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彼女と妹って別腹だよね?

 新町エリカ達による拉致事件から数日後の昼休み。俺はなごみと二人、今日も貸し切り状態の屋上で彼女が作った弁当を満喫していた。


「奏太君、やっぱりまだ痛い……?」

「ああ。さすがにあんだけ殴られたからな。口の中はまだ口内炎だらけだな」


 ちなみにあの事件後、なごみは二人っきりの時だけ”素の性格”に戻すことにしたらしい。


「本当にごめんね……?」

「だから気にすんなって言ったろ? それに口も全然食えない程痛いわけじゃねぇし、こんなのすぐ治るって」


 自責の念にかられてシュンとするなごみ……。あの、めちゃくちゃ可愛いんですけど……。昔の大好きだった頃そのままの彼女の姿に、俺は内心テンション爆上げ中。ちなみに、どれくらいテンションが上がっているかというと、未だズタズタの口内に勢いよく弁当をかきこんでも痛みを感じない――


「!!!」

「そ、奏太君!? もう、そんなに急いで食べるから……大丈夫!? 保健室行く!?」

「だ、大丈夫だ……」


すみません、嘘です。普通に口の中めっちゃ痛いっす……。


「ま、まぁそれはさておき、あの後アイツらはどうなんだ?」


 俺は涙目になりつつ、これ以上ボロを出さないように話題を変えた。


「あぁ、新町さん達のこと?」

「ああ」


まぁ実際、俺の知らないところで、またコソコソやってないかと気になっていた。


「うん、大丈夫だよ。ちゃんと謝ってくれたし、後から何かされたりもしてないよ。まぁ、私のことが嫌いっていうのは今も変わってないみたいだけど……」


俺の問いかけになごみは苦笑交じりにそう答えた。


「そっか。まだ懲りずに嫌がらせしてくるようならこっちも対応考えなきゃいけないと思ってたが……それは必要ないみたいだな」


と言いつつ、実はしっかり対策は講じてあったりするのだが。


『今後まだなごみに手出しするなら、俺はお前らにやられた証拠を持って警察に駆け込むから。まぁ、もしそうなったらお前ら全員少年院送りになるだろうけど……覚悟はできてるから大丈夫なんだよな? あ~あ、お前らの親もかわいそうに。大事な娘が少年院行きだなんてな』


新町達にはそう言って釘を刺してある。『証拠を出せ』って言うから、実際に陽平が撮っていた、ボコボコにされた俺と新町達が写っている写真を見せてやったら効果覿面。めちゃくちゃ動揺しながら『す、すみません! しょ、少年院だけは……』ってな感じで泣きながら謝ってやがった。『覚悟はできてるから脅しても無駄』とか言ってたから、どれほどの覚悟してんのかと思ったが、どうやら学校を辞めるくらいの軽いものだったらしい。

 あのケンイチとかいう男には陽平が釘を刺しに行ったらしいが、どうやったかまでは教えてくれなかった。……イケメン恐るべし。まぁ、どの道新町達からの依頼がなけりゃわざわざ関わってくることもないだろう。


「うん、大丈夫! 心配してくれてありがとう!」


 そんな俺の影の努力等知る由もないなごみの曇りない笑顔に、ついつい表情を緩ませていると、


「あ、そうだ!」


 なごみが何か思いついたように手を叩いた。


「あ? なんだ?」

「今週の土曜日、奏太君の家行ってもいい?」


 珍しく身を乗り出し目を輝かせる我が彼女。


「ああ、別にいいぜ? でもなんで俺の家なんかに――!!」


 そこまで言いかけたところでハッと気が付いた。そういえばあの拉致事件でうやむやになってはいたが……元々はあの日俺達は自宅デートをする予定で、なごみの奴も完全に”その気”になっていた。と、ということは……まさか、”そういうこと”ってことだと思っていいんでしょうか!?


