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第十一話

小説情報をR15に変更しました。

それは、突然の事だった。



孤児院の慰問が終わり、城に向かっている馬車の中から私は呆然とそれを見ていた。

御者も、街の周りの人も、全ての人間が一点を見つめていた。

アメリアでさえ口を開けて呆然とした面持ちで見ていた。


虹が、城に向かってかかっている。

それ自体は珍し事ではない。


虹の色が、光まぶしい金色で。

いや、七色ではないあれは虹と呼べるのだろうか?

お誂え向きにも、今日の天気は曇天。

城全体が光に包まれているようだ。

空の色と、金色のコントラストがとてもこの世のものとは思えないほど綺麗で。

息を呑む絶景というのは、このような事を言うのだろうか。


「…イザベラ様、天使様が空から降りてきたような風景ですね…」


イザベラは無言で頷く。

一体何が起きているのか分からず、ただ、その光景を見ているだけしか出来ない。。


しばらくして、時間と共に金色が薄れていき、やがて先ほどと同じ曇天に戻った。


時間にして五分はかかっていないだろう。

だが、永遠にも感じられるその時間が終わっても人々は呆けた顔して空を見ていた。


もしかして、妖精がきたのかもしれない、と気が付いた。


九八年前、番に選ばれた令嬢が嫌がって一週間ブリザードが吹き荒れた、ね。

確かに、あれを見てしまったらそれくらいの力を持っていても不思議ではないのかもしれない。

いや、存在自体が不思議なのだ、何が起きてもおかしくないだろう。


「何が起きても不思議ではない、とは思ってはいましたが…これほど壮大な光景を見れるとは思ってもみませんでしたわね」


ため息をつきつつ、先ほどの光景を思い出す。

厳かで、人々が息をするのを忘れてその一点だけを見る。

王太子妃として教育をうけ、錚々たる重鎮とも接する機会が多いイザベラですら、畏怖する光景だった。


「…番探しが本格的に動き出すわね…

アメリア、これから忙しくなるわよ。」


「畏まりました。

…イザベラ様、五日後にはマッケンジー様が鈴蘭のお部屋に参りますが…」


多忙になる、そう言いたいのだろう。

正直に言えば、直接面倒は見ないとはいえイザベラの管理下に生後間もない赤ん坊が来るのは大変だ。

妖精の番探しが終わるまではご免被りたいのだが、ここで慣例を破るのは、やはりイザベラには出来ない。

番探しの期間がどのくらいかかるのか分からない、というのもある。

そして、イザベラは認めたくないが、赤ん坊が居ればルイスの来訪が増えるのではないか、という打算的な計算もある。

そして、なにより王太子妃として、無理だ、とは言いたくないのだ。


「私の手が届かないときは、ウィルソン子爵婦人に一任しています。フィンレィにも指示は出してますので、余程の事がない限り、大丈夫でしょう。

急な出費があるのであれば、スチュワードのルークにある程度伝えてますし、

私の手を煩わせることはないはずです。

…そんな事より、急いで城に戻りましょう。

早馬を出して。王妃様にそちらへ直接向かうことを伝達して。」


こうなると、素早く行動をしないといけない。

早馬が伝達の為、離れていった。

御者に少しスピードを上げるように頼む。

スピードを上げる分、座り心地は悪くなるが仕方ない。


「…西の方は、私が確認するしかないのでしょうね…」


城まで戻る時間も惜しい。

イザベラは頭の中で素早く頭を回らせる。

王太子宮の召使の確認は、ハウスキーパーであるミセス・オットマンがしてくれる。

侍女は、侍女長であるミセス・ハウゼン。

彼女ら二人はイザベラが確認する。

そうなると、最終的にイザベラと、西の方事キャッサンドラの確認が残る。

イザベラの確認は王妃自らが。

そうすると、キャッサンドラは誰が見るのか。

自分の宮にいるのだから、イザベラしかいないのだ。

こうなると、会いたくないという自分の感情は蓋をするしかない。


「アメリア、後で王太子宮に使いを出して。番の確認作業の準備を早急に行うように、と。

そして、西の方は、私が行うことを伝えておいて」


キャッサンドラ付きの侍女を信用していないわけではないが、やはり自分の目で確認しないといけないのだろう。

出来れば御子が出来る前に、確認したかった。


子供を取り上げる女に、胸を見せるなんて屈辱だろう。


イザベラは苦い顔をしながら窓の外を見ると、いまだ夢から覚めず、といった感じで、城を指さして話す子供達や、大人の様子が見えた。


孤児院の慰問も可愛らしい子供たちの歌声に癒されたが、いつも以上に短い滞在でバタバタと帰ることになり、帰ることになったらなったでコレ。


イザベラは盛大にため息をつきたい気分だった。

次から次へと…


王城の門が見えてきたところで、いつもの呪文を呟くと、イザベラは王太子妃としての顔を作ったのだ。


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