表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/47

第二十話

イザベラの実家のフィッツジェラルド侯爵家の領地はここから馬車で2日、そこまで遠い距離ではない。

のどかな丘陵地帯の穏やかな田園風景が広がる地域。

街道も整っているため早馬で飛ばせば1日で着く距離だ。


まさか自分が早馬の使者になるとはね。


王太子の側近であるブルースは独り言ちた。

確かに、内密に伝えてほしいという願いは理解できる。

役割はともかくとして、信頼のおけるものに、という事で自分が選ばれたのも素直に嬉しく思った。

自分でいうのも何だが、小さい頃から側近候補として、王太子とは友人としてずっと付き合ってきたのだから。

時には友として二人で飲むことも多々あるくらい気安い関係でもある。

まぁ100%友情、とは言えないが。仕えるものとして線引きはある程度必要だから。


井戸から汲んだ水をゴクゴクと一気に飲み干す。

ようやく一息つけた、生き返る気分だ。

頭にも水をかけてから水分を飛ばす。

今、馬は美味しそうに飼葉桶から干し草を食べている。

かなり汗をかいてるし、もう少し人間も馬も休息の時間を取った方がいいだろう。

次の町までは距離があるし疲労が激しいだろうから馬を交換しないといけないだろう、次の町はブライトンか。ブライトンの次はジェラルディーン。満月が近いから夜道は明るいだろう。

ジェラルディーンまで今日中に着けたら、午前中にフィッツジェラルド侯爵領にいけるな、

そんなことを自分の護衛をしている騎士と話す。


早馬なのに、護衛の騎士が4人もいるって異常だよな。

まぁ、異常事態か、ある意味。


護衛の騎士に選ばれてるのは顔見知りの騎士だから気が楽ではある。

それに、今は王太子の傍にいるのは、なんとなく居たたまれない気持ちになってしまい、一緒にいたくなかったから、ちょうど良いか…


カバンからリンゴを出して、齧る。

酸味が強かったが、しゃりっとした噛み応えで食べがいがある。


王太子は、自分に 何故そんな噂が流れているか教えなかったのか、と言った。

こんな噂が流れてますよ、なんて言えるわけ、ないじゃないか。

そう言いたかった。

だから、言ったんだ。

あの時、イザベラ様に話すように。

二人で話し合うべきだ、そう、言ったはずだ。

それをしなかったのは、王太子であるルイスだ、と。

ルイスは何も言わなかった。

そして、そうだよな、と言って俺から目をそらし、どこか遠くをみるような目をした。

後悔したって、遅いんだよ。

口には出さなかったけど、普段周囲に見せないルイスの憂い顔に少し、友人として同情した。


ゴシップは貴族にとって麻薬と一緒だ。

男も女も関係なし、相手を引き摺り下ろすことを楽しんでいる。

それが、たとえ王太子妃でも、だ。

行儀見習いという名目で働く貴族女性の侍女は、ほぼ信用ならない。

彼女たちは、王や王太子のお手付きになるのを手ぐすね引いて待っている。

そして、また、彼女たちはゴシップを作り出す。

少しの事実を、相手の想像に託して話すだけ。

少し声音を変えるだけで、少し、眉を顰めるだけで。


ルイスは、知っていたはずだ、そんな事。魑魅魍魎が溢れる世界だ、と。

だけど、あの状況では仕方なかったのかもしれない、

いや、仕方ないから、と言って気がつかなかったのはやはり問題だった。

当たり前のようにその環境で育ってきたのだから、きちんと対策をとるべきだったのだ。

あの時、もし噂について聞かれたら、俺は答えただろうか。

あの時、もし?

分からない。

俺は、いえただろうか。あの時の彼の状態を知っていて。

やはり、ためらったのではないか。

更なるプレッシャーをかけるのは得策ではない、と思ったから言わなかったじゃないか。

でも、こうなってみると、言わなかった自分にも責任があったのかもしれない。

いや、今更だ。


馬の腹帯が緩んでいるので、締めなおす。

鞍にまたがり、駆け足をする。

こんな長時間馬に乗るのも久しぶりだな、これが単なる野駆けなら最高だったんだがな。


自分がこれから伝えるセリフを考えないようにして馬を走らす。


イザベラの父であるグレイソン・フィッツジェラルド侯爵にイザベラが番の為、至急王都に来てほしい、と報告に行くのはとても気が重い。

まさか王家に嫁がせた娘が妖精の番だなんて、誰も思わないだろう。

事実、ルイスだって、王妃様だってそうだった。

あの、王妃様が隙を見せた。

ブルースにとって、それは衝撃だった。

イザベラが番という事実も衝撃だったが、それ以上に王妃が隙を見せたほうがもっと驚いた。冷静沈着、感情のふり幅を見せない人だと思っていたから。

…それだけ、受け入れられない事実だったのだろうな。

自分だって、この目で妖精のビショップを見なかったら信じなかったかもしれない。

妖精の番探しなんて、おとぎ話のようだ、と。

いや、違う。信じてはいたが、自分の代であるとは思わなかっただけ、か。


どちらにせよ、もう動き出してしまったのだ。

人の力は、無力だ。

濁流の水を止めることができないように、

きっと誰にも、止めることは出来ないだろう。


今は、一刻でも早くイザベラ様のご両親に王都に来てもらうために馬を駆らせるしかない。

何も考えたくなくて、ブルースは馬の腹をけった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