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第十九話

受け入れ準備のために、王妃とルイスが慌ただしく王宮に戻っていったのを見送ると、イザベラは自室に引きこもった。

イザベラは何度も自分に努めて冷静になるように心掛けた。

ともすると、涙が出そうになる。

アメリアもマリアも自分の為に、泣いてくれた。

ルイス様も、ダメだ、とおっしゃってくれた。

私の事を思ってくれる人がいるから、だから、大丈夫。

アメリアは、私も一緒についていきます、と言ってくれたがこればかりは無理だろう。

たった一人で、見知らぬ国へ行くのか、と思うとやはり不安が先に立つ。

加えて、ビショップのあの顔。

綺麗な顔だとは思うけど、やはりあの視線を思い出してしまい良い印象を抱けない。

いつか、好意を持つことが出来るのだろうか?


自分は、嫁いだのが自国だったからプライベートではさほど会えなくても、夜会や公務なりで親にはよく会えた。

隣国へ嫁いだルイスの姉のサマンサ王女を思う。

彼女は侍女を連れて行ったが、最低限の人数のみ、だった。

確か侍女3人、護衛2人。

でも、家族とはプライベートはおろか、公務で会えるかどうかだって定かではないだろう。

サマンサ様だって侍女や護衛がいるとはいえお一人で頑張っておられる。

それを考えれば、頑張れるのではないだろうか。


朝からグルグルと色々と考えがまわる。

例えばこの王太子宮の帳簿などは自分が見やすいように、色々と意見を交換してスチュワードのルークと改良してきた。

執事のフィンレィともそろそろ改装をしたほうが良い場所を下見してきた。

全て、中途半端に投げ出すのは、性分に合わない。


だが。


イザベラはため息をつく。


自分にどれくらい時間が残されているのか、まるっきり分からないのだ。

どれくらい、自分の荷物を持っていっていいのか。

どんな生活が待ち受けているのか、とか。


王太子妃として移動する際は、大量の荷物と一緒だった。それこそ、帽子だけでも何箱あったのやら。

宝石類だって同様だ。


身分がなくなるわけだから。

そんなに沢山は要らないのではないだろうか、というのは分かる。

だが、どれがいいかは分からない。

自分のお気に入りのものだけでも、と思って頭の中に書き出す。

お気に入りの本を数冊、母がくれたお気に入りのイヤリングとネックレス。

…ルイス様が下さった、普段使い用のルイス様の眼の色に合わせた翡翠の指輪、イヤリング、ネックレスの3点セット…

あれは…どうしよう…

お気に入りだった。

あれは、私がいつもつけていたい、と言ったから、最初に頂いたのは夜会など特別な場にして、それと同じデザインで少々小ぶりなものを作らせて普段使いに使っていた。

お気に入りの、もの、だけど。


逡巡して、考えるのを放棄した。

きっとアメリアやマリアがきちんとしてくれるだろう。

それに、今回の移動は表向き手伝いだから荷物の大移動はない。


ヴィエナは今日、王妃命令として移動しろ、と命令した。


王太子宮から、王宮の客間に移動するのは、逃亡防止。

自分で準備していたのだから良く分かっている。


逃げるつもりはないから、ほんの少しでも住み慣れたこの宮で最後の日数を過ごしたかった。

信じてほしかった、という想いもあったが、自分が王妃でも、同じ決断をするだろう。

王家が決めた決断に、感情が伴うのはとても危険だから。


ヴィエナは、海を隔てた国の王女だった。

彼女もまた、トワイゼル王国に嫁いで、自分で居場所を作り上げたのだ。

いつでも凛とした佇まい、微笑みを絶やさない穏やかな笑顔。

王妃のヴィエナは、いつも完璧だ。いつでもイザベラのお手本だった。


アメリアやマリア、他の侍女が簡単に移動の準備をしている。

自分はぼんやりと、もう過ごすことはない自室でぼんやりと座っているだけだ。


この場にいないルイスを思う。

本当は、いて欲しかった。傍にいて、大丈夫だと言って欲しかった。

だが、いなくて良かった、とも思う。

これ以上傍にいて、自分の感情に蓋をするのは無理だ、とも。


あぁ、そうね、今日は無理でも。

王家発表された暁には、こちらに別れの挨拶に来よう。

その際に、キャッサンドラ様に会おう。

キャッサンドラ様に会って、話をしよう。

そう決意する。


イザベラの頬に涙が伝う。


カークウッドが慰める様に、膝の上にのってきた。

頭をイザベラの手に摺り寄せる。


「あなたは、本当に甘え上手ね」


イザベラは涙を軽くふき、微笑んでカークウッドの頭を撫でた。

手の中にある暖かい存在に、今のイザベラを慰める唯一の存在であるかのように。


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