再会！しかし……
「よーし、みんな席につけ～」
5月も終わりが近づき、そろそろ中間テストか～と憂鬱になり始めた今日この頃。それは突然やってきた。
朝、チャイムと同時に教室に入ってきた担任、田中先生の声を受け、ガヤガヤしながらも自分の席へと戻っていくクラスメート達。それを『うるせぇなぁ……』と心の中で毒づきながら、ぼーっと先生の方を見ていると、
「え～、突然だが、今日からうちのクラスに転校生が来ることになった」
若干気だるげに言い放たれたその発言に、クラスは一瞬静寂に包まれ……
「マジで！？」
「先生～、男子ですか？女子ですか？」
「俺女子希望！勿論可愛い子限定で～」
「男子最低～」
「どこからの転校生なんですか！？」
そして、あっという間に大騒ぎの宴会状態に。
「なぁなぁ奏太！どんな奴だと思う？」
前の席に座るモテ男も転校生の話題には興味深々なようで、いつもより3割増しのテンションで話しかけてきた。
ったく……。どいつもこいつも、転校生が来るってだけで騒ぎ過ぎなんだよ。初めてテレビのロケが来るって知った田舎の人かよ。――と、普段の俺であれば、騒ぐクラスメート達に冷たい視線を送っていたのだが……
「お、おお、そうだな」
「いや、聞けよ！」
今回は違う。最早陽平の話を聞く余裕などまるでなく、俺の気持ちはかつてないほど高揚していた。
今は高校2年生の6月。時期としてはかなり中途半端だが、そんなことはどうでもいい。あの日離ればなれになってからまもなく4年。当初の2年くらいという期間を考えればむしろ遅いくらいだ。
「あ～ちなみに、北海道からの転校生で、女子です」
「うおー！！」
「先生！美少女ですか！？美少女ですか！？」
北海道で女子、だと……？ タイミング、転校元、性別…入ってくる情報のすべてが“転校生はアイツ”だという答えをはっきり自覚させてくる。これは割と可能性あるんじゃないか！？
気付けば胸の鼓動はどんどん、どんどん速くなっていた……。――なごみが……俺の幼馴染であり、婚約者が帰ってくる！
別れてからも電話やメールはしていたが、距離が遠く、あれ以来アイツとは一度も会っていない。あの日結婚の約束をしてから4年。『好きだ』という気持ちが薄れているような気がしていたが……そうではないと今改めて実感できる。
「それじゃあ、入ってきていいぞ～」
ガラガラガラ。
いよいよ教室の扉が開かれ、教室中の視線を一身に背負い、一人の少女が入ってきた。そして……
「！！」
その少女の姿を一目見た瞬間、俺は大きく目を見開いた。
さらさらした綺麗な黒髪、雪のようなきめ細やかで白い肌、パッチリとした目、少し幼い顔立ちに小柄な体躯の美少女……。
4年会っていなくても、成長し少し大人っぽい雰囲気になっていても…その姿を見た瞬間、すぐにわかった。――間違いない！ アイツだ！ 波志江なごみだ！！ なごみが帰ってきたんだ！！
「うおぉ！！可愛い！！」
「なんだ、あの美少女は！？」
「髪きれい～！」
彼女の登場に男女問わずお祭り騒ぎのクラスメート達。そんな中…。
ガタッ。
「どうした？ お前が反応するなんて珍しいじゃん。もしかして転校生に一目惚れか？」
思わず俺も立ち上がって目を輝かせていた。
「悪いな、ハーレム王。本当なら転校生なんてイベントはお前みたいな奴のためにあるんだが、今回お前の出番はないらしい」
「誰がハーレム王だよ」
すまんな、陽平。今回の主人公はお前じゃない……この俺だ！
「！！」
そして、そんな大騒ぎの中、ついになごみと目が合った。どうやらあちらも気付いたらしく、彼女はこちらに向けてにこっと微笑んできた。……なごみの奴、相変わらずの可愛さだな。
