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第十三話

ぎこちなく再開された歓談では彼の滞在先や細かいことを決めていった。

妖精は、離宮の一室に滞在することになった。

自分専用の護衛も侍女も、食事もいらない、と言った。

せめて掃除をするために召使を、と言ったが、それも断られた。

全て気にしなくてよい、と。

そう強く言われてしまうと、こちらも強く出れない。

もしかしたら、離宮ですらいらなかったのでは、と思ってしまうくらいだ。

ただ、歓談の際に紅茶を出されたら飲んでいたし、軽食をだしたら一緒に食べていたので食事をとらないわけではないらしい。


主に話すのは王や王妃だ。

ルイスが時たま口をはさむ位でイザベラは喋らなくて良かった。

多分、王も王妃もルイス様も私が怖がったのに気が付いたのだろう。

ルイスの手は相変わらずイザベラの腰に優しく添えてある。

かばうように、守るように。

布越しに伝わるルイスの暖かい手に気が緩みそうになる。

しかしいまだ視線を感じ、居心地が悪い。

それでもイザベラは王太子妃の仮面を被り微笑み続ける。


そして気詰まりな歓談も終わりに近づき、一旦お開きという時に、突然テーブルの上に白いカラスが現われた。

そう、まるで手品のように突然。

妖精以外の全員が驚き、凝視する。

護衛も一瞬柄に手をかけた位だから、相当驚いたろう。


テーブルの上に、白いカラス。


トワイゼル王国近辺にこの大きさの白い鳥はいない。

見た目はカラスだが、きっとカラスではないのだろう。

鳥は、ぐるりと室内を見回すと、イザベラの前に飛んできた。


「あぁ、失礼した。

驚かしたようだな。

ほう、お主を気に入ったようだな。

カークウッドという名だ」


ビショップが鳥を紹介した。


「我が名はカークウッド」


鳥はぐるりと視線を回しながら話した。

喋る、ということはカラスというよりオウムに近い鳥なのだろうか?


「い、いやはや、ビショップ殿の鳥ですか…

綺麗な鳥ですな…」


王がすぐに反応して返答している。


「そうだろう、私の大事な鳥だ」


鳥はイザベラの膝の上に飛んできた。

イザベラはどうしてよいか分からなくなり、ビショップのほうを見た。


「あぁ、イザベラと言ったな、カークウッドがそちを気に入ったらしい。

飽いたらそのうち戻ってくるであろうから、それまでは可愛がってくれると助かる。

どうにも気まぐれな奴なのでな」


ビショップは肩を竦め、カークウッドを見る。

膝の上にいるカークウッドはよろしくというようにイザベラの瞳を覗き込む。

その仕草が可愛らしく、つい自然に微笑みが零れる。

それに呼応するようにカークウッドはイザベラの手に自分の頭を擦り付けた。


「可愛いらしいですわね」


力加減が分からないので触れるように撫でてみる。

見た目の硬そうな感じとは違い、ふわふわとした羽毛に驚く。

カークウッドは気持ちよさそうに目を閉じる。

それを見たルイスが自分も触ろうと手を伸ばす。

ルイスの恐々とした手つきにカークウッドは一瞬だけ目を開けたが、また大人しく目を閉じる。


「ビショップ殿、随分と大人しい鳥ですね」


ルイスも思った以上に可愛かったのか鳥を撫でながら、自然の笑みが零れている。


「あぁ、そうだな、害がないと思っているのだろう」


そこまで言うと、ビショップはおもむろに立ち上がった。


「5日後の満月の晩に、また来る。

今日は、ただ、顔を見せに寄っただけだ」


そのままビショップはイザベラの前に歩み出て、

手を伸ばしてきたと思ったら、おもむろにイザベラの顎を上げた。

そして、イザベラの瞳をじっと見つめた。


「また、会おう」


ルイスが諫めようと動く前に一瞬光が瞬き、気がついたらビショップの姿はその場になかった。

彼が確かにいた証拠に、飲み干したティーカップが一客。

イザベラの膝の上の、カークウッドが一羽。


残された全員は呆然と、ビショップが座っていた椅子を見つめるままだった。


「この鳥、置いていってしまったけど…」


イザベラが困惑の声を出すまで、誰一人喋らなかった。



王妃であるヴィエナは、嫌な予感がした。

あの、妖精ビショップのイザベラへの執着振り。

あの場で一番若い女性、しかも容姿も美しいイザベラに見惚れたからだろう、と男共は高をくくっているが、あれは違う。

そんな簡単なものじゃない。

うまく説明は出来ないが、あんな熱を持った視線が興味もない女に出来るだろうか?

そして、あの不可思議なセリフ。

手回しが良いな、あのセリフは、まるで。

それに。

彼の目は、イザベラが入室した時から、彼女しか映していなかった。

王妃付きの侍女であるメリンダも、かなり容姿が見目麗しいほうだ。

だが、彼女を見たビショップの目は、それこそ何の興味を示さなかった。

まさか。

自分の考えが違うことの根拠を一生懸命考える。

今までの番に選ばれた女性の知識を総動員するが、それにイザベラが当てはまるかどうか、分からなかった。

ほぼ生娘が選ばれている、はずだ。

だから、既にルイスと結ばれているイザベラが選ばれるはずはない、と。

40過ぎの女性が選ばれたとき、彼女は修道女だった。

だから、彼女は生娘のはず、そう思いたかった。

しかし、修道女も色々だ。

元より若い頃から信仰のために修道女になる者もいる。

だが、夫に先立たれた女性だったら?

なにかしら、醜聞があって修道女になっていたとしたら?


居てもたっても入られない気分でソファに座るイザベラとルイスを見る。

二人とも、カラスをどうすべきかで悩んでいる。


あの鳥も、怪しい。

わざと置いていったのではないのだろうか?

何のために?

次来るといった満月の晩まで、イザベラを見張るために。


前回の侯爵令嬢が身代わりをたてようとしたのは、なぜバレた?

番じゃないからだ、と単純に思っていたけど、今回のように何かしら人を安心させるための何かを番の傍に置いておいたとしたら?

私達人間は、痣が出るまで自分が番だと分からない。

だが、妖精のほうは?

もしかしたら会えばすぐに分かるものなのだろうか?


ここで、問い合わせてもよいのだろうか?

それとも後で私の部屋に呼び出して問い合わせる?

鳥は答えられるのか?


そこまで考えて、息を長めに吐き出す。


鳥に問い合わせるなんて何を馬鹿な事を…

きっと私の考え過ぎだ。

まさか、そんなわけ、あるわけがない。

彼女は私の可愛い義娘だ。

妖精の番なんてこと、あるわけないのだ。


自分の頭にある不安を吹き飛ばすように、王妃であるヴィエナは微笑む。

その笑みは、いつもより固かった。


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