早速トラブル……
「じゃあ、あとは次の授業まで好きにやってくれ。じゃあな」
「あ、先生! どこ行くんだよ!!」
「アイツ逃げる気だぞ!!」
「悪いな、先生はこれから職員会議があるんでな。それじゃあ!」
なごみの衝撃の告白にまだざわついている生徒達を尻目に、逃げるようにさっさと教室を出ていく田中先生。
"あくまで仕事。生徒のプライベートまでは知らんし、面倒事は御免だ"という彼のスタンス、俺は嫌いじゃないぜ?― と、今は呑気にそんなことを考えてる場合じゃなかった。
「なぁ、奏太。今波志江さんが言ったことって本当なのか?」
すぐ前に座る陽平を皮切りに、
「藤岡! お前にあんな可愛い許嫁がいたなんて聞いてねぇぞ!!」
「藤岡! この件、詳しく聞かせてもらうぞ!!」
次から次へと、なごみの発言の巻き添えを食う形で男子に囲まれ質問攻めを受ける俺。
一方、その発言をした張本人はというと、
「ねぇねぇ、ちょっと波志江さんに藤岡君とのこと聞いてきてよ」
「嫌よ。さっき波志江さん、『うるさい人は嫌い』って言ってたじゃん。なんか今も近づくなオーラ全開だし……絶対答えてくれるわけないよ」
「あなたが聞いてきてよ。どうせ気になってるんでしょ?」
話し掛けたいが話し掛けづらい相手という印象を持たれ、一人で自分の席へ……。誰一人彼女に近づこうとする猛者はおらず、皆一様に遠巻きに見ながらコソコソ話すだけ。俺の彼女は、早速ぼっち街道を走り出していた。
……まぁ、あの自己紹介の後じゃこうなるわな。っていうか、アイツメールのやり取りでは普通だったのに、いつの間に毒舌キャラに路線変更してたんだよ! ――いや待て! まだ『全部ドッキリでした!テヘっ!』という可能性も残されて……いや、ないか。
「ちょっと、そこのあなた達。私の方をチラチラ見ながら丸聞こえのヒソヒソ声で陰口を叩くの止めてくれる? あなた達の存在同様、不愉快極まりないわ」
「「「えっ!?」」」
……うむ、やはりドッキリの線は薄そうだ。ホント何がとうなってんだよ……。と、一人頭を抱える俺だったが、一つ大事なことを忘れていた。
「ちょっとアンタ、何調子に乗ってんの?」
声のした方を恐る恐る見てみると、そこにはカースト最上位に位置し、このクラスの女子を牛耳るギャル、新町エリカが仁王立ちでなごみの前に立ちはだかっていた。
「……何? 私からすると、そういう発言をするあなたの方が余ほど調子に乗っていると思うんだけど?」
「はぁ?」
ヤバい! 早速始まってるし!!
「悪い、後で話すから!!」
「お、おい!」
「くそっ! コイツ逃げるぞ!!」
俺は取り囲む男子達を押し退け、一触即発の現場へと急行した。
そして……
「あら、もしかして聞こえなかった? 性格や素行だけじゃなくて、どうやら耳まで悪いのね。仕方がないからもう一度だけ言ってあげるわ――『あなたの方が私なんかより余程調子に乗ってる』そう言ったのよ?」
「はぁ?イチイチ言いなおさなくても聞こえてるっつーの! っていうか、アンタちょっと見ない間に何イメチェンしてんの? ぶっちゃけキモいんですけど」
「あなたこそいつまで昔の話をして――」
「なごみ! ちょっと来い!!」
「そ、奏太君!?」
「ちょっと、何邪魔してんのよ!」
睨み合う二人の間に割って入ると、なごみの腕を掴み、俺の行動に驚くなごみを半ば強引に教室の外へと連れ出した。