「そういえばこっちに戻ってきてから、まだおばさんに挨拶してなかったから――」

「だ、大丈夫! 俺以外の家族もその日は外出させ――オホン!ゴホン!!ゴハン!!」


……なんとか咄嗟に咳込んで誤魔化すことに成功したらしい。


「だ、大丈夫……?」

「お、おう! 勿論大丈夫だ!!」


 あぶねぇ! めちゃくちゃちゃんとした理由じゃん!! 勘違いして一人舞い上がるところだったわ!!


「いや、ごめんね。うちのお母さんが挨拶行って来いってうるさくて……。ほら、うちのお母さんと奏太君のお母さん仲良かったじゃん? うちのお母さんはちょっと仕事が忙しいらしくてまだしばらく挨拶に行けないらしいんだけど、私だけでも行ってきなさいって……ごめん、迷惑だった?」

「い、いやいや! 全然迷惑なんかじゃねぇよ!! むしろうちの母さんも喜ぶと思うぜ!?」


っていうか、この前のやり取り踏まえれば普通”そっち系”の思考になっちゃうでしょ! なんでこの子はこういう時に限って俺と真逆の思考しちゃうの!? 空気読もうよ! 空気!! 俺達空気読むのが取りえの人種、日本人でしょ!?


「本当にいいの……?」

「OK! OK! むしろ大歓迎だっつーの!! ほら、母さんだけじゃなくて妹の栞も喜ぶだろうしさ!!」

「そっか、よかった! ――ありがとね!」


 なんとなく、この時ばかりはコイツの純粋な笑顔を真正面から見れなかった……。


「でも、そっかぁ。栞ちゃんと会うのも久しぶりだなぁ。確か栞ちゃんも今年高校生だよね!? 大人っぽくなってるのかなぁ」


 俺がうしろめたさを感じている中、なごみはそんなこと気付くことなく、昔の記憶を懐かしんでいた。まぁ、コイツと栞、結構仲良かったもんな。


「栞ちゃんにも早く会いたいなぁ」

「? そんなに会いたいならすぐにでも会えるだろ?」

「え? どういうこと……?」


……あ、そういえばいろいろあって言うの忘れてたかも。


「いや、栞なんだけど、実は――」


――と、まだなごみに未開示の情報を伝えようとしたその時……


ガチャ


不意に屋上の扉が開かれ、一人の生徒が入ってきた。お! もしかしてわざわざ説明する必要なかったか? この流れで入ってくる奴といったら――


「いやぁ、すまん! 今日は遅くなっちま――」

「お前じゃねぇよ!!」

「え?」


 入ってきたのはまさに今、現在進行形で噂をしていた我が愛しの妹……ではなく、ただの俺の命の恩人、ハーレム王だった。


「いや、出会い頭に辛辣過ぎじゃね!? 俺なんかした!?」

「いやぁ、マジで空気読もうぜ……? 完全に今の流れは俺の妹登場の奴だったじゃん?」

「知らねぇよ!!」


 大きなため息を漏らす俺に元気よくツッコミを入れる俺の親友・太田陽平。

 時計を見ると既に時刻は12時半を回っていた。どうやら今日は自らのハーレム達を撒くのに手間取ったらしかった。


「こんにちは、太田君」

「よっ、なごみちゃん。今日も相変わらずその喋り方なんだね……」

「当然でしょ? あなたとは約束があるから可能な限りキツイ言葉は吐かないつもりだけど、喋り方に文句をつけられる筋合いはないわ」

「ははっ、相変わらず辛辣だね……」


 一方、なごみはというと、あっという間に”人前用の毒舌キャラ”へと切り替えていた。

 あくまでなごみが”素の性格”を見せるのは俺と二人の時だけ。第三者がいるときは”人前用のキャラ”にすることを頑なに貫く彼女は、今のように突然第三者が現れた時でも器用にキャラの切り替える。この変わり身の早さ、最早達人技と言ってもいいだろう。


「それで、何の話してたんだ?」

「ああ、俺の妹の話だよ」

「ああ! 栞ちゃんか!! 確かこの学校にいるんだよな」

「……どういうことかしら、奏太君? 私聞いてないんだけど」


うん。今さっき言おうと思ったんだけどね?


