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第一話

「ねぇ、あの鳥の名前知ってる?」


池のほとりの東屋で、鳥に指をさしながら

まだあどけない顔した私の婚約者が、笑いながら聞いた。

私は知らなかったので首を振った。

彼はフフフ、と笑いながら教えてくれた。


「あの鳥の名前は、パラダイスダックっていうんだよ。

いつも番で行動するんだって。」


「番って、なあに?」


私が首を傾げながら聞いた。


「僕もよくわからないのだけど、夫婦仲良しなんだって。

このメスって決めたら、一生そのメスと共に生きるんだって。

もし、相手が死んだらずっと一匹で生きていくそうだよ。

その相手だけを好きなんだよ。」


「そうなんだ、じゃ、私達も番になるの?」


「勿論だよ、だってイジーは、僕のお嫁さんになるんだもん。

それに僕はイジーが大好きだもん。

大きくなってもずっと大好きだよ」


「わたしもルイスの事、大好き!」


幼いカップルの微笑ましい会話に側に控えていた侍女や護衛は、目を細めながら見守っていた。


あの頃、ただ単純にルイス様のことが大好きだった。

あの頃の私は、この幸せな時間が永遠に続くと思っていた。


あの頃、信じていた未来は。


**********


「王太子妃様、紅茶が入りました。

あら、お休みでしたか?」


侍女のアメリアの声に、自分がまどろんでいたことをしる。

木漏れ日がさすコンサバートリで、赤ちゃん用のケープを編みながらウトウトしていたらしい。


「アメリア、ありがとう。

フフ、なんだか懐かしい夢を見たの」


私は編み棒を籠に戻しながら微笑んだ。


「まぁ、そうなのですか?

楽しい夢だったのでしょうか?」


私は一瞬答えに詰まる。


「えぇ、そうね。幼い頃の夢だったからね」


そしてコンサバートリから見える池を見下ろす。

あの池のほとりで会話したのは、もう、遙昔。


アメリアは、慣れた手付きで紅茶を淹れる。

その無駄のない一連の流れを無言で見つめる。


「本日の紅茶はダージリンです」


私に差し出す前にアメリアがまず毒味する。

その後に差し出された紅茶を受け取りながら呟いた。


「西の方は、そろそろかしら?」


アメリアは一瞬眉を顰め私から視線を逸らした。


「そうですね、まだこちらには連絡が来ておりません。

この月にはご誕生されるとは思いますが」


「そう、なら、ケープも無事に編み終わりそうね」


既に帽子、靴下は編み終わっている。

お祝いもすでに用意されてある。

夫に、

待望の第一子が誕生するのだ。

王太子妃として準備万端に用意しておかなければ私の失態になる。


「…イザベラ様…」


アメリアが何か言いたそうに私を見る。

彼女は、私が実家の侯爵家から連れてきた私の腹心でもある。

そしてそんな彼女が王太子妃様ではなく、イザベラ、と私の名前で呼ぶ時は大抵夫であるルイス様への文句だ。


このコンサバートリにいる侍女は3人。

護衛が、二人。

ここで話せる内容ではない。


私は静かに目を伏せる。

アメリアはそれに気づくと押し黙る。


「美味しいわ、この紅茶。

ありがとう、アメリア。」


紅茶を飲み干すと、私はまた指を動かし、ケープを仕上げていく。

一心不乱に編み棒を動かす。

そう、だってそうしていれば

他に何も考えずに済むのだから。


例えば、社交界では私達が結婚して5年経つのに子供が出来ないのは私が石女だとか、不仲だとか、お飾りの妃だとか陰で言われている話。


夫であるルイス王太子の最愛の人である西の方ことキャッサンドラ様が正妻になれずにおかわいそう、とか。

公務以外顔を合わせにならない夫婦、

お渡りが今年もないとか。


「あ…」


一つ、飛ばしてしまった。

解いてやり直す。


何度か繰り返して、手を止める。


キャッサンドラ様とルイス様が二人で歩いていたところを思い出す。

彼女の柔らかそうな栗色の髪に、ハシバミ色の潤んだ瞳。

小さくて可愛らしいピンクの唇。

大きなお腹を愛おしそうに撫でる彼女を

蕩けそうな笑顔で見つめる、夫。


あの笑顔を私に向けてくれたのは、遙か昔。


胸に針をさしたようにチクリと痛む。

まだ胸が痛むことに驚いた。


だって、私は全て諦めた筈だから。

愛される事はない、と。


私は誇り高きフィッツジェラルド侯爵家の娘。

婚姻は家の為にする事。

そして、私は幼少の頃から王太子の婚約者として妃教育を施された身。

感情に振りまわされるのは愚の骨頂。


だけど。

愛される事はない、と理解していたのに。

何処かで期待してしまう。

あの頃の約束が果たされるのではないか、と。


そんな、夢のような甘い期待を。


そうで無ければ来ないと分かっているのに閨の準備など

出来やしない。


あぁ、早くこれも王妃の仕事の一環だと思って準備出来たら、こんな苦しい思いをしなくても良いのに。

早くルーティンになって、何も考えずに出来たら。


久々に見た幼い頃の夢は、残酷にも今の私を切なくさせる。

幼い頃からずっと好きだったなんて、なかった事にしたい。

いっそ全然知らない人に嫁いだ方が良かった。


そして今夜も来ぬ人を待つ、一人寝の長い夜を過ごすのだ。



なぜか消えていたので。再度追記です。

最初、タイトルを変更しようとしていたのですが、結局思いつかずにそのまま更新を重ねて、

今更タイトル変更もおかしいかな、と思いそのままにしています。

エルフじゃなくて、妖精ですね…

違和感感じるタイトルですみません。

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― 新着の感想 ―
[一言] 番として生活していく話のテンポが早いなと思ったのですが、それがビショップ側からみた時の流れのような気がして、そのテンポがより物語を美しく仕上げているのかと感じました。また、ビショップとイザベ…
[気になる点] 王太子妃は公爵令嬢なのか侯爵令嬢なのかどちらでしょうか。 表記揺れが多くどちらかわかりません。
[良い点] 主人公の状況が端的に説明されていて分かりやすく、感情移入しやすいです。性格も一話にして大まかにつかめたので、応援したくなりましたし、主人公の今後がとても気になります。 [気になる点] 細か…
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