まぁ、あっちは事前に俺がこのクラスにいることも知ってたんだろうし、当然気付くよな。っていうか、転校してくるなら先に言えよ！ついこの間もメールしてたじゃん！！
でもまぁ、そんなことはどうでもいい。これもアイツなりのサプライズなんだろうし、俺にとっては再会できただけで十分だ。
久しぶりの再会。さて、何から話そうか……。と、俺がそんなことを考え胸を躍らせていると……
「それじゃあ波志江、自己紹介してくれ」
「はい」
彼女はクラス中の注目を集める中、自己紹介タイムへと移っていた。
「波志江なごみです。宜しくお願いします」
緊張しているからだろうか。素っ気なく最低限の内容でさっさと自己紹介を済ませ、一礼したなごみだったが、
「ねぇねぇ、なごみちゃん～趣味は？」
「なんでこんな中途半端な時期に転校なの？」
「前の学校で部活何やってたの？」
案の定クラスメイト達からは質問攻め。
あれ？ アイツこうやって注目されるの苦手じゃなかったっけ？ 大丈夫か……？ ふと昔のなごみを思い出して心配になり、助けに入ろうとした時だった……。
「おい、お前ら――」
「悪いけど静かにしてもらえるかしら？」
教壇の方から聞こえたその言葉に、先程まで大盛り上がりだった教室が一瞬にして静まり返った。
……え？ 今の、何……？ 俺は開きかけた口を閉じ、ぱちくりと目を瞬かせながらその言葉を発した張本人へと視線を向けると……
「申し訳ないけど、私、うるさい人って嫌いなの。他のクラスにも迷惑だし、少しは自重したらどう？ それとも、このクラスはこんな小学生でもわかりそうなことすら理解できないお子様の集まりなのかしら？」
そこには、少し目を細め、蔑んだ笑みを湛えながら毒を吐く我が幼馴染の姿があった……。
「あの……な、なごみちゃん……？」
「す、すみません……」
先ほどまで大盛り上がりしていた姿はどこへ行ってしまったのだろうか。その強烈な言葉に戸惑い、言葉を失うクラスメート達。勿論、俺もその一人…。むしろ戸惑い度では俺がダントツだろう。
――アイツ……性格変わり過ぎじゃね……？
気が弱く、人前に立つのが苦手だが、可愛くて、優しくて、笑顔が魅力的な美少女――それが、俺の知っている昔の波志江なごみだった。
しかし、今俺たちの目の前にいるのは……気が強く、人前でも全く物怖じしない、可愛くて、毒舌のキレが半端ない、サディスティックな美少女――以前の彼女とは180度異なっており、俺のよく知るなごみの姿はそこにはなかった。
そして、俺が幼馴染であり婚約者でもある少女のあまりの変貌に絶句していると、
「あ、それと一つ言っておかないといけないことがあったわ」
なごみが俺の方をチラリと見て、ふっと笑い、
「男子達に言っておくわ。もしかしたら、私のことを異性として好きになる人がいるかもしれないけど、迷惑だし無駄だからやめてちょうだい」
戸惑うクラスメイト……特に男子をさらに驚愕させた。
え……おい、アイツまさか……。一瞬にして体中に嫌な予感が駆け巡る。
「――だって、私はこのクラスの藤岡奏太君と、既に婚約しているのだから」
そして案の定……クラスの目は一瞬にして俺へと集まり……
「ど、どうも……」
「「「ふ、藤岡！？！？」」」
教室中に驚愕の声が響き渡った。
初めて経験する自己紹介以外でのクラス中からの注目に、俺は引きつりまくった笑顔で応じるので精一杯。
しかし、その一方で当事者であるなごみはというと…
「やっと会えたわ。――奏太君、これからもよろしくね」
周りの喧騒などまるで意に介さず、俺に向かってにっこりと嬉しそうに笑いかけていた。