「悪い。話すタイミングなくて……」

「いえ、大丈夫。奏太君の間の悪さなんて想定内よ。むしろ最初から期待なんてしてないわ。というより、奏太君には何の期待もしてないわ」

「……なんかお前、陽平に毒吐けない分、俺にぶつけようとしてない? 言っとくけど俺の心、結構繊細だからね? あんまり言われると泣いちゃうよ?」

「大丈夫よ。ほら、有名な歌の歌詞にもあったでしょ?”涙の数だけ強くなれる”って」

「いや、別に俺、強くなろうとか思ってないから! 俺が欲しいのは強さじゃなくて優しさだから!!」

「それも心配ないわ。泣いてしまったときは泣き止むまで優しく慰めてあげるから」

「とんだマッチポンプもあったもんだな!!」


 例の一件以来、どんどん鋭さを増す彼女の言葉の暴力に対処する俺。最近徐々にこの役割にも慣れてきたことは喜んでいいものなのだろうか……。と、小さな悩みを抱く中、


「それで、お前の可愛い妹ちゃんがどうしたって?」


陽平は冷静に話を戻した。が、しかし……


「おい、陽平。お前言い方には気をつけろよ?」

「何が気に食わないんだよ? お前がゴチャゴチャうるさいから、ちゃんと”可愛い”妹って言っただろ?」

「アホか! ”可愛い”じゃねぇ!! ”超絶可愛い”に決まってんだろうが!!」

「お、おう……」


 一応知らない人のために教えておいてやろう。――俺はシスコンだ。勿論、恋人的な意味で好きなわけではないが、もし『妹と世界平和どちらを選ぶ?』と聞かれれば迷わず”妹”と答えるくらいにはシスコンだ。

 そして、妹の方もブラコンだ。高校生になった今も休みの日に、『お兄ちゃん、一緒に買い物行こ!』と誘ってきたり、朝に弱い俺のため、毎日『お兄ちゃん起きて!』と起こしてくれるくらいのお兄ちゃん大好きっ子。まさに自慢の妹だ。


「つまり、何が言いたいかというと、俺と栞は両想いってことだ! わかったか!!」

「いや、分かったけど……お前それ、婚約者の前で言うセリフじゃなくね?」

「……」


 あ……すみません。私、完全に失念していました。


「い、いやいや! 妹は家族じゃん? そもそも恋人とか婚約者とは別物だろ?」

「婚約者もほとんど家族みたいなものだと思うけど?」

「ほ、ほら! よく言う”ラブ”と”ライク”の違い的な――」

「なるほど。つまり奏太君は栞ちゃんのことを愛していないってことでいいのかしら?」

「……ほら! 家族愛ってあるだろ!? それだよそれ!!」

「へぇ」


 これでもかという程のジト目を向ける俺の婚約者様……。おそらく俺の顔面の筋肉達はビックリするほど引きつっていたことだろう。


「あ、あの……なごみさん……?」


 女の嫉妬ってマジでこえぇ!――心の底からそう思いながら焦っていると、


「ふふっ、冗談よ」

「……え?」


不意になごみが噴き出した。


「ふふっ、ごめんなさい! 情けなくオロオロとしている奏太君が面白くてついっ!!」

「おい、笑いすぎだろ」


 結局弄ばれてるだけだった。全く笑いこらえられていない様子に若干イラっとした俺だったが……実に楽しそうに笑うなごみを見たら、そんな気持ちはすぐに失せた。……まぁ、元々悪いのは俺だしな。


「かははっ! 奏太、お前バカだろ!」

「お前は笑うんじゃねぇよ!!」


 だけど、この時の俺は知らなかった……この数日後、冷静さを失う程溺愛している妹と俺自身との関係性にヒビが入ってしまうということを……。




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