもビックリする。

挨拶もなくズカズカと客間に大股で入ってきてイザベラを抱きしめた。


「元気だったか?私の大切な大切な宝物さん?」


そう言って、イザベラの瞳を覗き込むイザベラと同じ色の薄いブルーの瞳。

イザベラも抱きしめ返す。

いつもの父の匂い、いや、少し汗臭い…

汗臭い…?


イザベラが顔を上げ、グレイソンを見ると汗が額から落ちる。

改めて父の様相を見ると、馬装のままで、まだ脛あてすら足につけているではないか。


「…お父様、もしかして、単身馬で来ましたか?」


イザベラが呆れながら問いかけると、悪戯がバレた子供のように苦笑する。


「娘の一大事で、馬車でちんたら王都まで来るのは性に合わん。

あぁ、イヴェッタなら、ウェインと、スカーレットと一緒に馬車で向かってる。

遅くとも夜には着くだろう」


「ウェインお兄様もスカーレットお義姉様も来てくれるのですね…」


イザベラの肩から力が抜ける。父は脛あてを外しながら馬装を解いている。


「それにしても。よくもまぁ、その格好で客間まで来れましたねぇ」


「あぁ、ブルースの手引きでな。奴は今、報告に向かっているだろうよ」


ブルースは早馬の使者だったはず…それと一緒に駆ってきたのか…

呆れてものが言えない。

でも嬉しい。一刻も早く会いたかったのだ、という父の気持ちが。

そして、母であるイヴェッタも兄も義姉も報告を受けて準備もそこそこにこちらに向かっているのだ。

馬車で移動とはいえ、夜前につくのなら休憩をほぼ取らずにこちらに向かっていることになる。

イザベラの胸は嬉しさでいっぱいだ。

グレイソンは王都の邸に着替えを持ってくるように指示をすると、タオルで顔を拭きながらソファに座った。

ピッチャーから水を汲み、グレイソンに渡すと一気に飲み、更につぎ足す。


「イジー、話はブルースから聞いた。

正直に言えば、何故お前が、という気持ちが強い。いまだ信じられない」


バサバサと羽音が聞こえ、初めて見る白い鳥がイザベラの膝の上にとまった。


「お父様、妖精のビショップ様のペットで、カークウッドです」


カークウッドはグレイソンを見てからイザベラの顔を見上げた。

イザベラが微笑んでカークウッドを撫でる。

その姿はまるで一幅の絵のようで。

そして、見たこともない白い鳥と一緒にいる娘を見て、なぜかグレイソンは背筋が震えた。

…汗で冷えたのだろう…

そう結論付けようとしても何かしらの違和感がぬぐえない。

それは妖精のペットだという鳥のせいだろうか?

それとも、今現在進行している現実を受け入れたくないからだろうか。


イザベラが、グレイソンに話し出す。

自分に番の紋様が現われたこと、今も王妃様のお手伝いをしている事。

そして、ルイスとイザベラの結婚の白紙、対価としていずれ侯爵家に娘を降嫁させる約束。

感情を交えず、淡々とした娘の説明を、グレイソンは何も言わずただ、聞いていた。

ある程度聞き終えたところで、アメリアから着替えが届いた報告を受ける。


「イジー、私は着替え後、謁見の約束がある。また後で話そう」


なるべく穏やかに声を出して、イザベラの客間から移動する。


イザベラは、取り乱してもいなかった。

愚痴の一つも言わなかった。

父である自分と面しても泣きもしなかった。

イザベラ本人の気持ちを殺して王家に不都合な事実を巧く脚色した物語に反吐が出そうになる。

話の要点を淡々と告げた娘のその態度も、全て今までの王妃教育の賜物なのだろう。

今までなら、誇らしい、と思えたろう。

今後王妃としてやっていくには十分力強い娘に。

今は、ただ、感情に蓋をしてお人形のように話す娘を、ただ父として寂しく哀れに思う。


妖精の番、誇らしい事だ。

栄えある名誉でもある。


分かっている、分かっている。

理解しているのだ、その重要性も、全て。

だけど。


こんなの贄じゃないか。


グレイソンの胸にくすぶる思いは口にすることが出来ない。

絶対に。

自分の領地、フィッツジェラルド侯爵領。国一番の数を誇る牧畜と農産物の最大生産地。

別名トワイゼル王国の食糧庫。

妖精の加護がなくなって一気に不作にでもなったら、領民は、いや国全体が飢えと寒さに苦しむだろう未来しか思い描けない…


先ほどまでの姿から一転し髪も髭も全て整えられ、グレイソンは謁見の為、王の間に向かった。

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