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ハーレム系ラノベ主人公って何がそんなにいいの?

「陽くん! 私、陽くんにお弁当作ってきたよ!」

「ちょっと! 今日の陽平くんのお弁当当番は私でしょ!?」

「いいじゃない、別に! どっちを選ぶか決めるのは陽くんでしょ!?」

「ま、まぁまぁ、二人とも……。両方とも貰うから……」

「陽平先輩! あんな喧しい人達放っておいて学食にでもいきましょ?」

「「ちよっと! あんたはどさくさに紛れて何してんのよ!!」」

「昼休みくらいゆっくり休ませてくれ……」


 昼休み。

 3人の女子生徒が他の生徒のことなどお構いなしで一人の男子生徒を取り合って騒いでいる。

 世話好きの幼なじみ、ツンデレ系ボーイッシュ美少女、さらに人懐っこい妹系後輩という個性豊かでこの学校屈指の美少女達。どこぞのハーレム系ラブコメかよ!とのツッコミが入りそうな光景だ。

 ただ、ここで残念なお知らせが一つ……。


「そ、奏太~! 助けてくれ~!」


 いつものように、ハーレムの中心にいる男が情けない声で俺に救援要請を送ってきた。


「あ? なん――」

「「「藤岡奏太ふじおかそうた! あんたはすっこんでなさい!」」」

「あ、はい……」


 ……そう。あの男なら誰もが羨むであろうハーレムの主は俺ではない。

 藤岡奏太ふじおかそうた――今さっき美少女3人に一斉に邪魔者扱いされた男こそ、俺の名だ。

 見た目、勉強、運動神経…その他もろもろ中の上。料理、洗濯、掃除は得意なのだが……悲しいかな。これらのスキルはイケメンができると好感度が上昇するだけで、俺のようなモブが多少得意だろうが注目してくれる人なんて誰もいない。

 そんな俺の立ち位置は、"ハーレム系ラノベ主人公の友達"――まぁ、せいぜいこの程度だろう。

 一方、美少女に囲まれている男はというと…

 太田陽平おおたようへい。イケメンで頭もよく、運動神経も抜群。おまけに男女問わず誰に対しても気さくで優しく、仲間思いな性格。まさにリア充になるために生まれてきたと言っても過言ではない、ザ・モテ男。――それが今俺の目の前でハーレムを形成している張本人であり、俺の数少ない友達でもある。


「くっ……俺の平穏が……」

「おいおい、美少女に奪い合われるなんていう誰もが憧れるシチュエーションでそんなこと言ってたら世の中の男全員から袋叩きにされるぞ?」

「いやいや! どう考えてもみんな面白がってるだけだろ!?」


 彼女達のキャットファイトが未だ続く中、こっそりこちらに逃げてきたイケメンリア充は小声で必死に訴える。


「「「――ちょっと、陽平 (くん)(先輩)!?」」」

「は、はい!!」


 が、しかし、すぐにまたキャットファイト中の美少女達に見つかり、慌てて彼女達の輪へと戻っていく。


「くそ……俺は平穏に過ごしたいだけなのに……」


 遂に発言までラノベ主人公化してきた我が友は、クラスの男子連中から殺気を向けられていることに気付かず一人で嘆く。


「陽平、お前の友人として忠告しておいてやるが……お前、発言には気を付けないとその内後ろから刺されるぞ?」

「は? なんでだよ?」

「……そういうところだよ」


 『テメェ鈍感にも程があんだろうが、この野郎!! 自分がどれだけ羨ましい環境にいるかわかってんのか!? ああん!?』――おそらく今彼に殺気を向けている奴等の気持ちを代弁すると、こんな感じだろう。いや、多分世の中の男の多くが彼らと同じ気持ちを抱いているのではなかろうか。

 だが、俺は違う。それは別に友達だからとか、負け惜しみとか、実は男が好きだとかではない。ただ単純に羨ましいと思えないだけ。

 だって俺には、笑顔が可愛く、優しくて、素直で、一途で、可愛くて……そして、俺のことが大好きな婚約者がいるのだから。


「陽平くん!? ちゃんと聞いてる!?」

「え? あ、ああ、もち――」

「陽くん、そんな人放っておいて早くお昼食べよ?」

「ちょっとアンタ! 何さり気なく自分が作ったお弁当広げ始めてんのよ!!」

「いや、だから二人とも――」

「ほら、先輩! 早く学食行きますよ!!」

「……もう勘弁してくれ」

「いやぁ、ラノベ主人公も大変ですなぁ」


 学年一のモテ男が繰り広げるドタバタハーレムラブコメを、俺は余裕たっぷりに見守っていた。

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