彼のためにも私は頑張る!
ピピピピッ
50分の制限時間が経過し、部屋にはタイマーのアラームが鳴りだした。
「あ~終わった~」
アラームを止めて大きく伸びをしながら時計を見ると、時刻は既に午後10時半を回っていた。
一昨日奏太君からもらった“中間テスト対策問題”も、今やっていた英語(文法)で8教科目。学校で奏太君に教えてもらった甲斐あって、手応えは結構あったりする。勿論この奏太君が作ってくれた対策問題が基礎問題だけになっていることは分かってる。それでも、努力した成果が実感できるというのはやっぱりうれしい。
ただ、頑張ったという余韻に浸るのはまだ早い。まだ1教科……私が最も苦手な数学Bが残っているのだから。
「は~、あと1教科……しかも数学Bか……」
今思えば比較的得意な教科から片づけていったのは間違いだった。これから始めたとして、終わるのは12時頃か……。この時間から苦手で労力もかかる数学をやり始めるなんて……。
「はぁ……憂鬱……」
次に待ち構えている数学の問題集を手に取った私は、思わず大きなため息をこぼした。
“中間テスト対策問題”をやるのも今日で3日目。学校でもずっと勉強して、帰ってからは一人で勉強。さらに、それに加えてここ3日間は一人で模擬中間テスト×3のおまけつき。正直もう疲れたし、眠いよ……。でも……
「ううん! 疲れたなんて言ってられないよね! 今回は絶対に失敗できないんだから!!」
私は自分の頬を両手で叩いて気合を入れ直した。何せ今回の中間テスト、もし赤点を取ってしまったら奏太君と別れなければいけないんだから……。
まだ再会したばっかりなのに……まだ話したいことも一緒にやりたいことも山ほどあるのに……。嫌だ! それだけは絶対に、嫌だ!! ――他の何を譲ったとしても、大好きな奏太君と別れるのだけは……。
でも、それだけじゃない。
「この2週間、奏太君がやってくれたことを無駄になんてしたくない」
学校では休み時間をすべて使って私の勉強を見る時間に使ってくれたり、口ではついでって言ってたけど……私用の対策問題を作ってくれてたり、この1週間以上、奏太君は私のためにかなり多くの時間をかけてくれていた。
私のせいでこんな面倒事に巻き込まれたのに、嫌がりもせず、さも当たり前かのように力を貸してくれた。こんな私のためにここまで……本当に感謝してもしきれない。
彼の想いに報いたい! 彼の期待に応えたい!! 少しでも彼に恩返しがしたい!!!――そんな気持ちが私の体のいたるところから湧き上がってくる。
「中間テスト、絶対に良い点取ってやる!」
これから先も大好きな人と一緒にいるため、そしてその大好きな人の優しさに応えるため、疲れた体に鞭打ち、私は再びペンを握った。そして、スマホのアラームを50分後にセットし、
「よし! あと一教科! 高得点取って明日奏太君をビックリさせてあげよう!!」
私は残る1科目、数学の問題に取り掛かった。
しかし、私はこの後思い知らされることになる。世の中気持ちだけではどうにもできないことがあることを…。手応え=思い通りの結果というわけではないことを……。そして、頑張った分だけ残酷な結果を突き付けられたときのショックは大きくなるということを……。
※※※※
翌日。2時間目終わりの休み時間。
奏太君に、昨日までにやった全ての“テスト対策問題”の採点を返却してもらうため、いつもお昼ごはんを食べている屋上へと連れてこられた私は、
「うそ……でしょ……?」
そのあまりの結果に茫然自失していた。
「ほ、ほら! 言ったろ? 『これはあくまで“テスト対策”だ』って! この結果に一喜一憂するんじゃなくて、これを基にもう一回間違えたところを復習すればいいんだよ!」
「う、うん……そうだよね……」
70点以上なら赤点は回避できるだろうと言われたテストで、70点以上は一つもなく、60点以上が2教科、50点台が5教科、そして……まさかの30点台が2科目――これが、今回の私の点数だった。
テスト本番まで残り2日という状況で、“テスト対策だ”と言っても、さすがにこの点数は想定外。必死にフォローしてくれている奏太君の言葉も逆に現状の厳しさを物語っていた。
「これくらい全然想定内だし、十分巻き返せるって! 要は最後にしっかり点数取ればいいんだし、全然気にする必要ねぇって!」
「うん……」
奏太君が私を気遣って必死に励ましてくれているみたいだったが、正直私の耳には全く聞こえていなかった。――基礎問題しかないのに30点台……しかも2科目って……。
中間テストまで残り2日。私は厳しい状況に立たされた。




