第二話
トワイゼル王国。
最果ての北の大地にあるこの王国は、妖精の加護がある。
この最果ての北の大地にも関わらず寒さで大地が凍ることもなく、自然豊かで、農作物も豊富。実り豊かな地である証拠が、妖精の加護の証。
この国に来るためには、北の山脈を超えなくてはならない。結果、地形が要塞となり、他国から侵入されにくい。そして、不思議なことに侵略されそうになるとブリザードが吹き荒れ撤退していくのだ。
商人が商いするためなら、気候はさほど変動しないのに。
なぜ、この国が妖精の加護を得られてるか、というのは。
何十、百年かに1度の割合で、妖精が自分の番を見つけにくるから、だ。
最初に妖精の番に選ばれたのが、現王家の祖先であるディジー姫。
森の中で傷ついていた妖精を助けたのが出会いの切っ掛けだったそうだ。
熱烈な恋愛の末に、ディジー姫は妖精の国に嫁がれた。
ディジー姫のお相手の妖精の名前がトワイゼルというから、この国の名前がトワイゼルになったのだ。
そして、彼女が嫁がれたときに、この地に妖精の加護をくださったそうだ。
そして、加護の条件として、何年かして、また別の妖精が番を探しに来る。
その際、連絡をするので、探すのを手伝って欲しい、と。
それをしてくれたら、この地を守護することを誓う、と。
これが、トワイゼル王国、王家の成り立ち。
ディジー姫は、妖精に出会ってから左胸の上のほうにバラのような紋様の痣が浮かんできたそうだ。
これが、番の証。
そう、妖精がこの地にきたら女性は必ず左胸を確認しなくてはいけないのだ。
これは第3者の公正な目で確認する。
未婚既婚年齢問わずにする確認作業。
歴史書を見る限り、その期間、年齢は至ってバラバラ。
期間は、前回の番様は98年前の16歳のご令嬢だった。
彼女の婚約を白紙にしたりして、大変だったみたいだ。
その前は60年、その前は110年前だったりして期間もまちまち。
年齢も40過ぎの方がいたり、11歳というまだ少女の年齢だったり、成人の15歳だったり。
私はぼんやりと頬杖をつきながら王家の歴史書を見る。
うん、まぁ、この国の絵本に書いてある内容とほぼ変わりはない。
絵本は、やはり夢を売らなければならないのか、番に選ばれハッピーエンドで幕を閉じる。
その後の妖精の国に移動した後は、誰も書いていない。
否、書けないのだ。
妖精の国がどこにあるのか、どんな暮らしをしているのか誰も知らないからだ。
嫁いだ女性から、ときたま手紙が、届くくらいで本人とは会えないらしい。
その手紙も、妖精の国の事は詳しく書かれていないからだ。
しかも前回の98年前の侯爵家のご令嬢の時は結構揉めたらしい。
なにせ、これを読む限り、どうやら婚約者と彼女は相思相愛。
番に選ばれ、泣く泣く旅立ったらしい感じがする。
身代わりを立てようとして、珍しく吹雪が1週間も続いた、と書いてあるから、これは妖精による脅し、ともいえる。
向こうにとって番でも、本人にとっては番でも何でもないのだろうか。
ただ、妖精はとても美形だと書いてあった。
これは少し興味がある。
何せルイスもやはり容姿端麗だから、だ。
ルイス様よりも、素敵なお顔なんてあるのかしらね。
イザベラは、4か月前の公務で一緒に食事をした際に微笑んでくれたことを思いだし、薄く微笑んだ。
例え、その微笑みが公務用の笑みでも、笑みは笑みだ。
その笑みだけで、イザベラはまた希望をともすのだ。
そして、そのまま能面のような顔になった。
その公務での食事で隣国の大使が、海の向こうの王国で、王子が婚約破棄をした話を面白おかしく話してくれたのだ。
曰く、真実の愛に目覚めた王子が、幼少の頃からの婚約者と婚約破棄したと。
理由が、婚約者が嫉妬して、王子の愛する娘を虐げたから、だと。
どうも虐げたかどうかは定かではないらしいのだけど、要はその令嬢が邪魔だったのでしょうな、
婚約破棄された娘は修道院に入れられた、そうですよ。
戒律が厳しくて有名な場所らしく、侯爵令嬢として育てられた女性が暮らすには厳しいでしょうね。
でも私は、そんな王のもとで働きたくありませんね、感情に振り回されて政治をされては下のものは困りますからね。
ルイス王太子殿下は、こんな素晴らしい淑女の代表のようなイザベラ王太子妃がいらっしゃるから、この国の未来は安泰ですな、
そう言って豪快に笑ったのだ。
イザベラは肝が冷えた。
幸いにもイザベラはそのまま婚約者からそのまま王太子妃になった。
だが、その婚約者の令嬢は自分だったかもしれない、と思ったからだ。
そして、愛されない辛さは、十分に理解できる。
選ばれない、辛さも。
冤罪で修道院に入れられた娘は可哀想だし、王太子妃として、その王国の未来を憂う。
その点ルイスは、そんな無謀なことはしない。良くも悪くも、彼も自分と同じようにしっかりと教育を受けた王太子だから、自分の感情を優先にはしない。
いくら、西の方を恋しく思い、妃にしたくても、そこまで馬鹿な行動はしなかった。
彼も彼で与えられた役割を果たしているのだ。
結婚して1年は、彼も役目を果たそうとしたのか閨を共にした。
それが段々回数が減り、たまにいらしても文字通り寝るだけになり。
そして今では…
小さくため息をついた。
あの夢を見て以後、ため息をはく回数が増えた。
西の方の出産が近付いているからだろうか?
イザベラは、自分でも情緒が安定していないような気がするのだった。